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聖女と救世主
奇跡を齎すもの
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「おい、何だよお前。勝手に・・・うおっ!?」
「誰からいく?へへ、分かってるって。適当に切り上げて、後は・・・ぐぁ!?」
「押すなって、順番は・・・何だぁ!?」
奇跡を期待し道を開けた群衆は、今度は周りの視界を塞ぐように集まっている。
それはそこで行われる行為を、周りから覆い隠そうとしているのか。
しかしその囲いが今、解かれるようにして開いていく。
「どうして、どうして出来ないの!?お願いだから・・・っ!?駄目!!駄目だよ、まだ!!私が、私が助けて見せるから・・・!!お願い、もう少しだけ・・・もう少しだけだから!」
「ひゅー・・・ひゅー・・・ひゅー・・・」
瀕死の少女に縋りつくようにして喚いているパトリシアは、その金色の輝きを血でべっとりと汚している。
彼女はもう何度繰り返したか分からない同じ行為を、飽きることなく繰り返す。
しかしやがて、彼女も気づいてしまっていた。
目の前の少女の命の灯が、消え去ろうとしていることを。
少女の生存を知らせるか細い呼吸音は、今やただ喉から漏れる空気を知らせるだけの存在となっていた。
「へへへ・・・ほら嬢ちゃん、こっちへ来な」
少女の身体に縋りつき涙すら浮かべているパトリシアに、下卑た笑みを浮かべた男が近づいてくる。
その男はパトリシアの腕を無理やり引っ張り上げると、どこかへと連れて行こうとしていた。
「っ!?何をする、無礼者!!私を誰だと思っている!?聖女、パトリシアだぞ!!時間がないんだ、早く・・・早く、その手を離せ!!」
「ごちゃごちゃ、うるっせぇなぁ!!」
「がっ!?」
突然の事態に一瞬混乱したパトリシアもすぐに何が起こったのか理解すると、男の腕を振り払おうと自らの立場を叫んでいた。
しかしもはやそれは、男達にとって何の価値もない戯言になってしまっていたのだ。
パトリシアの悲痛な叫びを心底面倒くさそうに聞き流した男は、その返事としてこぶしを振るう。
「おいおい、あんま顔は傷つけんなよ?買い叩かれちまうじゃねぇか」
「悪い悪い。でもよ、女なんてなぁ一発殴っときゃ素直に言うこと聞くもんだろ?」
「そりゃ違いねぇ」
パトリシアの顔面を強かに捉えた男のこぶしは、彼女の顔にはっきりとした跡を残している。
それを見た周りの男達は、やはり下卑た笑みを浮かべながらその男に注意するが、パトリシアの髪を掴みそれを持ち上げた男が、その従順な様を見せれば納得の態度を示していた。
「お、お願い・・・このままじゃ、あの子が死んじゃう・・・の・・・だ、だから・・・離して、お願いだから・・・」
「あぁ!?もう一発いっとくか!!?」
男のこぶしによって鼻が折れてしまったのか、パトリシアの鼻腔からは血が止め処なく流れ、その言葉もたどたどしいものとなっている。
それでも彼女は少女の治療を願って、男へと解放を訴える。
しかしそれは男の勘気に触れる結果となってしまい、怒りと共に彼は再びこぶしを振り下ろそうとしていた。
「ひっ!!?ご、ごめんなさ―――」
迫るこぶしに、それによって齎された痛みを思い出したパトリシアは怯え、思わず謝罪の言葉を叫ぼうとしていた。
それは心の折れた証だろう。
だが、彼女のその気高さは決して手折られてはならない。
「―――もう、大丈夫だよ。パトリシア」
その頬に触れた手は、優しい。
そしてそれが離れる頃には、彼女が感じていた痛みは消えてなくなっていた。
「クルス?どうして・・・?」
痛みに怯え、閉じようとしていた瞳を開けば、そこにクルスの姿だけがあった。
その状況を理解出来ない彼女が周囲に目をやれば、そこには何かに押しやられ倒れ伏してしまった男達の姿があった。
彼らは一様に怯えた表情をしており、化け物を見るような目をクルスへと向けている。
「後は僕がやる。だから、もういいんだ」
「あっ・・・」
少女を救えず自らの無力さに打ちひしがれ、下卑た男の暴力の前に為す術なく屈してしまう。
そんな出来事を立て続けに経験したパトリシアの心は、どうしようもなく弱ってしまっている。
それはクルスの優しい声に緊張の糸を断ち切られ、今や力を失ったように崩れ落ちていく彼女の姿が、どうしようもないほどにはっきりと証明していた。
「ひゅー・・・ひゅー・・・」
「良く、頑張ったね・・・もう大丈夫だよ。僕が、君を救って見せる」
瀕死の少女の傍へと跪き彼女の身体を抱き起すと、その力ないぼんやりとした瞳がそれでもこちらへと向いていた。
それは彼女の、生きたいという願いそのものか。
その強い意志にクルスは覚悟を決めると、彼女の胸元へと手を添える。
そして彼の全身を薄っすらと覆っていた光が、その手へと集まっていく。
『クルス!』
『わんっ!』
その時、いつか聞いた眩い声の幻聴を耳にする。
それは、クルスが犯した罪を知らせる声だ。
その手から溢れていた光が、急に惑い勢いをなくしていく。
「違う!!あの時とは違う!!今度こそ、今度こそ・・・救って見せるから!」
そんな幻聴を振り払うように、クルスは叫び首を振るう。
あの時とは、あの過ちとは、何もかもが違う筈だ。
クルスは自らにそう言い聞かせて、その手に力を籠める。
その願いに応えて、彼の手から溢れる奇跡の光は、眩いほどに輝きを増していく。
「嘘・・・あいつ、本当に・・・?」
「・・・救世主、様?」
溢れるような眩い光、その光の意味をその二人は知っていた。
その光にシンシアは信じられないと首を振り、クリスタルは膝をつき祈るように両手を組み合わせる。
その仕草は違っていても、二人が目にしたものは同じであった。
奇跡、である。
「誰からいく?へへ、分かってるって。適当に切り上げて、後は・・・ぐぁ!?」
「押すなって、順番は・・・何だぁ!?」
奇跡を期待し道を開けた群衆は、今度は周りの視界を塞ぐように集まっている。
それはそこで行われる行為を、周りから覆い隠そうとしているのか。
しかしその囲いが今、解かれるようにして開いていく。
「どうして、どうして出来ないの!?お願いだから・・・っ!?駄目!!駄目だよ、まだ!!私が、私が助けて見せるから・・・!!お願い、もう少しだけ・・・もう少しだけだから!」
「ひゅー・・・ひゅー・・・ひゅー・・・」
瀕死の少女に縋りつくようにして喚いているパトリシアは、その金色の輝きを血でべっとりと汚している。
彼女はもう何度繰り返したか分からない同じ行為を、飽きることなく繰り返す。
しかしやがて、彼女も気づいてしまっていた。
目の前の少女の命の灯が、消え去ろうとしていることを。
少女の生存を知らせるか細い呼吸音は、今やただ喉から漏れる空気を知らせるだけの存在となっていた。
「へへへ・・・ほら嬢ちゃん、こっちへ来な」
少女の身体に縋りつき涙すら浮かべているパトリシアに、下卑た笑みを浮かべた男が近づいてくる。
その男はパトリシアの腕を無理やり引っ張り上げると、どこかへと連れて行こうとしていた。
「っ!?何をする、無礼者!!私を誰だと思っている!?聖女、パトリシアだぞ!!時間がないんだ、早く・・・早く、その手を離せ!!」
「ごちゃごちゃ、うるっせぇなぁ!!」
「がっ!?」
突然の事態に一瞬混乱したパトリシアもすぐに何が起こったのか理解すると、男の腕を振り払おうと自らの立場を叫んでいた。
しかしもはやそれは、男達にとって何の価値もない戯言になってしまっていたのだ。
パトリシアの悲痛な叫びを心底面倒くさそうに聞き流した男は、その返事としてこぶしを振るう。
「おいおい、あんま顔は傷つけんなよ?買い叩かれちまうじゃねぇか」
「悪い悪い。でもよ、女なんてなぁ一発殴っときゃ素直に言うこと聞くもんだろ?」
「そりゃ違いねぇ」
パトリシアの顔面を強かに捉えた男のこぶしは、彼女の顔にはっきりとした跡を残している。
それを見た周りの男達は、やはり下卑た笑みを浮かべながらその男に注意するが、パトリシアの髪を掴みそれを持ち上げた男が、その従順な様を見せれば納得の態度を示していた。
「お、お願い・・・このままじゃ、あの子が死んじゃう・・・の・・・だ、だから・・・離して、お願いだから・・・」
「あぁ!?もう一発いっとくか!!?」
男のこぶしによって鼻が折れてしまったのか、パトリシアの鼻腔からは血が止め処なく流れ、その言葉もたどたどしいものとなっている。
それでも彼女は少女の治療を願って、男へと解放を訴える。
しかしそれは男の勘気に触れる結果となってしまい、怒りと共に彼は再びこぶしを振り下ろそうとしていた。
「ひっ!!?ご、ごめんなさ―――」
迫るこぶしに、それによって齎された痛みを思い出したパトリシアは怯え、思わず謝罪の言葉を叫ぼうとしていた。
それは心の折れた証だろう。
だが、彼女のその気高さは決して手折られてはならない。
「―――もう、大丈夫だよ。パトリシア」
その頬に触れた手は、優しい。
そしてそれが離れる頃には、彼女が感じていた痛みは消えてなくなっていた。
「クルス?どうして・・・?」
痛みに怯え、閉じようとしていた瞳を開けば、そこにクルスの姿だけがあった。
その状況を理解出来ない彼女が周囲に目をやれば、そこには何かに押しやられ倒れ伏してしまった男達の姿があった。
彼らは一様に怯えた表情をしており、化け物を見るような目をクルスへと向けている。
「後は僕がやる。だから、もういいんだ」
「あっ・・・」
少女を救えず自らの無力さに打ちひしがれ、下卑た男の暴力の前に為す術なく屈してしまう。
そんな出来事を立て続けに経験したパトリシアの心は、どうしようもなく弱ってしまっている。
それはクルスの優しい声に緊張の糸を断ち切られ、今や力を失ったように崩れ落ちていく彼女の姿が、どうしようもないほどにはっきりと証明していた。
「ひゅー・・・ひゅー・・・」
「良く、頑張ったね・・・もう大丈夫だよ。僕が、君を救って見せる」
瀕死の少女の傍へと跪き彼女の身体を抱き起すと、その力ないぼんやりとした瞳がそれでもこちらへと向いていた。
それは彼女の、生きたいという願いそのものか。
その強い意志にクルスは覚悟を決めると、彼女の胸元へと手を添える。
そして彼の全身を薄っすらと覆っていた光が、その手へと集まっていく。
『クルス!』
『わんっ!』
その時、いつか聞いた眩い声の幻聴を耳にする。
それは、クルスが犯した罪を知らせる声だ。
その手から溢れていた光が、急に惑い勢いをなくしていく。
「違う!!あの時とは違う!!今度こそ、今度こそ・・・救って見せるから!」
そんな幻聴を振り払うように、クルスは叫び首を振るう。
あの時とは、あの過ちとは、何もかもが違う筈だ。
クルスは自らにそう言い聞かせて、その手に力を籠める。
その願いに応えて、彼の手から溢れる奇跡の光は、眩いほどに輝きを増していく。
「嘘・・・あいつ、本当に・・・?」
「・・・救世主、様?」
溢れるような眩い光、その光の意味をその二人は知っていた。
その光にシンシアは信じられないと首を振り、クリスタルは膝をつき祈るように両手を組み合わせる。
その仕草は違っていても、二人が目にしたものは同じであった。
奇跡、である。
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