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救世主
奴隷労働施設
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拝啓、母上様。
ここでの仕事は、とても辛いものです。
辛い暮らしから逃れようとここにやってきたのに、もっと辛い目に遭っていることが不思議ですが、そういえば以前もそんな事があったなと思い直して、案外不思議でもないのかと考えています。
ここは薄暗く、お日様の姿も見えません。
天井から光は降り注いでいるので、そこにお日様はあると思うのですが、とても高い場所にあるので良く見えません。
そうそう昨日ガビちゃんという子と知り合いました、そうここではとても珍しい女の子です。
彼女の姿を今日は見ていません、きっと明日も見る事はないでしょう。
そうした事は、ここでは珍しくないので悲しまないようにしています。
そういえば、その日出たシチューには珍しく肉が入っていて、それがとても柔らかく美味しかったのを憶えています。
ここでは鞭で叩かれるのも、殴られるのも普通の事です。
僕は身体が小さくて、仕事も遅いので良く殴られています。
それを皆に話したら、そんなこと関係なく殴られるぞと笑われてしまいました。
ここでの仕事は、とても辛いものです。
でも、辛いだけではありません。
何故ならここには、救世主様がおられるからです。
救世主様は、皆の怪我を治してくださいます。
この間なんて、目の見えないジョゼッペ爺さんの目を治してくださいました。
食事係の気まぐれで、皆がパンの一切れもまともに食べられずひもじい思いをしていると、それを増やしてくださり、皆がお腹いっぱいになっても余ってしまうほどでした。
ですので、ここでの仕事は辛くても、ここでの生活は辛いだけではありません。
何故なら、僕達には救世主様がついてくれるからです。
だからどうか、心配なさらないでください。
親愛なる―――。
「ククル、手紙は書けたかい?」
背中に掛かった優しい声に、木材の切れ端を組み合わせて作った机の上へと乗りかかるようにして手紙を書いていた少年、ククルは顔を上げる。
彼が振り返るとそこには優しげな微笑みを浮かべた、しかしとても疲れ切った表情をしている少年の姿があった。
その少年の髪には、真っ赤な色の布切れが結ばれ、それが頼りなく揺れていた。
「救世主様!!はい、今書き上がりました!」
「救世主なんてよしてくれ、ククル。クルスでいいよ」
書き上がったばかりの手紙を手に、ククルはクルスへと駆け寄ってくる。
そんなククルの頭を撫でながら、クルスは彼からその呼び名で呼ばれることをくすぐったそうにしていた。
「えぇと・・・じゃあ、クルス様!その、これを読んでもらえますか?母様への大事な手紙なので、おかしな所がないか確認してください!」
クルスの言葉に若干不満そうな表情を見せていたククルは、思い切ってその名を呼ぶと、その手にした手紙を彼へと差し出している。
そこには碌な道具が手に入らないためか、滲みと掠れが交互にやって来る読み辛い、しかしとても一生懸命に書かれた文字が並んでいた。
「ごめんよククル、僕は文字が読めないんだ」
「そうなんですか?クルス様にも、出来ないことがあるなんて・・・」
「そりゃあるさ、色々とね。それに僕は少し前より以前の記憶がないんだ、だからそういうのはね・・・」
しかしそこに書き出された文字を、クルスには読むことが出来なかった。
それを申し訳なさそうに告白するクルスに、ククルはとても意外そうに驚いている。
その驚きの大きさは、クルスに対する彼の信頼の大きさ故だろう。
そのためか余計に困った表情でクルスはククルの頭を撫で、その視線から逃れようとしていた。
「あっ、そうでした!でも、そうか・・・そうなると、どうしよう」
「誰か他の人に頼もうか?イーザさん辺りなんて、いいんじゃないかな?」
ククルもクルスが記憶をなくしているのは知っていたのか、それを聞くと納得の表情を浮かべている。
しかしそれを納得すると同時に、クルスに手紙を読んで間違いがないか確認してもらうという事が不可能になってしまい、彼は頭を悩ませていた。
「僕は、クルス様に読んでもらいたいんです!!」
そんな彼に助け舟を出したクルスの提案は、即座に否定されてしまう。
ククルはこぶしを握り締めては力強く断言すると、クルス以外には読ませる気はないのだと、その輝く瞳を向けてきていた。
「そっか・・・でも、困ったな。そうなると、他に手段が・・・」
そんなククルの前に、取るべき手段がなくなってしまったクルスは首を捻ることしか出来ない。
しかしそんなクルスの前で、ククルは何か言いたいことがあるようで、もじもじと身体を動かしては自らの躊躇いと戦っていた。
「あの、クルス様!き、奇跡の力でそれを読むことって、出来ないでしょうか?」
そしてようやく口を開いた彼は、さらにキラキラと輝く瞳をクルスへと向けると、彼にその問題の解決法を提示していた。
それは、クルスの奇跡の力を使うという方法である。
「奇跡の力で?」
「はい!!」
驚き、尋ね返すクルスに、ククルは力強く頷いている。
そこには期待と、彼に対する厚い信頼しかない。
それが気恥ずかしく、クルスは思わずその頬を掻く。
「そっか・・・じゃあ、やってみようか?」
「本当ですか!?やったー!!」
その真っ直ぐな瞳は、裏切れない。
クルスは苦笑のような笑みを微笑みに変えながら、彼の願いを受け入れる。
ククルはそれに、飛び跳ねて喜びを露わにしていた。
「それじゃ、ちょっと待っててね」
「わくわく、わくわく」
腕を捲くり、受け取った手紙へとその右手を伸ばしたクルスは、自らの力を使おうと集中を始めている。
そのクルスの姿にククルはさらに瞳を輝かせては、彼の手元を見ようと背伸びをしてはそこを覗き込んでいた。
「ふふふっ・・・よし!これで、どうだ?」
その子供らしい振る舞いに思わずクルスは笑みを漏らしていたが、それでもその手は光り始めている。
そしてその光は彼が手にした手紙へと広がって、それを輝かせていた。
「わぁ!凄い、凄いですクルス様!!」
目の前にした奇跡の光景に、歓声を上げては喜びを表している。
その輝く瞳は、クルスへの真っ直ぐな称賛で溢れていた。
「・・・そんな事ないさ」
それが余りに眩しかったためか、クルスはそんな彼の視線から目を逸らし、どこか自嘲的な笑みを漏らす。
そんな彼の態度に、ククルは不思議そうに首を傾げていた。
「おっと、そんな事より。どれどれ・・・うん、いいんじゃないかな?よく書けてるし、問題ないと思うよ」
「本当ですか?良かったぁ・・・」
妙な間に、それを誤魔化すように声を上げたクルスは、改めて手紙へと視線を落とす。
そしてそこに書いたあった文面を目でなぞった彼は頷くと、問題ないとククルに保障して見せていた。
「うん、本当本当。それじゃ、この手紙は僕が出してくるけど・・・それで大丈夫かい?」
「はい、お願いします!」
自らの言葉に安堵するように胸に手を当てているククルへと、適当に頷いて見せていたクルスは、彼の手紙を折りたたむとその存在をアピールするように左右に振るっている。
「おーい、ククルー!全く、あのガキんちょはどこほっつき歩いてんだか・・・おーい!」
「あ!?僕、もう行かないと!ありがとうございました、救世主様!!」
「だから、クルスでいいって・・・行っちゃったか」
クルスへと深々と頭を下げているククルの背中に、どこかから彼を探す男の声が届き、ククルはそれに慌てて身体を跳ね起こしていた。
そしてそのまま駆け出していくククルは、去り際にもクルスに対して大きく手を振っていた。
「奇跡の力か・・・こんなもの」
去っていくククルの姿を見送っていたクルスは、その姿が見えなくなると一人呟いている。
その呟きは怒りの響きを含んでおり、それは彼が軽く握り潰してしまった手紙からも見て取れていた。
「あぁ!?不味い不味い!!の、伸ばせば、何とかなるかな?」
思わず握り潰し、くしゃくしゃになってしまった手紙をクルスは必死に手で撫でつけて元に戻そうとしている。
その今だに光を帯びた書面に刻まれた文字を、クルスには読み取ることは出来なかった。
ここでの仕事は、とても辛いものです。
辛い暮らしから逃れようとここにやってきたのに、もっと辛い目に遭っていることが不思議ですが、そういえば以前もそんな事があったなと思い直して、案外不思議でもないのかと考えています。
ここは薄暗く、お日様の姿も見えません。
天井から光は降り注いでいるので、そこにお日様はあると思うのですが、とても高い場所にあるので良く見えません。
そうそう昨日ガビちゃんという子と知り合いました、そうここではとても珍しい女の子です。
彼女の姿を今日は見ていません、きっと明日も見る事はないでしょう。
そうした事は、ここでは珍しくないので悲しまないようにしています。
そういえば、その日出たシチューには珍しく肉が入っていて、それがとても柔らかく美味しかったのを憶えています。
ここでは鞭で叩かれるのも、殴られるのも普通の事です。
僕は身体が小さくて、仕事も遅いので良く殴られています。
それを皆に話したら、そんなこと関係なく殴られるぞと笑われてしまいました。
ここでの仕事は、とても辛いものです。
でも、辛いだけではありません。
何故ならここには、救世主様がおられるからです。
救世主様は、皆の怪我を治してくださいます。
この間なんて、目の見えないジョゼッペ爺さんの目を治してくださいました。
食事係の気まぐれで、皆がパンの一切れもまともに食べられずひもじい思いをしていると、それを増やしてくださり、皆がお腹いっぱいになっても余ってしまうほどでした。
ですので、ここでの仕事は辛くても、ここでの生活は辛いだけではありません。
何故なら、僕達には救世主様がついてくれるからです。
だからどうか、心配なさらないでください。
親愛なる―――。
「ククル、手紙は書けたかい?」
背中に掛かった優しい声に、木材の切れ端を組み合わせて作った机の上へと乗りかかるようにして手紙を書いていた少年、ククルは顔を上げる。
彼が振り返るとそこには優しげな微笑みを浮かべた、しかしとても疲れ切った表情をしている少年の姿があった。
その少年の髪には、真っ赤な色の布切れが結ばれ、それが頼りなく揺れていた。
「救世主様!!はい、今書き上がりました!」
「救世主なんてよしてくれ、ククル。クルスでいいよ」
書き上がったばかりの手紙を手に、ククルはクルスへと駆け寄ってくる。
そんなククルの頭を撫でながら、クルスは彼からその呼び名で呼ばれることをくすぐったそうにしていた。
「えぇと・・・じゃあ、クルス様!その、これを読んでもらえますか?母様への大事な手紙なので、おかしな所がないか確認してください!」
クルスの言葉に若干不満そうな表情を見せていたククルは、思い切ってその名を呼ぶと、その手にした手紙を彼へと差し出している。
そこには碌な道具が手に入らないためか、滲みと掠れが交互にやって来る読み辛い、しかしとても一生懸命に書かれた文字が並んでいた。
「ごめんよククル、僕は文字が読めないんだ」
「そうなんですか?クルス様にも、出来ないことがあるなんて・・・」
「そりゃあるさ、色々とね。それに僕は少し前より以前の記憶がないんだ、だからそういうのはね・・・」
しかしそこに書き出された文字を、クルスには読むことが出来なかった。
それを申し訳なさそうに告白するクルスに、ククルはとても意外そうに驚いている。
その驚きの大きさは、クルスに対する彼の信頼の大きさ故だろう。
そのためか余計に困った表情でクルスはククルの頭を撫で、その視線から逃れようとしていた。
「あっ、そうでした!でも、そうか・・・そうなると、どうしよう」
「誰か他の人に頼もうか?イーザさん辺りなんて、いいんじゃないかな?」
ククルもクルスが記憶をなくしているのは知っていたのか、それを聞くと納得の表情を浮かべている。
しかしそれを納得すると同時に、クルスに手紙を読んで間違いがないか確認してもらうという事が不可能になってしまい、彼は頭を悩ませていた。
「僕は、クルス様に読んでもらいたいんです!!」
そんな彼に助け舟を出したクルスの提案は、即座に否定されてしまう。
ククルはこぶしを握り締めては力強く断言すると、クルス以外には読ませる気はないのだと、その輝く瞳を向けてきていた。
「そっか・・・でも、困ったな。そうなると、他に手段が・・・」
そんなククルの前に、取るべき手段がなくなってしまったクルスは首を捻ることしか出来ない。
しかしそんなクルスの前で、ククルは何か言いたいことがあるようで、もじもじと身体を動かしては自らの躊躇いと戦っていた。
「あの、クルス様!き、奇跡の力でそれを読むことって、出来ないでしょうか?」
そしてようやく口を開いた彼は、さらにキラキラと輝く瞳をクルスへと向けると、彼にその問題の解決法を提示していた。
それは、クルスの奇跡の力を使うという方法である。
「奇跡の力で?」
「はい!!」
驚き、尋ね返すクルスに、ククルは力強く頷いている。
そこには期待と、彼に対する厚い信頼しかない。
それが気恥ずかしく、クルスは思わずその頬を掻く。
「そっか・・・じゃあ、やってみようか?」
「本当ですか!?やったー!!」
その真っ直ぐな瞳は、裏切れない。
クルスは苦笑のような笑みを微笑みに変えながら、彼の願いを受け入れる。
ククルはそれに、飛び跳ねて喜びを露わにしていた。
「それじゃ、ちょっと待っててね」
「わくわく、わくわく」
腕を捲くり、受け取った手紙へとその右手を伸ばしたクルスは、自らの力を使おうと集中を始めている。
そのクルスの姿にククルはさらに瞳を輝かせては、彼の手元を見ようと背伸びをしてはそこを覗き込んでいた。
「ふふふっ・・・よし!これで、どうだ?」
その子供らしい振る舞いに思わずクルスは笑みを漏らしていたが、それでもその手は光り始めている。
そしてその光は彼が手にした手紙へと広がって、それを輝かせていた。
「わぁ!凄い、凄いですクルス様!!」
目の前にした奇跡の光景に、歓声を上げては喜びを表している。
その輝く瞳は、クルスへの真っ直ぐな称賛で溢れていた。
「・・・そんな事ないさ」
それが余りに眩しかったためか、クルスはそんな彼の視線から目を逸らし、どこか自嘲的な笑みを漏らす。
そんな彼の態度に、ククルは不思議そうに首を傾げていた。
「おっと、そんな事より。どれどれ・・・うん、いいんじゃないかな?よく書けてるし、問題ないと思うよ」
「本当ですか?良かったぁ・・・」
妙な間に、それを誤魔化すように声を上げたクルスは、改めて手紙へと視線を落とす。
そしてそこに書いたあった文面を目でなぞった彼は頷くと、問題ないとククルに保障して見せていた。
「うん、本当本当。それじゃ、この手紙は僕が出してくるけど・・・それで大丈夫かい?」
「はい、お願いします!」
自らの言葉に安堵するように胸に手を当てているククルへと、適当に頷いて見せていたクルスは、彼の手紙を折りたたむとその存在をアピールするように左右に振るっている。
「おーい、ククルー!全く、あのガキんちょはどこほっつき歩いてんだか・・・おーい!」
「あ!?僕、もう行かないと!ありがとうございました、救世主様!!」
「だから、クルスでいいって・・・行っちゃったか」
クルスへと深々と頭を下げているククルの背中に、どこかから彼を探す男の声が届き、ククルはそれに慌てて身体を跳ね起こしていた。
そしてそのまま駆け出していくククルは、去り際にもクルスに対して大きく手を振っていた。
「奇跡の力か・・・こんなもの」
去っていくククルの姿を見送っていたクルスは、その姿が見えなくなると一人呟いている。
その呟きは怒りの響きを含んでおり、それは彼が軽く握り潰してしまった手紙からも見て取れていた。
「あぁ!?不味い不味い!!の、伸ばせば、何とかなるかな?」
思わず握り潰し、くしゃくしゃになってしまった手紙をクルスは必死に手で撫でつけて元に戻そうとしている。
その今だに光を帯びた書面に刻まれた文字を、クルスには読み取ることは出来なかった。
応援ありがとうございます!
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