ボケ老人無双

斑目 ごたく

文字の大きさ
22 / 78
栄光時代

賭け 1

しおりを挟む
 夕暮れを迎えた冒険者ギルドには、今日も酒盛りに興じる冒険者で賑わっている。
 しかしそれらの一角では、それ以外とは違いどこか真剣な空気が漂っていた。
 彼らは一つのテーブルに、幾つもの椅子を並べては何やら顔を突き合わせて何かついて真剣に話し合っているようだ。
 そしてそのテーブルの上には、幾つもの硬貨が山となって積み重なっていた。

「あいつらが依頼を失敗するのに、もう10リディカ賭けるぜ!!」

 その中の一人の男が、銀の硬貨をテーブルに叩きつけながら、何やら宣言している。
 その内容から、どうやら彼らが何かを巡って賭けをしていることは容易に想像出来た。

「おいおい、またそっちかよ!?誰か成功する方に掛ける奴はいねぇのか?これじゃ賭けになんねぇよ!!」

 男の言葉に耳を澄ましていた周りの者達も、その内容を確認すると溜め息を吐いていた。
 それは男が叩きつけた硬貨が、運ばれた先を見れば分かるだろう。
 大まかに二つに分けられた硬貨の塊は、一方に見上げるような山が聳え立っており、もう一方には石ころが転がるばかりであった。
 それはこの賭けの掛け金が、一方ばかりに偏っていることを意味している。

「そりゃそうだろ?いくら久々に出た飛び級っていっても、あんな嬢ちゃんじゃあなぁ・・・それに嬢ちゃんだけならまだしも、あの爺さんもついていってるんだろ?流石に奇跡が二度も続かねぇわな」
「そうだそうだ!あんなのはぁ、きっとインチキに違いねぇ!!あんな小娘がオーガトロルを倒しただぁ?んなの、ある訳ねーだろ!!」

 こんな掛け金の比率では賭けが成立しないと、胴元らしき男が嘆いている。
 そんな男の嘆きに、周りの冒険者達は仕方ないだろうとにやけていた。
 彼らが賭けに対象にしているのは、あの時の出来事で冒険者としての階級を二段階も上げていたカレンが、依頼を達成して帰ってくるかどうかであった。
 あんな小娘の新人冒険者が、あっさりとそんな成功を手にしたことが気に食わない彼らは、当然の如く彼女の実力を認めていない。
 ましてやそんな小娘が、ボケてしまっている老人を連れて依頼に向かったのだ、今度こそ失敗して帰ってくるはずだと彼らは高を括っていた。

「で、でもよぉ・・・それはあのデリックさんが保証してるんだろう?あの人がわざわざそんな嘘を吐くかなぁ・・・」
「た、確かに一理あるな・・・この国で七番目の冒険者の言葉だからな」

 カレンの功績はインチキだとせせら笑う男達に、太った冒険者が異論を挟んでいる。
 彼はその功績は彼らにとっても雲上人である、あのデリック・キングスガーターが保証したものだと口にしていた。
 その言葉には説得力があったようで、彼の周りにはそれに頷いている何人もの冒険者の姿があった。

「だったらよぉ、成功の方に賭けりゃいいじゃねぇか?今なら倍率もデカくて、ウハウハだぜぇ?」
「い、いや・・・それとこれとは話が別と言うか」
「あぁん?お前らは、あの小娘の実力を信じてんだろ?だったらこの程度の依頼達成出来て当然じゃねぇか!?ほらほら、早く賭けねぇと帰ってきちまうぞ?いや、帰ってこねぇか?死んじまったら、帰ってこれねぇもんな!?ぎゃはははは!!!」

 カレンを擁護する太った冒険者に対し、彼女を扱き下ろしては笑っていた男は肩を組むと、彼にだったら彼女が依頼を成功して帰ってくる方に賭ければいいじゃないかと提案している。
 その当然ともいえる提案に、太った冒険者は汗をダラダラと流し始めると、しどろもどろと目を泳がせ始めていた。
 そんな太った冒険者の様子に満足したのか、彼へと肩を組んだ男は早く早くと彼を急かすと、ご機嫌な笑い声を響かせていた。

「へっ、口だけなら何とでもいえるわな!自信があるってんなら、態度で示せってんだ態度で。この金ぴかな光り輝く、お金っつう態度でな!」

 散々男から煽られても、太った冒険者はその懐から硬貨を取り出そうとはしない。
 そんな彼の態度に馬鹿にしたようにその身体を突き飛ばした男は、テーブルに転がっていた硬貨を一つ摘まみ上げると、それで証明してみせろと彼らを煽っている。
 そんな彼の言葉に、反論する者は現れなかった。

「あ~ぁ、これじゃ賭けになんねぇってのに・・・おい、ちゃんと掛け金をメモってるか?きっちり出した奴に返すんだぞ。きっちりやらねぇと後で揉めるからな」
「へぇ、ちゃんとやっとります」
「よし。じゃあ、悪いが皆さん。賭けも成立しなさそうだし、お開きってことで―――」

 散々煽り倒す男の言葉にも、変わりそうにない掛け金のバランスに、胴元の男が入れ替わるようにしてテーブルの前へと進み出てくる。
 彼は成立しない賭けをお開きにしようと、賭け金とそれを誰が賭けていたかをメモしていた手下へと声を掛け、それらを返却しようとしていた。

「カレンが依頼を達成して帰ってくるに、100リディカ!」

 そんな彼の目の前に、袋に入った硬貨が叩きつけられる。
 それはその言葉が嘘ではないと主張するように、テーブルへと倒れては中身の硬貨を幾つか漏れ出さしていた。

「・・・エステル、いいのかい?」
「いいに決まってるでしょ!私はカレンの実力を信じてますから!!」

 それは赤毛の美人受付嬢、エステルのものであった。
 叩きつけられた硬貨袋の中身を確認しながら、胴元の男はそれでいいのかとエステルに尋ねる。
 そんな彼の言葉に、自信満々といった様子で腰に手を当てたエステルは、問題なんてある訳がないと言い切っていた。

「いや、そっちじゃなくてだな・・・ギルド職員が、こんな賭けに参加してもいいのか?」

 しかし胴元の男が訪ねていたのは、そちらではなく彼女の職業的な立場の問題であった。

「そうですよ、先輩。これ、ギルドの規定に抵触してますよ」
「はぁ?そんな細かい事、いちいち気にしてたらギルドの受付なんかしてられますかっての!!私は毎日、こいつらみたいな冒険者相手してんのよ!?お行儀よくなんて、やってられるわけないでしょ!?もう100リディカ!!勿論、カレンが成功する方によ!!」

 そしてそれは、彼女の同僚であるピーターにも注意されてしまう。
 しかしエステルはそんなこと関係ないと断言すると、懐からもう一つ硬貨の入った袋を取り出して、それをテーブルへと叩きつけていた。

「ふふふ・・・カレンは私が担当した、初めての飛び級冒険者なんだから。あの子がこのまま活躍していけば、それとコンビの私も出世街道を・・・むふ、むふふふっ」
「はぁ・・・そういう事ですか。まぁ、そういう事なら・・・僕も50リディカほど。先輩と同じ方で」

 自らが叩きつけた硬貨に周りが呆気に取られているのを目にしたエステルは、満足そうに頷くと何やらぶつぶつと呟き始めていた。
 その呟きの内容に彼女の思惑を理解したピーターは、呆れたように溜め息を漏らすと自らも財布を取り出し、そこから硬貨をテーブルへと並べていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

「魔法を使わない魔術師を切り捨てた国は、取り返しのつかない後悔をする

藤原遊
ファンタジー
魔法を使わない魔術師は、役に立たない。 そう判断した王国は、彼女を「不要」と切り捨てた。 派手な魔法も、奇跡も起こさない。 彼女がしていたのは、魔力の流れを整え、結界を維持し、 魔法事故が起きないよう“何も起こらない状態”を保つことだけだった。 代わりはいくらでもいる。 そう思われていた仕事は、彼女がいなくなった途端に破綻する。 魔法は暴走し、結界は歪み、 国は自分たちが何に守られていたのかを知る。 これは、 魔法を使わなかった魔術師が、 最後まで何もせずに証明した話。 ※主人公は一切振り返りません。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

無能烙印押された貧乏準男爵家三男は、『握手スキル』で成り上がる!~外れスキル?握手スキルこそ、最強のスキルなんです!

飼猫タマ
ファンタジー
貧乏準男爵家の三男トト・カスタネット(妾の子)は、13歳の誕生日に貴族では有り得ない『握手』スキルという、握手すると人の名前が解るだけの、全く使えないスキルを女神様から授かる。 貴族は、攻撃的なスキルを授かるものという頭が固い厳格な父親からは、それ以来、実の息子とは扱われず、自分の本当の母親ではない本妻からは、嫌がらせの井戸掘りばかりさせられる毎日。 だが、しかし、『握手』スキルには、有り得ない秘密があったのだ。 なんと、ただ、人と握手するだけで、付随スキルが無限にゲットできちゃう。 その付随スキルにより、今までトト・カスタネットの事を、無能と見下してた奴らを無意識下にザマーしまくる痛快物語。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

処理中です...