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栄光時代
虚像の終わり
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「グルゥ?」
そしてそれは、オーガトロルの胸へとふらふらと飛んでいき、そこに着弾すると僅かな火傷の後だけを残して、弾けて消えてしまっていた。
「・・・え?そんな、嘘でしょ?」
全身全霊の一撃が、大した傷も与えられずに終わってしまう。
その絶望に、カレンは立ち尽くしていた。
何より彼女を絶望させたのは、それがあのフォートレスオーガを一撃で屠り、あまつさえ城門に巨大な穴を開けた一撃であったからだ。
「あぁ、そっか・・・やっぱりあれも、私の力なんかじゃなかったんだ」
しかしそれも、それらが全て自らの力でなかったとすれば簡単に納得出来る。
何故ならそれらが起きた時にはすぐ傍に、あのトージローがいたのだ。
彼ならば、そんな事も簡単に出来てしまうだろう。
つまりはそういう事なのだと、カレンはようやく理解していた。
「はー・・・薄々、気づいてたんだけどなぁ。私には出来る訳ないって・・・何で信じちゃったんだろ。信じたかったのかな?そっか、信じたかったんだ・・・私にも出来るって」
あんなとんでもない力が自分の中にあるなんて、カレン自身信じてはいなかった。
それでも彼女は信じたかったのだ、自分が特別な人間なのだと。
その結果がこれだと、カレンは自嘲の笑みを漏らす。
「ガアアァァァ!!!」
そんなカレンの事などお構いなしに、オーガトロルは雄叫びを上げる。
その振り上げたこぶしが狙っているのは、カレンではなくその目の前のレティシアであった。
「駄目・・・駄目だよ、そんなの。私でしょ!?私が悪いんだから、私を狙いなさい!!貴方を攻撃したのは私なんだから!!」
レティシアを狙うオーガトロルの姿に、カレンはそれを否定するように首を横に振っている。
そして彼女は、そこに割り込もうと駆け出していた。
しかし消耗しきった彼女の足は遅く、とてもではないが間に合いはしない。
「お、お茶でもいかが?その・・・お茶菓子も用意してありますの」
もはや為す術のない状況に、それでもレティシアは一縷の望みに賭けて、オーガトロルの気を逸らそうとしている。
その手には、バスケットから零れた焼き菓子が握られていた。
「ガアアァァァ!!!」
しかしそんなものでオーガトロルの手が止まる訳もなく、そのこぶしは振り下ろされてしまっていた。
「駄目ぇぇぇぇぇ!!?」
カレンはそれを何とか止めようと、杖を振るう。
しかしその先からは、指の先ほどの炎も飛び出てはこなかった。
「むぐむぐむぐ・・・おほっ、こりゃ美味いのぅ!」
「えっ?」
自分では何も出来ない絶望に叫んだカレンが次に聞いたのは、レティシアの悲鳴やそれが潰される不快な音ではなく、どこか聞き覚えのある声であった。
それに顔を上げたカレンが目にしたのは、レティシアの手から焼き菓子を奪いそれを頬張っているトージローの姿と、まるで彼がその中を通り抜けたかのように人型にくり抜かれたオーガトロルの姿であった。
「おぉ、そうじゃ!カレンファイヤー、じゃったかいのぅ?」
そして焼き菓子を一通り楽しんだトージローは、腰に佩いていた剣を抜き放つと、それを背後へと振るう。
そこからは周囲を真っ白に照らすような凄まじい炎を巻き上がり、再生しつつあったオーガトロルを灰一つ残らず燃やし尽くしてしまっていた。
「おほっ!魔法じゃ魔法じゃ!!格好ええのぅ・・・ところでお嬢さん、さっきのもう一つないかのぅ?」
自分が放った魔法を、まるで人ごとのように驚いて見せるトージローは、レティシアに手を伸ばしては彼女を助け起こしている。
そして指を咥えては、彼女に先ほど口にしたばかりの焼き菓子をおねだりしていた。
「・・・これだもんなぁ。敵わないよ、トージローには・・・はははっ」
死を覚悟してすらいた絶体絶命のピンチも、トージローに掛かれば焼き菓子のついででしかない。
その圧倒的な力に呆然としているカレンは、堪えきれずに笑いだすと目元を覆って空を仰いでいた。
その端っこからは、一筋の雫が零れ落ちてゆく。
「あ、そうだった!レティシア、大丈夫?レティシア・・・?」
自らの力なさを反省するよりも、今は心配しなければならないことがある。
それを思い出したカレンは、レティシアに駆け寄ると声を掛ける。
しかし彼女からは、一向に反応が返ってこなかった。
「トージロー様・・・」
そのレティシアは、トージローの事を一身に見詰めながらぽつりと呟いている。
その瞳は、先ほどまで彼女がカレンに向けたものよりもキラキラと輝き、うっとりとしていた。
「・・・えっ?」
それはどう見ても、恋する乙女のそれであった。
その事実が受け入れられずに、カレンは思わず彼女の表情を二度見してしまう。
それでも、そのうっとりとした表情が変わる事はなかった。
「師匠ー、師匠ー!!どこ行っちゃったんですかー!!?もう、すぐに・・・げっ、カレン」
「・・・ど、どうしよう、ルイス兄?」
トージローは焼き菓子を欲しがりレティシアを見詰め、そのレティシアは彼を一身に見詰めている。
そんな二人に、カレンは事態が呑み込めずに固まってしまっていた。
そんな三人の下に、騒がしい声が近づいてくる。
彼らの周囲では、トージローが放った炎の残り火が、まだ僅かにくすぶり続けていた。
そしてそれは、オーガトロルの胸へとふらふらと飛んでいき、そこに着弾すると僅かな火傷の後だけを残して、弾けて消えてしまっていた。
「・・・え?そんな、嘘でしょ?」
全身全霊の一撃が、大した傷も与えられずに終わってしまう。
その絶望に、カレンは立ち尽くしていた。
何より彼女を絶望させたのは、それがあのフォートレスオーガを一撃で屠り、あまつさえ城門に巨大な穴を開けた一撃であったからだ。
「あぁ、そっか・・・やっぱりあれも、私の力なんかじゃなかったんだ」
しかしそれも、それらが全て自らの力でなかったとすれば簡単に納得出来る。
何故ならそれらが起きた時にはすぐ傍に、あのトージローがいたのだ。
彼ならば、そんな事も簡単に出来てしまうだろう。
つまりはそういう事なのだと、カレンはようやく理解していた。
「はー・・・薄々、気づいてたんだけどなぁ。私には出来る訳ないって・・・何で信じちゃったんだろ。信じたかったのかな?そっか、信じたかったんだ・・・私にも出来るって」
あんなとんでもない力が自分の中にあるなんて、カレン自身信じてはいなかった。
それでも彼女は信じたかったのだ、自分が特別な人間なのだと。
その結果がこれだと、カレンは自嘲の笑みを漏らす。
「ガアアァァァ!!!」
そんなカレンの事などお構いなしに、オーガトロルは雄叫びを上げる。
その振り上げたこぶしが狙っているのは、カレンではなくその目の前のレティシアであった。
「駄目・・・駄目だよ、そんなの。私でしょ!?私が悪いんだから、私を狙いなさい!!貴方を攻撃したのは私なんだから!!」
レティシアを狙うオーガトロルの姿に、カレンはそれを否定するように首を横に振っている。
そして彼女は、そこに割り込もうと駆け出していた。
しかし消耗しきった彼女の足は遅く、とてもではないが間に合いはしない。
「お、お茶でもいかが?その・・・お茶菓子も用意してありますの」
もはや為す術のない状況に、それでもレティシアは一縷の望みに賭けて、オーガトロルの気を逸らそうとしている。
その手には、バスケットから零れた焼き菓子が握られていた。
「ガアアァァァ!!!」
しかしそんなものでオーガトロルの手が止まる訳もなく、そのこぶしは振り下ろされてしまっていた。
「駄目ぇぇぇぇぇ!!?」
カレンはそれを何とか止めようと、杖を振るう。
しかしその先からは、指の先ほどの炎も飛び出てはこなかった。
「むぐむぐむぐ・・・おほっ、こりゃ美味いのぅ!」
「えっ?」
自分では何も出来ない絶望に叫んだカレンが次に聞いたのは、レティシアの悲鳴やそれが潰される不快な音ではなく、どこか聞き覚えのある声であった。
それに顔を上げたカレンが目にしたのは、レティシアの手から焼き菓子を奪いそれを頬張っているトージローの姿と、まるで彼がその中を通り抜けたかのように人型にくり抜かれたオーガトロルの姿であった。
「おぉ、そうじゃ!カレンファイヤー、じゃったかいのぅ?」
そして焼き菓子を一通り楽しんだトージローは、腰に佩いていた剣を抜き放つと、それを背後へと振るう。
そこからは周囲を真っ白に照らすような凄まじい炎を巻き上がり、再生しつつあったオーガトロルを灰一つ残らず燃やし尽くしてしまっていた。
「おほっ!魔法じゃ魔法じゃ!!格好ええのぅ・・・ところでお嬢さん、さっきのもう一つないかのぅ?」
自分が放った魔法を、まるで人ごとのように驚いて見せるトージローは、レティシアに手を伸ばしては彼女を助け起こしている。
そして指を咥えては、彼女に先ほど口にしたばかりの焼き菓子をおねだりしていた。
「・・・これだもんなぁ。敵わないよ、トージローには・・・はははっ」
死を覚悟してすらいた絶体絶命のピンチも、トージローに掛かれば焼き菓子のついででしかない。
その圧倒的な力に呆然としているカレンは、堪えきれずに笑いだすと目元を覆って空を仰いでいた。
その端っこからは、一筋の雫が零れ落ちてゆく。
「あ、そうだった!レティシア、大丈夫?レティシア・・・?」
自らの力なさを反省するよりも、今は心配しなければならないことがある。
それを思い出したカレンは、レティシアに駆け寄ると声を掛ける。
しかし彼女からは、一向に反応が返ってこなかった。
「トージロー様・・・」
そのレティシアは、トージローの事を一身に見詰めながらぽつりと呟いている。
その瞳は、先ほどまで彼女がカレンに向けたものよりもキラキラと輝き、うっとりとしていた。
「・・・えっ?」
それはどう見ても、恋する乙女のそれであった。
その事実が受け入れられずに、カレンは思わず彼女の表情を二度見してしまう。
それでも、そのうっとりとした表情が変わる事はなかった。
「師匠ー、師匠ー!!どこ行っちゃったんですかー!!?もう、すぐに・・・げっ、カレン」
「・・・ど、どうしよう、ルイス兄?」
トージローは焼き菓子を欲しがりレティシアを見詰め、そのレティシアは彼を一身に見詰めている。
そんな二人に、カレンは事態が呑み込めずに固まってしまっていた。
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彼らの周囲では、トージローが放った炎の残り火が、まだ僅かにくすぶり続けていた。
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