ボケ老人無双

斑目 ごたく

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トージロー

ドラクロワの計略

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 どう、と音を立ててその屈強な身体がゆっくりと倒れ伏していく。
 それはその立派な見た目からは想像つかないほど、軽い音を立てて地面へと倒れ込んでいた。
 そんな軽い音が聞き取れるほどに、この広場は静まり返ってしまっていた。

「えー・・・嘘でしょ?あんなにいた冒険者が、こんなあっさりやられるなんて・・・」

 それはその倒れ伏した冒険者が、この広場で最後の冒険者であったからだ。
 その様を眺めながら、他人事のように呟いているカレンという例外を除いては。

「さて、これで最後か?向かってきたので、とりあえず倒してはみたが・・・まさか、これで終わりだというのではあるまいな?」

 最後の冒険者に止めを刺したポーズのまま、その腕を適当に伸ばしているドラクロワは、周りに山のように積み重なっている冒険者達を見下ろしては、まさかこれで終わりではないだろうと肩を竦めている。

「っ!?そ、そんな訳がなかろう!!ここは私の領地、私の街だぞ!?冒険者がやられたから、何だというのだ!!そんなもの、私の手勢が消耗するのを恐れてのこと!!業腹ではあるが・・・私の手勢でもって、貴様の息の根を止めてくれるわ!!」

 あれだけの冒険者を仕留めたにも拘らず、一切消耗した様子の見せないドラクロワの姿に、僅かの焦りの色を浮かべたリータスは、それを振り払うように声高に叫んでいる。
 リータスは冒険者にドラクロワを襲わせたのは、自らの手勢の消耗を恐れてのことだと口にし、背後に控えていた兵士達を、自らの前へと展開させていた。

「・・・たった、それだけか?」
「ふんっ!そんな訳があるまい!!これは私の身辺警護に置いたまでのこと!!本命は各城門から駆けつけてくる兵共よ!!ふふふ、時期にこの広場を埋め尽くすほどの兵がここに殺到し―――」

 リータスが大言を吐きながら、自らの前に展開させた兵の数は少ない。
 その拍子抜けする数に、ドラクロワは呆れたような表情を見せている。
 そんな彼の表情にリータスは鼻を鳴らすとそんな訳がないだろうと断言し、腕を振ってはこの街を取り囲む城壁を示し、そこから今まさに兵が大挙してやってきているのだと口にしていた。

「あぁ、その兵ならばこないぞ」
「お前などあっという間に・・・何だと?今、何といった?」
「だから、その兵ならばこないといったのだ。何だ、策とはその程度の事だったのか?」

 今にも兵が大挙してやってくると勝ち誇っているリータスに、ドラクロワはあっさりとその目論見は外れていると口にする。
 その余りにあっさりとした口調に、一瞬それが何のことを言っているのかリータスは理解しない。
 しかしそんな彼がもはや否定出来ないほどにはっきりと、ドラクロワは再びそれを告げていた。

「何だと!?そんな馬鹿な事があるか!!?そうか、分かったぞ!さては、はったりだな!そんなものでこの場を逃れようとしても、そうはいかんぞ!!」
「はったりだと?そんなものを強者である私がする必要が、どこにある?まあいい、そんなに疑うならば耳を澄ましてみるがいい。貴様には聞こえるのか、ここに駆けつける軍靴の音とやらが?」

 ドラクロワにはっきりと告げられたその事実にも、リータスはそれを信じる事はない。
 彼はそれを状況の不利を悟ったドラクロワのはったりだと断じると、騙されはしないと腕を振っている。
 そんな彼の態度にドラクロワは呆れるように肩を竦めると、だったら耳を澄まして近づいてきてる筈の兵士の足音を聞けばいいと促していた。

「ふんっ、言われなくても・・・何だ、これは?一体どういうことなのだ!?何も、何も聞こえてこんではないか!?予定ではとっくに・・・」

 ドラクロワに言われるまでもなく、その耳に手を当ててはそれを澄ましていたリータスはしかし、一向に聞こえてこない兵士達の足音に驚愕の表情を浮かべている。
 冒険者を一斉に嗾けた際、リータスは同時にそれがもし倒されてしまった際の予備として、各城門の兵士を呼び寄せるように部下を派遣していたのだ。
 そのため予定では、そろそろそれらがここにやってくる筈であった。
 しかし一向にその気配を見せない静寂に、リータスの驚愕の声だけが広場に響いている。

「ふふふ、ふははは、はーっはっはっは!!馬鹿め、おかしいと思わなかったのか!?私が何故、この一か月こそこそと陰に隠れて活動していたのかと!?それはこのためよ!!」

 いつまで待っても現れる気配のない兵士の姿に、驚愕するリータスの表情がよほど気にいったのか、ドラクロワは腹を抱えては笑いだしている。
 そして彼は、強者である自分が何故この街で一か月もの間、陰に隠れてこそこそ活動していたのかと、企みを明かすように腕を掲げて見せていた。

「・・・何だ?何も起こってはいないではないか?」
「ふふふ、よく見てみろ。ほうら、貴様らにも見えるだろうあれの姿が」
「っ!?あ、あれは・・・!?」

 ドラクロワが自らの陰謀を披露するように掲げた腕の先には、何の変化も現れていない。
 それに拍子抜けしたように、顔をキョロキョロさせているリータスに、ドラクロワは含み笑いを見せると、そこをよく見てみろと再び示して見せていた。
 そこには、ふらふらとよろめく人影の姿があった。
 それはとても健康な人とは思えない顔色をしており、この広場に繋がっている通りから次から次へと現れてきていた。

「貴様!我が住民に手を掛けたのか!?」
「何を驚く?それが我が種族、吸血鬼の生業だろう?この牙をもって、眷属を増やすのがな!」

 現れた人影は、かつてはこの街の住民であり、今ではドラクロワによってそう変えられてしまったアンデッドであった。
 ドラクロワに噛まれ下級の吸血鬼に変えられてしまった彼らの動きは、日差しによるペナルティがあるのか遅い。
 しかしそれでも、その数は決して少なくはなかった。

「あれらはそのほんの一部よ!そのほとんどは、この街の城門を襲わせている!どうだ、分かったか!?何故、貴様の兵士がここにやってこないかを!!どうという事はない、奴らはそれどころではないのだよ!!はーっはっはっは!!!」

 そしてそれらはほんの一部であり、残りはこの街の城門を襲っているのだとドラクロワは語る。
 そんな彼の計画を知り、言葉を失っているリータスの姿を目にしては、ドラクロワは愉快そうに頭を抱えては笑い声を上げていた。

「っ!!その程度で、我が守りは落ちはせん!!侮ったな、吸血鬼!!」

 予想もしない策略に思わず言葉を失っていたリータスもやがて意識を取り戻すと、その程度で城門の守りは落ちはしないと断言していた。

「ほほぅ、そうかそうか・・・では、城門外からも同時に攻めかかられればどうだ?まさかこの一か月、私がしたことがそれだけだとは思うまいな?」

 そんな自信を窺わせるリータスに、ドラクロワは感心したように頷いて見せると、更なる策略を覗かせていた。

「何だと?っ!?ま、まさか・・・半月ほど前にあった襲撃、あれも貴様が!?くっ・・・だが、その程度で我が守りは落ちはせん!!あの不落の大扉さえ健在ならば・・・」

 魔物の襲撃を示唆するドラクロワに、リータスは半月前の襲撃を思い出していた。
 そしてドラクロワの口ぶりから、それも彼の仕業だと確信したリータスはしかし、それでもこの街の守りは落ちはしないと断言する。
 そう、あの巨大な城門さえ健在であればと。

「ふむ、城門が健在ならばか・・・では、健在でない城門があるならば、どうする?」
「そんな事、ある訳がなかろう!!・・・あっ!?」

 城門さえ健在であれば落ちはしないと断言するリータスに、それが健在でなければどうするとドラクロワは尋ねている。
 そんな可能性ある訳がないと即座に否定するリータスはしかし、振るった腕を止めると何かを思い出していた。
 そして彼は、ある人物へと視線を向ける。
 野次馬の中に紛れ、一人こっそりとこの場の動向を窺っていたカレンへと。

「へ?わ、私?な、何かやっちゃいましたっけ?」

 急に集まってきた視線に、カレンは素っ頓狂な声を上げると頭を掻いては誤魔化している。
 そんなカレンが半月前、デリックと共に魔物の襲撃を撃退したのだ。
 その巨大な城門に、塞ぎようのないほどの大きな穴を開けながら。
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