最弱能力「毒無効」実は最強だった!

斑目 ごたく

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衝突

順調な滑り出し

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「あった!あ、あっちにも!!何よ、順調じゃない!」

 森に分け入り、草を掻き分けてそれを見つけたアレクシアは、思わず喜びの声を上げて飛びついている。
 彼女が手にしたのは、赤い斑模様の入ったキノコであった。
 それは一見おどろおどろしく、如何にも毒がありそうなキノコで、普通ならば決して手に取らないような代物だ。
 しかし彼女はそれを手にしては、嬉しそうに口元を綻ばせていた。

「このマダラゴブリンダケは、毒キノコだけど簡単に毒抜き出来てお得なのよね。元々毒キノコだからなのか、あの毒には汚染されてないし・・・あ、向こうにもある!もしかしてここって群生地!?やっりー!!」

 雑な手つきでそれを引き抜いては、背中の鞄へと放り込んでいくアレクシア。
 それが雑草であるならば注意されそうなやり方であるが、それがこの世界では貴重な食糧となるキノコであるならば話は別だ。
 地面の中に菌糸を伸ばし、地表に実体を実らせるキノコからすれば、表に出ているそれを取られても、根が残っていれば再び実を実らせるだろう。
 それが分かっているアレクシアは、あえて雑な手つきでそれを取り、そして実りを広げられるように適度にキノコ自身も残していた。

「ふふふ・・・これなら楽勝ね!」

 背中に背負った鞄は、彼女の能力によって重さを軽減されても尚、僅かな重みを感じさせ始めている。
 それはまだ動きを阻害するほどではないが、出だしにしては十分な収穫の量を彼女に知らせてくれていた。
 そんな重みに勝利を確信したアレクシアは軽くこぶしを握り締めては、ガッツポーズを決めている。

「っと、危ない危ない・・・油断しちゃ駄目よね、まだ勝負は始まったばかりなんだから」

 余りに順調な滑り出しに、思わず勝利を確信してしまったアレクシアは、そんな自分を引き締めるように頬を叩いていた。
 耐毒スーツに身を包んだ彼女に、その手は届くことはなかったが油断しては駄目だという意識には繋がっている。

「それに相手はあのアラン・ブレイク・・・腑抜けて見えるけど、侮っていい相手じゃないわ」

 その上、彼女の勝負の相手はあのアラン・ブレイクなのだ。
 魔王討伐のためにと特に注力して育成され、優秀な生徒揃いであったあの年代の首席卒業生。
 それがこの一年かそこいらで見る影もないほどに落ちぶれてしまったように見えても、その能力までが錆びついてしまったとは限らない。
 アレクシアは彼への警戒を口にすると、改めて気を引き締めては物資の収拾へと戻る。

「あれ、あれは・・・?向こうにも群生地!?しかもあんな大きな・・・嘘でしょ、こんな事って・・・うっ!?」

 気合を入れ直し鋭い視線を周囲へと向けるアレクシアは、その視線の先に先ほど手に取ったキノコの姿を見る。
 しかもその視線の先には、先ほど目にしたものよりも大きな群生地の姿があった。
 そんな余りに都合のいい存在に驚きながらも、彼女は足を急がせる。
 しかしその途中で彼女は何やら呻き声を上げると、その場に立ち止まってしまっていた。

「毒気が濃い。これ以上は、このスーツでも・・・くっ、諦めるしかないか」

 そのキノコの群生地には、視覚化されるほどに濃い毒気が漂っている。
 紫色の靄のように見えるそれは、この耐毒スーツの性能を持ってしても呼吸が苦しく感じる毒気を帯びていた。
 まだそこに足を踏み入れてもいないこんな場所ですら苦しく感じる毒気に、実際にそこに立ち入れば彼女ですら一溜りもないだろう。
 まるで林のように生い茂るキノコの群生地にも、命には代えられない。
 アレクシアは悔しそうに唇を噛みしめると、その場から引き下がっていた。

「あれだけ毒気が強い場所だから、誰にも荒らされずに残ってたのかな・・・うぅん、考えても仕方がない!切り替えて他を探さないと・・・」

 即座に諦めて引き返したように見えても、後ろ髪を引かれる思いはある。
 僅かに後ろを振り返り、先ほどの群生地の方へと視線を向けるアレクシアの目には未練が残っている。
 しかし彼女はそれを振り払うように首を振ると、今度こそはと気持ちを切り替えて先へと進み始めていた。

「ん?あれは・・・ヨモギモドキかしら、それにオジギリグサも!あれは葉に強い毒があるけど、根は食べられたはず!いいわね、これで食卓が豊かになるわ!ブレンダも喜ぶはず」

 まだどこか後ろを気にしているような仕草を見せながら前へと進むアレクシアが今度見つけたのは、地表近くに生い茂る草と樹木の表面に巻き付いて弦状の植物であった。

「えっ、向こうにも・・・そっちの木にもあるわね!これは収穫に期待が・・・っ!」

 木に巻き付いた弦の下には、根となって実った芋が埋まっている。
 その味は、食卓に彩を添えるには十分なものとなるだろう。
 しかもそれはどうやら、その一つだけではなくそこに幾つも生い茂っているようだ。
 その事実に喜びの声を上げたアレクシアはしかし、何かに気付いたかのように言葉を途切れさせると、慌てて身を低くしていた。

「ストレイドッグ・・・一匹だけ?だったら・・・」

 慌てて姿勢を低くし、近くの茂みに隠れるように視線を這わせたアレクシアが見たのは、爛れた肌に周囲を窺うように鼻を引くつかせている犬の魔物の姿であった。
 しかし見たところ、それは一匹だけで他に仲間の姿はない。
 それを確認したアレクシアは腰に取り付けていた二振りの短剣へと手を添えると、戦いの気配を漂わせ始めていた。

「っ!?もう一匹いたの!?でも二匹ぐらいなら・・・」

 僅かになった金属音は、刃が擦れる音か。
 戦いの気配に昂る刃はしかし、彼女の視線の先に現れた新手の姿に慎重さを求められる。
 それでも二匹ぐらいならばと、アレクシアは体重を前へと傾け始めていた。

「また新手!?それに一匹や二匹じゃない。流石に、この数は・・・くっ、この服と荷物がなければ私だって・・・」

 戦いの気配に伝う汗も、今は地面へとは染み渡らない。
 彼女の視線の先では新手の魔物が一匹、また一匹と増えていってしまっていた。
 その数では、流石の彼女も手を出すことが出来ない。
 彼女の状態が万全であるならば、それでも戦うことは出来たかもしれないが、今の彼女は動きを制限する耐毒スーツを身に纏い、重たい荷物を背負っているのだ。
 しかも彼女の能力によって、容量以上に物資を詰め込んでいる鞄は、その背中から離れると前のように破裂してしまう。
 そのためそれを下ろし、身を軽くしてから戦うという選択を彼女は選ぶことが出来ないのであった。

「向こうに気付かれる前にここを離れないと・・・はぁ、うまく行ってたと思ってたのに。何で急にこんな事に・・・」

 身軽な戦いが身上の彼女にとって、動きを制限するそれらの存在は重く圧し掛かる。
 どうやらまだこちらに気付いていない様子のストレイドッグの群れの姿に、アレクシアは慎重な足取りでその場から離脱していく。
 その途中で彼女の口からは、思わず溜め息が漏れてしまっていた。

「うぅん、駄目駄目!弱気になっちゃ!!あいつを負かして、皆を見返すんだから!!」

 順調に行っていた筈の今までも、こうも躓きが連続すると流れが悪くなったと感じてしまう。
 思わず漏れ出した弱音に、それを振り払うように首を振るったアレクシアは、こんな事で弱気になってられないと気合を口にしている。

「よーし、まだまだ頑張るぞー!!えいえいおー!!!」

 振り上げたこぶしは、滾った気合を謳うように高く掲げられている。
 張り上げた大声に、気合を示すポーズを作った彼女は無理やりに気分を上げては、意気揚々と足を踏み出していた。
 その背後では、どこかから聞こえてきた奇妙な声に戸惑うストレイドッグの一団の姿があった。
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