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衝突

焦りは焦燥に変わって

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「どうして!?どうして一つも見つからないの!?いつもはもっと見つかるのに、今日に限って・・・!!」

 焦りに曇った目に絶望までも加われば、見えるものも見えなくなるものだ。
 アランに負けまいと急ぐ、アレクシアの足は速い。
 しかしそれは、一つ一つじっくりと探索すべき周囲をおざなりにしてしまうことを意味していた。
 それは、彼女の望むものとの距離を遠くした。

「っ!?あれは、さっきの・・・!」

 いくら走り回っても見つかることのない物資に、焦っては周囲を忙しなく見渡しているアレクシアの目に、いつか見た景色が再び映る。
 そこは彼女がかつて諦めた、必要な物資が存在するが魔物の群れが居座ってしまっている場所であった。

「あの数は・・・でも、これを見逃したらもう・・・」

 依然見送った時と同様に、いやもしかするとそれ以上の数の魔物が今もそこには居座っている。
 それはつまり今の彼女の状況では、そこに踏み入るのは危険だという事を示している。
 さらにアランに負けるかもしれないと焦り、走り回った彼女の身体は先ほどよりも消耗してしまっていた。
 それは確実な敗北を意味している。
 それでも彼女はその場から動こうとせず、逆に一歩踏み込もうとしていた。

「大丈夫、私ならきっと・・・そうよ、やれる筈よ。あいつがあんな簡単に倒してたんだから、私にだって・・・」

 スーツの腰に取り付けていた得物を取り外し、それを両手に握りしめたアレクシアは、自らに言い聞かせるように言葉を呟いている。
 その言葉の内容は、先ほど目にしたアランの姿であった。
 しかし動き辛いスーツを身に纏うこともなく、重たい荷物も背負っていなかった彼と、今の彼女のとは果たして、同じ状況といえるだろうか。

「ここでやらなきゃ、私は・・・」

 追い詰められて下した決断は、身投げの姿に似ている。
 歯を食いしばり、何かを諦めるようにそれを口にする彼女の目は、未来を見てはいなかった。

「ふへぇ~、しんどー・・・まさかあんな根っこが長ぇとはなぁ。これで全然いらなかったとか言われたら、キレるぞ俺ぁ!」

 投げやりな覚悟で前へと踏み出そうとしているアレクシアの耳に、疲れ果てた様子のアランの声が届く。
 その声からはヒトトセバナを掘り出すことに相当な苦労をした事と、彼がこのまま行けばアレクシアが進もうとしている場所に訪れることが窺えた。
 彼女に、それを許すことなど出来る訳がない。

「っ!?ぁぁ、ぁぁぁぁぁあああ、うわあああぁぁぁぁっ!!!」

 踏み出した足はもはや止まらず、叫んだ声は覚悟を振り切っている。
 それでも進んだ足が鈍かったのは、その行動に後悔しているからじゃない。
 ただ単に、この服装が動き辛く、背負った荷物が重かったからだ。

「ガゥ!?ガゥガゥ!!」

 奇襲のアドバンテージを失ってしまう大声は、それでも迷いを振り切るためには必要だった。
 声に反応し唸り声を上げる魔物は、大した間も置かずにアレクシアへと飛び掛かっていく。

「こんなものっ!!」

 それに反応し、手にした短剣を振るったアレクシアは、飛び掛かってきた魔物を打ち落としていた。
 そして即座に撃ち落とした魔物へともう片方の短剣を振り下ろした彼女は、確実にその息の根を止める。

「舐めんじゃないわよ!!私だって、これぐらい!!」

 そのスマートな、まるでただ淡々と敵を処理するかのような動きは、返り血すらも噴き出させない。
 いとも容易く飛び掛かってきた魔物を倒して見せたアレクシアが、その簡単な行為の割りに激しく吠えて見せたのは、自らの背中を押すためか。
 事実、そんな威嚇に魔物達は怯むことなく、次々と彼女へと飛び掛かっていく。

「そんなの!効かないって!言ってんでしょうが!!」

 一振り、二振り、三振りと振るう刃に血が舞って、落ちた魔物が地面を叩く。
 そのたびに自らを鼓舞するようにアレクシアが叫ぶのは、それで状況が良くなっていないことを自覚しているからか。
 こんな状況においてもある程度は身軽に動ける短剣はしかし、一撃で致命傷を与えるほどの威力は持ってはいない。
 叩き落とし、追撃で止めを刺すことを前提にした戦い方も、次々と敵が向かってくればその隙を見つけることは出来ない。
 事実、彼女が切り払い叩き落した魔物達は、少し時間が経つとその場から起き上がってしまっていた。

「くっ、全然!数が!減らないじゃない!!」

 短剣で切りつける浅い傷でその魔物を倒しきるには、何度切りつければ十分だろうか。
 少なくとも、それが分かる頃には彼女の体力は尽き果ててしまっているだろう。
 一向に減る気配のない魔物に、両手に握りしめた短剣を振るい続けるアレクシア、その切っ先は気付けば鈍り始めていた。

「この!いい加減に・・・あっ」

 手際よく処理出来ていたならば舞わない血飛沫も、今やその身体を真っ赤に染めるまでになっている。
 そうして飛び散った血潮は、土と混じれば泥にも似る。
 踏み込んだ右足に掛けた体重は、ぬかるんだ地面に滑って体勢を崩させた。
 望んではいない方向に沈んでいく視界の中で彼女が見ていたのは、自らに飛び掛かってくる魔物の姿であった。
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