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アランとアレクシア

焦りに彼女は足を踏み外す

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「・・・っと、こっちはやばそうだな。おーい、アレクシア。こっちに進むぞー」

 罠に警戒しながら先へと進むアランは、覗いた通路に危険を感じ取ると、そこをさっさとスルーして別の道へと急ぐ。
 彼はそれを後ろを歩くアレクシアにも伝えるが、はたして彼女にその声は届いているだろうか。

「このままじゃ・・・このままじゃ、またあいつに・・・!そんなの、そんなの許されない・・・!!」

 何やら一人でぶつぶつと呟いているアレクシアは、スーツ越しに自らの爪を食んでいる。
 強いストレスの発露であるその仕草も、ツルツルとした質感のスーツに挟まれれば十分な実感を齎さないだろう。
 事実、何度も繰り返し口元を上下させているアレクシアの瞳は怒りと不安とで焦点を定めてはいない。
 それはいつか焦燥へと変わり、彼女の判断を誤らせるだろう。

「っ!ふふっ、ふふふっ、うふふふっ!あった、あったわ!私のための場所が!!」

 そんな彼女の瞳には、先ほどアランが注意していた脇道の姿が映っている。
 その細く、どこか隠されているような様相は、その先にお宝が眠っていることを予感させた。
 焦りから先走り、散々アランの後塵を拝してしまっている彼女からすれば、その姿はあまりに魅力的過ぎた。

「っと、危ない危ない・・・バレてないわよね?よしっ!こんな如何にもな脇道、見逃すなんて馬鹿じゃないの?ふふふっ!まぁ?私が美味しくいただいちゃうから問題ないんだけどね!私に掻っ攫われて、後で悔しがるといいわ!!」

 嬉しさに思わず漏れた歓声を慌てて抑えたアレクシアは、チラリと視線をやってはアランの様子を窺っている。
 しかし視線の先の彼は別の通路の先を窺うばかりで、アレクシアのそんな様子など気にも留めていない。
 そんなアランの様子を目にしたアレクシアは小さくガッツポーズを決めると、早速とばかりにその脇道へと足を踏み入れようとしていた。

「ちっ、こっちには何かいやがるな。あれは・・・ゴブリンか?なるほどね、あいつらもこの状況じゃまともに生きてられねぇって訳だ。そんでこの遺跡の中に逃げ込んだ、と・・・はっ、どっかの誰かさん達と変わんねぇなぁ?なぁ、アレクシアさんよぉ・・・って、おい!?そっちは!」

 アランが様子を窺っていた通路の先は開けた空間になっており、そこには彼らとは別の生き物の姿があった。
 それは人の姿に似ているが明らかにそれとは異なる存在、亜人種とも呼ばれることのある魔物であるゴブリンの姿であった。
 その姿に慌てて身を潜ませたアランは、皮肉げに唇を歪ませると後ろを振り返る。
 こんな世界になっても自由に外を練り歩くことが出来る彼からすれば、こんな遺跡で身を寄せ合っているゴブリンとアレクシア達とは同じような存在に思えた。
 その事実を上から目線で口にしようとしたアランは、その先で彼が危険だと見過ごした脇道へと足を踏み入れようとしているアレクシアの姿を目にしていた。

「はっ!今更気付いたって遅いのよ!!先に見つけたのは私なんだから、凄いの出てきても私のものだからね!!ばーかばーか!!」

 慌てて引き留めようとするアランの姿は、アレクシアからは焦りの表情にも見える。
 それはこんなにも美味しい場所を見逃していた、自らの失態を呪う姿にも感じられるだろう。
 そんなアランの姿に勝ち誇った表情を見せたアレクシアは、尚更急いで先へと進もうとする。

「いや馬鹿、そうじゃねぇって!!そっちはやばいんだって!完全に罠の―――」

 アレクシアが口にする見当違いの言葉に頭を抱えたアランは、必死に腕を伸ばしながらその脇道の危険性について口にしている。
 しかしそれは、どうやら遅すぎたようだ。

「・・・へ?」

 アランの言葉に、アラクシアはようやく自らの過ちに気付く。
 しかしその足は既に危険な脇道へと踏み込んでおり、その足元からは怪しげな光が溢れ始めていた。

「嘘でしょ!?」

 それは単純で、余りに原始的ですらある罠。
 しかしそれ故に避けるのが難しく、彼女のように無警戒に足を踏み入れれば、それは不可避の罠となる。
 そう、それはつまり落とし穴。
 眩い光が輝いたのと同時に消え去った足元に、アレクシアは一瞬の浮遊感を感じていた。

「ちっ!こん馬鹿が!!」

 希望に燃え意気揚々と踏み出した足が、今や暗闇へと沈んでいく。
 そんな現実を受け入れられず呆然としているアレクシアが最後に目にしたのは、心底面倒くさそうに罵声を上げながらこちらへと飛び込んでくる男の姿だった。
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