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アランとアレクシア
取るべき手段
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「おっ、何か雰囲気が変わったな。これ完全に、遺跡の中に戻れたんじゃねぇか?」
子供と思われるゴブリンの足は遅く、それに追いつくのは難しくはなかった。
しかしそれが選ぶ道は、その小柄な体躯に相応しく狭く通りずらいものばかりで、そちらの方が二人には苦しいものであった。
それも目の前の景色が一変すれば、報われる。
先ほどまで剥き出しの土や岩肌が溢れていた景色は今や、焼き固められた煉瓦や切り出された石を積み上げたものへと変わっている。
それは彼らが、再び遺跡の中へと足を踏み入れた証左であった。
「そうね、間違いないわ。息苦しくないし・・・今はちょっと、どっちの効果か分かんないけど」
「ん?今何か言ったか?」
「な、何でもない!!一々聞き耳立ててんじゃないわよ!!」
遺跡に足を踏み入れたという確かな証拠は、そこが毒を浄化する結界の内だという事だ。
それを確かめるためにヘルメットを外したアレクシアは、苦しくない呼吸にそれを確認する。
しかし今の彼女には、それを確信出来ない理由があった。
それを思わず小声で呟いた彼女は、それを聞き返してきたアランに理不尽に怒っては怒鳴り声を上げていた。
「えぇ・・・?何だよ、別に普通の事だろ。まぁ、とにかく遺跡に戻ってこれたってことは―――」
当たり前の行動を取っただけにも拘らず、理不尽な怒りをぶつけてきたアレクシアに対して、アランは訳が分からないと戸惑っている。
とにかくももはや彼女には触れない方がいいと判断した彼は、頭を切り替えて別の物事へと集中する。
その目線の先には、彼らを撒いたと安心しているゴブリンの姿が。
彼は静かに、その得物を抜き放つ。
「こいつはもう、用済みってことだな」
音もなく物陰から飛び出したアランは、次の瞬間にゴブリンの喉元へと刃を突き付けている。
完全に狙いを果たした彼がそれを口にしていても尚、そのゴブリンはまだ状況を理解してはいなかった。
「ちょっと!?そんな事しなくたって!」
「あぁ?舐めたこと言ってんじゃねぇぞ、今はそんな状況じゃ・・・」
いかなゴブリンとはいえど、子供に見える相手にそんな事をするのは気が引ける。
ましてや彼のお陰で、彼らはここまでやってこれたのだ。
そう考えて、アランの振る舞いに不満の声を上げるアレクシアに、彼は眉を吊り上げると馬鹿にしたような表情を見せていた。
「おやおや、皆様方お揃いで。どうも、お邪魔してますよっと」
しかしそんな軽口も、捕らえたゴブリンが見つめる先へと視線をやればどうでも良くなる。
そこには彼らの居住空間であったのか、多くのゴブリンが屯していた。
それを目にしたアランは邪悪にその口元を吊り上げると、その右手を引く。
そしてそこに、真っ赤な花が咲いていた。
『―――、―――!?』
ようやくその状況を理解したゴブリンも、もはやそれを口にする能力を失っている。
そして突然の凶行を見せつけられたその部屋にいたゴブリン達も、今はまだ呆気に取られ動くことが出来ない。
その中で唯一、冷静に行動出来たのは事を起こした張本人、アランだけであった。
「はっはぁ!!どうしたどうした、手応えがねぇなぁ!!?」
もはや取り返しのつかない傷を受けた小柄なゴブリンの背中を蹴りつけたアランは、その陰に隠れるようにして飛び出すと、部屋の中にいたゴブリンへと切りかかる。
一太刀、二太刀、三太刀と切り裂かれゴブリンの数は、その振るった刃よりも多い。
それはその一太刀一太刀に巻き込まれるゴブリンの数が、一つではなかったからだ。
はっきりと狙いをつけたそれとは違い、とにかく数を狙って切りつけるその太刀筋は致命傷を与えることは難しいだろう。
しかし十分過ぎるほどの傷を与えるその戦い方は、より多くの者の戦闘能力を奪うには十分なものであった。
「えっ?ちょ・・・あんた、何やってくれてんのよ!?こんな、わざわざ事を荒立てなくったって、こう・・・交渉とかで何とでもなったでしょ!?」
「はぁ?なま言ってんじゃねぇぞ?大体てめぇ、ゴブリン語なんて話せんのか?俺は無理だぞ。大体あれは、地方やら部族やらで細かく違ってややこしいんだよ!そりゃ、人気もねぇわ」
「いや、私も喋れないけど・・・だからって!!」
アランの突然の行動に呆気に取られ、その間に戦闘能力まで奪われてしまったゴブリン達は何も出来ない。
しかし彼の行動に呆気に取られたのは、何もゴブリン達だけではない。
アランの行動についていけずに固まってしまっていたアレクシアは、ようやく動き始めるとその行動について非難する。
しかしそんな彼女の言葉にも、アランは悪びれる様子を見せなかった。
「はっ、他の方法もあったってか?ないない、そんなもん!大体よぉ、あれを見てみろよ?」
「っ!?あ、あれは・・・!?」
アレクシアの言葉を鼻で笑ったアランは、その剣の先であるものを指し示している。
それは何やらツルツルとした質感でずんぐりとしたシルエットをした、見たことのないような、しかしとてもよく見たことのあるものであった。
「耐毒スーツ!!」
それは耐毒スーツ。
この毒に塗れた世界で、人類が何とか生きていくために絶対に必要な希望の光だ。
「そうさ。それにアレもアレも、アレだって!何か奴に立つものかもしれねぇだろ!?それを前に指を咥えて見過ごせってか?んなこと出来るわきゃねぇよなぁ!」
それを指し示して見せたアランは他にもこの部屋に存在する、一見では何に使うか分からないような遺物をも指し示していた。
それらの用途は皆目見当つかないが、この遺跡の力や耐毒スーツの存在に、それらもこの環境下において何か有用な性能を有していても不思議ではない。
「うっ、確かにそれは欲しいけど・・・でも、それだってやり方っていうものが・・・」
「はっ!形振り構っていられる立場かよ!?お前らはもう、絶滅寸前の雑魚種族なんだよ!!そんなのはなぁ、他人の生死を指先一つで操れる強者様の特権なんだっての!!そんな贅沢はなぁ、てめぇらにはもう許されねぇんだよ!」
それらを指し示されたアレクシアは、思わず口籠ってしまう。
それは彼女からしても、それがどうしても手に入れたいと思ってしまったから。
それでもなお形式にこだわる彼女を、アランは完全に馬鹿にした表情を見せている。
「いい加減、自分らが弱者なことを自覚しろよアレクシア。弱者はなぁ、より弱い弱者を叩いて生きるしかねぇんだよ!こんな風に・・・なっ!」
指を突き付け、お前は弱者だと嗤うアランに、アレクシアは返す言葉を持ちえない。
ここまでさんざん足を引っ張り、彼に助けられ続けたのは紛れもない自分なのだから。
それをあえて形容するならば、弱者と呼ぶ他ないだろう。
「奪って生きるか、譲って死ぬかだ。お前はどっちを選ぶんだ、アレクシア?」
アランが不意打ちに振るった刃にも、その場にいた全てのゴブリンを切り伏せた訳ではない。
その刃から逃れ無事であったゴブリン達は、自分達を無視して話し込むアランの隙を窺い、その背後から襲い掛かっていた。
彼らは必殺のチャンスを狙い、息を潜めその時を待っていた。
それはつまり、彼らは捨て身の覚悟で一斉に襲い掛かって来たという事を意味している。
ならば、それを片付けるには一太刀で足りるだろう。
そうして背後から襲い掛かってきたゴブリンのほとんどを一刀の下に切り伏せたアランは、切り伏せ損ねたゴブリンの頭を掴み取り、それを引き千切りながらアレクシアに語り掛ける。
その顔は、返り血で真っ赤に染まっていた。
「わ、私は・・・」
アランの言葉に口籠るアレクシアはしかし、その瞬間にいつかの光景を思い出している。
その顔も、表情もあの時と何もかも違って見えるのに、それは奇妙なほどにだぶって見えていた。
子供と思われるゴブリンの足は遅く、それに追いつくのは難しくはなかった。
しかしそれが選ぶ道は、その小柄な体躯に相応しく狭く通りずらいものばかりで、そちらの方が二人には苦しいものであった。
それも目の前の景色が一変すれば、報われる。
先ほどまで剥き出しの土や岩肌が溢れていた景色は今や、焼き固められた煉瓦や切り出された石を積み上げたものへと変わっている。
それは彼らが、再び遺跡の中へと足を踏み入れた証左であった。
「そうね、間違いないわ。息苦しくないし・・・今はちょっと、どっちの効果か分かんないけど」
「ん?今何か言ったか?」
「な、何でもない!!一々聞き耳立ててんじゃないわよ!!」
遺跡に足を踏み入れたという確かな証拠は、そこが毒を浄化する結界の内だという事だ。
それを確かめるためにヘルメットを外したアレクシアは、苦しくない呼吸にそれを確認する。
しかし今の彼女には、それを確信出来ない理由があった。
それを思わず小声で呟いた彼女は、それを聞き返してきたアランに理不尽に怒っては怒鳴り声を上げていた。
「えぇ・・・?何だよ、別に普通の事だろ。まぁ、とにかく遺跡に戻ってこれたってことは―――」
当たり前の行動を取っただけにも拘らず、理不尽な怒りをぶつけてきたアレクシアに対して、アランは訳が分からないと戸惑っている。
とにかくももはや彼女には触れない方がいいと判断した彼は、頭を切り替えて別の物事へと集中する。
その目線の先には、彼らを撒いたと安心しているゴブリンの姿が。
彼は静かに、その得物を抜き放つ。
「こいつはもう、用済みってことだな」
音もなく物陰から飛び出したアランは、次の瞬間にゴブリンの喉元へと刃を突き付けている。
完全に狙いを果たした彼がそれを口にしていても尚、そのゴブリンはまだ状況を理解してはいなかった。
「ちょっと!?そんな事しなくたって!」
「あぁ?舐めたこと言ってんじゃねぇぞ、今はそんな状況じゃ・・・」
いかなゴブリンとはいえど、子供に見える相手にそんな事をするのは気が引ける。
ましてや彼のお陰で、彼らはここまでやってこれたのだ。
そう考えて、アランの振る舞いに不満の声を上げるアレクシアに、彼は眉を吊り上げると馬鹿にしたような表情を見せていた。
「おやおや、皆様方お揃いで。どうも、お邪魔してますよっと」
しかしそんな軽口も、捕らえたゴブリンが見つめる先へと視線をやればどうでも良くなる。
そこには彼らの居住空間であったのか、多くのゴブリンが屯していた。
それを目にしたアランは邪悪にその口元を吊り上げると、その右手を引く。
そしてそこに、真っ赤な花が咲いていた。
『―――、―――!?』
ようやくその状況を理解したゴブリンも、もはやそれを口にする能力を失っている。
そして突然の凶行を見せつけられたその部屋にいたゴブリン達も、今はまだ呆気に取られ動くことが出来ない。
その中で唯一、冷静に行動出来たのは事を起こした張本人、アランだけであった。
「はっはぁ!!どうしたどうした、手応えがねぇなぁ!!?」
もはや取り返しのつかない傷を受けた小柄なゴブリンの背中を蹴りつけたアランは、その陰に隠れるようにして飛び出すと、部屋の中にいたゴブリンへと切りかかる。
一太刀、二太刀、三太刀と切り裂かれゴブリンの数は、その振るった刃よりも多い。
それはその一太刀一太刀に巻き込まれるゴブリンの数が、一つではなかったからだ。
はっきりと狙いをつけたそれとは違い、とにかく数を狙って切りつけるその太刀筋は致命傷を与えることは難しいだろう。
しかし十分過ぎるほどの傷を与えるその戦い方は、より多くの者の戦闘能力を奪うには十分なものであった。
「えっ?ちょ・・・あんた、何やってくれてんのよ!?こんな、わざわざ事を荒立てなくったって、こう・・・交渉とかで何とでもなったでしょ!?」
「はぁ?なま言ってんじゃねぇぞ?大体てめぇ、ゴブリン語なんて話せんのか?俺は無理だぞ。大体あれは、地方やら部族やらで細かく違ってややこしいんだよ!そりゃ、人気もねぇわ」
「いや、私も喋れないけど・・・だからって!!」
アランの突然の行動に呆気に取られ、その間に戦闘能力まで奪われてしまったゴブリン達は何も出来ない。
しかし彼の行動に呆気に取られたのは、何もゴブリン達だけではない。
アランの行動についていけずに固まってしまっていたアレクシアは、ようやく動き始めるとその行動について非難する。
しかしそんな彼女の言葉にも、アランは悪びれる様子を見せなかった。
「はっ、他の方法もあったってか?ないない、そんなもん!大体よぉ、あれを見てみろよ?」
「っ!?あ、あれは・・・!?」
アレクシアの言葉を鼻で笑ったアランは、その剣の先であるものを指し示している。
それは何やらツルツルとした質感でずんぐりとしたシルエットをした、見たことのないような、しかしとてもよく見たことのあるものであった。
「耐毒スーツ!!」
それは耐毒スーツ。
この毒に塗れた世界で、人類が何とか生きていくために絶対に必要な希望の光だ。
「そうさ。それにアレもアレも、アレだって!何か奴に立つものかもしれねぇだろ!?それを前に指を咥えて見過ごせってか?んなこと出来るわきゃねぇよなぁ!」
それを指し示して見せたアランは他にもこの部屋に存在する、一見では何に使うか分からないような遺物をも指し示していた。
それらの用途は皆目見当つかないが、この遺跡の力や耐毒スーツの存在に、それらもこの環境下において何か有用な性能を有していても不思議ではない。
「うっ、確かにそれは欲しいけど・・・でも、それだってやり方っていうものが・・・」
「はっ!形振り構っていられる立場かよ!?お前らはもう、絶滅寸前の雑魚種族なんだよ!!そんなのはなぁ、他人の生死を指先一つで操れる強者様の特権なんだっての!!そんな贅沢はなぁ、てめぇらにはもう許されねぇんだよ!」
それらを指し示されたアレクシアは、思わず口籠ってしまう。
それは彼女からしても、それがどうしても手に入れたいと思ってしまったから。
それでもなお形式にこだわる彼女を、アランは完全に馬鹿にした表情を見せている。
「いい加減、自分らが弱者なことを自覚しろよアレクシア。弱者はなぁ、より弱い弱者を叩いて生きるしかねぇんだよ!こんな風に・・・なっ!」
指を突き付け、お前は弱者だと嗤うアランに、アレクシアは返す言葉を持ちえない。
ここまでさんざん足を引っ張り、彼に助けられ続けたのは紛れもない自分なのだから。
それをあえて形容するならば、弱者と呼ぶ他ないだろう。
「奪って生きるか、譲って死ぬかだ。お前はどっちを選ぶんだ、アレクシア?」
アランが不意打ちに振るった刃にも、その場にいた全てのゴブリンを切り伏せた訳ではない。
その刃から逃れ無事であったゴブリン達は、自分達を無視して話し込むアランの隙を窺い、その背後から襲い掛かっていた。
彼らは必殺のチャンスを狙い、息を潜めその時を待っていた。
それはつまり、彼らは捨て身の覚悟で一斉に襲い掛かって来たという事を意味している。
ならば、それを片付けるには一太刀で足りるだろう。
そうして背後から襲い掛かってきたゴブリンのほとんどを一刀の下に切り伏せたアランは、切り伏せ損ねたゴブリンの頭を掴み取り、それを引き千切りながらアレクシアに語り掛ける。
その顔は、返り血で真っ赤に染まっていた。
「わ、私は・・・」
アランの言葉に口籠るアレクシアはしかし、その瞬間にいつかの光景を思い出している。
その顔も、表情もあの時と何もかも違って見えるのに、それは奇妙なほどにだぶって見えていた。
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