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アランとアレクシア

強者と弱者 1

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 無我夢中で走り続けた二人は、気付けば遺跡から遠く離れた場所にまで辿り着いていた。
 必死に逃げ続けた彼らにそこが何処かは分からない、分かるのはそこが森の切れ目に位置しているという事ぐらいか。
 そして何より、彼らはもはやそれどころではなかった。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・お、おい。一旦、これ下ろすぞ?いいな?」
「はぁ、はぁ、はぁ・・・う、うん。分かった・・・」

 既に足腰の立たないほどの疲れにも、彼らはまずその荷物を下ろさなければ休むことも出来ない。
 そのためもはや脂汗を流すような表情を浮かべながらも、二人は慎重に合図を取り合ってそれを地面へと下ろしていた。

「はぁ~・・・もー、限界ー」
「おいおい、ここだってまだ安全と決まった訳じゃ・・・あぁ、もうどうでもいいか」

 どうにかそれを地面へと下ろしたアレクシアは、そのままぐったりと地面へと横たわってしまう。
 背中に鞄を背負った彼女は、仰向けでは横になりずらいだろう。
 それでもそれを気にしないように、彼女はぐったりと横になる。
 アランはそんな彼女の姿に、まだ油断は禁物だと注意しようとしていたが、彼自身もその途中に力尽きるように崩れ落ちてしまっていた。

『いたゾ!あそこダ!!』

 そんな二人に、ざらざらとした耳障りな声が響く。
 その声の持ち主には、最近出会ったばかりだ。
 しかし森の木々の間から抜け出してきたその姿は、予想したそれとは異なる姿のものであった。

「おいおい、ちったぁ休ませちゃくれねぇのかい・・・はっ!中々、愉快の事になってんじゃねぇか!」

 ある意味、予想した通りの危険の訪れに最初に反応したのは当然、アランの方だ。
 彼は疲れた身体をゆっくりと起こすと、地面へと置いた遺物にもたれ掛かるようにして立ち上がる。
 そうしてようやく立ち上がった彼が目にしたのは、耐毒スーツを身に纏ったゴブリン達の姿であった。

「嘘でしょ!?そんなの有り得ない!!」

 その光景は、アランよりもアレクシアにとってショックだろう。
 何故ならそのスーツは、彼女にだけ着用を許された特別なものであったのだから。
 しかし目の前には、それを身に纏ったゴブリン達の姿がある。
 彼女はそれに、かつては憐れみを掛けてはいなかったか。

「有り得ない事なんて、有り得ない!!俺達ゃ、あの遺跡を隅々まで見て回った訳じゃねぇんだ。あれがあそこにどれぐらいあったかなんて知る由もないさ!それでも今までなら問題はなかったんだよ、今までならな!!」

 信じられないと口元に手を向けるアレクシアに、アランは現実を突き付けている。
 ゴブリン達の手元には、今までも多くの耐毒スーツがあった筈だ。
 にも拘らず、それを着用したゴブリンの姿を今まで誰も見たことはなかった。
 それが意味する所は、一つしかない。

「お前だ!お前だ、アレクシア!!お前が奴らに、そいつの使い方を教えたんだ!!」
「そんな、私が・・・?」

 どんな有用な道具も、使い方を知らなければ活かせない。
 ゴブリン達はそれを多く持ちながらも、使い方を知らなかったために腐らせていた。
 それをアレクシアが教えてしまったのだ。
 その事実をアランから突き付けられたアレクシアは、目を見開いてショックを受けている。

「それしか考えられないだろう?奴らは最初からそれを持っていたんだ、それでも使わなかった!それは何故か!?使い方を知らなかったからだ!!お前が教えたんだよ、アレクシア!お前が丁寧にそれを教えたんだ!」
「わ、私は・・・」

 耐毒スーツを身に纏ったゴブリン達の姿は、何よりもその事実を雄弁に物語っていた。
 その事実を受け止めきれないアレクシアも、その光景からは目を離すこと出来ずに表情を青ざめさせている。

「今じゃ、向こうの方が数が多いぞ!アレクシア、お前が持ち帰ったスーツはどれくらいだ?向こうには一体どれくらいの数がある?一つ、二つ、三つ・・・はははっ、まだまだ来るぞ!どうする?さっきはあいつらを哀れんだが、もはやこちらが弱者じゃねぇか!」

 ぞろぞろと続いて現れるゴブリンの数は、向こうの物資の豊かさを物語っている。
 この世界において、そのスーツの保持数は勢力の生産力に直結してしまう。
 それを考えれば、目の前のゴブリン達は絶対的な強者であり、アレクシアが確保した僅かな数のそれを確保するだけの彼らは、絶対的な弱者であった。

「それで、お前はどうするつもりなんだアレクシア?この事態を招いた責任はどう取る?このままじゃお前も!あの村も!あいつらに滅ぼされちまうぞ!?」
「そ、それは・・・」

 この事態を招いた責任は自分にある。
 そう責めるアランの言葉は、恐らく事実であろう。
 それでもアレクシアは、自らの能力「小人の玉手箱」ならば何とか出来ると口にしようとしていた。
 しかしそれも、自らの他にそのスーツを身に纏う者がおらず、競合し脅威となる存在がいなかったからこそ成り立っていた事だ。
 目の前のゴブリン達の姿に、もはや以前と同じようにいく未来など待っている筈もなかった。
 絶望に膝をついたアレクシアの前に、ゴブリン達が迫る。
 その前に立つアランの手にも、それに対抗するための武器は握られてはいなかった。
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