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アランとアレクシア
新しい日常
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「お姉様、本当にいいんですか?」
僅かな窓の隙間から差し込む光はまだ淡く、早朝の気配を伝えている。
薄暗い室内はそれでも随所に気を配り、整えられた雰囲気を醸し出している。
部屋の各所から漂ってくる鼻を衝く匂いは、薬草を煎じたり干した時のものだろうか。
それはここが、ブレンダの居室であることを窺わさせた。
椅子に座り、目を閉ざしたアレクシアの後ろに立ち尽くすブレンダは、何やら緊張した面持ちをしていた。
「・・・うん、お願いブレンダ」
それに答えるアレクシアの声は、酷く落ち着いている。
そのギャップが逆にブレンダの緊張を昂らせるのか、彼女はごくりと一度生唾を飲み込んでいた。
「わ、分かりました!え、えーい!!」
ブレンダの手に握られた鋏が、朝日を浴びてキラリと輝く。
彼女はそれを握ったのと逆の手で、アレクシアの長い金髪を掬うと、覚悟を決めてそこに刃を奔らせていた。
「開門、開門ー!!」
開門を告げるその大声は、物資を回収に向かった部隊の帰還を意味している。
それに対して上がる歓声が疎らだったのは、それがいつもの出来事であることを示していた。
「おおっ、無事の帰還何よりでござる!収穫はどうだったでござるか?」
門を潜り、帰還してきた物資調達隊にダンカンが駆け足で近づいていく。
彼はその身体の大きさ故に合う耐毒スーツが存在せず、それに加わることが出来ずにいたのだ。
そのためか彼は期待を込めた視線で、その隊の先頭に立っていたアランへと成果を訪ねている。
「んー・・・?まぁ、普通じゃないか?」
「そ、そうでござるか?この・・・もう少し面白みというか、新鮮味が欲しいのでござるが」
「そんなんもんねーよ。普段の生活だぞ?つまんねーのが、続いてくんだよ。ずっとな」
それに答えるアランの返事は、冷たく素気ない。
それはそれが、彼らにとってもはや日常になってしまっていたからか。
門と防壁の警備ばかりで暇なのか、それでも食い下がり何か面白いことはと求めるダンカンに対しては、アランの後ろにいた耐毒スーツをまとった村人達もうんざりとした表情を見せていた。
「普段通りでござるか・・・こんな生活がいつまでも続けばよいでござるなぁ」
「はっ、なに年寄りじみたこと言ってやがんだよ!老け込むにはまだ早えぞ!」
「い、痛いでござるよ、アラン殿!」
今までは、物資の回収をアレクシア一人に任せなければならなかった。
それに比べれば、今の状況のなんと恵まれていることだろうか。
それをしみじみと噛みしめては感慨を深めるダンカンの姿に、アランは茶化すような口調でこぶしを投げかけていた。
「あれ、アランさんは飲まないんすか?」
「ん?あぁ、俺はこっちがあるから」
回収した物資を荷下ろしした物資回収隊は、耐毒スーツを脱いでは一服を入れている。
一仕事を終え、疲れた彼らが求めるのは何よりも水分であろう。
そんな彼らが向かう先には、漏斗を追加された遺物の姿と、水を湛えた水瓶が並んでいた。
「そっすか?でもこっちの方が、良くないっすか?」
「いや、それだって結構手間かけて運んできてんだから、俺が飲んじゃ駄目でしょ。つーかさ、それ何かしょっぱくねぇ?」
その水瓶から遺物に繋がっている漏斗へと水を注ぐと、その反対側の先端部からちょろちょろと浄化された水が流れてきていた。
それを近くに置かれていたコップで掬って飲み干した村人は、アランにもそれを勧めている。
しかしアランはそれを、何とも言えない表情で遠慮していた。
「そっすかねぇ?俺はそんな事ないと・・・!?」
「おいっ!?だから貴重だって言ってんだろ!?何・・・粗末にしてん、だよ・・・?」
アランの口にした内容に首を捻りながら、村人はもう一杯水を口にしようとしていた。
しかし彼は、それを途中で取り落してしまう。
それはそれに咄嗟に反応したアランによって、何とか地面へと落ちてしまう前に受け止められていたが、その彼も何かに気が取られるように固まってしまい、結局その中身を零してしまっていた。
「お帰りなさいアラン、それに皆も。それ、私にも一杯貰える?」
「は、はい・・・どうぞ、アレクシアさん」
彼らがそれを目にして固まってしまったのは、その長い金髪をバッサリと切ったアレクシアの姿を目にしたからだ。
その姿と、何より全ての毒気が抜けたようにすっきりとした表情の彼女の美しさに、気を抜かれてしまった村人達は、彼女に言われるままに水を満たしたコップを差し出していた。
「お、おい!お前それ・・・どうしたんだよ!?」
「どうって、邪魔だったから切っただけでしょ?あんたと違って私はスーツを着なきゃなんだし、長い髪なんて邪魔なだけよ」
「いや、そう言ってもなぁ。そんないきなり・・・」
村人から受け取った水を美味しそうに飲み干したアレクシアは、その口元についた雫の名残を拭っている。
そのさばさばとした態度からは、彼女がそれをちっとも気にしていないことが窺える。
しかし周りにとっては、そうはいかない。
彼らの気持ちを代表するように、アランが驚きながらもその理由を尋ねたが、彼女の答えはひどく単純で、何よりそれを当たり前のことのように返していた。
「へへーん、どうよ!お揃い!!」
彼女の髪をそんな風にした当人であるブレンダが、何やら自慢げな様子で自らの頭を示している。
見れば確かにブレンダの髪の長さは、今のアレクシアと同じぐらいであり、そのセットも彼女と同じものであった。
「・・・ちょっと弄ろっかな?」
「えぇ!?何でですか、お姉様ー!!?」
そんなブレンダの言葉に、アレクシアはアンニュイな表情で毛先を遊んでは意地悪な言葉を囁いている。
それにブレンダは心底ショックを受けた様子で、大声は上げてはアレクシアへと飛び掛かっていっていた。
「はははっ、賑やかなこった。ふぅ・・・まぁ、こんな生活も悪くはないもんだな」
姦しい姉妹のやり取りを眺めているアランは、穏やかな表情で腰を下ろす。
その目に映る景色は、今までの生活とも、かつての暮らしとも異なったものであった。
それも悪くはないと大きく息を吐いたアランは、後ろ手に手をついて空を見上げる。
彼が腰を下ろしているそれに、僅かに火が灯った。
「ね、ねぇ・・・それでどうかな、これ?」
「ん?そうだな、俺は・・・うおっ!?な、何だ!?」
ブレンダの猛攻を何とか凌いだアレクシアは、僅かに乱れた髪型を整えながら、もじもじと足元を引っ掻きながらアランの前へと進み出ている。
どうやら彼女は、その新しい髪型の感想をアランから求めているようだ。
アランがそちらへと顔を向け感想に頭を捻っていると、その身体を跳ね上げるように何かがそれを持ち上げていた。
『ふわぁぁぁ・・・おはよー・・・』
それは彼らが、やっとの思いで回収してきた遺物だ。
その上部にあたる部分が開き、そこからは一糸まとわぬ姿の少女が現れ、眠たそうに眼を擦っていた。
『あれぇ・・・ここ、どこだろぉ?あっ!』
その少女は周りの見慣れない景色に、キョロキョロと目線を彷徨わせている。
しかしそれもある人物を見つけると、もはや動かない。
『パパ!!』
その見つけた人物、アランに向かって少女は飛び込んでいく。
突然の事態に呆気に取られているアランは、それを受け止めるしかなかった。
「えっ、えっ!?何々!?何なの、これ!?」
『パパ、パパ!!』
突然飛び込んできた全裸の美少女が、嬉しそうに頬を摺り寄せてくる。
彼女が口にしている言葉の意味は分からなかったが、そこに親愛の情が込められていることははっきりと伝わっていた。
「・・・はぁぁぁーーー!!?」
それは、訳が分からない事態であることは確かであった。
しかし、たった一つ分かっていることがある。
それが彼女には気に入らないという事だ。
不満と苛立ちの混じったアレクシアの声は大きく、それはどこまでも響き渡るようだった。
僅かな窓の隙間から差し込む光はまだ淡く、早朝の気配を伝えている。
薄暗い室内はそれでも随所に気を配り、整えられた雰囲気を醸し出している。
部屋の各所から漂ってくる鼻を衝く匂いは、薬草を煎じたり干した時のものだろうか。
それはここが、ブレンダの居室であることを窺わさせた。
椅子に座り、目を閉ざしたアレクシアの後ろに立ち尽くすブレンダは、何やら緊張した面持ちをしていた。
「・・・うん、お願いブレンダ」
それに答えるアレクシアの声は、酷く落ち着いている。
そのギャップが逆にブレンダの緊張を昂らせるのか、彼女はごくりと一度生唾を飲み込んでいた。
「わ、分かりました!え、えーい!!」
ブレンダの手に握られた鋏が、朝日を浴びてキラリと輝く。
彼女はそれを握ったのと逆の手で、アレクシアの長い金髪を掬うと、覚悟を決めてそこに刃を奔らせていた。
「開門、開門ー!!」
開門を告げるその大声は、物資を回収に向かった部隊の帰還を意味している。
それに対して上がる歓声が疎らだったのは、それがいつもの出来事であることを示していた。
「おおっ、無事の帰還何よりでござる!収穫はどうだったでござるか?」
門を潜り、帰還してきた物資調達隊にダンカンが駆け足で近づいていく。
彼はその身体の大きさ故に合う耐毒スーツが存在せず、それに加わることが出来ずにいたのだ。
そのためか彼は期待を込めた視線で、その隊の先頭に立っていたアランへと成果を訪ねている。
「んー・・・?まぁ、普通じゃないか?」
「そ、そうでござるか?この・・・もう少し面白みというか、新鮮味が欲しいのでござるが」
「そんなんもんねーよ。普段の生活だぞ?つまんねーのが、続いてくんだよ。ずっとな」
それに答えるアランの返事は、冷たく素気ない。
それはそれが、彼らにとってもはや日常になってしまっていたからか。
門と防壁の警備ばかりで暇なのか、それでも食い下がり何か面白いことはと求めるダンカンに対しては、アランの後ろにいた耐毒スーツをまとった村人達もうんざりとした表情を見せていた。
「普段通りでござるか・・・こんな生活がいつまでも続けばよいでござるなぁ」
「はっ、なに年寄りじみたこと言ってやがんだよ!老け込むにはまだ早えぞ!」
「い、痛いでござるよ、アラン殿!」
今までは、物資の回収をアレクシア一人に任せなければならなかった。
それに比べれば、今の状況のなんと恵まれていることだろうか。
それをしみじみと噛みしめては感慨を深めるダンカンの姿に、アランは茶化すような口調でこぶしを投げかけていた。
「あれ、アランさんは飲まないんすか?」
「ん?あぁ、俺はこっちがあるから」
回収した物資を荷下ろしした物資回収隊は、耐毒スーツを脱いでは一服を入れている。
一仕事を終え、疲れた彼らが求めるのは何よりも水分であろう。
そんな彼らが向かう先には、漏斗を追加された遺物の姿と、水を湛えた水瓶が並んでいた。
「そっすか?でもこっちの方が、良くないっすか?」
「いや、それだって結構手間かけて運んできてんだから、俺が飲んじゃ駄目でしょ。つーかさ、それ何かしょっぱくねぇ?」
その水瓶から遺物に繋がっている漏斗へと水を注ぐと、その反対側の先端部からちょろちょろと浄化された水が流れてきていた。
それを近くに置かれていたコップで掬って飲み干した村人は、アランにもそれを勧めている。
しかしアランはそれを、何とも言えない表情で遠慮していた。
「そっすかねぇ?俺はそんな事ないと・・・!?」
「おいっ!?だから貴重だって言ってんだろ!?何・・・粗末にしてん、だよ・・・?」
アランの口にした内容に首を捻りながら、村人はもう一杯水を口にしようとしていた。
しかし彼は、それを途中で取り落してしまう。
それはそれに咄嗟に反応したアランによって、何とか地面へと落ちてしまう前に受け止められていたが、その彼も何かに気が取られるように固まってしまい、結局その中身を零してしまっていた。
「お帰りなさいアラン、それに皆も。それ、私にも一杯貰える?」
「は、はい・・・どうぞ、アレクシアさん」
彼らがそれを目にして固まってしまったのは、その長い金髪をバッサリと切ったアレクシアの姿を目にしたからだ。
その姿と、何より全ての毒気が抜けたようにすっきりとした表情の彼女の美しさに、気を抜かれてしまった村人達は、彼女に言われるままに水を満たしたコップを差し出していた。
「お、おい!お前それ・・・どうしたんだよ!?」
「どうって、邪魔だったから切っただけでしょ?あんたと違って私はスーツを着なきゃなんだし、長い髪なんて邪魔なだけよ」
「いや、そう言ってもなぁ。そんないきなり・・・」
村人から受け取った水を美味しそうに飲み干したアレクシアは、その口元についた雫の名残を拭っている。
そのさばさばとした態度からは、彼女がそれをちっとも気にしていないことが窺える。
しかし周りにとっては、そうはいかない。
彼らの気持ちを代表するように、アランが驚きながらもその理由を尋ねたが、彼女の答えはひどく単純で、何よりそれを当たり前のことのように返していた。
「へへーん、どうよ!お揃い!!」
彼女の髪をそんな風にした当人であるブレンダが、何やら自慢げな様子で自らの頭を示している。
見れば確かにブレンダの髪の長さは、今のアレクシアと同じぐらいであり、そのセットも彼女と同じものであった。
「・・・ちょっと弄ろっかな?」
「えぇ!?何でですか、お姉様ー!!?」
そんなブレンダの言葉に、アレクシアはアンニュイな表情で毛先を遊んでは意地悪な言葉を囁いている。
それにブレンダは心底ショックを受けた様子で、大声は上げてはアレクシアへと飛び掛かっていっていた。
「はははっ、賑やかなこった。ふぅ・・・まぁ、こんな生活も悪くはないもんだな」
姦しい姉妹のやり取りを眺めているアランは、穏やかな表情で腰を下ろす。
その目に映る景色は、今までの生活とも、かつての暮らしとも異なったものであった。
それも悪くはないと大きく息を吐いたアランは、後ろ手に手をついて空を見上げる。
彼が腰を下ろしているそれに、僅かに火が灯った。
「ね、ねぇ・・・それでどうかな、これ?」
「ん?そうだな、俺は・・・うおっ!?な、何だ!?」
ブレンダの猛攻を何とか凌いだアレクシアは、僅かに乱れた髪型を整えながら、もじもじと足元を引っ掻きながらアランの前へと進み出ている。
どうやら彼女は、その新しい髪型の感想をアランから求めているようだ。
アランがそちらへと顔を向け感想に頭を捻っていると、その身体を跳ね上げるように何かがそれを持ち上げていた。
『ふわぁぁぁ・・・おはよー・・・』
それは彼らが、やっとの思いで回収してきた遺物だ。
その上部にあたる部分が開き、そこからは一糸まとわぬ姿の少女が現れ、眠たそうに眼を擦っていた。
『あれぇ・・・ここ、どこだろぉ?あっ!』
その少女は周りの見慣れない景色に、キョロキョロと目線を彷徨わせている。
しかしそれもある人物を見つけると、もはや動かない。
『パパ!!』
その見つけた人物、アランに向かって少女は飛び込んでいく。
突然の事態に呆気に取られているアランは、それを受け止めるしかなかった。
「えっ、えっ!?何々!?何なの、これ!?」
『パパ、パパ!!』
突然飛び込んできた全裸の美少女が、嬉しそうに頬を摺り寄せてくる。
彼女が口にしている言葉の意味は分からなかったが、そこに親愛の情が込められていることははっきりと伝わっていた。
「・・・はぁぁぁーーー!!?」
それは、訳が分からない事態であることは確かであった。
しかし、たった一つ分かっていることがある。
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