最弱能力「毒無効」実は最強だった!

斑目 ごたく

文字の大きさ
61 / 61
アランとアレクシア

新しい日常

しおりを挟む
「お姉様、本当にいいんですか?」

 僅かな窓の隙間から差し込む光はまだ淡く、早朝の気配を伝えている。
 薄暗い室内はそれでも随所に気を配り、整えられた雰囲気を醸し出している。
 部屋の各所から漂ってくる鼻を衝く匂いは、薬草を煎じたり干した時のものだろうか。
 それはここが、ブレンダの居室であることを窺わさせた。
 椅子に座り、目を閉ざしたアレクシアの後ろに立ち尽くすブレンダは、何やら緊張した面持ちをしていた。

「・・・うん、お願いブレンダ」

 それに答えるアレクシアの声は、酷く落ち着いている。
 そのギャップが逆にブレンダの緊張を昂らせるのか、彼女はごくりと一度生唾を飲み込んでいた。

「わ、分かりました!え、えーい!!」

 ブレンダの手に握られた鋏が、朝日を浴びてキラリと輝く。
 彼女はそれを握ったのと逆の手で、アレクシアの長い金髪を掬うと、覚悟を決めてそこに刃を奔らせていた。



「開門、開門ー!!」

 開門を告げるその大声は、物資を回収に向かった部隊の帰還を意味している。
 それに対して上がる歓声が疎らだったのは、それがいつもの出来事であることを示していた。

「おおっ、無事の帰還何よりでござる!収穫はどうだったでござるか?」

 門を潜り、帰還してきた物資調達隊にダンカンが駆け足で近づいていく。
 彼はその身体の大きさ故に合う耐毒スーツが存在せず、それに加わることが出来ずにいたのだ。
 そのためか彼は期待を込めた視線で、その隊の先頭に立っていたアランへと成果を訪ねている。

「んー・・・?まぁ、普通じゃないか?」
「そ、そうでござるか?この・・・もう少し面白みというか、新鮮味が欲しいのでござるが」
「そんなんもんねーよ。普段の生活だぞ?つまんねーのが、続いてくんだよ。ずっとな」

 それに答えるアランの返事は、冷たく素気ない。
 それはそれが、彼らにとってもはや日常になってしまっていたからか。
 門と防壁の警備ばかりで暇なのか、それでも食い下がり何か面白いことはと求めるダンカンに対しては、アランの後ろにいた耐毒スーツをまとった村人達もうんざりとした表情を見せていた。

「普段通りでござるか・・・こんな生活がいつまでも続けばよいでござるなぁ」
「はっ、なに年寄りじみたこと言ってやがんだよ!老け込むにはまだ早えぞ!」
「い、痛いでござるよ、アラン殿!」

 今までは、物資の回収をアレクシア一人に任せなければならなかった。
 それに比べれば、今の状況のなんと恵まれていることだろうか。
 それをしみじみと噛みしめては感慨を深めるダンカンの姿に、アランは茶化すような口調でこぶしを投げかけていた。



「あれ、アランさんは飲まないんすか?」
「ん?あぁ、俺はこっちがあるから」

 回収した物資を荷下ろしした物資回収隊は、耐毒スーツを脱いでは一服を入れている。
 一仕事を終え、疲れた彼らが求めるのは何よりも水分であろう。
 そんな彼らが向かう先には、漏斗を追加された遺物の姿と、水を湛えた水瓶が並んでいた。

「そっすか?でもこっちの方が、良くないっすか?」
「いや、それだって結構手間かけて運んできてんだから、俺が飲んじゃ駄目でしょ。つーかさ、それ何かしょっぱくねぇ?」

 その水瓶から遺物に繋がっている漏斗へと水を注ぐと、その反対側の先端部からちょろちょろと浄化された水が流れてきていた。
 それを近くに置かれていたコップで掬って飲み干した村人は、アランにもそれを勧めている。
 しかしアランはそれを、何とも言えない表情で遠慮していた。

「そっすかねぇ?俺はそんな事ないと・・・!?」
「おいっ!?だから貴重だって言ってんだろ!?何・・・粗末にしてん、だよ・・・?」

 アランの口にした内容に首を捻りながら、村人はもう一杯水を口にしようとしていた。
 しかし彼は、それを途中で取り落してしまう。
 それはそれに咄嗟に反応したアランによって、何とか地面へと落ちてしまう前に受け止められていたが、その彼も何かに気が取られるように固まってしまい、結局その中身を零してしまっていた。

「お帰りなさいアラン、それに皆も。それ、私にも一杯貰える?」
「は、はい・・・どうぞ、アレクシアさん」

 彼らがそれを目にして固まってしまったのは、その長い金髪をバッサリと切ったアレクシアの姿を目にしたからだ。
 その姿と、何より全ての毒気が抜けたようにすっきりとした表情の彼女の美しさに、気を抜かれてしまった村人達は、彼女に言われるままに水を満たしたコップを差し出していた。

「お、おい!お前それ・・・どうしたんだよ!?」
「どうって、邪魔だったから切っただけでしょ?あんたと違って私はスーツを着なきゃなんだし、長い髪なんて邪魔なだけよ」
「いや、そう言ってもなぁ。そんないきなり・・・」

 村人から受け取った水を美味しそうに飲み干したアレクシアは、その口元についた雫の名残を拭っている。
 そのさばさばとした態度からは、彼女がそれをちっとも気にしていないことが窺える。
 しかし周りにとっては、そうはいかない。
 彼らの気持ちを代表するように、アランが驚きながらもその理由を尋ねたが、彼女の答えはひどく単純で、何よりそれを当たり前のことのように返していた。

「へへーん、どうよ!お揃い!!」

 彼女の髪をそんな風にした当人であるブレンダが、何やら自慢げな様子で自らの頭を示している。
 見れば確かにブレンダの髪の長さは、今のアレクシアと同じぐらいであり、そのセットも彼女と同じものであった。

「・・・ちょっと弄ろっかな?」
「えぇ!?何でですか、お姉様ー!!?」

 そんなブレンダの言葉に、アレクシアはアンニュイな表情で毛先を遊んでは意地悪な言葉を囁いている。
 それにブレンダは心底ショックを受けた様子で、大声は上げてはアレクシアへと飛び掛かっていっていた。

「はははっ、賑やかなこった。ふぅ・・・まぁ、こんな生活も悪くはないもんだな」

 姦しい姉妹のやり取りを眺めているアランは、穏やかな表情で腰を下ろす。
 その目に映る景色は、今までの生活とも、かつての暮らしとも異なったものであった。
 それも悪くはないと大きく息を吐いたアランは、後ろ手に手をついて空を見上げる。
 彼が腰を下ろしているそれに、僅かに火が灯った。

「ね、ねぇ・・・それでどうかな、これ?」
「ん?そうだな、俺は・・・うおっ!?な、何だ!?」

 ブレンダの猛攻を何とか凌いだアレクシアは、僅かに乱れた髪型を整えながら、もじもじと足元を引っ掻きながらアランの前へと進み出ている。
 どうやら彼女は、その新しい髪型の感想をアランから求めているようだ。
 アランがそちらへと顔を向け感想に頭を捻っていると、その身体を跳ね上げるように何かがそれを持ち上げていた。

『ふわぁぁぁ・・・おはよー・・・』

 それは彼らが、やっとの思いで回収してきた遺物だ。
 その上部にあたる部分が開き、そこからは一糸まとわぬ姿の少女が現れ、眠たそうに眼を擦っていた。

『あれぇ・・・ここ、どこだろぉ?あっ!』

 その少女は周りの見慣れない景色に、キョロキョロと目線を彷徨わせている。
 しかしそれもある人物を見つけると、もはや動かない。

『パパ!!』

 その見つけた人物、アランに向かって少女は飛び込んでいく。
 突然の事態に呆気に取られているアランは、それを受け止めるしかなかった。

「えっ、えっ!?何々!?何なの、これ!?」
『パパ、パパ!!』

 突然飛び込んできた全裸の美少女が、嬉しそうに頬を摺り寄せてくる。
 彼女が口にしている言葉の意味は分からなかったが、そこに親愛の情が込められていることははっきりと伝わっていた。

「・・・はぁぁぁーーー!!?」

 それは、訳が分からない事態であることは確かであった。
 しかし、たった一つ分かっていることがある。
 それが彼女には気に入らないという事だ。
 不満と苛立ちの混じったアレクシアの声は大きく、それはどこまでも響き渡るようだった。
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

はすみ1206
2021.07.03 はすみ1206

展開はやきもきするけど何故か読めてしまう
こういう話もっと読みたい

解除

あなたにおすすめの小説

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ
ファンタジー
 僕は十年程闘病の末、あの世に。  そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?  幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。   ※画像はAI作成しました。 ※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。