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裏切り者達
崩壊 2
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「サブさん、中に他に人は・・・滝原を見かけませんでしたか?」
「滝原か・・・あいつはもう、助からない。諦めろ」
降り積もった雪を固めながら、そこに横になっているサブへと、匂坂は中に他に人を見かけなかったかと尋ねている。
彼が特に気にしていたのは、まだ確実に中にいると思われた滝原の事であった。
しかしその名前を耳にしたサブは、どこか渋い表情を見せると、彼はもう助からないと断言する。
「そう、ですか・・・彼は、もう」
滝原がもう助からないと断言する、サブの言葉は重い。
それは実際に、その現場を目撃した者の言葉だからだろう。
それには流石の匂坂も反論することが出来ずに、静かに気落ちした様子で頷いていた。
「でも、まだ中に人がいるかもしれない・・・それなら」
「おい、止めとけ!もう無理だ!中は入れるような状況じゃない!!」
しかしそれは、まだ中に逃げそびれている人がいるかもしれないという事実を否定してはいない。
そう口にし、再び燃え盛るロッジへと赴こうとしている匂坂の事を、サブが制止する。
彼が引きとめた匂坂の服の裾を、翔までもがそっと掴んで引きとめようとしていた。
「それでも・・・それでも、救える人がいるならっ!僕は―――」
匂坂を直接引き止める二人だけではなく、飯野もまた彼に行って欲しくなさそうに見詰めている。
それでも彼が執拗に、そこに向かおうとしているのは後ろめたさからだろうか。
彼は救えるチャンスがありながらも、一華がロッジに取り残されるのを見過ごしている。
あの場を立ち去る時には知らなかったロッジの火事も、すぐに引き返せば間に合うほどの遅れだっただろう。
しかし、そんな後悔も全て吹き飛ばす爆音が今、響く。
下っ端のチンピラとはいえど、暴力の世界に身をおくサブの力は強い。
匂坂が彼の制止を振り切るには、その手を大きく振り払うしかなかった。
彼がそれを振り払うのと同時に叫んだ声は、響き渡る爆音によって掻き消されてしまう。
それは燃え盛るロッジの中で何かが爆発し、一気に建物が倒壊する音であった。
「うおっ!?マジか!!?翔、伏せてろ!」
「う、うん!!」
爆発によって飛び散った建物の破片が、彼らに直撃しなかったのはいかなる幸運か。
それは分からないが、爆発音に驚き立ち尽くしてしまっている匂坂の身体をもそれらは避けて、周辺へと落下していっていた。
「はは・・・はははっ、はははははっ!!そうか・・・もう、終わったのか」
お互いを庇うように降り積もった雪に埋まっている翔達を尻目に、ゆっくりとロッジの方へと振り返った匂坂は、今まさに崩れ落ち、もはや建物としての用を成していないそれを見詰めていた。
彼がその光景に思わず笑みを漏らしてしまったのは、何を思ったからだろうか。
一頻り笑い声を上げた彼は、力尽きるようにその場に膝をつき、そのまま雪の上へと横になっていた。
「匂坂君。ほら・・・夜が明ける」
「あぁ、そうか・・・もう、そんな時間か」
自らの命をわざと投げ打つような行為を諦めた匂坂の姿に、飯野は安心すると彼の下へとゆっくりと近づいてくる。
彼の傍にまで近寄った彼女は、すっと指を伸ばすと遮るものも何もない景色を指し示していた。
その先に待っていたのは、退きつつある夜の帳と、黄金に輝く朝焼けの光だ。
「お、おい!あれ!!なんか、こっちに来てないか!!」
「何々!?眩しくて見えないよ!」
飯野の言葉につられて、そちらへと顔を向けたサブは、上がり始めた太陽の中に何か、動くものの姿を見つけていた。
サブのその声に、翔もそれを見つけたいと目を凝らすが、太陽の光が眩しくて中々それを見つけることが出来ない。
「あ!あった、あったよ!!あれは、えっと・・・そうだ!ヘリコプターだ!!ねぇ、そうだよね!」
「ヘリコプター?それって、おい・・・俺達を助けに来た、救助ヘリってことか!?おーい!!こっちだー!!俺達はここだぞー!!!」
自らの手で影を作り、眩しい光の中へと目を凝らした翔は、その中でこちらへと向かってくるある乗り物の姿を捉えていた。
彼がその乗り物の名前を言い当てると、それを聞いたサブが飛び跳ねて喜んでいる。
それも、無理はない話だろう。
何故ならその乗り物、ヘリコプターは彼らをこの雪山から救助しにやってきたのだから。
「俺達、助かったんだ」
「・・・うん」
翔とサブは飛び跳ねるようにして、こちらへと近づいてくるヘリに向かって大声で呼びかけている。
その後ろで匂坂と飯野の二人は、静かに寄り添い、この惨劇を生き延びた喜びを噛み締めていた。
そのシルエットは今、ゆっくりと重なっていく。
「滝原か・・・あいつはもう、助からない。諦めろ」
降り積もった雪を固めながら、そこに横になっているサブへと、匂坂は中に他に人を見かけなかったかと尋ねている。
彼が特に気にしていたのは、まだ確実に中にいると思われた滝原の事であった。
しかしその名前を耳にしたサブは、どこか渋い表情を見せると、彼はもう助からないと断言する。
「そう、ですか・・・彼は、もう」
滝原がもう助からないと断言する、サブの言葉は重い。
それは実際に、その現場を目撃した者の言葉だからだろう。
それには流石の匂坂も反論することが出来ずに、静かに気落ちした様子で頷いていた。
「でも、まだ中に人がいるかもしれない・・・それなら」
「おい、止めとけ!もう無理だ!中は入れるような状況じゃない!!」
しかしそれは、まだ中に逃げそびれている人がいるかもしれないという事実を否定してはいない。
そう口にし、再び燃え盛るロッジへと赴こうとしている匂坂の事を、サブが制止する。
彼が引きとめた匂坂の服の裾を、翔までもがそっと掴んで引きとめようとしていた。
「それでも・・・それでも、救える人がいるならっ!僕は―――」
匂坂を直接引き止める二人だけではなく、飯野もまた彼に行って欲しくなさそうに見詰めている。
それでも彼が執拗に、そこに向かおうとしているのは後ろめたさからだろうか。
彼は救えるチャンスがありながらも、一華がロッジに取り残されるのを見過ごしている。
あの場を立ち去る時には知らなかったロッジの火事も、すぐに引き返せば間に合うほどの遅れだっただろう。
しかし、そんな後悔も全て吹き飛ばす爆音が今、響く。
下っ端のチンピラとはいえど、暴力の世界に身をおくサブの力は強い。
匂坂が彼の制止を振り切るには、その手を大きく振り払うしかなかった。
彼がそれを振り払うのと同時に叫んだ声は、響き渡る爆音によって掻き消されてしまう。
それは燃え盛るロッジの中で何かが爆発し、一気に建物が倒壊する音であった。
「うおっ!?マジか!!?翔、伏せてろ!」
「う、うん!!」
爆発によって飛び散った建物の破片が、彼らに直撃しなかったのはいかなる幸運か。
それは分からないが、爆発音に驚き立ち尽くしてしまっている匂坂の身体をもそれらは避けて、周辺へと落下していっていた。
「はは・・・はははっ、はははははっ!!そうか・・・もう、終わったのか」
お互いを庇うように降り積もった雪に埋まっている翔達を尻目に、ゆっくりとロッジの方へと振り返った匂坂は、今まさに崩れ落ち、もはや建物としての用を成していないそれを見詰めていた。
彼がその光景に思わず笑みを漏らしてしまったのは、何を思ったからだろうか。
一頻り笑い声を上げた彼は、力尽きるようにその場に膝をつき、そのまま雪の上へと横になっていた。
「匂坂君。ほら・・・夜が明ける」
「あぁ、そうか・・・もう、そんな時間か」
自らの命をわざと投げ打つような行為を諦めた匂坂の姿に、飯野は安心すると彼の下へとゆっくりと近づいてくる。
彼の傍にまで近寄った彼女は、すっと指を伸ばすと遮るものも何もない景色を指し示していた。
その先に待っていたのは、退きつつある夜の帳と、黄金に輝く朝焼けの光だ。
「お、おい!あれ!!なんか、こっちに来てないか!!」
「何々!?眩しくて見えないよ!」
飯野の言葉につられて、そちらへと顔を向けたサブは、上がり始めた太陽の中に何か、動くものの姿を見つけていた。
サブのその声に、翔もそれを見つけたいと目を凝らすが、太陽の光が眩しくて中々それを見つけることが出来ない。
「あ!あった、あったよ!!あれは、えっと・・・そうだ!ヘリコプターだ!!ねぇ、そうだよね!」
「ヘリコプター?それって、おい・・・俺達を助けに来た、救助ヘリってことか!?おーい!!こっちだー!!俺達はここだぞー!!!」
自らの手で影を作り、眩しい光の中へと目を凝らした翔は、その中でこちらへと向かってくるある乗り物の姿を捉えていた。
彼がその乗り物の名前を言い当てると、それを聞いたサブが飛び跳ねて喜んでいる。
それも、無理はない話だろう。
何故ならその乗り物、ヘリコプターは彼らをこの雪山から救助しにやってきたのだから。
「俺達、助かったんだ」
「・・・うん」
翔とサブは飛び跳ねるようにして、こちらへと近づいてくるヘリに向かって大声で呼びかけている。
その後ろで匂坂と飯野の二人は、静かに寄り添い、この惨劇を生き延びた喜びを噛み締めていた。
そのシルエットは今、ゆっくりと重なっていく。
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