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ダンジョン経営の始まり

アトハース村の事情 4

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「あー・・・実はですね、皆さん。こんなものが、そのダンジョンから―――」
「夢みたいな事ばかり言ってるんじゃない!!そんなのは元々栄えていた街が、ダンジョンによってさらに発展したって話でしかないだろ!!こんな辺境で、それと同じ事が出来る訳がないだろうが!!」

 ポーションの入った瓶をチラ見せしながら、ダンジョンの魅力をアピールしようとしていたカイの試みは、突如響き渡った大声によって掻き消されてしまう。
 それは先ほどまで疲れた顔をしていた男が、若者の浮かれた発言にぶち切れて怒鳴り散らしたものであった。
 彼は若者が語った内容など、夢物語に過ぎないと切り捨てる。
 現実として、それは正しいだろう。
 こんな辺境の村に、ダンジョンで村がうまく回せるようになるまで持たせる体力などない。
 そんな状況でダンジョンを使った村興しなど、夢のまた夢でしかない筈だ。
 そのダンジョンが、何故か異常なほど人間に協力的なダンジョンでなければ。

「そ、そんな事!やってみないと分からないだろ!!」
「分かるさ。大体冒険者を呼ぶといっても、その金はどうやって用意するつもりだ?いつものゴブリンを蹴散らしてくれというのとは訳が違う。未調査のダンジョンに挑んでもらうとなれば、危険な仕事だ。当然依頼料も莫大なものとなるが・・・当てはあるんだろうな?」
「うっ、それは・・・」

 未調査のダンジョンの探索などという仕事は、当然相応の危険が付き纏う。
 そのためそれらの仕事には実力のある冒険者が派遣される事になるが、その依頼料は安いものではない。
 彼らが普段依頼するような、弱い魔物の撃退ならば駆け出しの冒険者やそれに毛が生えた程度の冒険者でもよく、依頼料も安いものであったが今回のケースはそうもいかない。
 財政難という現実を男に突きつけられた若者は、反論の言葉を見つけられずに言葉を詰まらせてしまっていた。

「アダムスさんの話じゃ、今度鉱山復興に賛同してくれる人を連れてきてくれるらしい。ダンジョンについては、その後でもいいだろう?今は、実際に危険が降りかかるまで見て見ぬ振りをするしかないんだ」
「ちっ!分かったよ・・・」

 男は若者の言葉に理解を示しながらも、今は鉱山復興を優先するべきだと語りかける。
 その言葉は重い現実を背負い続けた、諦めが滲んでいた。
 彼の言葉に舌打ちを漏らした若者は、それでも渋々ながらその言葉を受け入れると、どっかりと席に腰を下ろしていた。

「・・・キルヒマンさんと言ったか?そういう事だから、あんたには悪いがダンジョンの事は黙っていてくれないか?この村は、今大事な時期なんだ。頼む、この通りだ」
「え、えぇ?・・・その、えっと。は、はぁ・・・」

 自らに向かって深々と頭を下げ、真摯にダンジョンの事を黙っていてくれと頼む男の姿に、カイは戸惑うことしか出来ない。
 いい感じの流れとなり、このままダンジョンを中心とした村の発展という、理想の展開へと持っていけることを期待していたカイは、思わぬ展開に思わず呆けてしまっていた。

「それ、あんたの商品かい?悪いが、この村にそんな高級そうな品を買える人はいないと思うよ」

 取り出したポーションを掲げたまま呆けていたカイに、男はそれへと目線をやっていた。
 彼はその商品はこの村では売れないというアドバイスを残すと、そのまま立ち去ろうとしていく。

「ま、待ってください!これはですね、実はダンジョンから―――」
「悪いが、もうダンジョンの話はしないでくれ。皆も聞きたくないだろう」
「あ、はい」

 このアイテムの価値をアピールして起死回生を図ろうとしたカイの試みは、死んだ魚の目をした男によって阻まれてしまう。
 彼は静かだが断固とした口調で、ダンジョンの話はもうするなとカイに警告する。
 その迫力に、カイはただただ頷く事しか出来なかった。

「えぇー・・・なんで。なんで、こうなるの?」

 激しい口論に居辛くなった為か、先ほどまであれほど屯していた客達は、いつの間にかその姿を消していた。
 寂れた酒場には、食器磨きを再開した酒場の主人とカイだけが佇んでいる。
 客達が去り、その使っていた食器を洗うのに夢中な酒場の主人は、カイが思わず零してしまった絶望の呟きを聞き逃す。
 食器を磨く乾いた音が響く酒場に、カイはしばらく呆然と立ち尽くしてしまっていた。
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