【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく

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第一章 最果ての街キッパゲルラ

ネロとプティ

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「はっ!?痛てて・・・もう朝、か」

 窓から差し込む柔らかな朝の日差しに突然目覚めたユーリは、その不自然な格好で寝込んで痛めた身体を解そうとしていた。
 その途中彼は、自らの顔を覗き込む真ん丸な瞳と目が合い硬直する。

「ちゅちゅ?」
「うわああああぁぁぁっ!!!?」

 ユーリの顔を覗き込んでいたのは、開けっ放しだった窓から入り込んだ鮮やかな色の鳥であった。
 ともすれば愛くるしいその姿も、鼻に止まり顔を覗き込まれている当人からすれば関係ないだろう。
 ユーリは大声で悲鳴を上げ、慌てて壁際まで後ずさっていた。

「はぁはぁはぁ・・・な、何だ鳥か。おどろかせやがって・・・」

 止まり木となっていたユーリが激しい動きを見せた事で、彼に止まっていた鳥はあっさりと窓から外へと飛び立っていく。

「ふぅ~、焦ったぁ・・・そうだよな、いる訳ないよな?あんな事ある訳ないんだし、きっと夢でも見てたんだろ!最近ちょっと働き過ぎだしな、疲れてたんだきっと!うんうん、そうに違いない!」

 朝目覚めたら、目の前で見知らぬ鳥が覗き込んでいた。
 その状況にユーリが異常に動揺してしまったのは、昨日の出来事があったからか。
 「命名」という自らの力で、戯れに生命を生み出してしまった。
 そんな有り得ない昨日の出来事に、ユーリは自らに言い聞かせるようにそれを夢に違いないと繰り返していた。

「い、いないよな・・・?よし、いないな!やっぱり夢だったんだ!!ほら証拠に、名前を書いた紙もなくなってるし!」

 何度言い聞かせてもやはり完全には信じられなかったのか、恐る恐る部屋の中へと視線を向けるユーリは、そこに昨日生み出した筈の少女達の姿がないことに安堵する。

「いや待てよ?紙はあの時燃えちゃってたんだっけ?なら証拠にはならない・・・?だ、だったら俺の能力をもう一度書き出せばいいんだろ!?そこに「命名」なんてふざけた能力がなければ、それが証拠に―――」

 今、この部屋の中にその少女達の姿がない事も、昨日それに使った筈の書類が見当たらない事も、昨日の事が全て夢だった証明にはならない。
 それを悟ったユーリは、自らの能力をもう一度書き出すことでそれを証明しようとする。

「あれ?ある・・・」

 その書き出した紙面には、はっきりと「命名」の文字が。

「おとーさん、もう起きたかなー?」
「うーん、どうだろ?ねねっ、もしまだ起きてなかった悪戯しようよ!」
「えー!?そんなの駄目だよ!」
「えぇ~、いいじゃんやろうよー」

 そして部屋の外からは昨日の少女達、ネロとプティが楽しげに会話している声が聞こえてきていた。

「あ、もう起きてる。ちぇ、悪戯したかったのになー」
「もう、駄目だよネロ!そんな事しちゃ!えへへ・・・おはよー、おとーさん」

 部屋の扉を開けこの部屋へと入ってきたネロは、既に目覚めてしまっているユーリの姿に、悔しそうに足を掻く。
 そんな彼女を押しのけて部屋に入ってきたプティは、ふんわりとはにかむとユーリに手を小さく振っていた。

「夢じゃ、なかったのか・・・」

 目の前の二人の姿は、どうやったって現実だ。
 その事実にユーリは愕然と目を見開き、がっくりと肩を落とす。

「んー、夢って何のことー?あ、分かった!おとーさん、怖い夢見たんだ。ねーねー、そうなんでしょー?」
「お、おとーさん!大丈夫だよ、プティと一緒に寝れば怖くないから!」
「あー、抜け駆けだー!プティ、自分だけおとーさんと一緒に寝ようとしてるー」
「ち、違うもん!!」

 ニコニコと明るい笑みを浮かべて、ネロとプティの二人はじゃれ合いながらユーリの下へと近寄ってくる。
 その距離はもはや、肌と肌が触れ合う近さとなっていた。

「ちょ!?ち、近くない?」
「えー?別に普通だよ?」
「う、うん。全然、変じゃないと思うな!・・・おとーさんは、プティが近くにいるの嫌?」

 二人の少女に左右を挟まれ、その大人よりも高い体温に熱されるユーリは、二人にもっと距離を取るように促す。
 しかし二人はそんな言葉どこ吹く風と、寧ろもっと距離を詰めてはユーリに肌を摺り寄せてきていた。

「い、嫌ではないけど・・・と、とにかくいったん離れて、ほら!」
「「えー!!」」

 気軽な様子で距離を詰めてくるネロよりも、潤んだ瞳でこちらを見詰めてくるプティの方が罪悪感を刺激する。
 それでもユーリは彼女達を摘まみ上げると、無理やりベッドの下にまで運んで距離を取る。

「どうする、いきなり子供二人なんて面倒見きれないぞ?大体生命を生み出すなんて、そんな事許される訳が・・・そうだ!『書き足し』みたいに、書いた紙を処分すればなかった事になるんじゃないか?」

 「書き足し」によるスキルの付加は、それを書いた書類が破損すればなかった事になる。
 それと同じように、彼女達の存在もその名を記した書類がなくなればなかった事になるのではとユーリは考えていた。

「あ、でもその紙はもう燃えちゃったんだっけ・・・うーん、参ったな。だとすると他に方法は・・・」

 しかしその書類は彼女達が生まれると共に燃え尽き、既にこの世に存在しない。

「あれ?二人とも、その服はどうしたんだ?一体どこから・・・」

 唯一の解決法を失い途方に暮れるユーリは、ネロとプティの二人へと視線を向ける。
 そこには昨日とは違い、服を身に纏った二人の姿があった。

「えっとね、これは―――」

 ユーリの疑問に、ネロとプティが服を広げるようにして答えようとする。

「あたしが見繕ってあげたのさ」

 しかし彼女達が答えるより早く、この部屋に入ってきた老婆がそれに答えていた。

「女将さん。そうだったんですね、ありがとうござ―――」

 それはこの古木の梢亭の女将、マイカであった。

「憲兵さん、あいつです!捕まえて!!」
「えっ!?うわぁ!!?何ですか貴方達は・・・ぐぁ!?」

 二人に服を揃えてくれたお礼にユーリが頭を下げようとしていると、マイカから鋭い声が飛ぶ。
 その声と共にマイカの背後から二人の男が現れ、素早くユーリを取り押さえてしまっていた。
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