【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく

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第一章 最果ての街キッパゲルラ

陰謀

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「ユーリさん、冒険者試験といっても二種類あるんです」

 冒険者ギルドの建物内に設けられた試験会場へと移動する途中、トリニアはギルドの規定が記された書類に目を落としながら、試験の内容についてユーリに説明する。

「二種類?」
「はい。基本的な知識を測る学科と、模擬依頼によって合否を決定する通常の試験。そして既に他で実績のある方が冒険者になる場合に行われる、現役冒険者との手合わせによる試験。今回のケースでは当然、通常の試験が行われる筈ですからそう危険な事は―――」

 今回二人が受ける試験はそう危険なものではない、そう説明しながらトリニアは学科試験が行われる会場へと足を運ぼうとする。
 その横を通り過ぎる、二つの小さな人影があった。

「おとーさん!私、頑張るから見てて!!」
「へっへーん、これぐらいボク達なら楽勝だよね!!」

 その人影、ネロとプティはすれ違い際にユーリに一声掛けると、そのまま駆け足で目的地へと向かっていく。
 その先は、二つ目の試験である現役冒険者との手合わせが行われる、ギルド併設の訓練場がある方向であった。

「お、おいっ!?お前達、何を!?そっちじゃないだろ!」

 ユーリが伸ばした手にも、二人はそれをすり抜けて駆けていく。

「ユーリさん、私達も!」
「あ、あぁ!」

 それにユーリとトリニアの二人も、慌てて後を追い駆ける。

「・・・これは、一体どういう事なんですか先輩?」

 その先には興奮した様子のネロとプティ、そしてその二人を眺めながら冷たく笑っているレジーの姿が待っていた。

「どういう事も何も・・・これはそこの二人が望んだ事よ、トリニアさん」
「二人が!?そうなのか?ネロ、プティ!?」

 本来有り得ない方の試験を選んだ二人に、トリニアはそれをレジーが仕組んだ罠だと疑う。
 しかしそんな疑いを掛けられても、レジーは余裕の態度を崩さなかった。

「うん。だってそーしないと、今日のお仕事に間に合わないんでしょ?」
「そうなったら、お金大変だから・・・私、頑張る!」

 そしてレジーの言う通り、二人は自らそれを望んだのだと口にする。

「お前達、そんな事を考えて・・・しかしな」
「大丈夫です、ユーリさん。幾ら先輩でも相手は子供、ちゃんとそれに合わせた相手を選ぶ筈です。危険はありませんよ」
「そう、なのか?ふぅ、だったら安心―――」

 二人の考えに感極まりながらもその安全を気遣うユーリに、トリニアは流石にレジーもそこまで無茶はしないと口にする。
 その言葉に、ユーリは安堵の息を漏らす。

「おぅ、そろそろ始めていいかいレジーさんよぉ?」
「えぇ、お願いオーソン」

 そんな二人の前に、今回の試験相手が姿を見せていた。
 それは先ほどユーリに文句をつけていた大柄な冒険者、オーソンであった。

「・・・あれでも、危険はない?」
「だ、大丈夫です!確かにオーソンさんは腕の立つ冒険者ですけど、だからこそ手加減も出来るはずなんです!寧ろ、ぴったりの人選じゃないですか!!」
「た、確かに。そう言われれば、そうなのかも・・・」

 身長、体重共に二人の二倍はありそうなオーソンは、とてもではないが丁度いい相手には思えない。
 その姿を指差しながらそれを口にするユーリに、トリニアはそれぐらい実力が離れているからこそ手加減も出来るのだと力説する。

「そらよ・・・っと!」

 オーソンは訓練用の剣を肩に担いだまま無造作に二人へと近づくと、それを軽く振るう。

「ぴゃあ!!?」
「おぉ、悪い悪い・・・手加減し損ねたな。危うく潰しちまう所だったぜ」

 しかしその威力は凄まじく、狙われたネロは悲鳴を上げて大きく飛びのき、隣のプティに思わず抱き着いてしまっていた。

「・・・手加減、してる?」
「し、してますよ!多分・・・そ、それに使ってるのはちゃんと訓練用に刃を潰している道具だから、危険は―――」

 どう考えても手加減しているようには見えないオーソンに、ユーリはそれを指摘する。
 それにトリニアは、訓練用の剣を使っているから大丈夫だと口にしようとしていた。

「はははっ!!逃げてるだけじゃ、合格なんて出来ねぇぞ!!」

 大ぶりな作りの訓練用の剣を、まるで木の棒かのように軽々と振り回すオーソン。
 その力には、刃が潰されているかどうかなど関係ないように思えた。

「あ、あるかも。ユーリさん、試験を中止させましょう!今ならまだ・・・!」

 流石にもはや安全だと言い切れなくなったトリニアは、ユーリの手を取ると試験を中止させようと訴える。

「おー、何か面白そうなことやってんじゃん?」
「何でも、高名な騎士の秘蔵っ子が試験を受けてるんだって」
「へー、そりゃ見物だな」

 しかし二人がそれを実行するよりも早く、この訓練場にぞろぞろと人が足を踏み入れてくる。
 それはどこで聞きつけたのか、試験を見学にやってきた冒険者達であった。

「くっ、こんな状況じゃ今更中止になんて出来ない・・・!ユーリさん、こうなったら二人に降参するように言ってやってください!!」
「あ、あぁ!ネロ、プティ!!もう止めるんだ!!こんな危険を冒してまで、お前達が頑張る事はないんだ!!」

 盛り上がる冒険者達に、彼らを誘導するギルド職員も忙しそうにしている。
 そんな雰囲気に今更中止など言い出せなくなってしまったトリニアは、ユーリに二人を諦めさせるように促す。

「やだ!!ボクらだって、おとーさんの役に立って見せるんだから!!」
「そうだよ!おとーさん、一人で頑張ろうとしてるんだもん!プティも家族だから・・・皆で頑張るんだ!!」

 無理をしないでいいと叫ぶユーリに、それでも二人は諦めない。
 二人は折角仕立てた新しいを服をボロボロにしながらも、決して振り返ろうとはしなかった。

「お前達・・・そうかなら俺も、俺が出来る事をしないと!」
「ユーリさん!?何を・・・!?」

 二人の揺るがない決意に、ユーリはそれを諦めさせる事を諦めていた。
 そして彼は背負っていた鞄を下ろすと、その中身を漁り始める。
 そこから彼が取り出したのは―――。



「オーソン、貴方ちゃんと分かってるでしょうね?」

 何やら慌て始めた様子のユーリ達へと視線を向けながら、レジーはオーソンへと声を掛ける。
 その声にオーソンもそちらへと歩み寄り、レジーへと顔を向ける。
 それは完全に隙を晒す行為であったが、その圧倒的な実力差にネロとプティの二人はそれを見過ごすことしか出来なかった。

「本当の狙いはあのガキどもじゃなくて、ユーリだってんだろ?分かってるっての」
「えぇ、ならいいのよ。引き続きお願い」
「おぅ、任せとけ。死なない程度にボコってやるよ!」

 レジーが確認したかったのは、今回の事の本当の狙いについてだ。
 それは目の前の二人、ネロとプティを痛めつける事ではなくユーリなのだとオーソンは口にする。

「冒険者試験に外部の者が手を加えれば、その者は失格。そしてそれが冒険者であるならその者が失格になるだけでなく、その冒険者も資格を剥奪される・・・ユーリ・ハリントン、あの子達が可愛いのでしょう?早く助けなさいな、そうすれば貴方はここにいられなくなる。そうなれば後は・・・ふふふ、はははは、あーっはっはっは!!」

 この冒険者試験にユーリが手を出せば、彼の冒険者としての資格は剥奪される。
 痛めつけられる娘達の姿に慌てふためくユーリの姿、それにこの計画の成功を確信したレジーは高らかに笑う。
 自らを虚仮にした彼の失脚を謳って。
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