【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく

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第一章 最果ての街キッパゲルラ

無自覚なKOパンチ

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「ま、まだです!財政を立て直したと言っても、一時的なものに過ぎないではありませんか!?不正をした商会から没収した資産など、所詮急場を凌ぐだけのもの。このキッパゲルラの経済を立て直すような、そんな方策を打ち出さなければ何の意味もないのです!!」

 目の前から消えた騎士達の悲鳴が遠いどこかから聞こえ始め、それがさらに聞こえなくなってようやくバートラムは意識を取り戻す。

「あぁ、まだ粘るのか・・・それで、具体的に何をして欲しいのだ?」

 彼が意識を取り戻すまで律義に待ってやっていたヘイニーは、またしても無茶なことを言い出したバートラムに呆れた様子を見せている。

「そうですな、ここはやはり何か新しい産業を興す事でしょう。このキッパゲルラには確たる産業がありません。あるとすれば最果ての街という名と、それに惹かれてやって来る者達でしょうが・・・それだけでは産業とは呼べますまい。さぁ、どうですか?奴に産業を興せますかな?」

 バートラムはこのキッパゲルラに新たな産業を起こせと、ユーリに求める。

「それは無理であろう?新たな産業を興すなど、大事業ではないか。流石のユーリでも一朝一夕では・・・」

 一つの街に、一から新たな産業を興す。
 それは数十年がかりで取り掛かるような大事業であり、ここにやって来てまだ間もないユーリには到底無理な事だとヘイニーは口にする。

「そうでしょうそうでしょう!そうなるとやはり、奴めは臣下失格という事に―――」

 諦めを口にするヘイニーに、バートラムは勝ち誇る。

「そういう事でしたら・・・私めにご協力出来る事があるかもしれません、ユークレール様」

 しかしそんな彼らの下に、廊下の向こうから声を掛けてくる人影の姿があった。

「貴方は・・・?」
「あぁ、これは申し遅れました。私、マービン・コームズと申します。公爵様の領地をお借りして、コームズ商会などというものをやらせていただいております」

 彼らに声を掛けてきた人物、それは恰幅のいい商人、マービンであった。

「コームズ商会?確か最近頭角を現してきている新進気鋭の商会だとは聞いた事があるが・・・そのコームズが私に何の用か?」
「いえ、先ほどそちらの方とお話しされていた何か新たな産業を興したいというお話・・・実は私も同じような事を考えておりまして」

 見知らぬ商人の登場に、ヘイニーは先ほどまでの気軽な態度ではなく、領主として威厳を持った態度で彼に接している。
 見ればヘイニーの横のバートラムも、あれほど取り乱していた彼はどこに行ったのかと思うほど、シュッとした紳士然とした態度でその場に佇んでいた。

「では貴方もここで何か産業を興そうと?ふむ・・・して、その具体的な内容は?」
「それはですね・・・あぁ、丁度いい所に。それを説明するにも、彼に来てもらった方がいいでしょう」
「彼・・・?」

 余りにも都合のいい話に、ヘイニーは疑いの目をもってマービンに尋ねる。
 それに口を開こうとしていたマービンは何かに気が付くと、そちらへと顔を向ける。

「あぁ、マービンさんこちらにいらっしゃったんですか。丁度さっき、任されていたのが終わって・・・あれ、ヘイニーさん?どうしてここに?」

 その場にいる皆が顔を向けた先から現れたのは、何やら見たことのない木の実や植物を抱えたユーリであった。

「ユーリさんこそ、どうしてここに?二人は知り合いだったんですか?」
「えぇ、実はそうなのです。それでユーリさんにある仕事を頼んでいたのですが・・・どうなりましたか、ユーリさん?」

 明らかにマービンに会いに現れたユーリに、戸惑うヘイニー。
 そんな彼の言葉に割り込むように、マービンはユーリへと任せていた仕事の結果を尋ねる。

「あぁ、それなら丁度さっき終わった所です。いやー、名前が分からないものですから苦労したんですが・・・簡単な話で、目の前のものをそのまま書き出せば良かったんですよね。あ、これが結果です」

 今だにユーリとマービンの関係がよく分かっていない様子のヘイニーを尻目に、ユーリは任された仕事である未知の植物の詳細が記された書類をマービンへと手渡している。

「どれどれ・・・こ、これは!!?」

 それを受け取り、その内容へと目を落としたマービンは、それを一頻り熟読すると驚愕の声を上げる。

「ど、どうしました!?実は、書き出すのに夢中で内容はよく確認してないんです!」

 マービンの反応に、その内容を確かめていなかったユーリは不安そうに声を上げる。

「どうしました・・・?どうもこうもないですよ、ユーリさん!!大発見です、大発見!!この情報があれば、間違いなくこの街に新たな事業が起こせます!!いやー凄い!特に以前お見せした、この龍舌果の効能なんて・・・とにかく凄いです、凄いですよこれは!!」
「本当ですか、マービンさん!?うわぁ!?」
「ははははっ!!やりました、やりましたよユーリさん!!」

 ユーリが書き上げた資料には、驚くべき情報が含まれていた。
 それに歓声を上げ、大発見だと叫ぶマービンは喜びの余りユーリへと抱き着く。
 そんな彼に思わず悲鳴を上げたユーリも、やがて歓声を上げ二人して喜び合っていた。

「何が何やら分からないが・・・取り合えずこれで、問題が全て解決したという事なんじゃないかバートラム?」

 目の前の二人の様子にヘイニーは首を傾げながらも、そうバートラムに話しかける。

「そんな新たな産業まで・・・?そんな事が可能なのか・・・?」

 そんなヘイニーの声にバートラムは反応を示さず、彼は目を見開いたまま信じられないと二人の姿を眺めるばかりであった。
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