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第一章 最果ての街キッパゲルラ
婚活
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「えっ、オリビアの誕生会ですか?」
キッパゲルラ領主ユークレール家の館、通称「放蕩者の家」。
その主の部屋、つまりヘイニーの執務室に呼び出されたユーリは、そう疑問を口にしていた。
「はい。その手配をユーリさんに頼みたいのです」
「はぁ、それはいいんですけど・・・何でその事をわざわざここで?別にそれならいつもみたいに、何かのついででも良かったんじゃ・・・」
娘であるオリビアの誕生会の手配を、彼が雇っているユーリに頼む。
それ自体は何の変哲もない出来事であったが、それを告げられた場所が問題であった。
ヘイニーの執務室、ユーリがその部屋に足を踏み入れる事など、初めてこの館に招かれたその日以来なかった事だ。
今やこの領内の仕事を全て任せていると言っても過言ではないユーリとヘイニーは、日々何かにつけて顔を合わせている。
それならばその時に話せばよかったのにと、ユーリは首を捻っていた。
「いや実はですね・・・オリビアにも秘密で頼みたい事がありまして」
ユーリの疑問にヘイニーは若干言い淀むと、実は内密に頼みたい事があるのだと打ち明ける。
「あぁ、そういう事ですか。それで、その頼みとは?」
「それはですね・・・」
その言葉に得心したと頷くユーリにヘイニーはキョロキョロと周りを窺い、そこに人気がない事を確認すると、そっとユーリの耳元でその頼みごとを囁いていた。
「はぁー・・・婚活かぁ」
自らの執務室へと帰ってきたユーリは両足を伸ばしながら、そう嘆息を漏らす。
「そうだよなー、オリビアもそういうお年頃だもんなー。はぁー・・・何かショックだわぁ」
ヘイニーの頼み事、それはオリビアの婚活についてだった。
身近な、しかもまだ年若い少女のそういった話しに、何故かショックを受けているユーリは溜め息を漏らしながら頭を抱える。
「えっ!?もしかしてネロとプティにも、そういうの考えないと駄目だったりする!?駄目だぞ!!お父さん許しません!!!」
今回、婚活の話が出てきたオリビアと、ユーリの娘であるネロとプティは年の頃ならば同じくらいに見える。
それに思わず、彼女達が嫁に行く姿を想像したユーリは、椅子から立ち上がると大声でそう叫んでいた。
「いやいや、オリビアは貴族の娘だからだろ!うんうん、そうだよな!だったらまだ二人は・・・あれ、あの二人も俺の娘って事は貴族の娘になるのか?・・・止そう、この事を深く考えるのは」
まだ幼いオリビアが婚活を焦るのは、それが貴族の娘だからだ。
そう考えれば、ネロとプティはまだ大丈夫なはず。
それで安心しようとしていた彼はしかし、自分もまた貴族であることを思い出すと表情を暗くしてしまっていた。
「はぁー・・・そっかぁ。そうなると、エスメラルダもそろそろそういう話も出てくる頃なのかなぁ。皆、元気にしてるかな?」
ユーリにはもう一人、同じ年頃の知り合いがいた。
それは彼の腹違いの妹、エスメラルダ・オブライエンであった。
もう随分と会っていない彼女の事を思い出しながら、ユーリは窓の外へと視線を向ける。
「はっ!いけないいけない!仕事しないと・・・それにしても、オリビアの縁談が破談にねぇ。何でなんだろう、流石にそこまでは聞けなかったけど・・・あんなに可愛いのに。確かに少し我侭な所はあるけど、俺だったら―――」
つい物思いに耽っていたユーリは、仕事の事を思い出すと慌てて机へと向かう。
しかしそれでも彼は、オリビアの婚活の事が気になっているようだった。
「匿ってくださいまし!!」
そこに、件のオリビアが扉を勢いよく押し開いて現れる。
「オ、オリビア様!?あわわわわっ!!?」
彼女の登場に激しく動揺するユーリは、思わず机の上に広げていた書類をぶちまけてしまう。
「・・・何をしてますの?」
そんなユーリの姿に、オリビアは呆れたようにそう呟いていた。
キッパゲルラ領主ユークレール家の館、通称「放蕩者の家」。
その主の部屋、つまりヘイニーの執務室に呼び出されたユーリは、そう疑問を口にしていた。
「はい。その手配をユーリさんに頼みたいのです」
「はぁ、それはいいんですけど・・・何でその事をわざわざここで?別にそれならいつもみたいに、何かのついででも良かったんじゃ・・・」
娘であるオリビアの誕生会の手配を、彼が雇っているユーリに頼む。
それ自体は何の変哲もない出来事であったが、それを告げられた場所が問題であった。
ヘイニーの執務室、ユーリがその部屋に足を踏み入れる事など、初めてこの館に招かれたその日以来なかった事だ。
今やこの領内の仕事を全て任せていると言っても過言ではないユーリとヘイニーは、日々何かにつけて顔を合わせている。
それならばその時に話せばよかったのにと、ユーリは首を捻っていた。
「いや実はですね・・・オリビアにも秘密で頼みたい事がありまして」
ユーリの疑問にヘイニーは若干言い淀むと、実は内密に頼みたい事があるのだと打ち明ける。
「あぁ、そういう事ですか。それで、その頼みとは?」
「それはですね・・・」
その言葉に得心したと頷くユーリにヘイニーはキョロキョロと周りを窺い、そこに人気がない事を確認すると、そっとユーリの耳元でその頼みごとを囁いていた。
「はぁー・・・婚活かぁ」
自らの執務室へと帰ってきたユーリは両足を伸ばしながら、そう嘆息を漏らす。
「そうだよなー、オリビアもそういうお年頃だもんなー。はぁー・・・何かショックだわぁ」
ヘイニーの頼み事、それはオリビアの婚活についてだった。
身近な、しかもまだ年若い少女のそういった話しに、何故かショックを受けているユーリは溜め息を漏らしながら頭を抱える。
「えっ!?もしかしてネロとプティにも、そういうの考えないと駄目だったりする!?駄目だぞ!!お父さん許しません!!!」
今回、婚活の話が出てきたオリビアと、ユーリの娘であるネロとプティは年の頃ならば同じくらいに見える。
それに思わず、彼女達が嫁に行く姿を想像したユーリは、椅子から立ち上がると大声でそう叫んでいた。
「いやいや、オリビアは貴族の娘だからだろ!うんうん、そうだよな!だったらまだ二人は・・・あれ、あの二人も俺の娘って事は貴族の娘になるのか?・・・止そう、この事を深く考えるのは」
まだ幼いオリビアが婚活を焦るのは、それが貴族の娘だからだ。
そう考えれば、ネロとプティはまだ大丈夫なはず。
それで安心しようとしていた彼はしかし、自分もまた貴族であることを思い出すと表情を暗くしてしまっていた。
「はぁー・・・そっかぁ。そうなると、エスメラルダもそろそろそういう話も出てくる頃なのかなぁ。皆、元気にしてるかな?」
ユーリにはもう一人、同じ年頃の知り合いがいた。
それは彼の腹違いの妹、エスメラルダ・オブライエンであった。
もう随分と会っていない彼女の事を思い出しながら、ユーリは窓の外へと視線を向ける。
「はっ!いけないいけない!仕事しないと・・・それにしても、オリビアの縁談が破談にねぇ。何でなんだろう、流石にそこまでは聞けなかったけど・・・あんなに可愛いのに。確かに少し我侭な所はあるけど、俺だったら―――」
つい物思いに耽っていたユーリは、仕事の事を思い出すと慌てて机へと向かう。
しかしそれでも彼は、オリビアの婚活の事が気になっているようだった。
「匿ってくださいまし!!」
そこに、件のオリビアが扉を勢いよく押し開いて現れる。
「オ、オリビア様!?あわわわわっ!!?」
彼女の登場に激しく動揺するユーリは、思わず机の上に広げていた書類をぶちまけてしまう。
「・・・何をしてますの?」
そんなユーリの姿に、オリビアは呆れたようにそう呟いていた。
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