【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく

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第一章 最果ての街キッパゲルラ

誕生会

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「あ、本当にこれで入れるんだ」
「だから言ったろ?ほらもう始まってるんだ、急ごうぜ」
「あ、おい!ったく・・・」

 最果ての街キッパゲルラその領主の館である「放蕩者の家」は、その名が示す通り巨大な建物であった。
 そしてその巨大な建物に相応しい敷地も持っており、その中には広々として庭園も設けられていた。
 その庭園に、今日は多くの人が溢れていた。

「・・・どうして、このような事に」

 目の前の招待客がいなくなるのを待って、その下げた頭をゆっくりと上げたユークレール家執事バートラムはそう呟く。
 彼の視界の中には、このような立派な建物には相応しくないような雑多な人々の姿があった。

「いいじゃないか、バートラム。これはあの子の誕生会なんだ、あの子の望んだようにやらせてやれば」
「旦那様・・・」

 そんなバートラムに気楽な様子で彼の主人、ヘイニーが声を掛けてくる。
 そう彼が口にした通り、今日は彼の娘であるオリビアの誕生会なのであった。

「それにほら、あれを見てみるといい」
「あれ?・・・あ、あれは!?」

 ウエルカムドリンクの類いだろうか、何か飲み物を片手に抱えたヘイニーは、誕生会の会場の方を指し示す。
 バートラムがそちらに視線を向ければ、そこには招待客に囲われ楽しそうに笑っているオリビアの姿があった。



「お、お招きいただき!光栄でございます、オリビア様」

 前回のお出かけの時とは違い、今のオリビアは貴族としての正装、しかも自分の誕生会という場に相応しく煌びやかに着飾っていた。
 そんな彼女の前に立ったためか、若い招待客は緊張した面持ちで挨拶する。

「まぁ!そんな緊張なさらないで、楽にしてよろしいのよ?貴方も立派な招待客のお一人なのですもの」

 オリビアはそんな彼に対して両手を合わせて驚いて見せると、優しい口調でそんなに緊張しなくていいのだと語り掛けていた。

「そ、そうか俺も招待客の一人なんだ・・・ふぅ~、緊張して損したぁ」
「あはははっ、その調子ですわ!歓迎のお料理もたっぷり用意してありますの、楽しんでいらして」
「えっ!?あれ全部食べてもいいのか!?やっりー!!」

 オリビアの言葉に一気に緊張を解した若い招待客は、彼女が示した先にある豪勢な料理に目を輝かせると、そのままそこに突撃していく。

「あぁもう!すみません、うちのがご迷惑おかけして・・・」
「あら、構いませんのよ?」
「あはは、そう言ってもらえると助かります」

 早速料理が盛られているテーブルへと取りつき、その上の料理を貪り食っている若い招待客に代わって、その奥さんと思われる女性がオリビアに謝ってくる。
 それに何も気にする事はない小首を傾げて見せるオリビアに、女性はホッとしたようだった。

「あの、この前の広場でやってた大道芸?見ました。凄かったです!!」 
「ふふーん、そうでしょうそうでしょう!あの方達の芸も中々に素晴らしくはありましたけれど・・・やはり私という華があったからこそ、あれほど盛り上がりを見せたのですわ!!」

 この間、オリビアが「青の広場」で見せたパフォーマンスが凄かったと褒め称える女性に、オリビアは上機嫌に笑い声を上げる。
 彼女の周りには同じくそれを目撃した者達が集まり、それを口々に褒め称えていた。

「今日は貴族の招待客も多いんだからな。くれぐれも、くれぐれも!穏便にな!」
「はい、畏まりましたマスター」

 そんな彼らの様子を少し離れた所から見守っているユーリは、そうエクスに言い聞かせていた。
 オリビアの誕生会、そこには彼らのような庶民だけではなく、近隣の領地から招かれた貴族達も多数参加していた。
 そんな相手に問題を起こしたら堪らないと強く言い聞かせるユーリに、エクスもキリリとした表情で了承していた。

「あの、オリビア様・・・あの仕切りみたいなのは何なんでしょう?」

 オリビアを取り囲んでいる招待客の一人が、ある場所を指差している。
 そこにはこちら側と仕切るようにリボンで出来た壁が並んでおり、その向こう側には誕生会を象徴するような巨大なケーキも鎮座していた。

「あぁ、あれは・・・向こうは貴族用の会場になっているのですの」

 それにオリビアは、それが貴族用の会場と一般客用の会場を分ける仕切りだと答えていた。

「なるほど、そりゃそうだよな。ここにはお貴族様も来てるんだもんな」
「おいおい、目の前にもそのお貴族様がいらっしゃってるんだぞ」
「はははっ、そうだったそうだった!」

 貴族用と一般人用とで場所を分けられ、明らかに貴族用の方が豪華であっても、招待客達はそれが当たり前だと笑っている。
 事実それは当たり前なのだ、彼らにとってはこの場に自分達がいる事ですら異常な事であったのだから。

「私はそのようなもの必要ないと申しましたのですけど・・・」

 しかしそんな当然の措置すらも、オリビアは必要ないのにと口にする。

「「えっ!?」」

 彼女の言葉に、周囲の人々は驚き言葉を失っていた。

「皆様も、そうは思いません?」
「い、いや・・・流石にそれは。貴族様の方が嫌がるんじゃないかなーって、なぁ?」
「そ、そうですよ!俺達はここでも十分ですから!」

 オリビアはその有り得ない言葉に、周りにも同意を求めている。
 それに周りの者達は戸惑い、その必要はないと口々に話す。
 そして事実、彼らが口にするような存在が、この会場の向こう側から彼らの事を憎々しげに見詰めていたのだった。
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