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第一章 最果ての街キッパゲルラ
策謀する女レジー
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「・・・始まったか」
全身を覆うような外套を身に纏った男は、顔を覆うフードを捲りながらそう呟く。
そこから現れたくすんだ金髪を風になびかせる男が見上げた先からは、微かに多くの兵達がぶつかり合うような激しい物音が聞こえてきていた。
「さっきの鐘の音は何だったのかしら?」
その金髪の男、マルコムの前には彼らを先導するように歩く黒髪の受付嬢、レジーの姿があった。
彼女はどうやら、先ほど街中に響き渡った鐘の音が気になっているようで、周囲を窺うように首をキョロキョロと動かしている。
「おい、レジーさんだったか?あんたは俺達を案内するためにここにいるんだろう、少しは真面目に仕事したらどうなんだ?」
マルコムはそんなレジーの肩を掴むと、背後を示しながら声を掛ける。
マルコムが示した先には、彼と同じような格好した男達が数人立っており、それらは恐らく彼と同じ黒葬騎士団の面々であるようだった。
「っ!言われなくても、そのつもりよ!こっちよ、ついて来なさい!!」
「はいはい・・・」
レジーは馴れ馴れしく肩を掴んできたマルコムの手を振り払うと、不機嫌な足取りで暗い路地へと足を進める。
彼女の態度に肩を竦めたマルコムは、背後の同僚に顎をしゃくって合図を送るとその後ろをついて行く。
「随分と狭い道を選んで通るんだな、本当にこっちであってるのか?」
マルコム達を扇動するレジーは、どんどんと暗く狭い路地へと足を進めていく。
その外套の下に鎧を着こんでいるのか、身体を横にしては苦労して何とかそこを通り抜けているマルコムは、不審な表情でレジーにそう声を掛ける。
「黙ってついて来なさいよ。あんたが言ったんでしょ、自分の仕事をしろって。この先に『放蕩者の家』に繋がる秘密の通路があるのよ」
「その『放蕩者の家』ってのが、ここの領主の館だったか?へぇ、やっぱり冒険者ギルドってのは、そういう情報も入ってくるもんなのか?」
マルコムのこちらを疑う言葉に、レジーは皮肉の籠った言葉で返している。
彼女はこの先に、このキッパゲルラの領主の館である「放蕩者の家」に繋がる秘密の通路があるのだと、更に奥まった路地を指し示す。
彼女のその言葉に、マルコムは感心した表情を見せていた。
それは騎士である彼にとって冒険者ギルドというのは遠い、未知の存在であったからだ。
「ついたわよ」
マルコム達を先導していたレジーは不意に立ち止まると、そう呟く。
しかしそこは、その先に行き場のない袋小路であった。
「ついただって?だが、ここは・・・おい、どこに行くつもりだ!」
その事実に、マルコムは怪訝そうに首を捻る。
そんな彼の目の前で突然、レジーが駆けだそうとしていた。
「っ!?放しなさいよ、この!!」
「いいや、放せないね!あんた、これはどういうつもり―――」
明らかに逃げようとしているレジーを、マルコムは見逃しはしない。
彼は彼女の手を掴むと、無理やり引き戻しその耳元で叫ぶ。
「いいや、放してもらうぜ。金髪の伊達男さんよぉ」
そのマルコムの言葉を遮るように、野太い男の声が響く。
それは大柄な冒険者、オーソンのものであった。
そして彼の周囲からは、どこに潜んでいたのか彼と似たような格好の、恐らく冒険者と思われる者達がぞろぞろと姿を現している。
「なっ、これは・・・しまった!?」
突如現れた敵の姿に、マルコムは気を取られてしまう。
レジーはその隙をついて彼の手を振り払うと、そのまま逃げだしていく。
「俺達を騙したのか!?ユーリに復讐したかったんだろう、あんたは!それも嘘だって言うのか!?」
マルコムの手から逃れたレジーは、慌てて仲間達へと合流するとオーソンの背後へと隠れる。
そんな彼女に対して、マルコムは彼女に強かに打ち払われた手を抱えながら叫ぶ。
ユーリへの復讐を誓った事すら、嘘だったのかと。
「うぅん、あいつは嫌いよ!復讐出来るなら、喜んでやるわ。でもね・・・それ以上に、この街に!私の愛するこの街に!害を為そうとする奴らが、私は大っ嫌いなのよ!!」
マルコムの言葉に首を横へと振ったレジーは、ユーリの事は嫌いだと声を上げる。
しかし彼女はそれ以上に、この街に害を為そうとするマルコム達が許せないのだと胸を叩きながら叫んでいた。
「はっ、聞いた手前ら!我らが女神様のお怒りだ!!ここで黙ってられるような奴は、まさかここにはいねぇよなぁ?」
「「おぉ!!」」
レジーの啖呵を引き継いで、オーソンがその場に集まった冒険者を煽るように言葉を重ねる。
その言葉にこぶしを掲げた、彼らの気合は十分だ。
「へっ、じゃあいっちょ・・・ひと暴れと洒落込みますかぁ!!!」
彼らの反応に鼻を弾いたオーソンは、その得物である斧を掲げると雄叫びを上げる。
そして彼を先頭にして、冒険者の一団はマルコム達へと挑みかかっていくのだった。
「もぅ・・・茶化さないでよ」
そんな彼らの背後では、顔を真っ赤に染めたレジーがそう呟いていた。
全身を覆うような外套を身に纏った男は、顔を覆うフードを捲りながらそう呟く。
そこから現れたくすんだ金髪を風になびかせる男が見上げた先からは、微かに多くの兵達がぶつかり合うような激しい物音が聞こえてきていた。
「さっきの鐘の音は何だったのかしら?」
その金髪の男、マルコムの前には彼らを先導するように歩く黒髪の受付嬢、レジーの姿があった。
彼女はどうやら、先ほど街中に響き渡った鐘の音が気になっているようで、周囲を窺うように首をキョロキョロと動かしている。
「おい、レジーさんだったか?あんたは俺達を案内するためにここにいるんだろう、少しは真面目に仕事したらどうなんだ?」
マルコムはそんなレジーの肩を掴むと、背後を示しながら声を掛ける。
マルコムが示した先には、彼と同じような格好した男達が数人立っており、それらは恐らく彼と同じ黒葬騎士団の面々であるようだった。
「っ!言われなくても、そのつもりよ!こっちよ、ついて来なさい!!」
「はいはい・・・」
レジーは馴れ馴れしく肩を掴んできたマルコムの手を振り払うと、不機嫌な足取りで暗い路地へと足を進める。
彼女の態度に肩を竦めたマルコムは、背後の同僚に顎をしゃくって合図を送るとその後ろをついて行く。
「随分と狭い道を選んで通るんだな、本当にこっちであってるのか?」
マルコム達を扇動するレジーは、どんどんと暗く狭い路地へと足を進めていく。
その外套の下に鎧を着こんでいるのか、身体を横にしては苦労して何とかそこを通り抜けているマルコムは、不審な表情でレジーにそう声を掛ける。
「黙ってついて来なさいよ。あんたが言ったんでしょ、自分の仕事をしろって。この先に『放蕩者の家』に繋がる秘密の通路があるのよ」
「その『放蕩者の家』ってのが、ここの領主の館だったか?へぇ、やっぱり冒険者ギルドってのは、そういう情報も入ってくるもんなのか?」
マルコムのこちらを疑う言葉に、レジーは皮肉の籠った言葉で返している。
彼女はこの先に、このキッパゲルラの領主の館である「放蕩者の家」に繋がる秘密の通路があるのだと、更に奥まった路地を指し示す。
彼女のその言葉に、マルコムは感心した表情を見せていた。
それは騎士である彼にとって冒険者ギルドというのは遠い、未知の存在であったからだ。
「ついたわよ」
マルコム達を先導していたレジーは不意に立ち止まると、そう呟く。
しかしそこは、その先に行き場のない袋小路であった。
「ついただって?だが、ここは・・・おい、どこに行くつもりだ!」
その事実に、マルコムは怪訝そうに首を捻る。
そんな彼の目の前で突然、レジーが駆けだそうとしていた。
「っ!?放しなさいよ、この!!」
「いいや、放せないね!あんた、これはどういうつもり―――」
明らかに逃げようとしているレジーを、マルコムは見逃しはしない。
彼は彼女の手を掴むと、無理やり引き戻しその耳元で叫ぶ。
「いいや、放してもらうぜ。金髪の伊達男さんよぉ」
そのマルコムの言葉を遮るように、野太い男の声が響く。
それは大柄な冒険者、オーソンのものであった。
そして彼の周囲からは、どこに潜んでいたのか彼と似たような格好の、恐らく冒険者と思われる者達がぞろぞろと姿を現している。
「なっ、これは・・・しまった!?」
突如現れた敵の姿に、マルコムは気を取られてしまう。
レジーはその隙をついて彼の手を振り払うと、そのまま逃げだしていく。
「俺達を騙したのか!?ユーリに復讐したかったんだろう、あんたは!それも嘘だって言うのか!?」
マルコムの手から逃れたレジーは、慌てて仲間達へと合流するとオーソンの背後へと隠れる。
そんな彼女に対して、マルコムは彼女に強かに打ち払われた手を抱えながら叫ぶ。
ユーリへの復讐を誓った事すら、嘘だったのかと。
「うぅん、あいつは嫌いよ!復讐出来るなら、喜んでやるわ。でもね・・・それ以上に、この街に!私の愛するこの街に!害を為そうとする奴らが、私は大っ嫌いなのよ!!」
マルコムの言葉に首を横へと振ったレジーは、ユーリの事は嫌いだと声を上げる。
しかし彼女はそれ以上に、この街に害を為そうとするマルコム達が許せないのだと胸を叩きながら叫んでいた。
「はっ、聞いた手前ら!我らが女神様のお怒りだ!!ここで黙ってられるような奴は、まさかここにはいねぇよなぁ?」
「「おぉ!!」」
レジーの啖呵を引き継いで、オーソンがその場に集まった冒険者を煽るように言葉を重ねる。
その言葉にこぶしを掲げた、彼らの気合は十分だ。
「へっ、じゃあいっちょ・・・ひと暴れと洒落込みますかぁ!!!」
彼らの反応に鼻を弾いたオーソンは、その得物である斧を掲げると雄叫びを上げる。
そして彼を先頭にして、冒険者の一団はマルコム達へと挑みかかっていくのだった。
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