【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく

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第一章 最果ての街キッパゲルラ

マービン・コームズは不敵に笑う

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「何だあれは?あんなもの聞いていないぞ?」

 領主の館である「放蕩者の家」、その百戸回廊と呼ばれる長い廊下で窓の外へと視線を向けているフードの男は、そう呟く。
 彼の視線の先には、街の建物がミニチュアに見えるほどに巨大なドラゴンの姿があった。

「おや、あれも貴方の計画の内ではないのですか?」

 窓の外に突如出現したその巨大な化け物の姿に、フードの男は動揺しているように見える。
 それが不思議だと、尋ねる声がした。

「いや、あれは私の計画では・・・っ、誰だ!?」

 予想だにしない事態に油断していたのか、フードの男はそれに思わず答えようとしていた。
 しかし彼はその途中で気付く、その声が先まではいなかった男のものであるという事に。

「おや、それは意外ですな。では、あれは貴方の配下が勝手にやったと?それは少々・・・手綱が緩いのではないですかな?」

 いきなり現れた男に、フードの男は警戒して距離を取る。
 影となっていた場所からこちらへと歩み寄り、光に照らされたのは恰幅の良い人の良さそうな男であった。

「マービン、来てくれたのか!」
「えぇ、ご安心くださいオリビア様。御身はこのマービン・コームズがお守りいたします。ユーリさんにも約束しましたからね」

 その男はユーリの知り合いであり、この館にも度々出入りしている商人、マービン・コームズであった。
 彼はその姿に安堵し、フードの男に身動きが出来ないオリビア達は嬉しそうに声を上げる。
 そんな彼女達にマービンは礼儀正しくお辞儀をすると、冗談めかしてウインクして見せていた。

「ふんっ、いきなり現れたのは驚いたがな・・・マービン・コームズ、商人風情が私を止められるとでも思ったか?思い上がるなよ!!」

 まるで、自分などどうにでも出来るという態度を見せるマービンに鼻を鳴らしたフードの男は、その腰の剣を抜き放つと彼へと挑みかかる。

「マービン!!」
「おや、私の名前をご存じで?では、これもご存じですかな?」

 マービンへと襲い掛かるフードの男に、オリビア達から悲鳴が上がる。
 しかしそれを聞いても余裕の態度を崩さないマービンは、その懐から何か植物の実らしきものを取り出していた。

「そんなもの、私が知る訳がないだろう!!」

 その正面に棘が生えている植物の実を、マービンはフードの男へと投げつける。
 彼はそれを切り払うと、そのままマービンへと突っ込んでいこうとしていた。

「きゃあああ!?」
「お嬢様、見てはなりません!!」

 最後の悪あがきもあっさりと突破されてしまったマービンの姿に、オリビアが悲鳴を上げる。
 リリィはそんなオリビアを悲惨な場面から守るように、何とかその身体を彼女の前へと乗り出していた。

「えっ・・・こ、これは?マービン様、一体何を・・・?」
「リリィ?ねぇ、どうなりましたのリリィ!?」

 しかしリリィの口から次に出た言葉は、悲劇を目撃したものではなく、何か理解出来ないものを目にしたというものであった。

「ぐっ!?何だこれは!?貴様、何をした!?」

 悔しげに呻くフードの男、彼の魔の手はマービンへと届く寸前に止まっていた。
 それは何故か、その理由は彼の身体を見れば明らかであった。

「それですか?先ほどのこれですよ。貴方はご存じではなかったようですが、これはうちが開発した商品の一つでして・・・正式名称はまた別にあるのですが、私共のその性質から『鳥もちの実』と呼んでいるものでして。効果のほどは・・・まぁ、説明するまでもありませんな」

 フードの男の身体は、白く粘つく何かによって拘束されてしまっていた。
 それは何だと尋ねるフードの男に対して、マービンは先ほど彼に投げつけた植物の実を取り出していた。

「『鳥もちの実』だと?そんなもの、ある訳がないだろう!?」
「いや、それがあるんですよこれが。最果ての街とはよくぞ言ったものですな、王都とはまるで世界が違う。これも今は冒険者用のグッズとして販売している程度ですが、ゆくゆくはこの粘着成分を何か別のものとして使えないかと考えている所なのですよ」

 一つ一つの実の大きさからは考えられないほどの粘液の量、そしてその異常な粘着性の強さに、こんなものが自然に存在する訳がないとフードの男は叫ぶ。
 彼のそんな慟哭を聞いても、マービンの余裕な態度は変わる事はなく、彼はこの場所を示すように窓の外へと視線を向けていた。

「これを何か別のものに使えないかだと・・・?ふざけているのか、貴様は!!」
「いえいえ、真剣ですよこちらは?ま、それは今はいいでしょう。お二方!もう大丈夫です、ご安心ください」

 呑気に商品開発の展望を語るマービンに、フードの男はその額に青筋を立てると怒鳴り散らす。
 彼の言葉に失敬なと不満な表情を見せたマービンはしかし、今はそれどころではないとオリビア達の方へと駆け寄っていく。

「助かりましたわ、マービン。後でお父様からもお礼を・・・あぁ!?」
「ど、どうなさいましたかお嬢様!?まさか、どこかお怪我でも!?」

 マービンによって拘束を解かれたオリビアは、彼にお礼を述べている。
 しかしその途中何かに気付いたかのように声を上げた彼女に、リリィは顔を真っ青に染めると口元を押さえていた。

「あれは、あれはどうすればいいんですの!?あんなものがいては、私達の街が大変ですわ!!マービン、私達はどうすれば!?」

 オリビアが声を上げたのは、窓の外に見える巨大な怪物の存在を思い出したからであった。
 それに取り乱すオリビアを横目に、リリィは彼女に怪我がなかった事に胸を撫で下ろしているようだった。

「大丈夫です、オリビア様。信じましょう、彼らを」

 取り乱すオリビアにマービンはその肩へと手をやると、優しく語りかける。
 彼はこんな絶望的な状況にあっても、まるで希望を失っていないようだ。

「彼らを信じる?・・・あっ、そうでしたわ!私達には彼らが・・・」

 マービンが口にした言葉に首を捻っていたオリビアも、やがて気づくだろう。
 こんな絶望的な状況でも、決して揺らぐことのない希望の象徴の存在を。

「ユーリ達がいるのでしたわね!!」

 オリビア達はその彼ら、ユーリ達がいる戦場の方へと視線を向ける。

「信じるだと?そんなものが何になる・・・貴様らの希望は、ここで潰えるのだから」

 そんな彼らの言葉を耳にして、フードの男が唇を歪ませながらそう呟く。
 彼の顔を隠しているフードは、全身を覆う衣装の一部だ。
 つまりは、彼の身を拘束している「鳥もちの実」は全て、その衣装に張り付いている事になる。
 彼は今、それを脱ぎ放っていた。

「おおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」

 拘束から脱したフードの男は、雄叫びを上げながらオリビア達へと挑みかかる。
 彼の目の前のオリビア達は今、明後日の方へと顔を向け、隙だらけな姿を晒していた。
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