【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく

文字の大きさ
124 / 210
第二章 王国動乱

終わりと始まり

しおりを挟む
「ヌーボ、ガララ!!今すぐ、あの男を!ユーリ・ハリントンを連れてくるのだ!!余、自らがその首を・・・ヌーボ、ガララ?どうした、何故返事をせぬ!!」

 扉を押し潰すような勢いで自らの部屋へと足を踏み入れたジョンは、その激しい物音を掻き消すような大声で、そこで待っている筈の召使を呼びつける。
 しかし、その声に返事はない。

「お前達まで・・・お前達まで、余を裏切るのか!!!」

 部屋の中を見回しても誰の姿もない静寂に、硬質な音が鳴り響く。
 それはジョンが頭に被っていた王冠を床に叩きつけ、それをさらに蹴りつけた音であった。

「余は、余は王なのだぞ!?それなのに、それなのに何故誰も余に従わぬ!!誰も余を敬わぬ!!何故だ!?」

 荒れるジョンは、室内を滅茶苦茶に荒らしながら暴れまわる。
 しかし子供の腕力では、王のために設えられた高級な家具や衣服の丈夫さを上回ることが出来ず、碌に破壊する事すらままならない。

「余のものなら・・・余によって破壊されよ!!」

 自らのものすら自らの手によって破壊出来ない、そのストレスにジョンは頭を掻き毟る。
 彼のその綺麗な金色の髪にうっすらと朱色が混じり始める頃、彼は視界の端に映った金属製のスタンドを引っ掴んでいた。

「こんなもの・・・こんなものぉぉぉ!!!」

 それを涙を浮かべながら、床に叩きつけようとするジョン。
 その勢いに細い金属製のスタンドはしなり、取り返しがつかないほどに歪んで曲がる。

「オハヨー、オハヨー!」

 その時、金属製のスタンドの先から間の抜けた声が響く。

「・・・ふっ、ふふふっ、ふははははっ!そうか、そうだったな。余にはまだ貴様がいたのだったな、『オウム』よ」

 金属製のスタンド、それはその先端に鳥籠をぶら下げたものであった。
 その中には、彼の召使であるヌーボが飼っているオウム、ジョンが「オウム」と名づけたオウムが鳥籠の中でぶら下がっていた。
 全ての者から見捨てられたと感じ、孤独の中で怒り狂っていたジョンにとって、その存在は思わず笑い声を堪えきれなくなってしまうものであった。

「すまなかったな、住処を荒らしてしまって。ふむ、バランスが悪いな・・・待ってろ、今何か別のものを探してきてやろう」

 オウムの間の抜けた声を聞いたからか、それともその存在に一人ではないと知ったからか、ジョンはすっかりその怒りを収めていた。
 元に戻そうとしたスタンドは、それを叩きつけようとした彼によって歪み、うまく立たせることが出来ずに今にも倒れそうだ。
 それを目にしたジョンはオウムから背を向けると、代わりのものを探そうと部屋の中を探り始めていた。

「オーサマ、オーサマ!」

 そんな彼を応援するように、オウムがスタンドを揺らしながら間の抜けた鳴き声を上げる。

「・・・王様だと?今、余を王様と呼んだか?」

 しかしその言葉は、今のジョンにとっては呪いの言葉にもなる。
 王様と呼ぶその声に、ジョンはゆっくりと振り返るとオウムの下へと近づいていく。

「この余を!誰も従う者がおらず、貴様のようなバカ鳥を供にするしかない余を王と呼ぶか!?侮辱しているのか、貴様は!!!」

 目を血走らして鳥籠の戸を開いたジョンは、その中のオウムを掴み取る。

「オーサマ、オーサマ、オー・・・」

 そして彼は怒りに任せ、腕に力を込める。
 彼の腕の中から響いてきていた間抜けな鳴き声はやがて、聞こえなくなっていた。



「お、王様!お、王様の、こ、好物を作ってもらってきたんだな!」
「おい、先に言うんじゃねぇよ!このウスノロ!!へへっ、王様。王様の好物の木苺のプディングでさぁ!こいつはあっしが、あっしが考えた事でして!これでも食べて機嫌をと・・・王様?」

 奇妙なほどの沈黙に包まれている王の寝室に、ヌーボとガララの騒がしい声が響く。
 彼らが手にする皿の上には、山のような量のフルフルとした物体の上に、真っ赤なジャムがたっぷりと掛かっている料理が盛り付けられていた。

「・・・何だ、お前達。今までどこに行っていたのだ、探したのだぞ?」

 彼らの前には、それ以上に真っ赤に染まったジョンの姿が。
 そしてその足元には、彼と同じように、いやそれ以上に真っ赤に染まった何かの姿があった。

「へ?王様、何ですかいそれは?ま、まさか・・・」

 それの正体に気付くのは、ガララの方が早い。
 彼はそれに気が付くと、何かを心配するようにヌーボの方を見上げる。
 そんな彼の目の前でヌーボが皿を取り落とし、その部屋にまた一つ赤い染みを作っていた。

「オ、オウム?し、死んじゃったのかぁ?な、なぁ、お、王様。お、王様が、お、おでの、オ、オウムを、こ、殺したのかぁ?」

 ヌーボは微かに震えながら、ジョンにそう尋ねる。
 彼のその言葉には、ジョンにそれを否定して欲しいという願いが込められていたのだろう。

「あぁ、そうだ。それの何が問題なのだ?王である余がいらぬと思ったから殺した、それだけであろう?」

 しかしその願いは、儚く散っていく。
 ジョンはヌーボの言葉に肩を竦めると、悪びれることなく自分がそれを殺したと口にする。
 彼はその背後のオウムの死体へと目をやると、ゴミ屑でも見下すような瞳でそう吐き捨てていた。

「お、お、お、お、おおおぉぉぉぉぉぁざまぁぁぁぁぁ!!!」

 ジョンが告げた言葉を、ヌーボは否定するように首を横に振る。
 しかしやがて彼は全てを理解すると俯き、やがて顔を上げた。
 そして彼は雄叫びを上げる、親友を奪われた怒りを込めて。

「止めろヌーボ!そいつはいけねぇ!!それをしちまったら俺達がどうなるかなんて、お前が一番知ってるだろう!?だったら止めろ、ヌーボ!!俺を一人にするんじゃねぇ!!」

 そんな彼を、ガララが必死に抱き着いては止めようとしている。
 普段はヌーボを馬鹿にしているガララが涙を浮かべて必死に訴えるその姿は、彼らの間にある強い絆を感じさせた。

「ガ、ララ・・・?」

 ガララの必死の呼びかけに、ヌーボは寸前で正気を取り戻す。
 彼の巨大な手は、あと少しの所でジョンの小さな頭を捉えようとしていた所で止まっていた。

「ひっ!?」

 すぐ目の前にまで迫っていた死にジョンは怯え、悲鳴を漏らしては後ずさる。
 その背後には、彼が殺したオウムの死体があった。

「お、おぉ・・・へへっ、焦らせやがって!だからてめぇはウスノロってんだよ!王様、すいやせんでした!今後はこういう事がないようにきつく言っときますんで、ここは俺の顔に免じて・・・王様?」

 正気を取り戻したヌーボに、安堵の表情を浮かべるガララ。
 ガララはヌーボの頭を引っ叩くと、彼の身体から下りて床へと降り立つ。
 そうしてジョンへと視線を向けた彼は、その姿勢のまま固まってしまっていた。

「あっ、あっ、あぁ!?」

 自らが殺したオウムの死体、その血の濡れた塊に躓き足を滑らせたジョンは、そのままバランスを崩し部屋の外、バルコニーにまで後ずさってしまう。
 そして彼は今、そのバルコニーの手すりへと乗り上げ、そこから転がり落ちてゆく。

「だ、誰か・・・助け―――」

 助けを求め、伸ばした手すら視界からすぐに消える。
 ぐしゃりと響いたその物音は、この世から失われた生命と同じように小さく響いて、すぐに消えた。

「お、王様?た、大変だ!た、大変だよ、ガララ!た、助けを、た、助けを呼ばないと!」
「馬鹿野郎!!そんな事してる場合じゃねぇって、分かんねぇのかこのウスノロ!!」

 王の死に動揺し慌てふためくヌーボに、ガララはぴしゃりと怒鳴りつけている。

「ほら、行くぞヌーボ!」
「い、行くって・・・ど、どこにだぁ?」
「あぁ、決まってんだろ?逃げるんだよ!!こんな事もあろうかとなぁ、誰にもバレずに逃げられるルートってのを調べておいたんだよ!ほら、急ぐぞ!!」
「お、おぉ!わ、分かっただぁ!」

 ガララに先導されて、訳も分からずその後をついて行くヌーボ。
 横暴なジョンに振り回されることに嫌気が差していたガララが事前に調べ上げていたルートは、大柄なヌーボを連れても脱出することの出来る見事な逃走経路であった。

「えっ、何あれ・・・嘘でしょ!?こ、これ陛下じゃ・・・だ、誰か!誰か来て!!陛下が、陛下がー!!!」

 そんな彼らの背後では、幼王ジョンの死体を見つけた誰かが上げる甲高い悲鳴が響き渡っていた。
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

「お前は用済みだ」役立たずの【地図製作者】と追放されたので、覚醒したチートスキルで最高の仲間と伝説のパーティーを結成することにした

黒崎隼人
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――役立たずの【地図製作者(マッパー)】として所属パーティーから無一文で追放された青年、レイン。死を覚悟した未開の地で、彼のスキルは【絶対領域把握(ワールド・マッピング)】へと覚醒する。 地形、魔物、隠された宝、そのすべてを瞬時に地図化し好きな場所へ転移する。それは世界そのものを掌に収めるに等しいチートスキルだった。 魔力制御が苦手な銀髪のエルフ美少女、誇りを失った獣人の凄腕鍛冶師。才能を活かせずにいた仲間たちと出会った時、レインの地図は彼らの未来を照らし出す最強のコンパスとなる。 これは、役立たずと罵られた一人の青年が最高の仲間と共に自らの居場所を見つけ、やがて伝説へと成り上がっていく冒険譚。 「さて、どこへ行こうか。俺たちの地図は、まだ真っ白だ」

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!

月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、 花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。 姻族全員大騒ぎとなった

婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです

藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。 家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。 その“褒賞”として押しつけられたのは―― 魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。 けれど私は、絶望しなかった。 むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。 そして、予想外の出来事が起きる。 ――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。 「君をひとりで行かせるわけがない」 そう言って微笑む勇者レオン。 村を守るため剣を抜く騎士。 魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。 物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。 彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。 気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き―― いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。 もう、誰にも振り回されない。 ここが私の新しい居場所。 そして、隣には――かつての仲間たちがいる。 捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。 これは、そんな私の第二の人生の物語。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...