【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく

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第二章 王国動乱

カンパーベック砦

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 森に生い茂る木々の間から、天高く聳える塔とそれに連なるように建っている砦の姿が見えていた。
 そこは王都から数日の距離にある、カンパーベック砦。
 王都が攻められた際には最終防衛ラインとして使われることが想定されたその砦は大きく、堅牢な作りとなっていた。

「ねぇねぇ、何でエメラダはこんな事知ってるのー?」
「うんうん。それにどうして私達にこんなに良くしてくれるの?そろそろ教えて欲しいな、な?」

 そのカンパーベック砦が見上げられる位置にある茂み、それがガサガサと揺れ動くとそこからぴょこんと二対の獣の耳が飛び出してきていた。

「ふふふ・・・それはね、私がエスメラルダ・オブライエンだからよ!」

 そしてそのすぐ近くから、今度は頭に葉っぱをたくさん引っ付けているふわふわの黒髪の少女の頭も飛び出してくる。

「えー!?それっておとーさんの・・・」
「だ、駄目だよネロ!それは秘密だって、おとーさんが!」

 飛び出した二対の耳と向き合うように振り返った黒髪の少女、エスメラルダが口にしたその事実に、ネロとプティの二人は驚いている。
 それは目の前の彼女、自分達のおとーさんの実の妹だと知ったからだ。

「ふふん、心配しなくても大丈夫よ二人とも、事情は分かっているもの。きっとユーリ兄様は、自分の生まれを周りには秘密にしているのでしょう?」

 オブライエン家を勘当されたユーリが、その生まれを秘密にしている。
 それはオブライエン家の影響力を考えれば、当然の事に思えた。
 ユーリがそれを秘密にしているのには実は、さらに複雑な事情があったのではあるが、それをエスメラルダに理解しろというのは些か無理な話であった。

「え、大丈夫なの?何だ、良かったー」
「えへへ、実はそうなんだ」

 そしてユーリの娘二人、ネロとプティもその辺の事情はあまりよく分かっていなかった。

「じゃあ、エメラダはおとーさんの妹なんだ!えーっと、それってどう呼ぶんだっけ?」
「えっとえっと、何て言うんだっけ・・・あっ、そうだ!おばさんだ、おばさん!」
「そーだ、おばさん!」

 ユーリがオブライエン家の生まれである事をエスメラルダの前では隠す必要がないと知った二人は、早速彼女の事をそう呼び始める。
 彼女達のその発言に、悪意はないだろう。

「お、おば・・・!!?」

 しかし自分と同じくらいの年頃の二人からそう呼ばれることは、エスメラルダにはショックだった。

「お、おほんっ!いい、二人とも?私の事はお姉様と呼ぶように、分かった?」
「えー?でもボクは、おばさんの方が呼びやす―――」
「分・か・っ・た・わ・ね?」
「「は、はーい」」

 彼女は立ち上がり、隠れていた茂みから上半身を露出させるとそう叫ぶ。
 そんな彼女の姿に、ネロとプティの二人も両手を茂みから突き出してそう答えていた。

「・・・で、俺もお姉様と呼んだ方がいいのかな?」
「貴方には言ってないで・・・えっ?」

 背後から突然上がったその声に、エスメラルダは振り返るとそう怒鳴りつけようとしていた。
 しかし彼女は背後に現れた存在の顔を見詰めると、凍り付いたように固まってしまう。
 それは今まさにカンパーベック砦から出てきたばかりといった出で立ちの、その兵士の顔を目にしたからであった。



「離しなさい!!私を誰だと思っているの!?ユーリ・オブラ・・・じゃなかった、ユーリ・ハリントンを出しなさい!!ここに来ているのは知ってるんだから!!」

 屈強な兵士に摘まみ上げられながら、エスメラルダは手足を暴れさせそう叫ぶ。
 ここは先ほどの景色とは一変した、石造りの建物の中。
 彼女達が先ほどまで見上げていた、あのカンパーベック砦の中であった。

「ユーリ・ハリントン?聞かねぇ名だなぁ?」
「・・・え?」

 彼女はここに詰めている筈のユーリの名を出し、それに取り次ぐように兵士に叫ぶ。
 しかしその兵士は、そんな名などとんと聞いた事がないと首を捻るばかりであった。

「ま、そういう事は後でじっくり聞いてやるからよ。ここでしばらく大人しくしといてくれや。ま、お嬢ちゃん達には、ちっときつい環境かもしれねぇけどな!がははははっ!!」

 エスメラルダの話を取り合わない兵士は、目的地であった牢屋まで辿り着くと、そこの鉄格子を開き彼女達を投げ入れる。
 そしてさっと鍵を掛け直すと下品な笑い声を上げ、ぶらぶらと足を遊ばせながら帰っていくのだった。

「そんな・・・懲罰部隊は確かにここに派遣されると聞いたのに」

 当てが外れたと、エスメラルダはがっくりと項垂れ床に蹲る。
 そんな彼女の傍には、ネロとプティが心配そうに集まってきていた。

「ねーさま、大丈夫かー?」
「お、落ち込んじゃ駄目ですねーさま!ねーさまのせいじゃないから、ね、ね?」

 エスメラルダの傍に集まってきた二人は、彼女に寄り添うようにピタリと肩を合わせると、心配そうにその顔を覗き込みながら声をかけてくる。

「貴方達・・・ふふっ、今度からはちゃんとお姉様って呼ぶのよ?」
「「うん、ねーさま!!」」
「・・・もうっ」

 慰める二人の距離は近く、その体温は絶望に蹲ったエスメラルダの心をも温める。
 その優しさに零れた涙を拭ったエスメラルダは笑みを漏らし、彼女達が口にした間違った呼称を改めるが、それは再び彼女達に元気よくそれを繰り返させるだけであった。

「んー・・・だ、誰だぁ?あ、新しい人が入ってきたのかぁ?」
「ちっ、んだよ。ただで狭いってのに・・・まだ増えんのかよ」

 牢屋に入ってきた彼女達に、元々そこに捕らわれていたのだろうずんぐりとした巨大な身体を持つ男と、その傍で寝転がっていた小柄な男が身体を起こす。

「「ヌーボ!!!」」

 そのずんぐりとした巨大な身体の男の姿を目にして、ネロとプティの二人は瞳を輝かせるとそう叫んだ。

「お、おぉ・・・ネ、ネロに、プ、プティ。ひ、久しぶりなんだな。あ、会えて嬉しいんだな」

 歓声を上げながら飛び込んでくる二人を、その大男ヌーボはニコニコと笑いながら抱き留める。

「おい、俺は?」

 その横では薄緑の肌をした小男、ガララが不満そうに自分の顔を指差していた。
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