【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく

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第二章 王国動乱

暴発

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「いたぞ、奴らだ!ジークの秘蔵っ子部隊だぞ!!」

 ある日は、リリーナ達の側から追われていた。

「向こうだ、向こうに逃げたぞ!追え!!」

 そしてまたあくる日は、フェルデナンド達の部隊から追われる。
 そうした日々を繰り返したユーリ達懲罰部隊は、急激に消耗していく。
 今や彼らは、文字通りの存在となろうとしていた。
 懲罰部隊、その言葉の意味通りの犯罪者集団へと。

「なぁ、その辺の商人でも襲って食い物を手に入れようぜ」
「あぁ、そうだよな。このままじゃ俺達・・・」
「おい、隊長達だ!へへっ、見回りご苦労さんです」

 今や懲罰部隊の中では、このような会話も珍しくはなくなってきていた。
 それも仕方のない事だろう、彼らは元々犯罪者の集団なのだ。
 それが碌に休む事も出来ず、食べ物もないとくれば、安易な道を選ぼうとしてしまって何も不思議ではない。

「不味い、ですよね・・・」
「えぇ、そうね。今はこうしてあたし達が見て回る事で何とかなってるけど・・・これもいつまで持つか」

 そんな彼らの様子に、ユーリは表情を曇らせる。
 彼らを何とか暴走させまいとユーリ達は見回りの頻度を増やし対応しているが、行く場所のない状況や食料の欠乏といった根本的な問題を解決しない限り、彼らは遠からず暴発してしまうだろう。

「でもさユーリ、もうそうするしかないんじゃないのかい?」
「ケイティ!?それはっ!」

 部隊を何とか略奪に走らせないように頭を悩ませているユーリ達に、ケイティが全く逆の事を提案する。
 そんな彼女に、ユーリはどこか裏切られたかのような表情を浮かべていた。

「分かってる、分かってるよあんたが言いたいことは!でもさあたいらは元々山賊さ、そういう事にだって慣れてる。だからあんた達が手を汚したくないってなら、あたいらが・・・」
「ケイティ、君は・・・」

 ユーリの反応に悲しそうな笑顔を見せたケイティは、自らの胸を示しては自分達は元々ならず者だと口にしている。
 彼女はユーリ達のためなら自分は進んで手を汚すと懇願した、彼女はそれを泣きそうな表情で口にしたが、それを聞いたユーリの胸も詰まり涙が溢れてしまいそうだった。

「街だ、街が見えてきたぞ!!」

 二つの勢力から追われているユーリ達は、そう簡単に止まることは出来ない。
 今も移動し続けていた彼らは、やがてどこか街の近くにまでやって来たらしい。
 その声に、周りからも歓声が上がった。
 何故なら街であれば、食料を調達出来るかもしれないからだ。

「良かったわねユーリちゃん、これで何とか・・・」
「はい、何とか食料が調達出来るかもしれませんね」
「この辺りだと・・・ティカロンかしら?行ったことはないけど、聞いた話では平和な良い街らしいわよ」

 街への到着で、ユーリ達の表情も明るい。
 しかしその街の名前をシャロンが口にした途端、何故かケイティの顔がサッと曇っていた。

「た、大変です兄さん!?若い奴らが街を襲うって飛び出して行っちまいやした!!他の連中もそれを見て後を追い出して・・・もう収拾がつきやせん!!」

 慌てた様子で駆け込んでくるエディ、彼はユーリの足元へと転がり込むと必死な表情でそう訴える。
 その背後ではエディの共に駆け込んできたデズモンドが、背後を気にするように頻りにそちらへと視線を向けていた。

「何だって!?街に略奪に行ったっていうのか!?そんな、それじゃまるで・・・犯罪者じゃないか」

 エディの報告にショックを受け、固まるユーリ。

「始めから、あたし達は犯罪者なのよユーリちゃん。冤罪で捕まった貴方とは違って、ね」

 そんなユーリへと視線を向けながら、シャロンは悲しい表情を浮かべてそう口にした。
 彼の言葉に、エディやデズモンド、ケイティも悲しそうに俯いていた。

「シャロンさん・・・でも、でもやっぱり駄目ですよこれは!!止めないと!」

 自分とシャロン達の間にははっきりとした溝がある、それを今初めて意識したユーリはしかし、それでも放っておけないと悲痛な声を上げる。

「えぇそうね、止めましょう。ケイティ、貴方の部隊はどれくらいで動かせる?」
「はっ、舐めてもらっちゃ困るねぇ!いつでも動かせるに決まってんだろ!!」
「ふふっ、流石ね。それじゃユーリちゃん」

 彼の声に応えるシャロンの表情には迷いはない、ケイティも初めからそのつもりだったと力強く頷いている。
 エディとデズモンドも無言で頷き、彼らは少しでも急ごうと残っていた数少ない馬を引っ張り出している。

「えぇ、行きましょう!!皆を止めに!」

 エディ達が連れてきた馬に飛び乗ったユーリは、そう宣言して駆け出してゆく。
 そのすぐ後ろにはケイティと部下達が続き、シャロン達はその後を少し遅れてついていく。

「もし、そういう事になったら・・・分かってるわね、デズモンドちゃん?例え仲間でも・・・」
「・・・あぁ、容赦はしない」

 デズモンドの馬へと自分の馬を寄せたシャロンは、彼にだけ聞こえる声でそっと話しかける。
 彼が口にした内容を予想していたのか、デズモンドはそれに静かに頷いていた。

「何とか、何とか間に合ってくれ!」

 馬の首にしがみつくようにして先を急ぐユーリは、何度も祈るようにそう繰り返していた。
 その彼をすぐそばで見つめるケイティの顔に浮かんだ表情は、待ち受ける厳しい現実を予想しているかのようだった。

◇◆◇◆◇◆

「あぁ、そんな・・・」

 街へと到着し、馬から転がり落ちるように飛び降りたユーリは、その場でがっくりと膝をつく。

「間に合わなかった!!」

 そして彼は地面を掻きむしるように掴み取ると、そのままこぶしを叩きつけていた。
 彼の目の前では、今まさに襲われている最中の街の姿があったのだ。

「違うわ、ユーリちゃん!あれはあたし達の部隊じゃない!あたし達の部隊の子達は向こうよ、ほら!」
「えっ・・・?」

 地面へと崩れ落ちるユーリに駆け寄り、その身体を起こしたシャロンはある方向を指し示しながら彼にそう告げていた。
 見れば確かにそこにユーリ達の懲罰部隊の姿があり、彼らもまた今の状況に戸惑っているようだった。

「はぁ~、良かったぁ・・・何とか間に合ったんだぁ」

 自分達の部隊がまだ街を襲撃していない、それを知ったユーリは安堵し再び崩れ落ちるように地面へと倒れていく。

「あれ、でも・・・だったらあれは?」
「さぁ?」

 しかしそうなると、今街を襲っているあの兵士達は一体何なのか。
 首を捻るユーリに、シャロンもまたさっぱり分からないと肩を竦めて見せていた。
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