【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく

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第二章 王国動乱

オールドキープ要塞の戦い

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「えっ?」

 その余りに見事すぎる太刀筋に、首を切り落とされた兵士はそれに気づかず、言う事を聞かない手足と徐々にずれていく視界に疑問の声を上げた。
 ここはオールドキープ要塞を巡る戦いの真っ只中、その中でも最も激しい戦いを繰り広げられている場所であった。

「兵を側面に向けろ!!敵がそちらから攻勢を仕掛けてくるぞ!」

 その兵士を切り倒した青年、マーカスはそれを見送ることもなく周囲へと視線を向けると、声を張り上げては兵達へと指示を送っていた。
 彼の能力を考えれば、それは間違いなく的確な指示なのであろう。
 そして事実、その指示によって敵の攻勢は防がれていたが、マーカスの顔に浮かんだ焦りの色は晴れる事はない。

「ちっ、攻め手が防がれたか・・・ふはははっ、しかしそれがどうした!?防がれたのならば、さらに数を掛けて攻めればいい!!お前達を攻め落とすのに何手必要だ?十手か、二十手か?ふはははっ、こちらは何手でも用意してやるぞ!好きな数を言うがいい!!」

 その理由は、彼の視線の先で高笑いを上げるがっしりとした体格の男、ルーカスが説明していた。
 彼が口にした通り、ルーカスが率いる軍勢はマーカスが指揮する軍勢よりも圧倒的に数が多く、マーカス達は既に彼らに半ば取り囲まられ、出てきたオールドキープ要塞に押し返されようとしているのだった。

「っ!?そこだ!そこに急いで兵を!!いや、違う・・・向こうだ、向こうにも―――」

 ルーカスは宣言通りに幾重にも攻め手を繰り出し、マーカスを追い詰めようとする。
 マーカスもまたそれに対応しようと的確な指示を出すが、それもやがて間に合わなくなってしまっていた。

「マーカス様、指示を!!このままでは戦線が・・・あぁ!?」

 休むことなく敵を切り倒しながら指示を出し続けていたマーカスに、それでももっと指示をと慌てた様子の兵士達が途切れることなく駆け込んでくる。
 それはそれだけ、戦線がひっ迫していることを示していた。
 そしてそれはやがて、目に見える形で崩壊することになる。
 声を上げた兵士にマーカスが視線を向ければ、そこに敵の突破を許している味方の姿が映っていた。

「くっ・・・せめて、せめてワールドエンドがあれば」

 悔やむマーカスは、自らが手にした得物へと視線を向けながらそう呟く。
 そこには作りはしっかりしているが何の変哲もない普通の剣が握られており、彼が以前振るっていたあの闇を塗り固めたような剣の姿はなかった。
 彼はあのルーカスとの決戦の後、リリーナの下を離れる前のジークと会っており、その時にあの黒い刀身の剣、ワールドエンドも返却していたのだ。

「いや、そんな事は関係ない!僕にだって、出来る事はまだ―――」

 マーカスがかつて振るったワールドエンドの力、それがあればこの局面すらも打開できたかもしれない。
 しかしマーカスはそんな考えは未練でしかないと振り払うと顔を上げ、自らの力でこの局面へと向かい合おうと決意を固める。
 そんな彼の下に顔を真っ青に染めた老騎士、ガストンが飛び込んできていた。

「マーカス様、お逃げを!!ここはもう持ちません!!」
「なん、だって?そんな、もう駄目なのか・・・」

 マーカスの決意も空しく、もはや戦線は崩壊すると飛び込んできたガストンは告げる。
 彼はその報告に絶望し崩れ落ちるマーカスの腕を抱えると、無理やりこの場から撤退させようとしているのだった。

「マーカス様の馬をここに!!・・・何だ?」

 マーカスを無理やり抱き起したガストンは、彼の馬を連れてくるように声を張り上げる。
 そんな彼の背中に、何か衝撃音のような物音が響いていた。

「あ、あれをご覧ください!!」

 周りの兵士達もその物音に釣られ、同じ方向へと視線を向ける。
 そしてやがてその中の一人が声を上げると、その先には敵軍を蹴散らし一人で戦況を一変させようとしている、絵画から抜け出したかのように美しい金色の髪の少女の姿があった。
 歓声が沸いた。

「おぉ、エクス殿か!!これならば・・・」
「あ、あぁそうだな!まだ立て直せ・・・ん、何だあれは?一体何を・・・」

 その少女、エクスの存在に元気づけられまだまだ戦えると勢いずく兵士達、それはマーカスも同じであった。
 彼は再び戦う気力を取り戻すと、戦線を立て直そうと顔を上げる。
 そんな彼の視界に、こちらとは全く関係ない方向へと向かう敵の軍勢の姿が映っていた。

「っ!?しまった!!?」

 その意図を悟るまでに掛かった時間は僅かだ、何故ならばそれはその軍勢が向かう先へと目を向ければ一目で理解出来てしまうからであった。
 彼らが向かう先、そこには無防備な王都の姿があった。

「ん、何だあの部隊は?一体何を・・・っ!?」

 その意図を悟り、驚愕の声を上げるマーカス。
 そしてそれはどうやら、敵であるルーカスにとっても同じであるようだった。

「謀ったな・・・謀ってくれたな、フェルデナンドォォォ!!?」

 王都へと迫る兵、それは明らかに後方に控えるフェルデナンドの軍勢から出た部隊だ。
 それを理解し、彼が何故ルーカスに先鋒を譲ったのかも悟ったルーカスは、フェルデナンドが控える後方へと目を向け叫ぶ。
 その声が聞こえたのかは分からないが、フェルデナンドは余裕の笑みを浮かべ、ルーカスへとひらひらと手を振っていた。
 ルーカスは囮にされたのだ、フェルデナンドが自らの手で王都を陥落させ、その功績で王へと昇るための囮に。
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