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第二章 王国動乱
剣と主
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「何だこれは?一体何が起こっている・・・?」
フェルデナンドは目の前の光景を馬上から眺めながら、放心したようにそう呟いた。
「お前達は、お前達は何をしている!?これではまるで、まるで・・・こちらの手の内を全て知っているようではないか!!?」
彼が眺めているのは、自分達の兵が一方的に蹂躙されていく光景であった。
しかもそれは彼が口にした通り、何をやっても悉く上をいかれ、まるで全てを見透かされているように弄ばれた上での事である。
そんな圧倒的な、もはや絶望的と言っても過言ではないほど指揮官としての差を見せつけられてしまえば、フェルデナンドがそうなってしまうのも無理はない。
彼はもはや一切の指揮を執っておらず、ただただ頭を掻き毟るだけの男になってしまっていたのだった。
「コーディー様、お逃げください!ここはもう持ちません!!どうかお一人だけでも!」
「あ、あぁ・・・ひぃ!?も、もうこんな所まで!?」
完全に崩壊しつつある軍に、シーマスはせめてコーディーだけでも逃がそうと彼を急がせる。
コーディーも周りの状況を目をやると顔を真っ青に染めその言葉に頷いていたが、そこに前線を突破した敵の兵士達が突っ込んで来るのを目にすると、悲鳴を上げ硬直してしまっていた。
「コーディー様、どうかお先にお逃げください!ここは私が!」
迫る兵士の姿に、コーディーの前に進み出て彼を守ろうと立ち塞がるシーマス。
「あ、当たり前だろう!?こんな時のためにお前を拾ってやったんだ、この役立たずめ!!さ、さっさと役に立って見せろ!!」
「あっ・・・」
その背中を、コーディーは自らの命惜しさに押しやっていた。
不意打ちのような衝撃に、気の抜けた声を漏らし前のめりによろめいていくシーマス。
彼の実力であれば、目の前の雑兵など物の数ではないだろう。
しかしそれも万全であればの話だ、不意打ちに背中を押され、さらにご丁寧に心を折るような言葉までぶつけられればその限りではない。
「くそっ、何の役にも立たないゴミクズめ!!拾ってやった恩も・・・ひぃぃ!?く、来るなぁ!!来るなぁぁぁ!!?」
雑兵に切られ、ゆっくりと倒れていくシーマスの姿にコーディーは悪態をつく。
そして彼が倒れた事によって迫ってくる敵兵の姿に、彼は自分が引き連れてきた領地の兵を見捨てて一目散に逃げ出していくのだった。
「お、おい・・・あれ見ろよ、大将が逃げていくぜ」
「何だと!?くそっ、大将が真っ先に逃げ出すのかよ!やってられるか、俺らも逃げるぞ!!」
全体の軍の指揮官であり勢力の統括者でもあるのはフェルデナンドだ、しかしそこで戦っている兵のほとんど主人は、今まさに逃げ出したコーディー・レンフィールドであった。
そのため彼らは自らの主人の逃亡知り、戦意を失ってしまう。
後は早かった、気がつけばそこに残ったのはフェルデナンドと側近の兵士達だけとなっていたのだった。
「負けた?私は、負けたのか・・・?」
すっかり少なくなった自軍の兵士達に、フェルデナンドは敗北を悟りそう呟く。
「あれは・・・?ははははっ!!まだだ、まだ私は負けた訳ではないぞ!!!」
全てに絶望したように、げっそりと頬をこけさせていたフェルデナンド。
そんな彼がその濁った瞳で目にしたのは、幻覚だろうか。
いいや、違う。
「ルーカスゥゥゥ!!そのままだ、そのまま王都へ向かえぇぇぇ!!!」
彼には見えていたのだ、自らの軍を率い何とか敵軍の横を突けないかと狙っているルーカスの姿が。
フェルデナンドはその姿を目にして、王都に向かえと叫ぶ。
それは正しい、何故なら今のユーリとマーカスのタッグにはどんな大軍をもってしても敵わないのだから。
「王都に辿り着きさえすれば門は開く!!そういう手筈になっている!!だから、だから我らの勝利のために!私に構わず王都に向かえぇぇぇ、ルーカスゥゥゥ!!!」
フェルデナンドが執拗に王都へ向かうを求めているのは、そこに辿り着きさえすれば勝利するという確信があったからだった。
その奥の手ともいえる情報さえ開示し、フェルデナンドは勝利のために叫ぶ。
「ふんっ、気に入らんが・・・今回ばかりは従ってやろう。このまま王都に向かうぞ!!」
彼の悲痛な叫びを耳にしたルーカスは不満そうに鼻を鳴らしてはそっぽを向いていたが、その口元はニヤリと笑い了承を口にしていた。
彼は自らの得物である大振りな剣を引き抜くと、王都に向かって突きつける。
彼の周囲からは、勝利の予感に興奮する兵士達の雄たけびが沸き上がっていた。
「王都の門が開く?そんな、それじゃ守りようが・・・兄さん、情報を!」
「あ、あぁ!これでどうだ?」
フェルデナンドが口にした言葉と、それにより王都に向かい動き出したルーカス軍の動きは当然ユーリ達にも伝わっていた。
その動きに焦りの表情を浮かべるマーカスは、それに対応するための手段を閃くためにユーリに情報を求めていた。
「・・・何も、見えない?そんな、それじゃ・・・もう僕らには、何も出来ないのか?」
ユーリが書き上げた戦場の情報を受け取り、それへと目を落としたマーカスは、その内容と戦場に交互に視線をやっていた。
しかし幾らそれを繰り返しても、彼の目にはいつもように最適な場所も方法も用兵も映ることはなかった。
それもその筈だろう、彼らとルーカスの間にはまだフェルデナンドの軍が残っているのだから。
彼らはもはや敗残し、散り散りになって逃げていくだけであったが、それは絶対に越えられない壁として依然としてそこに存在していたのだ。
それを越えてルーカスの軍を阻止出来るとすればそれは、そんな壁すらもひとっ飛びに越えられるような特別な存在だけだろう。
しかし天才の名を欲しいままにしたマーカスも、これまで数々の奇跡を見せてきたユーリにも、そんな「特別」な力はなかった。
「マーカス、それを返してくれないか?」
「え?兄さん、でも・・・」
「いいから」
だがいる筈なのだ、そんな「特別」な存在が確かにここに。
ユーリは絶望に崩れ落ち、地面へと蹲るマーカスの手から自らが書き上げた戦場の情報を取り返す。
「あぁ、やっぱりそこにいたんだな」
そしてその内容を改めて読み込んだ彼は、静かに笑みを浮かべた。
「行け、エクス!!!」
彼はその名を叫ぶ、「特別」な彼女の名前を。
「はい、マスター!!!」
「特別」は歓喜をもって、その声に応えた。
歓喜は時として、翼にも変わる。
「何だお前は?一体どこから現れた?いや待て・・・その姿、前にどこかで」
まるで空から降ってきたかのように突然現れた金色の髪の美しい少女の姿に、ルーカスは不思議そうに首を傾げる。
彼が直接、その少女を目にしたのは一度だけだ。
そしてその時の彼女は、本調子ではなかった。
だから彼は理解出来なかったのだ、その目の前の少女が自らに敗北を齎すという未来を。
「私はエクス、ユーリ・ハリントンの剣!!主の命をもって、貴様らを断罪する!!命が惜しくば、今すぐ剣を捨て投降するがいい!!」
その少女エクスは、構えた剣をルーカスへと突きつけるとそう宣言する。
彼女の迫力とその余りに堂々とした態度に、彼の周囲の兵達はざわざわと怯んだ様子を見せていた。
「ふんっ、何を馬鹿な事を!!貴様のような小娘に、やられる我らではないわ!お前達、気にすることはない!!あのような小娘、一息に押し潰してしまえ!!」
しかしそんなエクスの言葉にルーカスは小馬鹿にしたように肩を竦めると、手を振って突撃の号令を下すのだった。
例え本能的な恐怖が胸に渦巻いていても、主からの命令があれば従わざるを得ない。
兵士達は怯えを振り切るように奇声を上げると、エクスに対して突撃していく。
「この数で掛かれば、腕が多少立とうとも関係ないわっ!むぅ、しかしやはり少し気になるな。あの姿、確かに以前どこかで・・・っ!そ、そうか!貴様、あの時の!!ま、待てお前達!奴は―――」
その勇壮な様を満足げに眺めていたルーカスは、まだその事が気になっているのか、エクスの姿をどこで見かけたのかと思い出そうとしていた。
そしてそれをようやく思い出した彼は、声を上げる。
彼女は決して、触れてはならない存在なのだと。
「・・・返答は、それで良いのだな?では、参る!!」
しかしそれはもう遅い。
決断は下されたのだ、彼女に挑むという決断を。
それは敗北を意味している、つまり決着はついたのだ。
フェルデナンドは目の前の光景を馬上から眺めながら、放心したようにそう呟いた。
「お前達は、お前達は何をしている!?これではまるで、まるで・・・こちらの手の内を全て知っているようではないか!!?」
彼が眺めているのは、自分達の兵が一方的に蹂躙されていく光景であった。
しかもそれは彼が口にした通り、何をやっても悉く上をいかれ、まるで全てを見透かされているように弄ばれた上での事である。
そんな圧倒的な、もはや絶望的と言っても過言ではないほど指揮官としての差を見せつけられてしまえば、フェルデナンドがそうなってしまうのも無理はない。
彼はもはや一切の指揮を執っておらず、ただただ頭を掻き毟るだけの男になってしまっていたのだった。
「コーディー様、お逃げください!ここはもう持ちません!!どうかお一人だけでも!」
「あ、あぁ・・・ひぃ!?も、もうこんな所まで!?」
完全に崩壊しつつある軍に、シーマスはせめてコーディーだけでも逃がそうと彼を急がせる。
コーディーも周りの状況を目をやると顔を真っ青に染めその言葉に頷いていたが、そこに前線を突破した敵の兵士達が突っ込んで来るのを目にすると、悲鳴を上げ硬直してしまっていた。
「コーディー様、どうかお先にお逃げください!ここは私が!」
迫る兵士の姿に、コーディーの前に進み出て彼を守ろうと立ち塞がるシーマス。
「あ、当たり前だろう!?こんな時のためにお前を拾ってやったんだ、この役立たずめ!!さ、さっさと役に立って見せろ!!」
「あっ・・・」
その背中を、コーディーは自らの命惜しさに押しやっていた。
不意打ちのような衝撃に、気の抜けた声を漏らし前のめりによろめいていくシーマス。
彼の実力であれば、目の前の雑兵など物の数ではないだろう。
しかしそれも万全であればの話だ、不意打ちに背中を押され、さらにご丁寧に心を折るような言葉までぶつけられればその限りではない。
「くそっ、何の役にも立たないゴミクズめ!!拾ってやった恩も・・・ひぃぃ!?く、来るなぁ!!来るなぁぁぁ!!?」
雑兵に切られ、ゆっくりと倒れていくシーマスの姿にコーディーは悪態をつく。
そして彼が倒れた事によって迫ってくる敵兵の姿に、彼は自分が引き連れてきた領地の兵を見捨てて一目散に逃げ出していくのだった。
「お、おい・・・あれ見ろよ、大将が逃げていくぜ」
「何だと!?くそっ、大将が真っ先に逃げ出すのかよ!やってられるか、俺らも逃げるぞ!!」
全体の軍の指揮官であり勢力の統括者でもあるのはフェルデナンドだ、しかしそこで戦っている兵のほとんど主人は、今まさに逃げ出したコーディー・レンフィールドであった。
そのため彼らは自らの主人の逃亡知り、戦意を失ってしまう。
後は早かった、気がつけばそこに残ったのはフェルデナンドと側近の兵士達だけとなっていたのだった。
「負けた?私は、負けたのか・・・?」
すっかり少なくなった自軍の兵士達に、フェルデナンドは敗北を悟りそう呟く。
「あれは・・・?ははははっ!!まだだ、まだ私は負けた訳ではないぞ!!!」
全てに絶望したように、げっそりと頬をこけさせていたフェルデナンド。
そんな彼がその濁った瞳で目にしたのは、幻覚だろうか。
いいや、違う。
「ルーカスゥゥゥ!!そのままだ、そのまま王都へ向かえぇぇぇ!!!」
彼には見えていたのだ、自らの軍を率い何とか敵軍の横を突けないかと狙っているルーカスの姿が。
フェルデナンドはその姿を目にして、王都に向かえと叫ぶ。
それは正しい、何故なら今のユーリとマーカスのタッグにはどんな大軍をもってしても敵わないのだから。
「王都に辿り着きさえすれば門は開く!!そういう手筈になっている!!だから、だから我らの勝利のために!私に構わず王都に向かえぇぇぇ、ルーカスゥゥゥ!!!」
フェルデナンドが執拗に王都へ向かうを求めているのは、そこに辿り着きさえすれば勝利するという確信があったからだった。
その奥の手ともいえる情報さえ開示し、フェルデナンドは勝利のために叫ぶ。
「ふんっ、気に入らんが・・・今回ばかりは従ってやろう。このまま王都に向かうぞ!!」
彼の悲痛な叫びを耳にしたルーカスは不満そうに鼻を鳴らしてはそっぽを向いていたが、その口元はニヤリと笑い了承を口にしていた。
彼は自らの得物である大振りな剣を引き抜くと、王都に向かって突きつける。
彼の周囲からは、勝利の予感に興奮する兵士達の雄たけびが沸き上がっていた。
「王都の門が開く?そんな、それじゃ守りようが・・・兄さん、情報を!」
「あ、あぁ!これでどうだ?」
フェルデナンドが口にした言葉と、それにより王都に向かい動き出したルーカス軍の動きは当然ユーリ達にも伝わっていた。
その動きに焦りの表情を浮かべるマーカスは、それに対応するための手段を閃くためにユーリに情報を求めていた。
「・・・何も、見えない?そんな、それじゃ・・・もう僕らには、何も出来ないのか?」
ユーリが書き上げた戦場の情報を受け取り、それへと目を落としたマーカスは、その内容と戦場に交互に視線をやっていた。
しかし幾らそれを繰り返しても、彼の目にはいつもように最適な場所も方法も用兵も映ることはなかった。
それもその筈だろう、彼らとルーカスの間にはまだフェルデナンドの軍が残っているのだから。
彼らはもはや敗残し、散り散りになって逃げていくだけであったが、それは絶対に越えられない壁として依然としてそこに存在していたのだ。
それを越えてルーカスの軍を阻止出来るとすればそれは、そんな壁すらもひとっ飛びに越えられるような特別な存在だけだろう。
しかし天才の名を欲しいままにしたマーカスも、これまで数々の奇跡を見せてきたユーリにも、そんな「特別」な力はなかった。
「マーカス、それを返してくれないか?」
「え?兄さん、でも・・・」
「いいから」
だがいる筈なのだ、そんな「特別」な存在が確かにここに。
ユーリは絶望に崩れ落ち、地面へと蹲るマーカスの手から自らが書き上げた戦場の情報を取り返す。
「あぁ、やっぱりそこにいたんだな」
そしてその内容を改めて読み込んだ彼は、静かに笑みを浮かべた。
「行け、エクス!!!」
彼はその名を叫ぶ、「特別」な彼女の名前を。
「はい、マスター!!!」
「特別」は歓喜をもって、その声に応えた。
歓喜は時として、翼にも変わる。
「何だお前は?一体どこから現れた?いや待て・・・その姿、前にどこかで」
まるで空から降ってきたかのように突然現れた金色の髪の美しい少女の姿に、ルーカスは不思議そうに首を傾げる。
彼が直接、その少女を目にしたのは一度だけだ。
そしてその時の彼女は、本調子ではなかった。
だから彼は理解出来なかったのだ、その目の前の少女が自らに敗北を齎すという未来を。
「私はエクス、ユーリ・ハリントンの剣!!主の命をもって、貴様らを断罪する!!命が惜しくば、今すぐ剣を捨て投降するがいい!!」
その少女エクスは、構えた剣をルーカスへと突きつけるとそう宣言する。
彼女の迫力とその余りに堂々とした態度に、彼の周囲の兵達はざわざわと怯んだ様子を見せていた。
「ふんっ、何を馬鹿な事を!!貴様のような小娘に、やられる我らではないわ!お前達、気にすることはない!!あのような小娘、一息に押し潰してしまえ!!」
しかしそんなエクスの言葉にルーカスは小馬鹿にしたように肩を竦めると、手を振って突撃の号令を下すのだった。
例え本能的な恐怖が胸に渦巻いていても、主からの命令があれば従わざるを得ない。
兵士達は怯えを振り切るように奇声を上げると、エクスに対して突撃していく。
「この数で掛かれば、腕が多少立とうとも関係ないわっ!むぅ、しかしやはり少し気になるな。あの姿、確かに以前どこかで・・・っ!そ、そうか!貴様、あの時の!!ま、待てお前達!奴は―――」
その勇壮な様を満足げに眺めていたルーカスは、まだその事が気になっているのか、エクスの姿をどこで見かけたのかと思い出そうとしていた。
そしてそれをようやく思い出した彼は、声を上げる。
彼女は決して、触れてはならない存在なのだと。
「・・・返答は、それで良いのだな?では、参る!!」
しかしそれはもう遅い。
決断は下されたのだ、彼女に挑むという決断を。
それは敗北を意味している、つまり決着はついたのだ。
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