オッドアイの守り人

小鷹りく

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chapter39 軟禁

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トレーニングを終えてシャワーから出ると丁度12時だった。

静かなリビングに電話の音が響く。

『石原で御座います。海静様、体調はいかがでしょうか?』

「大丈夫だよ、ありがとう。今からお昼食べて、ゆっくりしたらちょっとしたいことがあるんだ。可能なら古文の辞典を入手してくれないか?出来るだけ古い文章を調べられるものを。」

『はい、畏まりました。では一番詳しい辞典をお持ちします。入手出来次第ご連絡差し上げます。』

石原さんは余り無駄口を叩かない。かと言って突き放すような喋り方をする訳でもない。染谷に似た冷静沈着な、いや寧ろ染谷よりも落ち着いているような気がする。特に最近の染谷と比べた場合…。

1時間もすると電話がまた鳴った。

『海静様、辞典をお持ちします。3分後にチャイムを鳴らしますので、ドアを開けて頂けますでしょうか?その際必ず玄関のモニターチェックを行って下さい。』

用心深いにも程があるが、護身術も何も備えていない俺にとって命を狙われるということはそういうことなのだろう。こういうのは嫌いじゃない。用心に用心を重ねても、中野のように裏切り者は入り込む。そういえば中野はどうなったんだ…?
余り思い出したくないが、どうなったかを知っておく必要が在るか…。

きっちり3分後チャイムが鳴った。玄関モニターには石原さんが大きな袋を抱えているのが見えた。すぐに開錠してドアを開けた。

「石原さん、こんにちわ。ありがとう、こんなにすぐに集めてくれて。」

「いえ、先代の御子様たちも同じようにお調べ者を為さっていたとの事をお聞きしました。利用されていたものは固めて伊集院家に保存されておりましたので、取って参りました。」

「え?伊集院家に取りに行ったの?」

「はい、石原家は分家ですが、染谷家とともに伊集院家を守る家系ですので、問題なく辞書・本をお借りする事が出来ました。」

ふと思う、俺はその伊集院家に行くのではないんだな。こうやってセキュリティ完備のマンションで軟禁状態だ。命を狙われる奴が家にいればそりゃ危険だよな。それに、そうだ、内部から情報がもれている可能性もあるといわれていたのを忘れていた。伊集院家に本を取りに行ったという事は、伊集院家全体に能力の開放を通達したようなものだろう?少し頭のアラームが鳴り出した。勝手な事をして染谷に怒られるかもしれない。でももし中野が裏切り者でアイツから情報が漏れていたなら、伊集院家自体を疑う必要性はないのか。

伊集院家が揃えていたという本一式を受け取り、相変わらず動きに無駄なく、所作美しく石原さんは玄関ドアを閉め、『失礼いたします。』とお辞儀をするとそのまま去っていった。まるで忍者をイメージさせる人だ。中野のことを聞こうかと思ったが、重い荷物を持ったままで機会を逃した。今日染谷が帰ってきてから話をしよう。

よいしょ、と重たい本をテーブルに並べる。うんざりしてしまうほどの分厚さの本がある。どこから訳していくのが一番いいんだろう。染谷から退院後渡されていた、能力者の書記を開いて眺める。本を読むのは好きだが、これはなかなか解読難航するだろうな…。

とりあえず紫姫祖母ちゃんの文からだな。俺は翻訳に取り掛かった。
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