オッドアイの守り人

小鷹りく

文字の大きさ
225 / 231
パロディ (本編と矛盾する設定もあり。)

クリスマスイブ

しおりを挟む

 今日はクリスマスイブだ。

 なのに海静様はまだ仕事をしている。

 今日に限って二手に別れて仕事をこなさなければならなかったのだが、私の方が先に終わり、駅のツリーが見えるカフェで待ち合わせをした。

 時計を見るともう八時だ。ここに来てから一時間が経つ。

 時計を見たり、携帯を見たり、手持ち無沙汰にコーヒーを二杯お代わりしてしまった。

 ソワソワするのはクリスマスイブだからと言うわけではない。

 ポケットの中のベロア素材でできている小さな箱を何度も何度も触っては、そこにちゃんとそれがある事を確かめて、そして頭の中で練習した言葉を誰にも聞こえない声で呟いた。

「 海静様…愛しています。私の全てを捧げたい。結婚して下さい。必ず幸せに…。」

 想像の中の彼はただ、うんと恥ずかしそうに頷くだけなのだけれど、その光景を思い描くだけで愛しすぎて頬が赤くなる。

 もっとこう誰も言ったことのないような言葉の方が印象的だろうか…。

「私は貴方のしもべです…。」

 うーん、なんかマゾっぽいぞ。

「私の妻になって下さい…。」 

 いや、これは怒りを買いかねないな、誰が妻だと要らぬ地雷を踏みそうだ。


 コンコンッと窓を外から叩く音がして少し訝しげな顔をした海静様が窓辺に座る私を覗き込んだ。

 はっとしてぶつくさ呟いていた姿を見られたのではないかと焦ったがすぐにカフェを出た。

 店の外に立ちツリーを見る後姿は凛としているが少し寒そうだ。

「お疲れ様です、遅かったですね。」

「あぁ、担当の子の親がどうしても今日は一緒に過ごしたいとゴネたから、万が一でもまた悪さをしないように少し力を使わないといけなかった。思ったより疲れたよ。」

 白い息を吐きながら電飾を見上げる彼の横に立ち、同じ所を見る。


「綺麗ですね。」

「あぁ…。」

「貴方ほどではないですが。」

「お前なぁ…。」

「お腹空いていませんか?」

 そう言うとぐぅーっと彼の腹の虫が鳴いた。  


「食べに行きましょう。オススメのレストランが有ります。」

「あぁ、腹ぺこだ。」

 歩きながら彼が聞く。

「お前…さっきの喫茶店で何ぶつくさ言ってたんだよ。」

「べ、別に、独り言です。」

 チラリと私を見ると私の手を握ろうとした。

 ダメだ、バレてしまう、彼は手のひらから人の心が読めるのだ。

 私は咄嗟に手を振り払ってしまった。

「何だよ、知られたくない事か。」

「そう言うわけではないのですが…。」

 自分の言葉で伝えたくてその後の食事でも少し距離を保ちながら過ごしていると、違和感を覚えた海静様は機嫌を悪くしていった。

 ホテルに着いた頃にはお酒も入ってご機嫌斜めもいいところだった。部屋のベッドに寝転ぶ彼はふて腐れていた。

「海静様、少し飲みすぎでは?」

「馬鹿野郎、今日はクリスマスイブなんだから飲んでいいんだ。世の中はどんちゃん騒ぎしてるんだぞ。」

「ですが…。」

「なんだよ…、どうして離れる?」

 ふくれっ顔で真相を探ろうとする彼がいじらしい。酔っ払っていてもちゃんと覚えていてくれるだろうか。

「海静…話が…。」

「なんだよ…。」

「その…酔ってませんか?」

「忘れる程飲んでねぇよ。」

「では…ゴホンッ…」

 私は唾を飲み込んでポケットの箱に手を伸ばした。もう片方の手で彼の手を握り、寝ている横へ跪く。

『海静、貴方を愛しています。全身全霊で貴方を守りたい。いつ何時もどこにいようとも貴方のことを思って止みません。貴方の全てが欲しい。貴方とこの先一生一緒に居たい。どうか私と結婚してくださいませんか?』


 私が言葉と心で同じ事を伝えると彼は飛び起きた。

 そして私は赤い箱を取り出して彼に差し出した。

 今日の為に用意したクリスマスプレゼントだ。

 差し出された手のひらの箱を彼がそっと開く。

 ——中には指輪が光っていた。

「良臣…バカだな、日本では同性は結婚できないんだぜ…。」

 震えながらその指輪を優しく箱から取り出すと明かりにかざして見上げた。

 指輪の内側には私と彼のイニシャルが彫ってある。

 彼の目から一筋涙がほろりと落ちると彼はすぐに振り払って私を見た。

「良臣…。」

「貴方を誰にも渡したくない。結婚という形にこだわる訳ではありませんが、私だけの貴方であって欲しい。イエスと言ってくださいませんか?」

 震える手で指輪を私に返すと、左手を差し出した。

「お前が嵌めろ…。」

 彼の言うとおり彼の薬指に指輪をはめる。

 寝ている間に指のサイズを測ったからちゃんと入るか心配だったがぴったりだった。
 
「お似合いです。」

「…お前へのプレゼントは用意してない。」

「いえ、目の前にあります。」

 そう言って私は彼を抱きしめた。

 ピクンと身体を震わせる彼の耳元に囁く。


「今日は目一杯、思う存分に貴方の声を聴かせて下さいね…。記念すべき結婚初夜ですから。」


 彼はコクンと私の肩で頷き、また忘れられない一夜を記憶に刻んだ。



 Merry Christmas 🎄 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

ふたなり治験棟

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

fall~獣のような男がぼくに歓びを教える

乃木のき
BL
お前は俺だけのものだ__結婚し穏やかな家庭を気づいてきた瑞生だが、元恋人の禄朗と再会してしまう。ダメなのに逢いたい。逢ってしまえばあなたに狂ってしまうだけなのに。 強く結ばれていたはずなのに小さなほころびが2人を引き離し、抗うように惹きつけ合う。 濃厚な情愛の行く先は地獄なのか天国なのか。 ※エブリスタで連載していた作品です

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...