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エルフと貴族

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・オーランド
「途中から話は聞いていたが決闘はどうするんだ?今から教会に行ってしまったら間に合わないぞ。」
 
・「不戦勝という事にしておいてください。」
 
・オーランド
「過去、戦わずして勝敗と決した事などない。
よって不戦勝などありえない。
対戦相手がそれで納得すると思うか?」
 
・「納得してもらうしかありません。」
 
・オーランド
「ふむ、ならば君は全てを奪われても文句は言えないぞ、決闘とはそう言うものだ。」
 
オーランドさんから殺気が飛んでくる。
でも違和感も感じる。

、、、この殺気は本物じゃないな。
 
・オーランド
「君はすごい感性をしているな。
私の殺気の質に気付いたか?」
 
・「オーランドさんこそ、よく俺が気付いたことが解りましたね。」
 
・オーランド
「伊達に剣聖と呼ばれてはおらんよ。
してどうする?
私の言ったことは本当の事だ。
決闘を戦わずして負けを認めるという事は自身の名誉を捨てる行為と変わらない、最悪罰則などが科せられる可能性もある。」
 
名誉かぁ、大切な事なんだろうね。
頭では理解できるがあいにくと実感がない。
 
・マルチ
「ライオットこっちは私が何とかするから。」
 
・ミズキ
「私達に任せてライオットは決闘に集中する方が良いかもしれない。」
 
マルチが俺を支えようとしてくれる。
ミズキが俺を守ろうとしてくれている。
でも俺の答えは最初から決まっているよ。
 
・「ラスクさん、教会に案内してくれますか?」
 
俺はラスクさんに願い出る。
涙目のラスクさんが驚いた様子で俺を見た。
 
・オーランド
「ライオット君?」
 
・「今日の決闘は逃げます、勝てるわけないのでね。そういう事なので申し訳ありませんがお伝え願います。」
 
・オーランド
「こんな事は言いたくはないが、ハリス君はセリス殿の事を、ライル団長はリーシュの事を、ナナはミミちゃんの事を君に諦めろと言っているんだぞ?彼女達を失う事になるかもしれない、君はそれでいいのか?」
 
・「元々俺にはそんな度量はありませんし何より今はラスクさんを助けたいと思います。私にとって名誉なんて邪魔なだけですからね、必要とあれば投げ捨てますよ。返せと言うのならこのお屋敷もお返しします、話を聞いていて思いました。
屋敷は買えるし名誉なら取り戻せる、でもラスクさんの案件は今動かないと取り返しがつかない、俺はそう判断しました。
もしも決闘の事で納得できないのであれば後日に俺を殺しに来てください、では俺は急ぎますので。」
 
・ラスク
「ライオット様。」
 
・マルチ
「ライオット。」
 
・ミズキ
「あなた、、、。」
 
・マルチ
「あなた。」
 
オーランドさんは俺の為に言ってくれた、そう理解はしているんだが頭に来てしまった。
まだまだ俺もお子ちゃまだな。

ていうかマルチさん言い直さなくていいんだよ?ミズキさんに対抗しているのが丸わかり。
 
・オーランド
「君の決意は伝わった、本当に君は気持ちのいい青年だな。年甲斐もなく熱い気持ちにさせてもらったよ、私も君を支持しよう。
だがこれだけは覚えておいてくれ。
この国で決闘とは神聖なものだ。それを放棄するという事はどのような結果を生むか私にも分からない、前例がないからね。それだけは覚悟しておいてくれ。
君の選択は正しいと思う。
まっすぐと進め!」
 
・「ありがとうございます。一度決まった事を放棄するその代償は後日謹んでお受け致します、オーランドさんに大変なことを押し付けてしまって申し訳ありません。」
 
俺は深々と頭を下げた。
少しの間、頭を下げ続ける。
 
・オーランド
「この国の貴族達も皆君の様な者ならな。このオーランド、全力で弁解すると約束しよう、どうかその娘を助けてやって欲しい。」
 
肩を優しく触られた。
頭を上げると右手を差し出している状態でこちらを見ていた、俺はオーランドさんと握手をする。
そしてオーランドさんは出て行った。
 
・マルチ
「ライオット、カッコいい!」
 
・ラスク
「宜しかったのでしょうか?私などの為に、申し訳ありません。」
 
・「気にしなくていいよ、君は何も悪くない。俺なんかで力になれるかはわからないがやれるだけやってみようと思う、教会に案内してほしい。」
 
俺の願いを受けてラスクさんが案内を始めた、パティメイド長に屋敷の事は丸投げして俺は外に出る。

一緒にマルチとミズキが来てくれた。
心強いね。
とは言えちゃんと伝えておくか。
 
・「ミズキ頼みがある、あと1時間ほどで決闘だから闘技場に皆いると思うんだよね、リーシュとミミさん、それにセリスにすまなかったと伝えて欲しい。お願いできるかな?」
 
・ミズキ
「お任せください。」
 
隠密モードに入ったミズキが一瞬で消える。
あの技カッコいいな今度教えて貰おう。
そんな事を考えつつ進んでいく。

結構街はずれまで歩くんだな。
城壁に沿った丘の上に建物が見える。
敷地は広大だ、こんな場所もあるんだね。
 
・ラスク
「あそこが教会になります。」
 
なんか人が居るね。
揉めてないか?
2人の凄いガタイの男と1人の小太りさん。
胸ぐらをつかまれて持ち上げられる少年。
「やめて」と叫ぶ美少女に嘲笑う小太り。
絵に描いた様な光景だな。
急ぐか、、、。
 
・「先に行きます。」
 
ちょっとカッコつけて俺は全力で走る。
刹那、ラスクさんを担いだマルチに抜かれる。
涙があふれそうになる。

めっちゃかっこ悪いやん俺。
 
・マルチ
「降ろしなさい。」
 
ラスクさんを抱えたまま一瞬でガタイの良い男を投げ飛ばす、手が緩んだスキに少年を奪い取り優しく地面に降ろす。

そして俺が到着する、帰りたい。
 
・小太り
「誰だ、貴様!」
 
・マルチ
「貴方などに名乗る名前は無いわ。
早々に立ち去りなさい。」
 
・小太り
「ぐぬぬ、小娘が調子に乗り負って。
後悔するなよ!」
 
捨て台詞を吐いてその場を離れて行く。
マルチの救出劇、すごかったなぁ。
 
・少年
「お姉ちゃん!」
 
鳴きながら走り出す少年。
 
・美少女
「ラスク姉さま。」
 
こちらも泣きながらラスクさんに抱きつく
微笑むマルチ、佇む俺。
ファーストコンタクトはこんな感じだった。

その後、教会に案内されました。
 
・ラスク
「助けて下さってありがとうございました。ご紹介します、この子が弟のリンク、
そしてこちらが妹のラムです。さぁご挨拶しなさい。」
 
・リンク
「綺麗な姉ちゃんさっきはありがとう、オイラはリンク!ここを護ってるんだ。」
 
・ラム
「私はマナ、、、ラムです。
リンクを助けてくれてありがとう。」
 
・マルチ
「私の名はマルチ、もう安心して。
ライオットが来てくれたから大丈夫。」
 
マルチさん自然にハードル上げるのやめてね。 ラムちゃんはマナって言い掛けたがどう言う間違い方したんだろう?まあ良いか。

・「無事で何よりだった。
教会の人はこれで全部かい?」
 
・リンク
「兄ちゃん誰?マルチ姉ちゃんは凄かったけどあんた大丈夫か?マルチ姉ちゃんと比べて随分と足が遅かった気がしたが。」
 
御もっともな意見です。
リンク君の攻撃で俺がやられそうです。
 
・ラスク
「こら!ライオットさんになんてこと言うの謝りなさい。」
 
・リンク
「だって兄ちゃん何もしてねぇし、マルチ姉ちゃんが全部やってたじゃん。」
 
ぐうの音も出ません、、、。
 
・「マルチに任せておけば万事解決だ、強かっただろ?だから安心して休んでおいで。」
 
話が進まなそうなのでとりあえず休むことを提案、そこは素直に従ってくれた。お礼に携帯用干し肉をあげたら喜んで奥の部屋に行ってくれた。
2人とも可愛いね。
 
・ラスク
「ご無礼をお許しください、罰なら私が。」
 
深々と頭を下げるラスクさん
 
・「頭を上げて下さい俺は気にしてません、リンク君の言った事も真実なので。」
 
言ってて悲しくなるが事実だしね。
まぁ俺はここから頑張りますか。
 
・「ひとまず安心できましたので状況を整理しましょうか。」
 
俺の一言にマルチが反応する。
 
・マルチ
「決闘を放棄してまで急いでいたのは襲われるって解ってたから?」
 
・「ん~、何となくね。昨夜のラスクさんの行動から推測して結構切羽詰まってたと感じから翌日に相手側が行動に出てもおかしくない状態だと思ったんだ。何も無ければ良し、何かあったら不味いでしょ?だから優先順位を上げたんだよ、この案件が一番緊急性が高いってね。」
 
・マルチ
「相変わらずライオットは凄いね。」
 
・「たまたまだよ、結果的に急いで良かったってだけだから。」
 
ラスクさんが話を聞いて感心していた。
 
・「では教えてください。
まずは教会の状況から。」
 
・ラスク
「はい、ここで暮らしているのは4人。私とリンク、ラム、そしてガンダルさんです。」
 
・「ガンダルさん?その方はどこに。」
 
・ラスク
「昨夜ドーソンにより捕まりました。」
 
おっと穏やかじゃないな。
向こうさんはもう動き出しているのか。
 
・「解りました。ではガンダルさんの捕まっている場所、後はドーソンについて教えてください。」
 
・ラスク
「ガンダルさんは昨夜ドーソンの手下に殴りかかって同行していた兵士に逮捕されました、なので今は軍の牢屋に居ると思います。ドーソンはこの領域を束ねている貴族タスラー様の配下の方です。」
 
・マルチ
「タスラー、、、。」
 
どっかで聞いたなタスラー。
誰だっけ?
まぁ後々思い出すかね?
とりあえず何となく掴めてきたな。
 
・「では教会を追われるきっかけとなった出来事を教えてもらって良いかな?」
 
・マルチ
「それはあいつらが勝手にやった事じゃない?」
 
・「いや、多分周到に計画を練っていたはずだ。利益を求める者はリスクを嫌う。必ずこちらを罠に嵌めて向こうの有利な状態を作る事から入るはず。」
 
ラスクさんが驚いている。
そして語りだした。
 
・ラスク
「彼らが最初にやって来たのは宅地計画を持ち込んできた事です、この辺は広大な土地がありますのでそこを宅地化したいと願い出てきました。初めは何故私達に聞くのか解りませんでした、私のようなハーフエルフにも紳士に話して下さる、そう感じました。」
 
上手い、結構なヤリ手が居るな。
 
・ラスク
「最初はお断りさせていただいたんですが熱心に説得しに来たんです、いつも物腰が低く優しい人達でした。数か月もすると私達は気を許してしまい、そこに住んでも良いという条件で彼らの要望を快諾しました。」
 
信頼を勝ち取った時点で負けだな、辛抱強く粘るやり方も嫌なほど営業に似てやがる。
 
・ラスク
「快諾書にサインした後からです、ドーソンがやって来て私たちに立退きを命令し出したのは。サインした快諾書の内容は変わっていました、私たちは早々に出て行くようにと。そして私はドーソンの元で働くようにと、快諾書のお陰で国もドーソン側に付き私達の抵抗空しく。」
 
・「ガンダルさんが捕まったって事だね」
 
・ラスク
「はい、私は何もできず。ガンダルさんが捕まった後、私は軍の兵舎に行き兵士の方にお願いしました。でもハーフエルフという事で話を聞いてすら貰えません。聞いてほしくば体を差し出せと、、、」
 
両手で体を抱えて震えだす。
成る程理解した。
 
・「君を襲おうとした暴漢達は君が拒んだ兵士達だね?」
 
何も言わずに頷く。
 
・マルチ
「許せない、兵士もろとも破壊してやる」
 
マルチさん怖い!
てかそれだと敵しか作りませんよ?
 
・「落ち着いてマルチ、君の気持ちはわかる。だがそれだと相手も思うつぼだ、ガンダルさんと同じ道を歩むことになるぞ。」
 
・リンク
「だったらどうすんだ!お前もあいつらと同じだ、姉ちゃんが欲しいだけなんだろ?ガンダルさんが居なくたってオイラが姉ちゃんを護るんだ!」
 
やっぱり盗み聞きしてたか。
引き際が良すぎると思って気にしていたが、あっさりと引き下がりすぎだぜ少年。
 
・「まぁ俺を信じろとは言わないよ。ただ君を必死で助けようとしているマルチは信じてあげてくれ。」
 
リンクとラムはマルチを見詰める
そして気付く、、、。
 
・ラム
「マルチお姉ちゃん、エルフなの?」
 
・マルチ
「私もハーフエルフよ、私も酷い目に合ったし死にたいとも思ったわ。でもライオットに助けられた、今では私の最愛の人。」
 
その話を聞きラムが俺を見詰める、
何かを見透かす様だ、、、。
 
・ラム
「あなたは、人じゃないの?
魔力の循環がおかしいもの。
あなたは誰?」
 
正直びっくりした。
触らずに魔力の流れを感知できるのか?
そうだとしたらこの子は相当ヤバい。
一体何者だ?
 
・ラスク
「人前で力を使っちゃダメ。」
 
・ラム
「大丈夫、この人は大丈夫。
ライオットさん、あなたは何者?」
 
これは困ったな、、、。
嘘は付けない。
付いちゃいけない気がする。

ん~、仕方ないか。
まずは信頼を得ないとね。
 
・「ラムちゃんは凄いね。
俺はライオット、異世界から来た。
今は只の冒険者だよ。」
 
・リンク
「異世界から?勇者なのか?」
 
・「違うよ、勇者なら別にいるみたいだしね。俺は只の冒険者。」
 
・ラム
「貴方から暖かい魔力が伝わって来る。
、、、マナの樹、、、女神。
貴方は、救世主?」
 
やめなさい!そんな大それたものじゃないです。
 
・ラスク
「ライオットさん、、、。」
 
・「ちょっと落ち着こうか流れがおかしくなり始めている。まずやらなきゃいけない事を纏めよう、俺がやるのは君たちを救いガンダルさんを救出する、そして安定した生活基盤を構築する事だと俺は思う。」
 
ラムちゃん、リンク、ラスクが俺を見る
先ほどの疑いの目は完全に晴れていた。

ラムちゃん何故俺に引っ付く?
 
・リンク
「ラム、そんな奴に近づくな!
まだどんな奴かも知らないんだぞ」
 
リンク君、正論だけどちょっと傷つきます。
 
・ラム
「この人は、味方だよ。
救世主様なんだから。」
 
ギュッと掴んで俺を離さないラムちゃん
マルチといいラムちゃんといい、ハードル上げすぎなんだよな。
そう言えばラムちゃん。
最初にマナ、って言いかけてたな。
リンク君が過保護的に守ろうとしているしマナと言いかけたエルフ。まさかな?

試してみるか。
 
・「マナタスク?」
 
ボソっと言ってみた。
その瞬間、すごい勢いでラスクさんがラムちゃんを俺から引きはがしリンク君が敵対行動を取る。

未熟ながら殺気まで出してくる。
 
・ラスク
「ライオット様、
申し訳ありませんがお引き取りを。」
 
・リンク
「オイラが相手だ。」
 
リンク、足が震えてるよ?
だがこれではっきりした。
 
・「ラム、マナタスク家の生き残りだね?」
 
聞いた瞬間、魔法が飛んでくる。
良い魔力だ、練るスピードも速い。
だが質が薄い。

俺は飛んできた魔法を魔力で包み圧縮させて消滅させる。
 
・ラスク
「この子は渡しません。」
 
尚も敵対する2人。
 
・マルチ
「やめなさい。」
 
マルチの声が響き渡る。
ここはマルチに任せよう、今後の為に。
 
・マルチ
「私は、、、。」
 
・「マルチ、大丈夫だ俺が付いている。
今後必要になるだろう。
自分で切り開いて行け。」
 
優しく背中を押す、、、。
マルチが息を吸い込み言い放つ。
 
・マルチ
「私はマナタスク・マルチ・ダーチェ。
精霊界女王マナタスク・レイ・ダーチェの娘
答えてラム。
貴方は何者?」
 
世界が停止する。
やはりそれだけインパクトがあるんだな。

するとラスクとリンクが跪く。
 
・ラム
「私はマナタスク・ラム・テイム。
土精霊国の姫です。」
 
ラムちゃんも跪いた。
 
・マルチ
「こんなに近くに仲間がいたなんて嬉しく思います、さぁ顔を上げて。」
 
4人は再会を喜ぶように抱き合った。

俺をのけ者にして。
寂しいです。

出来れば色々と説明が欲しい所だが言い出せない、暫く喜び合う4人を見詰めつつ俺は途方に暮れるのだった。
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