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ニュートの実力

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一行は無事にダンジョンへと到着した。
付近には小さな村が形成されている。
どうやらダンジョン管理を行うために兵士たちが随時派遣されて出来た村らしい。
ダンジョン管理も大変なんだな。

・セント
「ようこそ、『ウルフゲート』屯所へ。
まだ出来たばかりだから規模は小さいが、これからダンジョンの脅威度に比例して大きくしていくつもりだ。」

セントさんが生き生きとしている。
この屯所の管理はカーティス家が担当らしい。
出来たばかりの村をクラスに見せれてテンションが上がっているのだろう。
しかし、クラスは到着するなりセントに言い放つ。

・クラス
「では、私達はLV上げをしに行ってまいります。」

・セント
「そうか、では早速行こうか。」

・クラス
「私とニュートはLV上げをしに行ってきます。」

何故だろう、クラスがちょっと怖い、、、
セントさんが『ぐぬぬぬ』っと唸っている。
セントさんとクラスが睨み合う。
やたらと時間が長く感じるよ?

・???
「よう、久しぶりだなニュート!」

後ろから懐かしい声が聞こえた。

・「ドンク師匠?」

振り返ると懐かしの顔があった。
ドンク師匠だ。

・ドンク
「セントさんが急にやって来たから挨拶にでもと思ったら、まさかお前まで居るとはな。
今日は何かあったのか?」

・「久しぶりに休みになったのでLV上げに来ました。
ドンク師匠は何故ここに?」

・ドンク
「おう、このダンジョンから鉄鉱が取れるようになったと聞いてな。鉄の武器防具を造りに来たんだ。
聞いて驚けよ?
なんと銅小僧の上位種、鉄小僧が出現したらしい。」

嬉しそうに話すドンク師匠。
珍しい魔物なのかな?
上位種の魔物か、いい経験値になってくれると良いな。

・ドンク
「せっかくだから一緒に行くか?
鉄の加工はまだ教えて無かったろ?
可愛い弟子の鍛冶の腕前も見ておきたいしな」

がっはっは、と笑うドンク師匠。
そんなやり取りを絶望的な眼差しで見つめるクラス。
セントは思わぬ助っ人に便乗して付いてくる事が出来た。

・クラス
「久しぶりの二人きりの時間が、、、」

悲しそうなクラス、、、
ごめんね、俺もドンク師匠に見て貰いたい物があったので賛同してしまいました。

・「ごめんねクラス。
今度は2人だけでLV上げしようね。」

・クラス
「約束です。」

こそっとクラスに伝えておいた。
少し元気の出たクラスを見て安心した。
LV上げなら2人の方がはるかに効率がいい。
やっぱり二人でLV上げ中心にしたかったよね?
今度は二人で効率よくLV上げしようね。

ニュートは女性の事を何も理解していなかった。

・セント
「こうしてダンジョンに入るなど何年ぶりだろう。」

セントさんがワクワクしながら進んでいる。

・ドンク
「俺の傍から離れない様にしてくれよ。」

五貴族が相手でもいつも通りのドンク師匠。
ダンジョンで遠慮とかしてたら生死に係るしね。
それくらいはセントさんも理解しているのだろう。

・クラス
「しかし、前に来た時とは随分変わりましたね。」

クラスが感想を述べる。
俺も同じ意見だ。
前とはダンジョンの構造がまるっきり変わっていた。
ダンジョンって本当に不思議だな。

・ドンク
「そう言えばニュート。
お前どれだけ強くなったんだ?」

そう言えば最近ステータスを見ていないな。

ステータス

レベル 38
筋力 333 +30
知力 155 +50
敏捷性 351 +105

特技
闘魔術

体術LV51 補正LV10 筋力20 敏捷性 30

鍛冶LV9 補正値 筋力10
魔装術LV28 補正LV5 知力 50

龍鱗の籠手 筋力 +50 敏捷性 +75

めちゃめちゃ強くなってた。
ちなみに新しく追加された『闘魔術』とは、
ナナ師匠直伝の体術の技だ。
体内の魔力を全身に纏って戦うスタイルで、全ての能力が纏う魔力量によって上昇する戦い方だ。
ナナ師匠が拳だけで全てを破壊できた訳もここにある。
師匠の場合は魔力の他にも『気』と言うエネルギーも使用するらしいが、俺には使えないと教えられた。
現在『気』を使えるのはナナさんとミミさん位だと言っていたのが印象的だった。
ちなみにナナ師匠は『闘気術』と言うらしい。

この『闘魔術』だが、無属性の魔力を使っている俺には持って来いの技だ。
何故なら無属性の魔力消費はかなり少ない。
むしろ無属性だからこその技かもしれない。
ライ兄やナナ師匠と出会えてからは無属性で良かったと思えるようになった位だ。
ずっと「無能者」と言われてたのが懐かしい。

・「レベルは38になりました。
ナナ師匠の元で色んな戦い方を学び、それなりに強くなったつもりです。」

最近はナナ師匠以外と戦ってないから実感が無い。
毎日ボコボコにやられてるだけだしね。
俺って本当に強くなってるのかな?

・ドンク
「レベルだけじゃ計れないからな。
とりあえず最初の敵はお前だけで対応してみろ。
それでどこまで進むか決めようか。」

ここは経験豊富なドンク師匠に付いて行こう。
セントさんもクラスも文句は言わないだろう。

・ドンク
「とりあえず、先頭はニュートだ。
そしてセントさん、クラスの嬢ちゃんで。
最後尾は俺が行こう。
回復役のクラス嬢ちゃんは俺から離れない様に。」

・クラス
「クラスとお呼びください。
私も戦闘が出来ますのでお気になさらずに。」

・セント
「クラスは回復特化だから戦闘は無理だろう。
PTの要なのだから戦闘時は隠れてなさい。」

・クラス
「すぐに解ります。
もう常識にとらわれる時代は終わるかもしれないと。
私がそうだったように。」

そんなやり取りをドンクは不思議そうに眺めていた。
回復特化が戦闘だと?いつもなら怒る場面だ。
だが、たしかこの子はライオットと接触していたはず。
「無能者」と呼ばれていたニュートがここまで自信を持つ事が出来たんだ。この子も何か教え込まれたのかもしれない。

・ドンク
「とりあえず最初の戦闘で決める。
ニュートとクラスの2人でやってみろ。」

憶測で物事を決めるのは死につながる。
しっかりと見定めよう。
ドンクはそう決めた。

セントはクラスのいう事がまだ信じられなかった。
不安を胸にしながら歩いていると、

・「前方の分かれ道を右に行くと敵がいます。
数は5。奥に2、手前に固まって3。」

・ドンク
「ニュート、お前スカウトが出来るのか?」

・「ある程度近くないと判りませんが、気配と魔力で敵を感知しています。」

驚くドンクだが鵜呑みにはしない。
少しのミスで命を落とす場所だ。
楽観視は出来ない、とりあえず目視だ。
ゆっくりと敵の近くまで移動する。
敵に悟られない距離から観察してみる。

・ドンク
「驚いたな、お前の言った通りだ。
敵は鉄小僧だな。
いきなり本命のお出ましと来たか、、、」

ドンクが少し迷っている。
鉄小僧とはそれほどの強いのだろうか?

・「ドンク師匠、ここは俺達に任せて下さい。」

俺の提案にセントさんが反論する。

・セント
「ダメだ危険すぎる。
鉄小僧なら正規兵2人で1匹を対処するような相手だ。
5匹も居るのであれば一旦引くことも考えねばならん。
私とドンク殿が介入すれば倒せるだろう。
しかし敵の増援があれば危険となる。」

ドンクは迷う、セントのいう事が正しいから。
しかしニュートたちの実力を見てみたい気もする。

・ドンク
「仕方ねぇ、二人で出来る所までやってみな。」

・セント
「ドンク殿、それは了承しかねる。」

・ドンク
「大丈夫だ、危ないと感じたら俺が出る。
本気になりゃ俺だけでも5匹ぐらい何とかなる。
それにあんたも居るだろう?
鉄小僧は超高熱に弱いんだ。
あんたの魔法があれば増援が来ても倒せるだろう。
娘が大事なのはわかるが、安全ばかりを取るようじゃ強くはなれんぞ?」

ドンク師匠、やっぱりめっちゃ強いんだな。
それにセントさんは火魔法の使い手だったんですね。
キロスも火魔法だし、火の家系だったんだ。

・セント
「ぬぐぐぐ、、、」

話はまとまったかな?

・「師匠、戦闘を開始してもいいですか?」

・ドンク
「おう、しっかり見ててやるからやってみろ」

頼もしい師匠の言葉。
まずはどう攻めるか、、、

・「クラス、手前の3匹を任せても良いか?
纏まってる方が倒しやすいだろう?」

・セント
「ニュート君、それは余りにも、、、」

・クラス
「お父様は黙っててください。
大丈夫ですので、ニュートにお任せください。」

セントさんがクラスに怒られてる。
確かに知らない人なら怒るだろうな。
でも、まとまった敵を殲滅するのなら俺よりクラスの方が適任なんですよ。
今からお見せします。

・「セントさん、師匠。
良い機会を与えて下さって感謝します。
今から常識が変わりますよ。
ライ兄が教えてくれた方法でね。」

・ドンク
「やはりあいつが絡んでくるか、、、、
良いだろう、しかと見届けてやる。」

ドンク師匠が纏っていた緊張を解いた。
ライ兄の名前を出した途端にこれだ。
どれだけライ兄が信頼されているかが解る。
本当にすごい人なんだな、、、

・セント
「ぬぅ、何かあったらすぐに介入するからな。」

セントさんも気が気でないだろうな。
でも大丈夫です、すぐに安心させますから。

・「合図と共に手前の奴を頼む。」

・クラス
「任せて、ニュートも気を付けてね。」

作戦と言う作戦は無い。
今できる事をやるだけだ。

『闘魔術』

俺は全身に魔力を纏わせる。
敵の強さが解らない以上、全力で奇襲をかける。

・「クラス、敵の能力は解らない。
最初から全力でやってくれ。」

・クラス
「了解。」

クラスの魔力が高まっていく。
鉄小僧は気付かない。

・「行け、クラス。」

・クラス
「はい!、、『魔弾』」

同時に3発の『魔弾』を放ったクラス。
『魔弾』と当時に俺も行動に移る。

・「『空走』、『魔装術』」

クラスの『魔弾』が放たれる。
3発の『魔弾』が一瞬で鉄小僧まで飛んでいく。
敵に命中、、、だが爆発はしない。
敵をするりと貫いて行った。
貫いた魔弾は壁に着弾して爆発。
貫かれた鉄小僧はその場に倒れた。

・セント
「な、、、何が起こった?」

・ドンク
「信じられん、これがニュートか?」

ドンクは驚きを隠せない。
『魔弾』のスピードよりも速く奥の鉄小僧に攻撃を仕掛けていたニュート。
一体どうやったのか全く解らなかった。

・「はぁはぁ、やっぱり全力の『闘魔術』は負担が大きいや。」

そんな事をつぶやいているニュート。
2匹いた鉄小僧は塵も残っていない。
一瞬で2匹を消滅させていたのだ。

・ドンク
「こいつは、、、予想以上だ。」

ドンクは確信した。
この中で一番強いのはニュートだと。

・セント
「クラス、お前は何をしたんだ?」

クラスは倒した鉄小僧の素材を取りに向かっている。
既にニュートと合流してハイタッチしていた。
お陰で父の言葉は届いていなかった。

セントは娘の事しか見えていなかった。
娘の事なのに信じられない。
何が起こっているのか解らない。

・「ドンク師匠、すみません。
鉄小僧の強さが解らなかったので全力で行きました。
そしたら素材ごと無くなっちゃって、2匹分少なくなってしまいました。」

ニュートが戻って来るなり謝罪してくる。
息を切らしているみたいだが外傷は無い。
あのスピードで移動してコントロールしていただと?

・ドンク
「き、気にするな。
それよりも、聞きたい事が多すぎて混乱中だ。
色々と聞いても良いか?」

・「勿論いいですよ、俺も少し休みたいですし。
全力を出すと直ぐに疲れてしまいます。
まだまだ未熟ですね。」

とんでもない奴が誕生しやがった。
ドンクは心からそう感じていた。

小休憩となった為、ニュートとクラスはライオットに教わった無属性の可能性を2人に説明した。
そしてニュートの技、クラスの魔法。
どちらも驚くべき事ばかりだった。

休憩後は4人で鉄小僧討伐を開始する。
今度は敵を消滅させない様に倒すニュート。
ドンクとセントも戦闘に参加する。
勿論、回復役のクラスも『魔弾』で参加した。

4人の快進撃は止まらない。
このままダンジョン最深部まで行けるか?と思えるほどに快調だったが、セントとドンクの魔力が枯渇し始めた。
無属性のニュートとクラスはまだ行ける。
無属性魔法は魔力消費が極端に少ないのだ。

通常、ダンジョン制覇には数日か数週間掛かる。
途中で魔力回復の為に野営をするからだ。
ニュートの休みは今日一日だけ。
本当はこのまま最深部まで行きたかったニュート、しかしナナ師匠が恐ろしいニュートは最深部には向かわずに帰還する事を願い出た。
ドンクもセントも快くこれを承諾。
ダンジョン制覇の快挙よりも、『拳聖ナナ』を怒らせる事だけはしたくなかったのだ。
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