小夜のカフェ会

七瀬蓮

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憑依の30分

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茂さんは

「寧々ちゃんが君に差し入れでマスターの珈琲を渡して、それを飲んだのがきっかけで、弥生が入り込んじゃったみたいなんだ。式典直前だったし、君以外、ここにいたのが老ぼれか、力のない寧々ちゃんだ。…そこで急遽、衝立を保健室から借りてきて、君の姿を覆った。そして慰霊祭が始まったんだけど、、、店員くんの声じゃない声がしてた。…一応…毎年記録としてビデオ回してるんだけど…見るかい?」

と聞かれて、弥生さんに意識の中で謝られたことを思い出し、

「何があったのか…見せて頂けますか?」

と言い、動画を見せてもらった。

衝立で観覧しにきていた人たちには見えていないが、衝立の中から聞こえたのは意識の中で聞いた弥生さんの声だった。

「さて今年も始まりました。慰霊祭。この町では、60年前紛争で何人もの方が亡くなっています。私たちの仲間も何人も紛争でなくなりました。皆さんの先祖にあたる人もいるでしょうから、今日一日のどこかで想いを馳せてみてください。」

というマスターと小夜さんの似たようなスピーチの後に、

「もう私たちも歳だし語り部引退してもいいんじゃないかしらと私は思うんだけど、ひろ…さよ…どうかしら?」

と衝立の中の声に、マスターと小夜さんは

「そうかもしれないね…でも、俺はここに来れる間は語り部としていたいと思ってる。」

というマスターの言葉に続いて、小夜さんも

「ここで話せる間はやらせていただきたいです。それが残された私達の指名だと思うから。」

と強くいうと、

「そう。じゃあ、今年はよろしくね。」

と言ったっきり何も話さなかった。

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