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ガラクタを作品にしてくれてありがとう

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学校の課題に頭を悩まされながら勉学とバイト。そして自身の交友関係、家族に対しての不満を抱え込みながら今日も楽しくない毎日を生きていく。そんな負の感情を抱きながら、このクソみたいな世界から背けるため、僕は自身の趣味に逃げ込む。小説とも言えないガラクタを書きながら。窓から見える景色はキャンパスに描かれた色彩かのような情景が目に映り込み、夏の風物詩である綿飴みたいな大きな雲が空一面に映っていた。




授業が終わり先生に呼ばれ、教卓の前に向かう途中、明らかに授業内容とは違う文字の羅列の中、その文章の題名であろう。そして私は心の中で疑問に抱くのだった。また寝ている彼に出会った時、その文字の意味に理解して自身の趣味でありながら、それで稼いでいる身の私は、職業柄、絵に起こそうと思ったのだった。




目を覚まし放課後になっていることに気付き、片付けようとガラクタの方に目を向けると、自分が趣味で書いた文字とは違い、紙の端の方に、僕の執筆ではなく、整っている文体を見て驚いた。そこに書かれていたのは褒めの言葉でも無ければ相手を馬鹿にした発言も無く、上から目線の言語を文字化されているのでない。僕が考えた題名をその人はボールペンで消して、違う表題に変えていた。そして、そのタイトルと同じ紙に絵がつき足されて、描かれていた。残念なことに、僕は絵を表現することはできない。書き出す能力を持ち合わせていない。だから僕の内容には口出さず、題名だけ変化させ、そしてその文章を読んで、この人が思った人物と情景画が一枚の紙に創り出されていた。感動のあまり思考が追いつかず漠然とそのイラストを眺め、見惚れていた。絵の所に書かれたタイトルと僕が考えた題名を消して相手が考えた呼称を口に出す。

「なるほど。『アネモネ姫と英雄に憧れた少年』と名をつけた、俺の考えを消し去り『とアネモネ姫は君を愛するために待ち望む』か。この小説を読んだのか・・・・・・」

誰か気になった。単純な話だ。趣味で書いている、どこにも投稿していないし、捨てればもうこの世には存在しなかったことになる、この世界でたった一つの自己満足に浸った小説とも言えないガラクタに、この人は僕の創作物に価値を見出してくれたのだ。しかも絵が付け足されている。色付きだ。この短時間で描いたのだろうか。僕のことを知っている人物なのか。様々な感情を抱きながら僕はこの人が描いた作品を残したいと思った。言葉に出来ないほどの歓喜に溢れ出しそうで、叫びたい想いを我慢して宿題なんか放り出して、家に向かった。



「高校の時から、先生のファンでした。実は私、絵描きで高校の時から仕事として絵を描かせてもらっているのです。この新作楽しみにしていました。是非よかったら、私のツイットー、フォローしてみてください。アルゴノーツ・アネモネ姫がペンネームです」

そう言い彼女は僕のサイン付き小説を持って去って行った。年は自分と差がないのに高校のときから仕事してということは、ネット環境で歳とか関係なく世に出回る世代だ。才能のある人はすぐに羽ばたける。僕も投稿サイトから、売れた小説家なのだから。そういえば小説をネットに上げたのも高校だったかな。ファンに本を渡しながら思った。

高校のあの頃、僕は人生初めての投稿をしていた。何故こんな行動とったのかはわからない。きっと意味があるとしたら絵を描いてくれた人に読んでくれた人物に「ありがとう」を言いたいのだ。絵描きだと話していた女性ファンのツイットーを見ると、初めて見る絵のはずなのに、何処か懐かしく、馴染みのある絵に感じた。そしてこのイラストともに、十年前の夏を思い出した。高校の頃は毎日が退屈だった。面白くない日常を送り、憂鬱な気持ちを吐き出せず、十七年間適当な人生を送っていた。だけど、あの絵と出会い、ネガティブな感情と、このクソみたいな世界の見方を変えてくれて。僕にとって幻想でしかなかった、趣味で留まっていたガラクタが、この絵のおかげで現実になったのだ。

ありがとう、僕に夢を持してくれて。

ありがとう、勇気を与えてくれて。

ありがとう、未来を、人生の素晴らしさを見つけてくれて。

ありがとう、小説家にしてくれて。

もし、叶うならも一度君に会いたいです。









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