日常と自由と学生

カッパ

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日常と自由と学生

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「日常と自由と学生」



 国も、政府も、まともに機能しない世界で、僕たちはいつも通りの日常を送る。それが虚構だったとしても。




 世界が滅んで数年か、数十年。ウイルスや戦争、ワクチンの後遺症での病気、様々な理由でこの世界は壊れていた。だけど、そんな大層な理由は無くても、僕達が生きているこの社会、他国との関わりはとっくの昔に狂っていたのだから。誰もそれに気付かない。気付こうとすら思っていない。ただただ、時間だけが過ぎ去っていく。そんな日常だ。何が平凡な毎日か、わからない僕たちは、他人の顔色を伺って、他者が決めたルールに従い、社会は成り立つ。存在しなくても良いだろう、秩序を僕たち人間は守っている。柵なんか欲しくないと願いながら、自ら発言した言葉、理想を掲げた発想に縛られているのだ。そんな事を思いながら誰かが決めたルールに従って生きているのだろう。それが生きる糧になるのなら。




 「ねえ、留人は何でここに残っているの」

唐突な質問に、自分は唖然とし何も言えずにいると、授業中にも関わらず、後ろから前のめりにしながら言うのだった。

「こら、無視とはどう言う事?ねえ、聞いているの」

「聞いているよ。此処にいる理由なんか、特に意味は、ねえよ」

「じゃあ、尚更何で・・・・・・世界も滅んで、国も行政も意味が無くなった今、学校だけはしっかりやれと、親達に無理やり従っていることに不満を感じないの!」

「大人達は自分達がやっていた日常、いわゆる過去に囚われているのだと思う。自身のエゴを押し付けて、俺たちに日常を与えてあげていると思っているのだろ」

「私は嫌だ。大人のいうことなんか聞きたくない。むしろ飛び立ってやる!」

「おお、すげえな。家出少女か。良いと思うぞ。まあ俺は変わらないこの日常も好きだ、まるで中三の時を思い浮かぶから。もう何もかも滅んだこの世界に、マスク有りの日常はいらないからな」

「確かに、あのウイルスが流行した時、一年間程、自宅待機で授業はオンライン。短縮授業で何をしているかよく分からなかったし。高三になって、やっとあの時みたいに、マスク無しで、オンライン授業も消えると思った途端、他国の戦争が大々的に、この国にも侵略、ワクチンの効力も一年持たずに副作用が来るなんて誰も思ってもいなかったし、今の小学生なんてウイルス蔓延していた時のオンライン授業が日常で、私達みたいに、マスクなしの対面は非日常なのだろうね」

「ああ、きっと俺達も今までの日々の非日常が日常になっている。昔の人たちには考えもしないことだと思うぞ。十離れた上の人や、五歳離れているだけで、見ている世界、過ごしてきた日常の意味や捉え方が一八〇度違うなんて変な話だ。同じ地球に生きているはずなのに」

「本当ね、私たちは何を望んで生きているのだろう」

「知らないけど、さっきから叶子は、哲学的な事を考えすぎだろ。相変わらず面白い。真面目なふりして、毎回赤点は笑える。中学の時から何も変わってないじゃん。髪型だけだな、変化したの。良いじゃないの。変わってないお前、俺は好きだぜ」

「五月蠅い」

赤面しながら言う彼女は、世界一可愛いと思いながら、あたふた顔を眺める。自分はこいつが好きだ。世界は変化しても、何も変わってないこの人が好きだ。そう感傷に浸りながら今日という日常を過ごす。これも誰かに従った生き方なのか、自身が選んだのか、分からない人生を歩みながら呟くのだった。

「日常って何だろう」

きっとこの問いに意味はないのだろう、そう思いながら今日を生きるのだった。




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