いや、一応苦労してますけども。

GURA

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「うわあ、最悪……」

マーカーの位置近づいて、2人が目視ができる位の距離をとってから木の上から様子を伺う。

森の入り口からなるべく急いで来たけど、何故か2人は既にゴブリンに囲まれていた。

一般の冒険者はモンスターと遭遇したら念のために退路を確保するのは冒険者ギルドでも最初に教わる初歩の初歩。
なんならギルドで配布される初心者ガイドにも書いてあった。


いくら相手とのレベル差であっても複数との戦闘中には何が起こるかわからない。

もしかしたら敵の増援が来るかもしれないし状態異常をかけてくるかもしれない。戦闘中は何が起こるかわからないのだ。

いくつもの戦闘パターンを想定してから戦闘に臨んだ人たちが後に熟練の冒険者になると言われているってガイドにも書いてあった。

ゲームだとクエストを受けて、その辺にいるフィールドモンスターと戦うくらいで、急に敵が増援に来ることもなかったから気にしなくて良かった。
実践ではそんなこともあるのかって私も初心者ガイドを見てて目から鱗だったけど。

そんな情報さえも知らないとなるとこの戦況かなり怪しいな。




普通のゴブリンは腰の位置くらいの大きさだけど、奥に構えているゴブリン親分はライくらいの身長があってボロボロながらも防具を着ている。

どうやら2人の様子を窺っているようだった。

「おら! ゴブリン共! 勇者様のお出ましだぜー! かかってこいやー! 」

「ちょっ、ラルクさん!? 」

背中に背負っている大剣を抜きもせずにゴブリンの親分に向かって中指立てちゃってるよ。
あんな事する人久しぶりに見たわー。

ライはこれだけのモンスターに囲まれてナイフを構えながらも不安そうな表情を浮かべている。

たぶん意味は分かってないと思うけど、ラルクに対してゴブリンの親分はお怒りになったのか戦闘態勢ばっちり。
ヘイトの稼ぎ方だけは十分みたいだね。




ギャオーッ!

グギャギャッ!ギャー!グギャオーッ!!


ゴブリン親分の声に周りを取り囲んでいたゴブリン達が一斉にラルクに襲い掛かる。
その時になってやっと大剣を鞘から取り出してゴブリン目掛けて剣を振りかかった。




「あれはまた酷いな……」

離れた距離からもわかるくらい刀身が所々赤くなっていた。
いや、別に血がこびり付いているとかいう話ではなくてたぶん赤錆だろう。


弓だと弦を変えたり、矢を購入したりとかで装備の手入れは自分で出来ていいけれど。

ナイフとかだと戦闘後には血を拭き取ったり、鍛冶スキルが低いと自分では出来ない分、定期的に鍛冶屋でメンテナンスをしてもらわないといけない。
切れ味が落ちて酷い時には戦闘中に武器が破壊されてしまう事があるからだ。


アイテムポーチに仕舞えば装備の耐久性とかわかるけど、耐久性が低くなるほど装備の質も落ちる。
ゲームでもそれは一緒で、武器や防具などの装備に関しては冒険者が気を使わないといけないところだというのに。


私もまだまだ戦闘に関しては初心者だと思うけど、さっきから呆れてばかりだな。
なんだかあまりにもゲームに対しても、戦闘に関しても知識が無さすぎるというか……。


案の定、切れ味が悪いのかSTR極振りしていると言っていた割にはHPの高いゴブリン達の数はなかなか減らない。

攻撃の合間にゴブリン達もあちこちから攻撃を仕掛けてくる。
ゴブリンは攻撃力がそこまで高くないから多少攻撃されても大したダメージにはなっていなさそうだが、疲労やダメージは徐々に溜まってきているみたいだ。

いまのところ、ラルクがヘイトを稼いでゴブリンを相手しているおかげでライには被害がない。
たまに攻撃してくるゴブリンにはナイフでどうにか応戦している。




見てないで助けろって?

だけどなー…。
あまり気乗りしないんだよな。

確かに何かあってからじゃ遅いし、ライだけでも助けていようか。

まだ正式な冒険者にはなっていないから、戦闘で見かけたら保護しないといけないしね。








キィィィィンー!!

「えっ? なんで!? 」

「ラルクさんっ!!」


木の枝から次の木に飛び移りながら移動していると、ライの所まであと少しというところで嫌な音がなった。

見るとラルクの持っていた大剣が半ばから折れていた。
うわぁ、見事に真っ二つだわ。


その瞬間にラルクが周りにいたゴブリンに一斉に囲まれていく。

傍から見ていると飴に群がる蟻の軍団みたいでちょっと気持ち悪い。



「うわっ! やめろ、いたっ! 」

今までちょこちょこと攻撃されていたが、一斉にとなるとそれなりにダメージ蓄積されているようで徐々に痛みを感じるようになってきたみたいだ。

寄ってきたゴブリンに素手で殴ったり、蹴ったりして応戦しているがあまり効果はでていない。

サブ装備とか持っていないのか?
普通は連戦とか長期戦もありえるからアイテムポーチには予備の武器とかも入れておくけどな。
もしかしたら、それすらもわからない素人なのか。




思わず足を止めて見てしまっていたが、次の瞬間信じられないことが起こった。


「痛ぇんだよ! てめえらはNPCでも相手にしてろ! 」

「ーーーッ! え、ラ、ラルクさん!? 」

「じゃっ、ライ! 後は頼んだぜ!! 」

「ちょっ! ラルクさんっ!!!! 」


近くに寄ってラルクを助け出そうとしていたライの服を掴むとゴブリンの群れの中に引きずり込んで、その隙に自分は振り返りもせずに走って逃げ出した。

ゴブリン達は目の前に現れたライに標的を変えて攻撃を始める。ライから悲鳴が上がった。



一瞬、何が起こったのか理解するまでに少し時間がかかった。


理解が追いついた次の瞬間には走り出していて、装備していたナイフを両手に構えてゴブリンの群れに突っ込んだ。

気づいたら周りにはゴブリンの死体と傍らで気絶したライがいた。



久しぶりに何かがキレた。

悠長に考えていた自分にも腹が立ったが、ラルクがした事は人道的に有り得ないだろう。


気絶したライを抱えて街への道を急ぐ。

あちこち殴られたんだろう、手足や顔が赤くなって腫れてきている。


あいつラルクをどうしてくれようか。





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