亜人至上主義の魔物使い

栗原愁

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第5章 エルヴバルム編

精霊魔法

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突如、メルティナの口から発した失言にフリードリヒは大きくため息をつきながら頭を押さえていた。

「はあ……ティナ、今朝も言ったがあまり不用意な発言は控えてくれ」

「ふえっ!? え……あの……ご、ごめんなさい。……で、でも精霊魔法は私たちエルフ族にしか使えない魔法なので言ってもいいかなと思って……」

最後の方は消え入りそうな声で言い終えると、そのまま委縮してしまった。
そんなメルティナの姿にさすがに罪悪感を覚え、すかさずフォローする。

「まあ、言ってしまったものはしょうがないが、口外しないでくれ。この技は私たちの奥の手なのだからあまり外部に手の内を晒したくないのでな……」

「別に言いふらすつもりはないよ。……でもまあ、精霊魔法っていうのは聞いたことないからどんなものか興味はあるけどね……。ちなみにディアナは知ってるか?」

ここで紫音は、博識なディアナの方に話を振って訊いてみる。
すると、ディアナは首を横に振りながら残念そうな顔をしながら答える。

「儂も名前ぐらいは知っておるが、詳しくは知らんのじゃ。昔からエルフ族のみが持っている特別な魔法としか持ち合わせていないのじゃよ」

「……ディアナでもそれしか知らないのか。……ちなみにここで質問したら答えてくれたりするのかな……?」

「……よかろう。軽くなら説明してやろう」

てっきり断れるかと思いきやどうやら精霊魔法について答えてくれるようだ。
意外な展開に紫音たちは、フリードリヒの方に耳を傾け、次の言葉を待っていた。

「精霊魔法について語る前に我々エルフ族と精霊との関係性について話さなくてはならない」

そう前置きをしながらフリードリヒ王子は周りの樹々を眺めていた。

「そもそも精霊というのは自然界の中で生き、恵みを与え、マナを生み出す存在。この森は精霊にとって住みやすい環境のせいか、ここには多くの精霊が住み、その精霊のおかげでこのような広大な森へと今も成長し続けている」

「なるほどね……このバカでかい樹はその精霊のおかげってことか?」

紫音は近くにあった樹を触りながら先ほどの言葉の意味を理解した。

(……あれ? そうなると、ウチはどうなるんだ? マナも潤沢で他の森にはないありえない進化を遂げているものがいっぱいあるけどあれは精霊のおかげなのか? それともディアナのおかげ? でもディアナってたしか森の管理はするけど干渉はしないって言っていなかったっけ?)

などと紫音が考えごとをしている間にフリードリヒの説明の続きが再開する。

「エルフ族という種族は森の中に街や社会を作るため自然と精霊との繋がりが強い種族だ。そしてある時から精霊から祝福を受けるようになった」

「……祝福?」

「なぜそうなったかその経緯については父上も知らないためなんとも言えないが、なんでもエルフ族の赤子が誕生すると、精霊からの祝福を受け、両者の間に回路が生まれるそうだ。その回路を使って我々は精霊の力の一端を扱えるようになる。この回路を私たちは『精霊回路』と呼び、力のことを『精霊魔法』と呼んでいる」

話を聞いていると、エルフ族は精霊や精霊魔法についてよく知らないように聞こえる。
しかし、その精霊魔法のことを奥の手と呼んでいるほどならそれだけ強大な力だということは会話から読み取れる。

「それで、その精霊魔法っていうの見せてもらうことはできるのか?」

「残念だがそれは無理な話だ。この力は万能ではないからな」

「実はこの力……使用制限があるんです。一日に数回など人によってバラバラですけど」

「……使用制限なんかあるのかよ」

「……ティナ」

どうやらこの情報は知られたくないようで再びフリードリヒ王子は頭を抱えていた。

「はあ、もういいか……」

先ほどのメルティナの発言を皮切りに精霊魔法について詳しく話してくれた。

フリードリヒの話を要約すると、精霊魔法は使用制限がある上、使用できる力もその精霊によって決まる。
精霊も魔法と同じように階級が存在し、上位精霊であればあるほど使用できる力の数や威力もその階級に比例して変化する。
また祝福を与える精霊に法則性がなく、平民に上位精霊との回路が形成されることがあれば、王族に下位精霊との回路が形成されることがある。

しかし、この精霊魔法にはいくつかのメリットも存在する。
この力は精霊回路を通して発動させるため普通の魔法のように魔力が消費されないこと。
精霊魔法は必ずしも攻撃的なものばかりでなく、防御や回復など様々な種類の力を扱えること。
祝福を受けたといっても契約したわけではなく、代償無しで精霊魔法を使用できるということ。

などということをフリードリヒの口から説明される。

「というわけで私の口から言えることはここまでだ。私がどのような精霊魔法を扱えるのか、そこまで言うつもりはない。ティナもまさかこの人たちの前で力を使ってはいないだろうな」

「も、もちろんです……」

疑うような眼差しで問いかけるフリードリヒに対して間髪入れず答える。

(てっきりティナの百発百中の弓の技術は精霊魔法のおかげだと思ったが違うのか……。じゃああれって全部実力かよ……)

改めてメルティナの弓の技術に紫音が脱帽している中、フリードリヒの口から「もうすぐです」という言葉が聞こえてきた。
どうやら、もうすぐ目的地に着くようだ。

それにしてもずいぶんと時間がかかった。紫音は空を見上げながらそのようなことを思っていた。
まだ空に太陽がのぞいているもののもう少ししたら夜になるような空模様だった。それだけ時間が経ったのだと空を見て改めて感じた。

「皆さん、着きました」

そう言いながらフリードリヒは前方を指差しながら言う。

紫音たちは指が指している方向へ目をやるとそこにはひときわ大きな樹の他に奇妙な物体が紫音たちの視界に映っていた。

「な、なんですか……あれ?」

「……あ、あれが昨日言っていた世界樹です。私は見たことないのですが、世界中にもあの樹と同じような樹があるみたいなんです……」

「そ、それじゃなくて……」

リースの質問にメルティナが答えるが、どうもリースが求めていた答えではなかった様子だった。
おそらく紫音たちもリースと同じ気持ちだった。

それもそのはず、紫音たちはひときわ目立つ世界樹よりもその前にある樹根で作られた巨大な繭状の物体に目が持っていかれていた。

自然にあのような形状になるわけがないため紫音たちはその不思議な物体にしばらくの間、釘付けになっていた。

「おそらくあの木で作られた球状のことを言っているのだろう。……あの中に例のドラゴンがいる」

「あの中に……なによ、ただの引きこもりじゃない。同族として情けないわ」

「なあ、そのドラゴンってあそこから出てきたりってするのか?」

「いいや、ほとんど出てこないそうだ。月に一度、狩りに出て大量の得物をあの中で備蓄しているそうだ」

「……でもあれじゃあ、外敵から狙われ放題だろ。大丈夫なのか?」

「それも問題ない。奴は木々を操る力を持っているらしく近づいてくる敵を察知した際には四方八方から樹木による攻撃が繰り出される。成人の儀では、その攻撃を防ぎながらあの中に入り、奴の古くなった鱗を持ち帰ればそれで達成したことになる」

ずいぶんと難易度が高いな。
紫音は成人の議の達成条件を聞いた瞬間、率直にそのような感想を抱いていた。

「では、これより試練を開始する。立会人は私、ティナとユリファの三人の監視の下、行ってもらう。参加者はシオンとフィリアのみ。それ以外の手出しは禁止とする。ここまではいいな」

「分かっているわ。さっさと始めましょうか」

「そうだなフィリア。……ああ、使い魔の使用は三体まででいいんだよな」

「そうだ……」

改めてフリードリヒの口から試練の内容について確認したところで紫音とフィリアはドラゴンがいるという繭状の物体のところへと向かう。

「あ、兄貴っ! ガンバってください!」

「お兄ちゃん! フィリアさま! お願いします!」

後ろのほうから紫音たちを応援するリースとレインの声が聞こえてきた。
ディアナからの応援はないが、慌てず騒がずまるで紫音たちが勝つことを信じているように黙って傍観することに徹していた。

「そういえば紫音。あと2体の使い魔どうするつもりなの?」

向かう道中、フィリアからそのようなことを聞かれた。
紫音はその問いかけに自分の手を見せながら答える。

「心配するな。俺にはこれがあるから大丈夫だよ」

「……指輪?」

フィリアの言う通り紫音の手には見慣れない指輪が嵌めてあった。

「これが俺の新たな切り札だよ」

紫音は、指輪を見せびらかすようにしながらにっと笑って見せた。
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