亜人至上主義の魔物使い

栗原愁

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第6章 両国激突編

新たに結ばれた契約

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再びエルヴバルムとエーデルバルムとの間に契約は結ばれた後、ソルドレッドたちは囚われていたエルフたちとともにエルヴバルムへ帰還した。

それに国民たちは歓喜の声を上げ、中には涙を流す者もいた。
今日というエルヴバルムが勝利した日を称え、その夜に国を挙げての祝賀会が開かれることになった。
最初の襲撃から長い間、憔悴していた国民たちも笑顔を浮かべながら酒を飲み、仲間たちと喜びを分かち合っていた。

そんな国全体が賑わいを見せている中、紫音たちはソルドレッドに呼ばれ、再び王宮に訪れていた。
そこでアイザックと再会し、ソルドレッドが待つ部屋へと案内された。

「待っていたよ、君たち」

案内された部屋には、ソルドレッドだけでなく、クローディアにフリードリヒ、クリスティーナというメルティナを除く王族の姿があった。

「……それで、用件はなにかしら? 言っておくけど、お礼の言葉はもういいわよ。ここに来るまでさんざん言われてきたからね」

紫音たちが用意された椅子に腰かけると、さっそくフィリアが皮肉交じりの言葉を吐きながら話を切り出す。

(言い方……。確かに飽きるほど言われてたけど、わざわざ言葉にしなくてもいいだろうに……)

ため息を吐きながら、紫音は少しだけフィリアの言葉に共感していた。

紫音たちが先にエルヴバルムに到着すると、エルヴバルムの民たちが一斉に集まり、涙を流しながら感謝の言葉を口にしていた。
どこから漏れたのか、自分たちがエルヴバルムを勝利に導いてくれた救世主というように広まっていたそうで、ディアナたちも同じ目に遭っていた。

「しかし、私たちは感謝してもしきれない恩があなた方にあるのだ。改めて言わせてくれ。国を救ってくれて本当にありがとう」

ソルドレッドたちはお礼を言いながら深々と頭を下げていた。

「ま、まあ、悪い気はしないから別にいいけど……。それより、私たちを呼び出した用件はなんなの? まさかお礼を言うためだけじゃないんでしょ」

「そうだな。ここからが本題だ」

ソルドレッドはコホンと一度、咳払いをした後に本題へと移った。

「フリードから聞いたのだが、君たちは助太刀する代わりに我が国との交易を約束したそうだな」

「ええ、そうだったわね。紫音がそんな条件を出したみたいね」

「本来なら他種族と交流を持たない我々だが、協議した結果、アルカディアとの交易を正式に引き受けることにした」

「ほ、本当ですか!」

ソルドレッドの言葉に紫音たち全員がほっと一安心したように喜んでいた。
しかしそれに反して、ソルドレッドは難しい顔を浮かべていた。

「実はだな……交易を決めたはいいが、輸送方法どうしたらいいか悩んでいてな……」

「輸送方法ですか?」

「メルティナから話は聞いたが、どうやらここに来るまで一週間ほどかかったそうだな。それも竜人族の力を借りて」

「そうね……。私でもそれくらいかかるわ」

「そうなると、商品を運ぶのも一苦労になるのではないかと心配になってね。」

「ああ、それなら心配ありません。実はすでに解決案を用意しているんです」

すでに手を打ってあった紫音が、ソルドレッドたちにある案を提示する。

「これにはエルヴバルムの協力が不可欠なんですが……ディアナ、アレを出してくれ」

「うむ、了解した」

ディアナは、異空間から数枚の紙を取り出した。

「まずは、これを見てください」

「……っ? なにかの設計図のように見えるが、これは?」

その紙には、いくつもの図面が描かれており、ソルドレッドの言う通り設計図のように見える。

「これはディアナが設計した転送ゲートです。この転送装置を使えば、同様の転送ゲートが設置された場所に転移することができます」

「そ、そんなことがっ!?」

「ええ。すでにアルカディアのほうには転送ゲートが用意されています。装置に必要なものもディアナが持っていますので場所をいただければすぐにでも取り掛かることができます」

「転移魔法自体、高度な魔法だというのにこうもいとも簡単にこのような装置を作るとはな……」

簡単な説明を聞いたソルドレッドは、改めてアルカディアが持つ技術の高さに感心していた。
すると、隣に座っていたクローディアが、口元に指を当てながら質問してきた。

「ところで、どれほどの時間があれば完成するのですか? そもそも、この装置はきちんと作動するのですか?」

「設営時間はそうじゃな……一週間もあればできるのう。装置に関してはすでに実験もしており、成功している。人が乗っても人体には影響はないから問題はないはずじゃ」

「ですが、こういうものは悪用されるのでは? 簡単に転移できるのであれば、例えばアルカディアが襲われてこの転送ゲートから我が国に侵入することも容易になるのではないですか?」

なかなかに聡い女王だ。
紫音は、的確に問題点を見出したクローディアに感服した。

しかしその点は、この転送ゲートが設計された段階で問題点とされていたため当然解決策も用意してある。

「それなら心配はない。転送ゲートの使用にはあらかじめ決められた者の承認が必要じゃ。承認者の魔力の波形によって登録するから他のやからには絶対に使えぬように設定しておる」

「それでも、脅迫されてしまえばお終いなのでは?」

「そうなったときは、最後の手段として空間を歪めさせればいい。手順は後ほど説明するが、そうすれば其奴そやつらを空間の狭間に陥れることもできるぞ」

「そうですか。きちんと考えてあるなら私からはなにも言いません。設置場所に関しては、再度協議してからお伝えしてもいいでしょうか?」

「ええ、それでお願いします。……その際には、転送ゲートが完成するまでの間、ここに滞在してもいいかしら?」

「むしろこちらからお願いしたいほどだ。君たちは我が国にとって恩人だからな。部屋もまた用意させよう」

輸送方法についての問題も解決し、話はひと段落したが、ソルドレッドから他にも話すことがある様子だった。

「最後にもう一つだけいいだろうか?」

「なんですか?」

「先日、君たちが交渉した際に出ていた移民の件についてだ」

「ええ、言ったわね。確かに……」

アルカディアは将来的に、多種多様な種族が安全に暮らせる国を目指しているため、エルフ族にもぜひ移住をと思い、前回の交渉の場でその話をしていた。

「状況が状況だ。可能な限り恩人の願いを叶えたいところだが、さすがにそれは叶えることが難しくてな。……申し訳ない」

「そ、そんな気にしないでください! あんなことがあった後なんですから当然のことじゃないですか。……今回は交易を結んだだけで充分です」

「その代わりといってはなんだが、交易をするにあたって、君たちの国について我々はもっと知る必要がある。そのために王宮内のものから数名、大使という名目で試験的にアルカディアに滞在させようと考えている」

「こちらにとっては嬉しい限りですが……本当にいいんですか?」

つい先ほどまで他国から多大な被害を被ったというのに、次は行ったこともない国に派遣される。
国王はよくても他の者が不満を抱かないかと、紫音はそのような懸念を抱いていた。

「それに関しては心配ない。希望する者だけをそちらに寄こすつもりだからな。……しかしだな、君たちには約束してほしいことがあるんだ」

「……なんでしょうか?」

「メルティナがここに残るよう説得してほしい。メルティナがどういう決断をするか分からないが、もし大使として希望した場合は、必ず諦めさせるよう説得してくれ。もちろん私たちも説得するよう努力する」

もう二度とメルティナが危険に遭わないようにするための配慮だろう。
紫音としても、元々はメルティナを送り届けるためにここまで来たので、特に反対する理由もない。

「そのときになったら説得はしますが、それで諦めてくれるかどうかは……」

「それでもいい。メルティナには、もう二度とあのような悲しい目に遭わないようにずっとこの国にいてもらいたい。そのためなら、後のことは私たちがなんとかしよう。……それが私たち、家族の総意だからな」

強い決意を抱いたその目に、紫音は緊張したようにごくりと生唾を飲み込んだ。
ソルドレッドたちからの話はこれで終わり、お開きとなったが、部屋の外にその一部始終を見ていた一人のお姫様がいた。

「……お父様……そんな……」

下手したらもう二度と紫音たちと会えなくなるかもしれないと知り、メルティナの瞳からひとしずくの涙が零れ落ちた。
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