3 / 9
クレイジーSを着るために
(1)
しおりを挟む「スキニータウン」には数々のブランドショップがある。
どこも小さなサイズ中心だが、なかでも細身志向の強い女性たちの人気を集めているのが「クレイジーS」だ。
とはいえ、誰もが気軽に立ち寄れる店ではない。
住所も電話番号も非公開で、サイトを通じて入店を予約する形式。
デザイナーでもある女主人のほかには、事務や受付を担当する女性スタッフがひとりいるだけだ。
接客は女主人がひとりで行うため、入店できるのは1時間ごとにひとりずつと決められている。
冷やかしの客を避ける意味もあって、入店の条件も厳しい。
身長や体重、各パーツのサイズの記入や、全身写真の添付が義務付けられ、予約できた場合は前もって入店料を払う。
もっとも、これはきめ細かなサービスをするためでもある。
客が望めば、コーデや補正などの相談などにも乗ってくれるとあって、そこも人気の理由だ。
4月中旬の平日午前10時前、ひとりの少女がこの店にやって来た。
開店時刻は9時なので、この日ふたりめの客ということになる。
高2になったばかりだが、入店の予約ができたことで学校を休み、地元から夜行の高速バスで上京。
24時間営業のスパで身を清め、カフェでお茶するなどして、この時間を迎えた。
ふーっ、ようやくここまで来ることができた。
お年玉も全部貯金して、ダイエットも私なりに頑張ったんだもんね。
今日は自分へのご褒美のつもりで楽しもう!
憧れの店についに来たというワクワク感と緊張感、なお、今は後者のほうが上回っている。
自分がこの店にふさわしいかどうか、正直いって自信が持てず、じつは場違いなのではという不安も否めない。
少女にとって、この店の服は特別で、天使や妖精みたいに細くて可愛い人しか着てはいけないものなのではないか、というイメージすらあった。
ただ、細さについていえば、少女は学校の誰よりも痩せていて、地元では二度見されることもしばしば。
世界一細い女性が集まるこの「スキニータウン」の基準でも、かなりのレベルだ。
ちなみに「シンデレラ体重なんてむしろ●●」で紹介した、この地を行き交う女性たちの平均スペックと比べても――。
身長は平均より1センチ低い155だが、体重は27で、平均よりも10キロ近く少ない。
実際、この地でも今朝、何度か二度見されたほどだ。
可愛さについても、昨年秋の学園祭ではミスコンへの出場を勧められた。
クラスで最低ひとりは出場させる決まりだったことから、少女に白羽の矢が立ったのだ。
恥ずかしがり屋の少女が泣いてしまったため、出場には至らなかったが、可愛さもなかなかのレベルといえる。
なお、その頃の体重は32キロ。
泣いてしまった自分がいやで、何か自信をつけたくなり、ダイエットを始めた。
「クレイジーS」の服が似合う女の子になる、というのもモチベーションのひとつで、28キロになった2月に入店を予約。
そこからさらに1キロ落としたのが今の状態だ。
ところで、少女にはこの店の場所に戸惑う気持ちもあった。
入店予約した者だけが見ることのできる案内に従い、たどりついたのは5階建ての古びたマンション。
かなり旧式のエレベーターで最上階に上がり、その号室に行くと、店の看板どころか、表札も白いままだ。
インターフォン越しにあいさつをしてみたところ、予約番号を聞かれ、ドアが開いた。
「いらっしゃいませ。お時間まであと10分ほどありますから、こちらでお待ちください」
中年の女性に手で優しく示されたのは四角いテーブルを挟んで3人掛けくらいのソファーがふたつ置かれたスペース。
店のスタッフとおぼしきその女性がやはり細身であることに、なるほどと感じながら、少女はそこに座り、四方を見渡した。
すると、掛け軸のようなものが目に留まり、そこには達筆で書かれたこんな言葉が。
「一瞬の美に 一生を捧げんとする乙女たちに 永遠の幸あれ」
なんだろう、これ?
でも、すごくいい言葉、のような気がする。
そう思いながらも、少女は自分もまた、その「乙女たち」のひとりであることにはピンと来ていない。
「クレイジーS」というブランドに憧れ、引き寄せられるというのはまさにそういうことなのに――。
1
あなたにおすすめの小説
痩せたがりの姫言(ひめごと)
エフ=宝泉薫
青春
ヒロインは痩せ姫。
姫自身、あるいは周囲の人たちが密かな本音をつぶやきます。
だから「姫言」と書いてひめごと。
別サイト(カクヨム)で書いている「隠し部屋のシルフィーたち」もテイストが似ているので、混ぜることにしました。
語り手も、語られる対象も、作品ごとに異なります。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
恋愛リベンジャーズ
廣瀬純七
SF
拓也は、かつての恋人・純への後悔を抱えたまま生きてきた。ある日、過去へ戻れる不思議なアプリを手に入れるが戻った先で彼を待っていたのは、若き日の純ではなく――純そのものになってしまった自分自身だった。かつての恋人とやり直すはずが、過去の自分を相手に恋をするという奇妙で切ない関係が始まっていく。時間と心が交差する、不思議な男女入れ替わりストーリー。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
刈り上げの教室
S.H.L
大衆娯楽
地方の中学校で国語を教える田辺陽菜は、生徒たちに校則を守らせる厳格な教師だった。しかし、家庭訪問先で思いがけず自分の髪を刈り上げられたことをきっかけに、彼女の人生は少しずつ変化していく。生徒たちの視線、冷やかし、そして自分自身の内面に生まれた奇妙な感覚――短くなった髪とともに、揺らぎ始める「教師」としての立場や、隠されていた新たな自分。
襟足の風を感じながら、彼女は次第に変わりゆく自分と向き合っていく。地方の閉鎖的な学校生活の中で起こる権威の逆転劇と、女性としての自己発見を描く異色の物語。
――「切る」ことで変わるのは、髪だけではなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる