痩せたがりの姫言（ひめごと）

「生けるガイコツ、その先の怪談」ほか幾つかの掌篇

生けるガイコツ、その先の怪談

仕事が休みの土曜日の午後、いつものように家で過食しながら、スマホを触ってたら、こんなネットニュースを見つけた。

「体重23キロ、私は『生けるガイコツ』だった！　フランス発　拒食症女性（21）奇跡の生還！」

アンヌという名の、その女性は、身長162センチ。
23キロのときの写真は、大げさじゃなく「生けるガイコツ」だ。

痩せたきっかけは13歳のとき、私立のお嬢さま学校に入学して、
「ほかの女のコよりきれいになりたい」
と思ったことだった。

食べることを周囲に強制されても、指吐きで抵抗。
体重は65キロから７年後、23キロまで落ちた。

ある日、パーティーで久々に会った叔母が彼女に、
「こんにちは。初めてお目にかかりますよね」
と、あいさつ。
気づかれなかったことに驚いた彼女は無言のまま、作り笑いで会釈をする。
叔母はその後、アンヌの母親、すなわち自分の姉とふたりっきりになったとき、
「あの若作りしているすごく細い人、お姉ちゃんのお友達？」
と、たずねたという。

そして、拒食症専門のクリニックに入院。
治療の結果、
「わずか一年足らずで50キロを超える体重に戻った」
とある。

ここで、日本の専門医のこんな指摘が挿入されることに。

「急激な増量で内臓などの負担は大きかったはず。
肝機能などに後遺症が出なければよいのですが……」

たしかにそれもあるかもだけど、ちょっとピント外れな気もする。
急激な増量はその後の地獄にもつながりかねないものだから。

モヤモヤした気持ちは、締めくくりの文章でひとつの確信に変わった。

「現在の彼女の食欲は旺盛そのもの。
『何を食べても味がしなかったのに、今はすべての食べ物がおいしくて、食べすぎが心配なの』
と明るく笑う。
もう、心配はなさそうだ」

いいえ、心配なのはこれから。
別の地獄が待ってるよ。
って、拒食から超のつくリバウンドで100キロ超えのデブになり、自殺未遂までした私が心のなかで叫ぶ。
経験者ならわかるよね。

生けるガイコツと、死にたいのに死ねないデブ、本当の怪談はどっちだろう。