加護なし少年の魔王譚

ジャック

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0章

第2話 加護

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今日はゼノン、ミオ、アルスの3人の加護を授かる日である。3人に加えてリル、そしてアズレという施設の主がいる。

「うぉぉー!今日は3人の将来が決まる日じゃー!!今から3人にどんな加護が授かるのか…楽しみじゃのー!」

「けっ!見てろよ!ジジィ!俺はすげぇ加護貰ってこんなド田舎とっとと出てってやるからよ!」

「こら!アルス!アズレさんに謝りなさい!」

「いいんじゃよ。気にせんでええわい」

「チッ!」

正直なところアルスはアズレも嫌いだった。自分が王だと思っているアルスが子供扱いされているのが許せないのだ。アルスは基本的に女好きなので男は毛嫌いしている。

教会にはゼノン達が住むソツ村の子供だけでなく周辺の村も合わせたたくさんの7歳になる子供がいた。この中のほとんどが村人などの加護を貰うと分かっていても「騎士」や「魔道士」はたまた「勇者」「聖女」というような特別な加護を貰える夢を見ている。

「それでは我らが神からの祝福をいただく皆、神・ガゼル様に祈りを捧げよ」

聖職者からの指示で子供たちは加護を授かり始めた。

名前を呼ばれた子供は聖職者の元へゆき、神・ガゼル像の前で頭を下げて神への祈りを捧げる。そうすることで加護を授かることができる。加護を授かったものは手の甲にアザができる。それによってどんな加護を授かったのかがわかるようになっている。

良い加護を貰って喜ぶもの、期待はずれで泣くもの、そして…加護を貰えず絶望するもの…。色々な子供がいる。

加護は全員が等しく貰える訳では無い。稀にだが加護を貰えない者だっている。5000人に1人ぐらいの確率だ。加護とは神からの祝福とされており、加護を貰えないものは神からの祝福がない、神から見放された者とみなされる。自然と将来の行き先が決まってしまう。村人として過ごすか…、奴隷となるか…。

神からの祝福がなければ奴隷として扱われることも多く、村人からも嫌われることが多い。

「ミオ=ハートフィリア」

ミオの名前が呼ばれたことで、ミオが立って前へ行く。その面持ちは緊張しているように見える。加護によって将来が決定すると言っても過言ではないからだ。

「おぉ!これは!「聖女」の加護じゃ!」

その瞬間に周囲がざわめく。感嘆の声、驚きの声…。そして、リルは泣いているように見える。アズレは開いた口が塞がらないという状態。それもそのはず。「聖女」「勇者」などという特別な加護を持つものは滅多に現れない。1つの世紀に3人いれば多いと思われる。

ミオは像と聖職者の前で深く礼をしてからとても嬉しそうな面持ちでこちらに戻ってくる。

「良かったわねぇ!ミオ!」
「ありがとう!リル先生!」

ミオとリルが抱き合い、涙を流す。本当の親子のようにしか見えない。

そして、ミオはゼノンの隣に座る。

「どう?すごいでしょ!」

小さな声でだが、ミオは隣のゼノンに話しかけた。

「うん。すごいね…ミオ」

「えへへ♪」

ゼノンのその言葉に心底ご満悦な様子のミオであった。

「へっ!見てろよ!俺だって!」

ミオとゼノンの会話を聞いていたアルスも会話に参加しようとするが、ミオはそれをうっとうしそうにアルスを睨んでいる。

その時…、

「アルス=ギュンター」

アルスの名前が呼ばれた。アルスも聖職者の所に行き、神・ガゼル像の前で深く祈りを捧げる。

「おぉっ!!これはっ!正しく「勇者」の加護!!まさかこんな辺境の地で出ようとは!!すぐに国に報告せよ!」

これには周囲が大きくザワついた。修道士達も大慌ての様子である。

「勇者」の加護が最後に出たのは60年程前である。そして、その勇者も既に戦死している。つまりアルスは現在この世でただ1人の勇者に選ばれたのである。

「よっしゃぁぁぁ!!!おれ様が勇者だ!」

アルスは興奮を抑えきれず、叫んでしまっている。ガゼル像の前で叫ぶなど失礼なことで本来なら聖職者直々のお叱りなはずだが、今はそれどころではない。

アルスはガゼル像の前で礼をしたら自信満々で堂々とゼノンたちの方に戻ってくる。

「どうだ!!俺様は勇者だぞ!」

アズレは喜びのあまり大量の涙を流しながら失神してしまっている。

「うぉぉー!!!すごいぞー!アルス!!!まさかわしらの施設から2人も特別な加護持ちが出ようとは…!!今日は祝いじゃ!そつ芋祭りじゃー!!!」

しかし一瞬で復活したアズレは体液をダラダラ流しながらアルスに抱きつく。アルスも「離れろ!クソジジイ!俺はリル先生に─」と必死に対抗している。

ちなみにそつ芋とはソツ村原産の芋で1つ食べれば体中の水分を奪い、仮に水なしで食べようものなら1個でも脱水症状に陥らせるという毒芋のような食べ物である。

アルスはそつ芋が大嫌いだが、意外にもアルス以外のソツ村住人はそつ芋が大好きである。それはミオもゼノンも例外ではない。

アズレから解放されたアルスはゼノンを押しのけてミオの隣に座る。その拍子にゼノンは転んでしまったが、アルスはお構い無しである。

「へへっ。ミオ。お前を俺のおんなにしてやっても─」

「ゼノン!?大丈夫!?」

しかし、ミオはアルスを華麗にスルーしてゼノンの元へ駆け寄る。「勇者」として注目の浴びていたアルスが無視された光景はこの場の全員が見てしまっていた。

「う、うん…。大丈夫…」
「おい…。クソゼノン!!てめぇおれさまに恥かかせやがって!」

そんなことがアルスに耐えれるはずがなく、怒りの矛先はゼノンへと向かった。が…、

「ゼノン」

聖職者によってゼノンの名前が呼ばれたことでゼノンは立ち上がりミオ、アルスと同じように前へゆっくりと進む。その面持ちはかなり緊張しているように見える。ゼノンは赤子の時に拾われ名前もなかった。ゼノンというのはリルがつけた名前である。

同じ施設から「聖女」「勇者」などという特別な加護が出たのだ。自然とゼノンにも注目が集まる。

(アルスも、ミオもすごい加護を貰ったんだ。僕だって………!)

周りからの好奇な視線を感じて少し下を向きながらも前へと進み、ガゼル像の前で深く祈りを捧げる。

「これは!…ゼノン…お主は無加護じゃ」

「えっ……?」

周囲がアルス達の時とは違い、シー…ンと静まってしまう。

「ぶわはは!無加護!やっぱゼノンはクソゼノンだな!」

その中で1人、アルスの笑い声だけが教会に響く。ミオはゼノン程とはいかないが、絶望した顔をしている。ミオはいつか3人で冒険する夢を見ていた。だが、無加護ではそれは難しい。

リルは手を口に当て声を失い、アズレは先程までとはうってかわりどうすればいいのか分からない様子である。

他の人からはどこか失望したような視線や哀れみの視線が飛び交っている。

そんな中、ゼノンは下を向き、自分の足を見ながら元の場所へと戻っていく。その様子にミオもリルもアズレも何と声をかけていいのか分からず、ただ見つめることしか出来ない。

加護持ち、しかも同じように育ってきて「聖女の加護」という特別な加護をもらったミオが声をかけたところで哀れみにしかならない。それはリルもアズレも同じである。

「ゼノン!お前は俺様のどれいだ!これからは「勇者」の俺様が使からな!どうだ?嬉しいだろ??」

既にゼノンを物扱いするアルスの言葉はゼノンの耳には入らない。ゼノンは今、深い絶望の中にいた。加護無しは珍しいが、少なくない訳では無い。どこの教会でも毎年何人かはいる。

加護無しはこの世界では安定した生活は送ることが出来ない。明るい未来は待っているとは言えないのだ。

そこから、ゼノンの記憶はなかった。いつの間にかいつもの施設へと帰り、そつ芋パーティーを終えていた。ゼノンが大好きなぶどうを食べてもいつもと同じように笑顔には慣れなかった。

「大丈夫…。大丈夫よ…。私たちはずっとあなたの味方だから…」

「う、うわぁぁぁん!!」

リルがゼノンを抱きしめてくれて初めて涙が出た。その様子はみんなが見ていた。アルスはただ一人つまらなそうに見ているが…。

「おい、ゼノン」

「な、何?アルス…」

晩御飯を食べ終えたゼノンは現在外にいた。花の水やり、そして植物に成長魔法をかける。これは既にゼノンの日課となっており、ゼノンはこの時間を何より楽しみにしている。

「オラ!!」

アルスは水やりをしているゼノンを蹴り飛ばした。じょうろもゼノンも吹き飛ぶ。

「い、痛い!」

「はっは!!勇者の加護っていうのはすごいな!」

「な、なんで?アルス…。僕…何かわるいこと…した…?」

ゼノンは訳が分からずその場にうずくまる。ゼノンはアルスが苦手ではあったが、だからと言ってアルスに意地悪をしたことは無かった。

「俺は…お前が嫌いなんだよ!!」

アルスはゼノンに大声で叫ぶ。ゼノンはアルスのその言葉に衝撃を受けた。

「ずっとお前が嫌いだった!いつも俺様を見下したような目で見てきやがって!俺が失敗したらすぐに心配しやがって!!てめぇごときに心配なんてされたくないんだよ!!実は笑ってんだろ!?」

「そ、そんなこと…してない…」

「けっ!!そのくせミオやリル先生に気に入られやがって!!でもゼノンは無加護だ!そして俺さまは勇者だ!俺様が1番偉い!!だからミオもすぐに俺のことが好きになる!」

ゼノンにはアルスが何を言っているのかよくわからなかった。ただ普通に過ごしていただけなのに…。

「これでもくらえ!スキル:勇者の一撃!!」

アルスが持っていた木剣が輝き、ゼノンの左腕を襲った!その瞬間ボキッ!とあう生々しい音が響きわたる。

スキルとは加護に伴い受け取るもので、様々なものがある。訓練することで覚えることもある。しかし、それは加護があるものに限った話。無加護の者はスキルは貰えないのだ。

「うわぁぁぁ!!!」

ゼノンはそれを避けることも出来ずに食らってしまい、腕の骨が折れた。その痛みに耐えることが出来ず叫んでしまう。

「へ、へへ…。俺…知ーらね……」

アルスはゼノンの叫び声を聞いて森の方へ走り去ってしまった。ゼノンを傷つけた罪の意識に耐えられなくなってしまったのだ。

「うわぁぁぁ!!」

「ゼノン!?」「ゼノン!!」

ゼノンの叫び声を聞いたミオとリルが走ってゼノンの元へ駆け寄る。

「今治してあげるからね!」

「こんな怪我…!どうしたの!?」

ミオがアルスを治し、リルはアルスに状況を問う。しかし…

「あれ!?治らない!」

ミオがいつも使う聖魔法の初級程度では軽い怪我は直せても骨折レベルの怪我になると治せない。ゼノンはずっと苦しそうにしている。けれど「アルスのせい」とは言わなかった。

「そうだ!!スキル:聖女の祈り!!」

ミオのスキルの効果でアルスにやられたゼノンの怪我は完全に治った。

「言いなさい、ゼノン!!何があったの!?」

リルが先程より強く迫るが、ゼノンは何も言わない。

「どうせクソゼノンがコケたんだろ!どんくさいな!!」

すると突然森からアルスが現れた。

「アルス!?今までどこ行ってたの!?」

「も、森で猪を倒してたんだよ。あ、明日のためにな!」

アルスは自分の後ろにいる小さなイノシシをリルに見せた。ゼノンの骨を折ってから僅かな時間でイノシシを倒してきたのだ。

「そんな危ないことしないで!」

「アルス!あんたがゼノンに怪我させたんでしょ!!」

「ミオ!俺様はさっきまで森にいたんだよ。どうせゼノンがコケたんだろ?それよりほら、どうだ!このイノシシ!俺様1人で倒したんだぜ!ミオなら触らせてやらんことも無い!」

「別にいい!ゼノンも何か言いなさいよ!」

「ぼ、僕は…」

ゼノンが何かを言おうとするとアルスがゼノンを睨む。

「違うよ…。僕がコケたんだよ……。アルスは…悪くない。僕が悪いんだ……」 

「ほ、ほらな!俺様は悪くない!俺様はもう寝るぜ!勇者だから!!」

ゼノンはアルスが怖くて言えなかった訳では無い。それもあるだろうが、一番は自分が悪いと思っていること。そしてアルスが怒られてしまうかもしれないと考えたからだ。

「ミオ……ごめんなさい……」

「…別にいいよ…。ゼノンを治すのは慣れっこだもん!」

「ほら、ミオもゼノンも中に入りましょ」

ゆっくりと4人は施設へと戻っていた。

(アルス…。そんなに僕のこと…。全然わかってなかったんだ…アルスのこと…)

「あ…」

ゼノンは帰る途中で自分が育てている花壇を見た。花壇に植えた花がぐちゃぐちゃになっていた。あの時、アルスに踏まれたんだと簡単にわかった。
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