23 / 34
1章
英雄と無加護④
しおりを挟む
Sideゼノン=スカーレット
「がァァ!!」
バギャァァン!!
目の前の壁を全力で殴る。そこには大きな凹みができた。
今、いるのは王都のはずれにあるダンジョン。俺はそこに1人で装備もなしに潜っていた。
巻き付けられた包帯はそのままで、その破壊衝動のままにただ暴れ回る。もう何時間そうしているのか分からなくなった。
「クソっ!!クソ!!!」
「グルガァ!!」
「ガあぁ!!!」
目の前に現れた魔物を力任せに倒す。
包帯が赤く染まっていくのがわかった。だけど今は痛みも感じなかった。
誰でも良かった。何でも良かった。ただこの感情を、この気持ちを沈めてくれるなら何でも良かった。
「俺は……!!!俺は……!!」
負ける訳にはいかなかった!!絶対に負けちゃいけなかった!なのに!!
「やっぱりここにいたのね。思春期の男子にありがちな行動っぽいわね。1人になりたくてかつ、何かに怒りをぶつけたい。そう考えるならダンジョン以外に最適な場所はないでしょうね」
「ファナ……先生……」
いつの間にかは知らないが、目の前には完膚なきまでに倒されたファナ先生がいた。
「どう…し……て……ここに?敗者を笑いにでも来ましたか?」
「やさぐれてるわね。私はそこまで暇じゃないの。ニム先生から報告を貰ったわ。知ってるとは思うけどあなた、その傷がもう一度開いたら死ぬらしいわよ?」
「…どうでも…いいでしょ……。そんなことぐらい…」
顔を伏せ、下を向く。歯を食いしばる。手を強く握りすぎて血が出てるな。だが、そんなこと全てどうでもいい。
「そんなこと…ね…。もう少し体を大事にしなさい」
それをあんたが言うのかよ。マジでそう思った。こんな体にしてくれたのあんたなんですけど??
これを口に出さなかったのを褒めて欲しいわ。
「まあ、私がやったんだけどね」
「全くもってその通りです」
「ん?何か言ったかしら?」
「いえ、何も」
つい声に出してしまった。いや、仕方ないだろ。不可抗力だ。っていうか文句言う権利ぐらいあるだろ。理不尽だ。
「…よくやった方だと思うわ。私は人間の英雄よ。加護の力だってある。だと言うのにあなたは無加護でまだ若いというのに私に一撃を与えることが出来た。それもかなりの…ね…。実際右腕もようやく動けるようになって……」
「そういうことじゃないんですよ!!!!」
俺は薄暗い中でファナ先生の言葉を否定する。否定しなければならなかった。それだけは………
「無加護がどうとか…英雄がどうとか…年齢がどうとか…そういうことじゃないんですよ…。俺は……あなたにだけは負ける訳にはいかなかった………。絶対に……。そのための………」
「……?どうしてあなたはそこまで英雄に固執するの?実際に私に負けたのは仕方ないでしょう?」
そのための8年だったのに……。それは全て無駄だったってことだ。結局俺は…………
「…入学式の時にあなたは言いましたよね………。『結果が全て』だと」
「!えぇ、そうね…」
「僕もその通りだと思います。結果が全てだ。過程なんて関係ない。だから…俺が無加護だとか関係なんだよ。それも含めて俺でしかないんだ」
だから……『誰も守れなかった』。……その結果が全てなんだ。これが本物の戦場ならファナ先生によってミオもラルクも全員死んでた。
「ふふ。いいわね…」
ファナ先生は俺の答えにかただ美しく微笑む。今の俺はそんなことで「美しい」だとか考えてなかった。ただ俺は…!
「弱いままでいるのは嫌なんだ!!」
自分に怒りを燃やしていた。弱い自分に腹が立つ。このまま誰も守れない。誰も………!!
「あんな地獄を見るのは…嫌なんだ!!それを知ってるのは…俺だけでいいんだよ!!!」
「……?なんのことを言っているのかしら?」
俺は弱い…。だから俺が今、何をすべきは1番俺が分かってる!!
「お願いします!!俺に…戦い方を教えてください!!」
「はぁ……?」
俺はファナ先生の前で地に額をつけ土下座をして懇願する。今の俺に出来ることはこれしかない。
「…呆れたわ……。少し期待した私が愚かだったわね…。はぁ。少しは面白いと思ったのに…。やっぱり…ダメね」
その瞬間にファナ先生から魔力が溢れ出る。常人ならばその魔力に当てられただけで発狂してしまうだろう。
「…お願い…します…!!」
だが、俺はずっと土下座をしたまま懇願し続ける。
「……本当につまらないわ。私はつまらない人間が嫌いなの。敵である私に頭を下げるなんて無様ね。まるで虫の命乞いだわ…。その上に教えて欲しいだなんて傲慢にも程がある。身の程を知りなさい」
無様と罵られようとも俺はただ土下座をし続けた。そこに魔王としての姿はなくてもよかった。
「はぁ…。もう帰りなさい。ニム先生も心配していらっしゃったわ」
コツコツとファナ先生は俺に背を向けてこのダンジョンの出口へと向かった。
いつまでそうしていたか分からないが、いつの間にか先生の足音は聞こえなくなっていた。
「…………………帰るか……………」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
Sideファナ=ディアナ
「ん、んぅ~。……もう…朝…なのね……」
私はベッドから体を起こして目を覚ます。
「ふぁー。……眠い……」
…私は朝に弱いのよね……。それに昨日は遅かったし……。
一瞬、今日の学校休もうかしら?と考えてしまうが今の私の立場からそういう訳にもいかず朝支度を済ませる。
今のSクラスを任せられる教師がいないのよね……。さすがに勇者の加護から始まり、とてつもなく貴重な加護を持つ彼らに教えることが出来る人材って少ないのよね…。こんなことなら他の"英雄"さんに任せれば良かったわ…。けどほかの英雄は偏屈でどこにいるか分からないから無理ね…。
そもそも私があの学校で教師をやっているのだってただ研究がしたいからなのに。
「う…う~ん…。行きましょうか……」
用意を済ませたら私は自分の家を出て、レイシェレム学院を目指す。
最近になってようやく右手が完全に動くようになったわ。
それにしても本当に昨日はつまらなかった。
私は頭の中で無様に頭を垂れる少年を思い浮かべる。
…まさかあの程度だなんて…。はぁ。もうちょっと面白い人間だと期待したというのに…。私に教えを乞うように頭を下げる人間もあんなふうに命乞いをする人間も何回も見てきた。
だからつまらないわ。
……結局魔法について聞くのも、私の右腕に仕掛けた攻撃について聞くのも忘れたまま。はぁ……。本当に運がないわね。
…それにしても彼はよく分からない。
「あ!ファナ先生!おはようございます!」
「えぇ、おはよう。ミオさん」
たまたま出会ったミオ=ハートフィリアさんと挨拶をして一緒に学校に登校する。彼女とはよく登校中に出会うわね…。学校でもよく話しかけてくれて真面目…。私を敬愛しているのでしょうね…。
「あの…ファナ先生……」
「はい、なんでしょう?」
「えっと……4日前にファナ先生と戦ったゼノン=スカーレットの事なんですけど……」
「……えぇ。それがどうかしたのですか?」
「アイツがファナ先生に何かをしたのなら私が謝ります。だから…許して貰えませんか?アイツは確かにここじゃ無加護で無価値とかって思うかもしれませんが…、そんなことないと思うんです。少なくとも私にとっては。えっと…私とゼノン、そしてアルスは同郷で…だから……昔から見てきてるんですけど彼は優しくて…。なので…殺すのは許して貰えませんか?お願いします」
ミオさんは私の前で腰をおりお願いをする。
「…えぇわかりました」
「ほ、本当ですか!?」
「えぇ。もちろんです」
なぜなら…、既に私は彼に興味などないのだから。そんな相手を殺すだけとはいえ、構うのも面倒だわ。
「それに私もあの時はやりすぎたと反省しています。彼が予想以上に強かったのでつい…。こちらこそ申し訳ございませんでした」
「い、いえ!わ、私が謝られても困ります!」
確かにそうね…。謝る相手が違うわ……。
それにしても彼が分からないわ。
既に彼への興味は消え失せているけれど少し考えてみる。
あの時の戦いに関してもそうだけど彼は最後まで剣を抜くことも無く、身体能力以外の魔法も使わなかった。理由は知らないけども。それに……彼は無加護だった。それは間違いない。加えて裕福な生まれではなく辺境の村。
だと言うのにどうして彼はあんなにも強かったのかしら?あの強さは間違いなくSクラス級だった。そこにどんな理由があるの?
……………まぁ…、どうでもいいわ。
どうせつまらないありきたりな理由でしょう。
「ぎゃはは!こいつとうとう自分の立場がわかったようだな!」
「それでこそ無加護だ!」
「一生這いつくばってろよ!!」
とうとうレイシェレム学院が見えてきた…んだけど、どうやら今日はいつもより過激な朝ね。何をやってるのかしら?
全く…朝から魔法を使うなんて意欲が出てるじゃないの。素晴らしい…。
ということでスルーしましょう。
「せ、先生!!アレ!」
…しまった……。ここにはミオさんがいるんだったわ。ここでスルーする訳にはいかないわね。でも、アレに教師が手を出したとしても結果は変わらないどころかより、酷くなるだけなのよね。
今は辞めるかもしれないけど、教師から離れたところで今より過激ないじめを受けることになると思うのだけれど。
まあ、仕方ないわね。
どういう状態かは知らないけれどどうやらその人の上を誰かが歩いていたりその人に向かって魔法を放つなどと言うもはや訳の分からないじめが起きてるわね。…人が橋のように扱われてるの?
「あなた達、その辺にしなさい」
「「「「ふぁ、ファナ先生!!?」」」」
虐めている本人たちも私の登場で急によそよそしくなる。
…そこで私は気づいた。
そこには昨日見た芋虫のようなポーズの無加護がいた。
「ぜ、ゼノン!?」
ミオさんも彼に気づき、彼の傍による。
服装…、そして赤く染まった包帯、これを見たら大体わかるわ。いつからこうしていたのかは知らないけれど彼はずっと土下座したまま一夜を過ごしたのだと。
「……あなた達はもう行きなさい。もうすぐ始業の鐘がなるわ」
「「「「は、はい!」」」」
私が作った笑顔でそう言うと、彼らは走りだして校舎へと向かう。
「ゼノン!何してるの!?っていうかいつ起きたの!?」
ミオさんが慌てふためくなんて珍しいわね…。看病していたはずの少年がいつの間にか起きて土下座してる。…うん。意味わからないわよね。
私も分からないわ。
だからこそ…面白い。
失ったはずの彼への興味がもう一度私に戻ってくる。
「ミオさん。あなたも行きなさい。遅刻するわよ。それに…どうやら彼は私に用があるようだわ」
「え?え?でも……」
ミオさんは私と彼を見比べながら悩む。余程彼のことが大事なのね…。
「大丈夫よ。約束を破ることはしないから」
「わ、分かりました…」
ミオさんはそのまま校舎へと走る。
そして始業の鐘が鳴り、周りには誰もいなくなった。そして、昨日と同じく魔力を出して威圧する。
「…さて、何をしているのかしら?」
「……お願いをしに来ました。俺に戦い方を教えてください」
「どうしてここにいるの?」
「ここにいれば必ず会えると思ったからです」
その発想は間違ってはいないけどもね……。
「……あなたは無加護よ。そのハンデの中で上手くやってる。もう十分に強いと思うわ。それでも力を求めるのはどうして?」
…ただの気まぐれだった。けど、この質問次第では…とも考えていた。
どうせ、復讐とか約束とかそんなものだろうと思っていた。
「『魔王』になるため!!!」
けど、彼は私の想像を超えてきた。しかもノータイム。
「『魔王』?ぷっあははは!人間のくせに魔王になりたいの?それなら私には負ける訳にはいかないわね!!だって私は人間の英雄なんだもの!あははは!!」
彼はずっと土下座したままだったけど、その目は真っ直ぐなものだった。私は笑い続けた。あぁ、やはり面白い。
「あなた…名前は?」
「ゼノン=スカーレット」
「そう。ゼノン=スカーレット…。先に言っておくわ。私はあなたを今より遥かに強くすることが出来る。でも、その道は地獄よ。その過程で死ぬかもしれない。というか死ぬわ。それでいて私はつまらない人間が嫌いなの。だからあなたが私の弟子でいたいというなら常に私の想像を超えなさい。それが私の弟子でいる条件よ」
「お願いします!!!」
「そう…。ならこれであなたは私の弟子よ。よろしく、ゼノン=スカーレット」
こうしていた私は魔王を育てるべく初めて弟子を採ることになった。
「がァァ!!」
バギャァァン!!
目の前の壁を全力で殴る。そこには大きな凹みができた。
今、いるのは王都のはずれにあるダンジョン。俺はそこに1人で装備もなしに潜っていた。
巻き付けられた包帯はそのままで、その破壊衝動のままにただ暴れ回る。もう何時間そうしているのか分からなくなった。
「クソっ!!クソ!!!」
「グルガァ!!」
「ガあぁ!!!」
目の前に現れた魔物を力任せに倒す。
包帯が赤く染まっていくのがわかった。だけど今は痛みも感じなかった。
誰でも良かった。何でも良かった。ただこの感情を、この気持ちを沈めてくれるなら何でも良かった。
「俺は……!!!俺は……!!」
負ける訳にはいかなかった!!絶対に負けちゃいけなかった!なのに!!
「やっぱりここにいたのね。思春期の男子にありがちな行動っぽいわね。1人になりたくてかつ、何かに怒りをぶつけたい。そう考えるならダンジョン以外に最適な場所はないでしょうね」
「ファナ……先生……」
いつの間にかは知らないが、目の前には完膚なきまでに倒されたファナ先生がいた。
「どう…し……て……ここに?敗者を笑いにでも来ましたか?」
「やさぐれてるわね。私はそこまで暇じゃないの。ニム先生から報告を貰ったわ。知ってるとは思うけどあなた、その傷がもう一度開いたら死ぬらしいわよ?」
「…どうでも…いいでしょ……。そんなことぐらい…」
顔を伏せ、下を向く。歯を食いしばる。手を強く握りすぎて血が出てるな。だが、そんなこと全てどうでもいい。
「そんなこと…ね…。もう少し体を大事にしなさい」
それをあんたが言うのかよ。マジでそう思った。こんな体にしてくれたのあんたなんですけど??
これを口に出さなかったのを褒めて欲しいわ。
「まあ、私がやったんだけどね」
「全くもってその通りです」
「ん?何か言ったかしら?」
「いえ、何も」
つい声に出してしまった。いや、仕方ないだろ。不可抗力だ。っていうか文句言う権利ぐらいあるだろ。理不尽だ。
「…よくやった方だと思うわ。私は人間の英雄よ。加護の力だってある。だと言うのにあなたは無加護でまだ若いというのに私に一撃を与えることが出来た。それもかなりの…ね…。実際右腕もようやく動けるようになって……」
「そういうことじゃないんですよ!!!!」
俺は薄暗い中でファナ先生の言葉を否定する。否定しなければならなかった。それだけは………
「無加護がどうとか…英雄がどうとか…年齢がどうとか…そういうことじゃないんですよ…。俺は……あなたにだけは負ける訳にはいかなかった………。絶対に……。そのための………」
「……?どうしてあなたはそこまで英雄に固執するの?実際に私に負けたのは仕方ないでしょう?」
そのための8年だったのに……。それは全て無駄だったってことだ。結局俺は…………
「…入学式の時にあなたは言いましたよね………。『結果が全て』だと」
「!えぇ、そうね…」
「僕もその通りだと思います。結果が全てだ。過程なんて関係ない。だから…俺が無加護だとか関係なんだよ。それも含めて俺でしかないんだ」
だから……『誰も守れなかった』。……その結果が全てなんだ。これが本物の戦場ならファナ先生によってミオもラルクも全員死んでた。
「ふふ。いいわね…」
ファナ先生は俺の答えにかただ美しく微笑む。今の俺はそんなことで「美しい」だとか考えてなかった。ただ俺は…!
「弱いままでいるのは嫌なんだ!!」
自分に怒りを燃やしていた。弱い自分に腹が立つ。このまま誰も守れない。誰も………!!
「あんな地獄を見るのは…嫌なんだ!!それを知ってるのは…俺だけでいいんだよ!!!」
「……?なんのことを言っているのかしら?」
俺は弱い…。だから俺が今、何をすべきは1番俺が分かってる!!
「お願いします!!俺に…戦い方を教えてください!!」
「はぁ……?」
俺はファナ先生の前で地に額をつけ土下座をして懇願する。今の俺に出来ることはこれしかない。
「…呆れたわ……。少し期待した私が愚かだったわね…。はぁ。少しは面白いと思ったのに…。やっぱり…ダメね」
その瞬間にファナ先生から魔力が溢れ出る。常人ならばその魔力に当てられただけで発狂してしまうだろう。
「…お願い…します…!!」
だが、俺はずっと土下座をしたまま懇願し続ける。
「……本当につまらないわ。私はつまらない人間が嫌いなの。敵である私に頭を下げるなんて無様ね。まるで虫の命乞いだわ…。その上に教えて欲しいだなんて傲慢にも程がある。身の程を知りなさい」
無様と罵られようとも俺はただ土下座をし続けた。そこに魔王としての姿はなくてもよかった。
「はぁ…。もう帰りなさい。ニム先生も心配していらっしゃったわ」
コツコツとファナ先生は俺に背を向けてこのダンジョンの出口へと向かった。
いつまでそうしていたか分からないが、いつの間にか先生の足音は聞こえなくなっていた。
「…………………帰るか……………」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
Sideファナ=ディアナ
「ん、んぅ~。……もう…朝…なのね……」
私はベッドから体を起こして目を覚ます。
「ふぁー。……眠い……」
…私は朝に弱いのよね……。それに昨日は遅かったし……。
一瞬、今日の学校休もうかしら?と考えてしまうが今の私の立場からそういう訳にもいかず朝支度を済ませる。
今のSクラスを任せられる教師がいないのよね……。さすがに勇者の加護から始まり、とてつもなく貴重な加護を持つ彼らに教えることが出来る人材って少ないのよね…。こんなことなら他の"英雄"さんに任せれば良かったわ…。けどほかの英雄は偏屈でどこにいるか分からないから無理ね…。
そもそも私があの学校で教師をやっているのだってただ研究がしたいからなのに。
「う…う~ん…。行きましょうか……」
用意を済ませたら私は自分の家を出て、レイシェレム学院を目指す。
最近になってようやく右手が完全に動くようになったわ。
それにしても本当に昨日はつまらなかった。
私は頭の中で無様に頭を垂れる少年を思い浮かべる。
…まさかあの程度だなんて…。はぁ。もうちょっと面白い人間だと期待したというのに…。私に教えを乞うように頭を下げる人間もあんなふうに命乞いをする人間も何回も見てきた。
だからつまらないわ。
……結局魔法について聞くのも、私の右腕に仕掛けた攻撃について聞くのも忘れたまま。はぁ……。本当に運がないわね。
…それにしても彼はよく分からない。
「あ!ファナ先生!おはようございます!」
「えぇ、おはよう。ミオさん」
たまたま出会ったミオ=ハートフィリアさんと挨拶をして一緒に学校に登校する。彼女とはよく登校中に出会うわね…。学校でもよく話しかけてくれて真面目…。私を敬愛しているのでしょうね…。
「あの…ファナ先生……」
「はい、なんでしょう?」
「えっと……4日前にファナ先生と戦ったゼノン=スカーレットの事なんですけど……」
「……えぇ。それがどうかしたのですか?」
「アイツがファナ先生に何かをしたのなら私が謝ります。だから…許して貰えませんか?アイツは確かにここじゃ無加護で無価値とかって思うかもしれませんが…、そんなことないと思うんです。少なくとも私にとっては。えっと…私とゼノン、そしてアルスは同郷で…だから……昔から見てきてるんですけど彼は優しくて…。なので…殺すのは許して貰えませんか?お願いします」
ミオさんは私の前で腰をおりお願いをする。
「…えぇわかりました」
「ほ、本当ですか!?」
「えぇ。もちろんです」
なぜなら…、既に私は彼に興味などないのだから。そんな相手を殺すだけとはいえ、構うのも面倒だわ。
「それに私もあの時はやりすぎたと反省しています。彼が予想以上に強かったのでつい…。こちらこそ申し訳ございませんでした」
「い、いえ!わ、私が謝られても困ります!」
確かにそうね…。謝る相手が違うわ……。
それにしても彼が分からないわ。
既に彼への興味は消え失せているけれど少し考えてみる。
あの時の戦いに関してもそうだけど彼は最後まで剣を抜くことも無く、身体能力以外の魔法も使わなかった。理由は知らないけども。それに……彼は無加護だった。それは間違いない。加えて裕福な生まれではなく辺境の村。
だと言うのにどうして彼はあんなにも強かったのかしら?あの強さは間違いなくSクラス級だった。そこにどんな理由があるの?
……………まぁ…、どうでもいいわ。
どうせつまらないありきたりな理由でしょう。
「ぎゃはは!こいつとうとう自分の立場がわかったようだな!」
「それでこそ無加護だ!」
「一生這いつくばってろよ!!」
とうとうレイシェレム学院が見えてきた…んだけど、どうやら今日はいつもより過激な朝ね。何をやってるのかしら?
全く…朝から魔法を使うなんて意欲が出てるじゃないの。素晴らしい…。
ということでスルーしましょう。
「せ、先生!!アレ!」
…しまった……。ここにはミオさんがいるんだったわ。ここでスルーする訳にはいかないわね。でも、アレに教師が手を出したとしても結果は変わらないどころかより、酷くなるだけなのよね。
今は辞めるかもしれないけど、教師から離れたところで今より過激ないじめを受けることになると思うのだけれど。
まあ、仕方ないわね。
どういう状態かは知らないけれどどうやらその人の上を誰かが歩いていたりその人に向かって魔法を放つなどと言うもはや訳の分からないじめが起きてるわね。…人が橋のように扱われてるの?
「あなた達、その辺にしなさい」
「「「「ふぁ、ファナ先生!!?」」」」
虐めている本人たちも私の登場で急によそよそしくなる。
…そこで私は気づいた。
そこには昨日見た芋虫のようなポーズの無加護がいた。
「ぜ、ゼノン!?」
ミオさんも彼に気づき、彼の傍による。
服装…、そして赤く染まった包帯、これを見たら大体わかるわ。いつからこうしていたのかは知らないけれど彼はずっと土下座したまま一夜を過ごしたのだと。
「……あなた達はもう行きなさい。もうすぐ始業の鐘がなるわ」
「「「「は、はい!」」」」
私が作った笑顔でそう言うと、彼らは走りだして校舎へと向かう。
「ゼノン!何してるの!?っていうかいつ起きたの!?」
ミオさんが慌てふためくなんて珍しいわね…。看病していたはずの少年がいつの間にか起きて土下座してる。…うん。意味わからないわよね。
私も分からないわ。
だからこそ…面白い。
失ったはずの彼への興味がもう一度私に戻ってくる。
「ミオさん。あなたも行きなさい。遅刻するわよ。それに…どうやら彼は私に用があるようだわ」
「え?え?でも……」
ミオさんは私と彼を見比べながら悩む。余程彼のことが大事なのね…。
「大丈夫よ。約束を破ることはしないから」
「わ、分かりました…」
ミオさんはそのまま校舎へと走る。
そして始業の鐘が鳴り、周りには誰もいなくなった。そして、昨日と同じく魔力を出して威圧する。
「…さて、何をしているのかしら?」
「……お願いをしに来ました。俺に戦い方を教えてください」
「どうしてここにいるの?」
「ここにいれば必ず会えると思ったからです」
その発想は間違ってはいないけどもね……。
「……あなたは無加護よ。そのハンデの中で上手くやってる。もう十分に強いと思うわ。それでも力を求めるのはどうして?」
…ただの気まぐれだった。けど、この質問次第では…とも考えていた。
どうせ、復讐とか約束とかそんなものだろうと思っていた。
「『魔王』になるため!!!」
けど、彼は私の想像を超えてきた。しかもノータイム。
「『魔王』?ぷっあははは!人間のくせに魔王になりたいの?それなら私には負ける訳にはいかないわね!!だって私は人間の英雄なんだもの!あははは!!」
彼はずっと土下座したままだったけど、その目は真っ直ぐなものだった。私は笑い続けた。あぁ、やはり面白い。
「あなた…名前は?」
「ゼノン=スカーレット」
「そう。ゼノン=スカーレット…。先に言っておくわ。私はあなたを今より遥かに強くすることが出来る。でも、その道は地獄よ。その過程で死ぬかもしれない。というか死ぬわ。それでいて私はつまらない人間が嫌いなの。だからあなたが私の弟子でいたいというなら常に私の想像を超えなさい。それが私の弟子でいる条件よ」
「お願いします!!!」
「そう…。ならこれであなたは私の弟子よ。よろしく、ゼノン=スカーレット」
こうしていた私は魔王を育てるべく初めて弟子を採ることになった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる