加護なし少年の魔王譚

ジャック

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2章

知識①

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「さて、修行を行いましょうか…」

「いよいよですね…」

場所は変わり、現在はファナの自宅に戻っている。

(英雄との本気の修行…。一体どんなものなんだ?いや、どんなものであろうと関係ない!俺は強くならなきゃいけないんだ)

ゼノンの中にはどんな厳しいことを言われるのかという緊張とようやく始まるという興奮が渦巻いていた。

「どんなものでもやってみせます!!」

ゼノンは気合い十分で熱意に溢れていた。それはもうかなり熱かった。

「今日は知識と目標、そして計画を考えましょう」

ゼノンの予想とは違うファナの一言にゼノンは思わずずっこけてしまう。

対してファナは驚くぐらいに冷めていた。それはもうゼノンの熱意など一切許さないような極寒並に。

「し、師匠!?修行をするんじゃないんですか!?」

「えぇ。するわよ。これも修行の一環だもの」

「勉強することとか目標を立てることとかがですか?」

「当たり前じゃない」 

ゼノンの意など介さないようにファナは綺麗な所作で紅茶を召し上がりながら答える。

「俺はそんなことを師匠から教わりたい訳じないんですよ!俺は…強くなりたいんです!早く…強くならなきゃいけないんです……」

ゼノンはファナの前で腰を折り頼み込む。そのゼノンの表情は真剣さと少しの悲しみ、そして焦りが見えていた。


「てい」

そのゼノンの頭にファナはゆっくり優しくチョップする。

「え?」

思わず顔を上げてファナの方を目を開けて見る。

「焦りすぎよ。少年にありがちな行動ね。いい。焦ってはダメよ。あなたに何を抱えているのかは知らないけど焦れば本来の目的を失い、力を出し切れず死ぬわ。それと学ぶことにも意味はあるのよ」

「けど…」

「はぁ…。スカーレット君…。学ぶ意味を言いなさい」

「え?」

「ほら、早くしなさい」

急なファナからの質問に思わずゼノンの身が固まる。

「え、えぇっと……将来の…ため?」

「ありきたりな答えね。言ったでしょ?私の想像を超えなさいって」

(んなもん言われてもわかるか!)

教育者のファナと違い、まだまだ子供であるゼノンには学ぶことの意味など見いだせず、その場で頭を抱え込み深く考えるが何も思いつかない。

「はぁ。もしあなたが未曾有の危機に陥った時、知識があるのとないのとでは大きく違うわ。知識があれば冷静な分析と対処ができる。けど知識がなければどうしたらいいのか全くわからず死ぬわ。これは戦闘においても同じ。初めて見る魔法を使われても冷静な観察、分析、対処ができる」

「な、なるほど…」

思わずファナの教えに頷いてしまう。

「それだけじゃない。知識を持ち、何かをして人を喜ばせる。それは己の精神的な成長にも繋がる。あとは…そうね…。私も研究者だから思うけど知識は無意味にある訳じゃないの。この世界の真理なのよ。それを己の人生をかけて証明した人も見た。だから…そうね…。100年かけて求めるものを暗記だけで住むのだから便利よね。それを意味のないと言われると少し悲しいものよ。もちろんあなた達に学んで欲しくてやったわけじゃないのだけれどね……。同じように目標と計画を立てることにも理由があるのよ」

「……師匠……。俺間違ってました。勉強がんばります。」

「えぇ、そうしなさい。少なくともそれが無駄になることはないわ。どんな場面でもね」

ゼノンは己の間違いを認め、ファナに頭を下げた。そして知識を知りたいと懇願したのだ。

「…さて、学ぶ意味も知ったところで始めましょう」

「はい!よろしくお願いします!!」



「まずこの世界の最低限度の知識と強くなるための方法を教えるわ」

「おぉー!!」

思わず手を叩いてしまう。ゼノンには最も興味のある分野であるからだ。生徒のツボを完全に抑えているファナはかなり優れた教師なのだろうとよくわかる。

教室のようにファナが前に立ち、ゼノンは椅子に座りファナからもらったノートを開く。英雄と魔王のマンツーマンの授業が始まった。

「最初に面白いことを言ってあげる。あなたが簡単にそして今より何倍も強くなれる不思議な方法があること知ってるかしら?」

「そんな方法があるんですか!?」

「えぇ。あるわ。さて、それは何でしょう?」

「えーっとえーと……」

今まで地道なトレーニングを重ねることでしか強くなれなかった…、いやなる方法を知らなかったゼノンにはその問いはあまりにも難しい問題であった。答えによってはゼノンの価値観がひっくり返ってしまうだろう。

(待てよ…。師匠は俺に常に想像を超えてこいって言ってたよな……。ってことは俺が思いつかない程革新的なことってことか…。発想の逆転……。はっ!そうか!)

「はい、時間切れよ。あなたの答えは?」

「すごい筋トレの道具を買う!」

「……そんなもの買ってトレーニングしたところで大きく変わらないでしょう……」

ゼノン自信満々に答えたがファナは手を額にやりに思いっきり呆れられてしまった。

「普段しっかりと授業を受けてないのかしら?」

「そうしたいのはやまやまなんですが、ずっと邪魔されて1回もまともに受けられたことがないんです」

ゼノンの普段の授業では酷いもので教科書はすでに落書きされていて見ることは難しい。加えて先生そしてクラスメイトからの妨害によりまともに授業を受けられる環境ではない。

ゼノンは暗にファナにEクラスの授業の改善を求めるが……

「…それは残念ね。ご両親も泣いているでしょうね…。さっ、次に行きましょうか。さて、答えだけれど」

そんのものが通用するはずがなかった。なぜならゼノンは知らないが、Eクラスの授業態度をさせているのは他ならぬファナである。

ゼノンもそう言うであろうことは薄々気づいていたのでツッコむこともしない。

(師匠のことだ…。そっちの方が面白いとか思ってんだろうな。ま、そっちの方がんだけどな)

「実は3つもあるの」

「3つもあるんですか!?」

さっきまで考えていたこともファナからの驚きの解答で吹っ飛んでしまう。

「ふふ。いいリアクションね。そうよ、3つもあるの。1つ目は武器。2つ目はスキル。そして3つ目は…精霊よ」

「武器…。スキル……。精霊……」

「順番に説明するわ。まずは武器ね。これは簡単でしょ?武器というより装備を整えることで今より格段に強くなれるわ。最も最たる例が"魔剣"ね」

「魔剣?」

「知らないのね。魔剣って言うのはね、詠唱なしで武器を振るうだけで魔法を使えることが出来るの。それだけじゃなく、魔剣には決まった魔法しか使えないけれど誰でも使えるというメリットが存在するわ」

「ふむ……」

いまいちゼノンにはピンと来ていなかった様子だった。ソツ村では魔法を戦闘に使う人が少ない上にゼノン自身もあまり魔法を使うことがなかったために想像しにくかった。

「人が使える魔法の属性が決まっていることぐらいは知っているでしょう?」

「えぇ。それはもちろん」

例えばミオなら聖属性、ユリウスなら火属性、ラルクなら氷属性というように人が一生に使える属性は決まっている。例外として賢者や勇者がいるが、基本的には変わることは無い。

「だけれど魔剣を使えば風属性の人でも火の魔法を放つことができる。それ詠唱なしで」

ファナの説明にゼノンの想像力は一気に膨らむ。そしてゼノンの頭の中でひとつの発想が出た。

「理解したようね。この凄さを」

「……はい」

と、ここでゼノンはある疑問が頭の中で浮かび上がった。

「師匠が試合で使っていたのも魔剣ですか?」

ファナとゼノンが学校で戦った時、ファナは確かに火と風の2つの属性を操っていた。今考えてみればそれはこの世の理に反している。

「内緒よ」

「……へ?」

「当たり前じゃない。どこに敵に自分の手の内をさらすバカがいるのよ。なんでも教えて貰えるとは思わない事ね」

(確かにその通りだよな……)

ゼノンもファナには隠し事を多くしている。嘘もついている以上ゼノンに責める権利はなかった。

「なら質問を変えます。師匠は魔剣を持っているんですか?」

「えぇ。持ってるわ。だけど魔剣は使えば使うほどこわれていくの。消耗品だけれど貴重品だから今も保管しているわ」

(ってことはあの時の魔法は魔剣の効果じゃないってことか…。それはつまり師匠の魔法に関係しているのか…?)

ゼノンはファナの解答から思考を巡らせてあらゆる可能性を模索してみる。

「ちなみにだけど私が今、持ってるこの剣も魔剣よ」

「…へ?」

ファナがそう言って腰にある剣を指して言うが、その剣はファナがゼノンとの決闘で使用していた剣だった。

「今、保管しているって言ってませんでしたっけ!?」

「確かに保管しているわよ?でも1本とは言っていなければ今、持っていないとも言ってないでしょ?」

ファナはしてやったり顔でゼノンをからかう。

その顔に一瞬ゼノンは可愛いと思ってしまうが、すぐに気を引き締める。

(ってことはあの時の魔法は魔剣って可能性も……。あぁ~ダメだ。混乱してきた)

結局ファナに巻かれてわからずじまいということになった。

「ふふ。やっぱりいい反応するわね。さて、2つ目のスキル……なんだけど………」

「どうしたんですか?」

妙にファナの歯切れが悪い。それに加えて何故かゼノンと目を合わせようとしなかった。

「…スキルは自分の持っている特技…というか技だと思ってくれていいわ。スキルの有無で試合を分けることだってある。それぐらい強力よ」

「へ~。ところでそれどうやって手に入るんですか?」

ゼノンにはスキルは未だになかった。ソツ村の人達でも持っていたのだが、何故かゼノンには発現することは無かった。それを尋ねてみても理由を教えてくれなかった。

「それは最後ね…。スキルは魔法とは違って人によってそれぞれあるわ。例えば…私のスキル『鑑定眼』や『死突』もそうね。ちなみに鑑定眼があるからあなたの血液魔法がわかったの」

(なるほど…。そういうことか)

ゼノンの中ではスキルという存在は少し軽く見ていたが、その重要性に今気づいた。死突がスキルというのならあれはもはや必殺の一撃と誇っていい。スキル1つで戦闘の仕方が変わってくる。

(それが俺は未だに0か…)

「それで?スキルはどうやったら手に入るんですか?」

ゼノンはレベルも上げてきたし、魔物も討伐してきた。しかし今までそのような傾向はひとつもなかった。

「……スキルって言うのはね…、神からの祝福に近いの…。加護を才能と言い換えるならスキルは特技に言い換えれる。特技は基本才能から派生するわ……」

「…え……?」

何となく…本当に何となくであるが、ゼノンにはファナの言うことがだんだんと理解してきてしまう。冷や汗がポタリと垂れた。

「…ま…まさか……」

「…だから…無加護にはスキルなんて貰えないの………」

「ギャァァァァァ!!!!!」

ファナからの死刑宣告を食らい、その場で項垂れてしまう。いつか…スキルが使えたらいいなと夢見てきたゼノンであったがその希望は一瞬で絶望に変わってしまう。

つまりゼノンは強くなるための手段をひとつ失ってしまったのだ。

「はぁ。諦めなさい。こればっかりはどうにもならないわ」

「……分かってますよ。無加護ってことは百も承知ですよ……ただ……」

(スキル……使ってみたかった)

己の必殺の一撃ともなりうるようなスキルに密かに憧れていたが、その淡い願いすら叶えられなかった。
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