いつだってキミが世界の真ん中だ!

憚 岩三

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第1章「あかんのか?平和を夢見ちゃ、あかんのか?」

第1話

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「あかんのか?平和を夢見ちゃ、あかんのか?」

太くて低く、凄味のある声だった。

教室内は、シンと静まり返っている。


始業式の後。

担任教師からの指示で始まった自己紹介。

五十音順。

「あ」で始まる名前が自分だけだと確認した女子生徒。

秋葉 七。(あきば なな)

彼女が自己紹介を始めてすぐ、問題が起きた。

担任は「自分の名前と、夢とか、やりたいこととか、目標を言って、1人につき1~2分で済ますように」と指示した。

そこで、秋葉七はこう言った。

「ウチの名前は秋葉七。夢は世界平和や」と。


その時、教室内から笑い声が聞こえた。

大人数ではないが、複数の生徒が笑ったのだ。

その笑い声が、嘲笑であると、七は感じたのである。

馬鹿にされて笑われたと、感じたのである。

実際に、笑った本人たちは「何を言ってるんだコイツは」という蔑みの意味で笑っていた。


「何がおもろいねん」

ドスの効いた声だった。

明らかに怒っている声だ。

明らかに怒っている表情だ。

不愉快であり、不機嫌であることを隠す意思は感じられない。

そして続けた。

「あかんのか?なぁ?平和を願うのは、あかんことなのか?」

あかんこと、つまり、いけないことなのかと、七は笑い声の主たちに訊ねた。

自己紹介を始めたときと変わらず、正面を見たままだ。

返答はなく、教室内は静まり返っている。

笑った生徒たちは、口を閉じ、下を向き、自分が笑ったことを悟られないよう気配を消している。

まさか、怒られるとは夢にも思っていなかったらしい。

その他の笑わなかった生徒たちも、突然の緊張感にのまれて黙り込んでいる。


そんな中、七の言葉に対し、違った反応を示す生徒たちもいた。

顔が紅潮し、目に薄っすらと涙を溜める生徒。

声には出さないものの、口元でニヤニヤと笑っている生徒。

驚きと羨望の表情で七を見つめる生徒。

まるで何事もなかったかのように無表情の生徒。

面白いものを見つけたとばかりに目を輝かせる生徒。


七は憮然とし、相変わらず正面を見ていた。

どちらかと言えば、睨みつけているようだった。

やや垂れ目の、はっきりとした二重まぶたである。

まつ毛の量が異常に多い。

体躯が細く、高校一年の女子にしては背が高い。

肌は異様に白かった。

化粧は特にしていないようである。

真ん中で分けたショートヘアだが、特徴的な髪型をしていた。

前髪はあごのあたりまでの長さで、後頭部に近づくにつれ短くなっている。

耳の周りから襟足の辺りにかけては、さらに短く刈り込まれていた。

そして、分け目部分の前髪が、一本のアンテナのように立っている。

その前髪は、ツノのようにも見えた。


「まるで『白鬼』だな」

ニヤニヤと笑っていた男子生徒がつぶやいた。

「あぁん!?」

七は声の主を睨みつけた。

睨まれた男子生徒はひるむことなく見返した。

その男子生徒の口元には、相変わらず笑みが浮かんでいる。


パチパチパチパチパチ


新たな緊張感が生じた教室内に、突如、拍手の音が響いた。

力強い音であった。

教室内の全員が、拍手がした方向に顔を向ける。

そこには、起立をし、涙を流しながら、手を叩き続ける女子生徒の姿があった。
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