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第二章
王都までの道程
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本格的な夏を迎える前に、ユリウスはいつもの面々にルカを連れ、屋敷を発った。
ニ頭立ての馬車が二台用意され、ユリウス、ルカ、リサの三人、カレル、アントン、ノルデンの三人とに分かれて分乗し、先頭と最後尾にモント騎士団の騎馬が護衛としてついた。
ルカは出発前夜、リサに髪を茶色く染めてもらった。染めながらリサは何度も確認するようにルカに言った。
「いい? ルカは、私の弟の奥さんの妹の子供という設定ね。何か聞かれたら私の親戚の娘で、今回の王都行きに同乗して、中央の貴族の屋敷に行儀見習い兼お手伝いとして働きに行くって答えるのよ」
何度聞いても私の弟の奥さんの…辺で頭が痛くなる。側で聞いていたユリウスも「どうしてそんなややこしい設定なんだ?」と首をひねった。
「下手に近しい親類だと、騎士団の中には知っている人もいますからね。このくらい離れた縁戚関係の方がいいんですよ。誰も知らないでしょうから」
しかも実際にその設定の娘がいるらしく、この夏に王都へ行儀見習いに行くことも本当らしい。髪の色も茶色なので、それに合わせたという。
「ああ、そうそう。名前もルカじゃなくてアリシアね。いい? アリシア」
「……はい」
「道中はなるべく馬車の外へは出ず、目深にフードを被っているようにね」
「……はい」
なんだかとっても面倒だ。
他にもいろいろ注意点をあげながら、リサはルカの髪の染まり具合を確かめようと手を伸ばしてきた。
まだまだ続きそうな話に、ルカは、椅子に腰掛けてこちらを見ていたユリウスの膝の上に乗ってその首に腕を回した。
「どうした? 疲れたか?」
ユリウスはルカが落ちないよう背中を支えてくれる。宥めるように髪を梳かれ、心地よさに頬を胸に擦り寄せた。
「すっかり馴染んだわね。この光景に違和感を覚えなくなったもの。ね、カレル」
同じ部屋で書類をまとめていたカレルは手を止め、ユリウスとルカをちらりと見た。けれど、リサの話に同調することはなく、また視線を戻す。
「全く。返事くらいしなさいよ」
妻の苦言もどこ吹く風でカレルは目の前に集中している。
「こいつの朴念仁は昔っからさ」
コックのアントンだ。いま、部屋にはボブも侍医のノルデンもいる。集まって、明日からの行程とルカの立場について、最終確認をしていた。
「それでルカ。ちゃんとわかったの?」
ユリウスに甘えだしたルカにリサが聞いてくる。ルカは顔を上げ、リサの言ったことを全て復唱した。
「おまえんとこの馬鹿息子より、よっぽどかしこいじゃねぇか」
一度言っただけの内容をきちんと覚えているルカに、アントンが目を丸くする。引き合いに出されたボブは苦笑した。
「そりゃないよ、アントン。何かって言うと僕のことを馬鹿息子呼ばわりだ。大昔、うちの母にふられたからって、その腹いせを息子の僕にぶつけるのはいい加減、やめにしてくれよ」
え?と思ってルカがアントンを見ると、アントンはきまり悪そうに後頭をかいた。
後で寝る前にリサに聞くと、ボブの言ったことは本当らしい。若い頃、リサを巡ってカレルとアントンがやり合って(何を、とはリサは言わなかった…)、カレルがリサを射止めた。
あのときの遺恨か、今でもカレルとアントンは仲が悪いという。
そんな慌ただしい前夜を過ごし、シマリスのポポをボブに託して早朝から王都へ向けて出発した。ルカは馬車に乗るのは初めてだった。大きな車輪がついた箱を、二頭の立派な馬がひく。箱の中には緋毛氈の敷かれた椅子があり、座るとふかふかだった。ユリウスとルカが並んで腰掛け、前にリサが座る。御者の声とともに馬が走り出した。
馬車は整備された街道を通り、途中の経由地で宿を取りつつ王都へ向かう。約一週間近くの移動だ。その間、ルカはほとんどを馬車の中で過ごすことになる。あんまり揺れるようだと嫌だなと思ったが、馬車はほとんど揺れず、快適だった。ルカは言われた通り、目深にフードを被ったまま、休憩で馬車が止まっても外には出なかった。
ユリウスは栗毛の馬パスを連れてきていて、時折馬車を降り、パスを駆って自ら警護にまわり、馬車と並走してパスを走らせていた。
日が暮れる頃、モント領主一行の列は止まり、無事最初の寄宿先である男爵家の屋敷に入った。
カレル、リサ、ルカ、それに警護のモント騎士団員数名が男爵家の屋敷に入り、アントンやノルデン、他の騎士団員は近くの宿に分宿する。
婦人とともに出迎えた壮年の男爵は、ユリウスを歓迎した。親しげにユリウスと握手を交わし、ここまでの労をねぎらった。ここはまだモント領内で、毎年最初の夜はこの男爵家の屋敷らしい。
ユリウスは、挨拶が終わるとすぐに正装に着替え、宴の席へと呼ばれていった。
ルカはリサ、カレルと同室で、ユリウスの隣の部屋をあてがわれた。カレルとリサは忙しく立ち働いている。
「何かやることはある?」
リサに聞くと、「じゃあこれをお願いね」と荷物の整理を頼まれる。ルカはリサに確かめながら必要な物を荷ほどきし、ユリウスの部屋に運んだ。
次は?と聞くと、後はいいから先に湯浴みを済ませておいでと部屋についている浴室に送り出された。ユリウスの屋敷とは勝手の違う浴室に四苦八苦し、ルカが出てくる頃にはカレルとリサの仕事は片付いていた。
用意された夕飯を食べ、明日に備えて早めにベッドに入った。ベッドが三台も並んでいる大きな部屋だ。リサが真ん中に寝、扉に近い側にカレル、一番奥のベッドにルカが入った。
が、眠れない。
早朝からの移動で疲れているはずなのに、気が張っているのか眠気がやってこない。掛布を巻き付けていつものように床に転がろうか。ひょっこりベッドから頭を上げるとカレルはまだ起きていて、目があった。
「眠れませんか?」
「……うん」
カレルはユリウスが歓待の宴から戻ってくるのを待っているという。眠れないのなら、ユリウスの部屋へ水差しを持っていくのを手伝ってほしいと言われ、ルカはベッドをおりた。
「執事は、主人より先には眠らないって本当?」
リサが前にそんなことを言っていた。
「ええ。他の方は存じませんが、私はユリウス様の身の回りはもとより、その日のご体調も確認し、何かあれば侍医のノルデンと相談いたします。今宵はおそらく御酒を過ごされて戻ってこられるでしょうから、きちんと確認いたしませんと」
「そうなの? ユリウスがお酒を飲み過ぎるなんて想像できない」
屋敷でも嗜む程度で、宴席に出掛けて帰ってきても顔色一つ変えていたことはない。
「この屋敷の男爵様は無類の酒好きで、ユリウス様にいつも飲ませたがるのです。二年前には、ユリウス様は二日酔いで、次の日の出発ができなかったこともあるのです」
「そうなんだ、なんだか意外……」
いつも泰然自若としているユリウスが、二日酔いで寝込んでいる姿なんて不思議だ。
「あ、お戻りになられました」
カレルは隣室のわずかな物音を聞きつけ、腰を上げた。ルカも水差しを持って、フードを目深に被り、後を追う。
部屋の前の護衛兵へカレルは二言三言言葉を交わすとユリウスの部屋へ入った。
ユリウスは、カレルとルカの姿を認めると、ぐったりした様子でベッドに腰掛けた。
「また、ずいぶんとお飲みになられましたね」
カレルがユリウスの様子を確認し、ルカに水を差し出すよう指示を出す。
「ああ。毎年のこととはいえ、来年からは一日目から領内を抜け、宿屋にでも泊まる方がいいな。……ありがとう、ルカ」
ユリウスはルカから水を受け取ると一気にあおった。
「そうしたいのは山々ですが、こちらのお方の面子を潰すわけにはいきますまい。もう少し上手くかわされませんと」
「そうは言うがな、カレル。あの男のおしの強さと言ったら。……ところでルカ。どうした? こんな時間まで。眠れないのか?」
「うん」
ルカが頷くと、カレルは、
「気が張っておられるのでしょう。ユリウス様のお顔を見ればご安心なさるかと思い、連れてきました」
そんなことは一言も言っていなかった。そうなの?とカレルを見れば、カレルは素知らぬふりでユリウスの寝支度を手伝う。
「では私はこれで」
カレルは明日の予定をユリウスに伝えると「おやすみなさいませ」と部屋を出ていこうとする。
「あ、待って。わたしも戻ります」
カレルのあとを追おうとすると、ユリウスに腕をつかまれた。
「ルカはもう少しつきあえ」
胸に抱き寄せられて、どうしたらいいかとカレルを見たら、カレルは「ユリウス様のおっしゃる通りに」と言って部屋を出ていった。
「ユリウスの部屋の前には護衛兵がいるから、カレルと一緒に戻る方が戻りやすかったのに」
お酒の匂いをさせたユリウスの頬を両手で挟み、ルカが文句を言うと、ユリウスは「ははは」と笑った。
「笑い事じゃないよ」
「ならいい方法がある。ルカもここで眠ればいい。ベッドも広いしな。そしたら護衛兵を気にする必要はないだろう?」
「ユリウスがいいなら別にいいけど」
どうせ戻ってもたぶん眠れない。それならユリウスの側にいるほうが温かいし安心感もある。
けれど今まではルカがいくら一緒に寝たいと言っても許してくれなかったのに。これはやっぱりユリウスが酔っているせいなのだろうか。だとしたらラッキーだ。
ユリウスはベッドに横になるとルカを抱き寄せた。いつもより体温が高い。ルカは冷えた足先をユリウスの足に絡めた。温かくて気持ちがいい。これなら眠れそうだ。そう思っていると、ユリウスは腕の中にルカを囲ったかと思うと、すぐに寝息をたてだした。
やはり相当酔っているのだろう。ユリウスの寝顔を初めて見た。さらさらした金糸の髪が頬にかかり、すっとのびた鼻梁の下には形の良い唇がある。あまりにすぐに眠ってしまったので、ルカはふにふにとユリウスの頬を指で軽くつまみ、金糸の髪をわさわさとかき混ぜた。
ユリウスはそれでもよく眠っている。しばらくルカはそうしてユリウスの顔や髪をいじり遊んでいたが、体温の高いユリウスの温もりに、次第に瞳を閉じた。
ニ頭立ての馬車が二台用意され、ユリウス、ルカ、リサの三人、カレル、アントン、ノルデンの三人とに分かれて分乗し、先頭と最後尾にモント騎士団の騎馬が護衛としてついた。
ルカは出発前夜、リサに髪を茶色く染めてもらった。染めながらリサは何度も確認するようにルカに言った。
「いい? ルカは、私の弟の奥さんの妹の子供という設定ね。何か聞かれたら私の親戚の娘で、今回の王都行きに同乗して、中央の貴族の屋敷に行儀見習い兼お手伝いとして働きに行くって答えるのよ」
何度聞いても私の弟の奥さんの…辺で頭が痛くなる。側で聞いていたユリウスも「どうしてそんなややこしい設定なんだ?」と首をひねった。
「下手に近しい親類だと、騎士団の中には知っている人もいますからね。このくらい離れた縁戚関係の方がいいんですよ。誰も知らないでしょうから」
しかも実際にその設定の娘がいるらしく、この夏に王都へ行儀見習いに行くことも本当らしい。髪の色も茶色なので、それに合わせたという。
「ああ、そうそう。名前もルカじゃなくてアリシアね。いい? アリシア」
「……はい」
「道中はなるべく馬車の外へは出ず、目深にフードを被っているようにね」
「……はい」
なんだかとっても面倒だ。
他にもいろいろ注意点をあげながら、リサはルカの髪の染まり具合を確かめようと手を伸ばしてきた。
まだまだ続きそうな話に、ルカは、椅子に腰掛けてこちらを見ていたユリウスの膝の上に乗ってその首に腕を回した。
「どうした? 疲れたか?」
ユリウスはルカが落ちないよう背中を支えてくれる。宥めるように髪を梳かれ、心地よさに頬を胸に擦り寄せた。
「すっかり馴染んだわね。この光景に違和感を覚えなくなったもの。ね、カレル」
同じ部屋で書類をまとめていたカレルは手を止め、ユリウスとルカをちらりと見た。けれど、リサの話に同調することはなく、また視線を戻す。
「全く。返事くらいしなさいよ」
妻の苦言もどこ吹く風でカレルは目の前に集中している。
「こいつの朴念仁は昔っからさ」
コックのアントンだ。いま、部屋にはボブも侍医のノルデンもいる。集まって、明日からの行程とルカの立場について、最終確認をしていた。
「それでルカ。ちゃんとわかったの?」
ユリウスに甘えだしたルカにリサが聞いてくる。ルカは顔を上げ、リサの言ったことを全て復唱した。
「おまえんとこの馬鹿息子より、よっぽどかしこいじゃねぇか」
一度言っただけの内容をきちんと覚えているルカに、アントンが目を丸くする。引き合いに出されたボブは苦笑した。
「そりゃないよ、アントン。何かって言うと僕のことを馬鹿息子呼ばわりだ。大昔、うちの母にふられたからって、その腹いせを息子の僕にぶつけるのはいい加減、やめにしてくれよ」
え?と思ってルカがアントンを見ると、アントンはきまり悪そうに後頭をかいた。
後で寝る前にリサに聞くと、ボブの言ったことは本当らしい。若い頃、リサを巡ってカレルとアントンがやり合って(何を、とはリサは言わなかった…)、カレルがリサを射止めた。
あのときの遺恨か、今でもカレルとアントンは仲が悪いという。
そんな慌ただしい前夜を過ごし、シマリスのポポをボブに託して早朝から王都へ向けて出発した。ルカは馬車に乗るのは初めてだった。大きな車輪がついた箱を、二頭の立派な馬がひく。箱の中には緋毛氈の敷かれた椅子があり、座るとふかふかだった。ユリウスとルカが並んで腰掛け、前にリサが座る。御者の声とともに馬が走り出した。
馬車は整備された街道を通り、途中の経由地で宿を取りつつ王都へ向かう。約一週間近くの移動だ。その間、ルカはほとんどを馬車の中で過ごすことになる。あんまり揺れるようだと嫌だなと思ったが、馬車はほとんど揺れず、快適だった。ルカは言われた通り、目深にフードを被ったまま、休憩で馬車が止まっても外には出なかった。
ユリウスは栗毛の馬パスを連れてきていて、時折馬車を降り、パスを駆って自ら警護にまわり、馬車と並走してパスを走らせていた。
日が暮れる頃、モント領主一行の列は止まり、無事最初の寄宿先である男爵家の屋敷に入った。
カレル、リサ、ルカ、それに警護のモント騎士団員数名が男爵家の屋敷に入り、アントンやノルデン、他の騎士団員は近くの宿に分宿する。
婦人とともに出迎えた壮年の男爵は、ユリウスを歓迎した。親しげにユリウスと握手を交わし、ここまでの労をねぎらった。ここはまだモント領内で、毎年最初の夜はこの男爵家の屋敷らしい。
ユリウスは、挨拶が終わるとすぐに正装に着替え、宴の席へと呼ばれていった。
ルカはリサ、カレルと同室で、ユリウスの隣の部屋をあてがわれた。カレルとリサは忙しく立ち働いている。
「何かやることはある?」
リサに聞くと、「じゃあこれをお願いね」と荷物の整理を頼まれる。ルカはリサに確かめながら必要な物を荷ほどきし、ユリウスの部屋に運んだ。
次は?と聞くと、後はいいから先に湯浴みを済ませておいでと部屋についている浴室に送り出された。ユリウスの屋敷とは勝手の違う浴室に四苦八苦し、ルカが出てくる頃にはカレルとリサの仕事は片付いていた。
用意された夕飯を食べ、明日に備えて早めにベッドに入った。ベッドが三台も並んでいる大きな部屋だ。リサが真ん中に寝、扉に近い側にカレル、一番奥のベッドにルカが入った。
が、眠れない。
早朝からの移動で疲れているはずなのに、気が張っているのか眠気がやってこない。掛布を巻き付けていつものように床に転がろうか。ひょっこりベッドから頭を上げるとカレルはまだ起きていて、目があった。
「眠れませんか?」
「……うん」
カレルはユリウスが歓待の宴から戻ってくるのを待っているという。眠れないのなら、ユリウスの部屋へ水差しを持っていくのを手伝ってほしいと言われ、ルカはベッドをおりた。
「執事は、主人より先には眠らないって本当?」
リサが前にそんなことを言っていた。
「ええ。他の方は存じませんが、私はユリウス様の身の回りはもとより、その日のご体調も確認し、何かあれば侍医のノルデンと相談いたします。今宵はおそらく御酒を過ごされて戻ってこられるでしょうから、きちんと確認いたしませんと」
「そうなの? ユリウスがお酒を飲み過ぎるなんて想像できない」
屋敷でも嗜む程度で、宴席に出掛けて帰ってきても顔色一つ変えていたことはない。
「この屋敷の男爵様は無類の酒好きで、ユリウス様にいつも飲ませたがるのです。二年前には、ユリウス様は二日酔いで、次の日の出発ができなかったこともあるのです」
「そうなんだ、なんだか意外……」
いつも泰然自若としているユリウスが、二日酔いで寝込んでいる姿なんて不思議だ。
「あ、お戻りになられました」
カレルは隣室のわずかな物音を聞きつけ、腰を上げた。ルカも水差しを持って、フードを目深に被り、後を追う。
部屋の前の護衛兵へカレルは二言三言言葉を交わすとユリウスの部屋へ入った。
ユリウスは、カレルとルカの姿を認めると、ぐったりした様子でベッドに腰掛けた。
「また、ずいぶんとお飲みになられましたね」
カレルがユリウスの様子を確認し、ルカに水を差し出すよう指示を出す。
「ああ。毎年のこととはいえ、来年からは一日目から領内を抜け、宿屋にでも泊まる方がいいな。……ありがとう、ルカ」
ユリウスはルカから水を受け取ると一気にあおった。
「そうしたいのは山々ですが、こちらのお方の面子を潰すわけにはいきますまい。もう少し上手くかわされませんと」
「そうは言うがな、カレル。あの男のおしの強さと言ったら。……ところでルカ。どうした? こんな時間まで。眠れないのか?」
「うん」
ルカが頷くと、カレルは、
「気が張っておられるのでしょう。ユリウス様のお顔を見ればご安心なさるかと思い、連れてきました」
そんなことは一言も言っていなかった。そうなの?とカレルを見れば、カレルは素知らぬふりでユリウスの寝支度を手伝う。
「では私はこれで」
カレルは明日の予定をユリウスに伝えると「おやすみなさいませ」と部屋を出ていこうとする。
「あ、待って。わたしも戻ります」
カレルのあとを追おうとすると、ユリウスに腕をつかまれた。
「ルカはもう少しつきあえ」
胸に抱き寄せられて、どうしたらいいかとカレルを見たら、カレルは「ユリウス様のおっしゃる通りに」と言って部屋を出ていった。
「ユリウスの部屋の前には護衛兵がいるから、カレルと一緒に戻る方が戻りやすかったのに」
お酒の匂いをさせたユリウスの頬を両手で挟み、ルカが文句を言うと、ユリウスは「ははは」と笑った。
「笑い事じゃないよ」
「ならいい方法がある。ルカもここで眠ればいい。ベッドも広いしな。そしたら護衛兵を気にする必要はないだろう?」
「ユリウスがいいなら別にいいけど」
どうせ戻ってもたぶん眠れない。それならユリウスの側にいるほうが温かいし安心感もある。
けれど今まではルカがいくら一緒に寝たいと言っても許してくれなかったのに。これはやっぱりユリウスが酔っているせいなのだろうか。だとしたらラッキーだ。
ユリウスはベッドに横になるとルカを抱き寄せた。いつもより体温が高い。ルカは冷えた足先をユリウスの足に絡めた。温かくて気持ちがいい。これなら眠れそうだ。そう思っていると、ユリウスは腕の中にルカを囲ったかと思うと、すぐに寝息をたてだした。
やはり相当酔っているのだろう。ユリウスの寝顔を初めて見た。さらさらした金糸の髪が頬にかかり、すっとのびた鼻梁の下には形の良い唇がある。あまりにすぐに眠ってしまったので、ルカはふにふにとユリウスの頬を指で軽くつまみ、金糸の髪をわさわさとかき混ぜた。
ユリウスはそれでもよく眠っている。しばらくルカはそうしてユリウスの顔や髪をいじり遊んでいたが、体温の高いユリウスの温もりに、次第に瞳を閉じた。
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