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第九章 魔力を吸う札
瞳の奥底
「……僕があんたを魔性として認識してるかだって? そんなことも僕に聞かなくちゃ分からないのかい? そもそもあんたが魔性でなければ、こうして僕の私室内にいること自体不可能なんだってこと、この僕に分からないはずがないだろう?」
茶髪の青年のその言葉を聞いた瞬間、死灰栖はプツッ──と、頭の中で何かの線が切れる音が聞こえたような気がした。
刹那、青年に対する怒りで頭の中が埋め尽くされ、目の前が真っ赤に染まる。
「貴様……貴様ぁっ! たかが人間如きの分際で、魔性たる我を愚弄するかっ!」
叫び、死灰栖は全身から力を放った。
容赦など一切ない、全力での攻撃だ。
扉や窓は吹き飛び、室内にあった物は全て破壊しつくされ、壁すらもなくなる。まるで、大きな竜巻に巻き込まれたかのような──それよりも酷いかもしれない──大惨事に、突如王宮中に響いた轟音に驚き、駆けつけてきた者達は息を呑む。
そこには──長い灰色の髪を風に靡かせる長身の男が一人、肩で息をしながら佇んでいて。
「我を……愚弄するからこんなことになるのだ……」
そんなことを呟いた後、今度は楽し気に全身を揺らした。
「あ、あの者は誰だ?」
「ルーチェ様は……?」
冷静さを取り戻した者から順番に、次から次へと浮かぶ疑問。しかしそれに答えられる者は、この場に於いて一人も──死灰栖以外は──いない。
故に駆けつけた全員がルーチェの死を覚悟した時──彼等の絶対的君主である者の美しい声が、その考えを否定した。
「君達、有難いことだが心配には及ばないよ。僕ならこうして……ここで無事に生きているからね」
大きな歓声をあげる者達の眼前へと、ルーチェは微笑みながら姿を現す。
「貴様……何故……」
それを見た死灰栖は悔し気に唇を噛んだが、ルーチェは敢えてその態度には気づかない振りをし、何事もなかったかのように壁のなくなった室内へと降り立った。
今回は本気で危なかったな……。
という気持ちは、おくびにも出さずに。
実際のところ、人間である彼等が死なずに済んだのは──氷依のおかげに他ならない。
死灰栖の魔力を叩きつけられた衝撃で意識を取り戻した氷依は、間一髪のところでルーチェとミルドを自分の結界内へと引き入れ、二人が地上に落下するのを防いだのだ。
もしあのタイミングで氷依が目覚めなかったら、然しものルーチェとて危なかったかもしれない。いや、氷依が目覚めなければミルドは確実に命を落としていただろう。
やっぱり、彼女を生かしておいて良かった……。
そう安心したルーチェだったが、彼等を殺すつもりで力を放った死灰栖にしてみれば、氷依のした行為は当然不愉快極まりないものであり。彼は一瞬で氷依のすぐ前に移動すると、彼女の胸ぐらを掴み、その顔を射殺さんばかりに睨みつけた。
「貴様に魔性としての誇りはないのか⁉︎ 人間なんぞに手を貸すばかりか、同族である我の攻撃から守るなど……頭でもおかしくなったか? それとも貴様は、魔性として大切なものを溝に捨てたとでも言うつもりなのか⁉︎」
「は、離してください。わたくしは……ルーチェ様に仕える身。もはや魔性であることは捨てたのです……」
未だ衰弱した状態から回復しきってはいないのだろう。弱々しいながらもハッキリと否定する氷依に、死灰栖はギリギリと歯を鳴らし、更に噛みつく。
「ならば理由を教えろ! 我が満足するに足る、しっかりとした──」
その時ふと、氷依の瞳の奥底に彼女の瞳の色とは違う色が見えたような気がして、死灰栖は思わず口を噤んだ。
今の光の色は……なんだ?
よく見ようと彼女の顔を覗き込もうとするも、そうされるのを避けるかのように氷依は目を伏せ、首を振る。
なんだ? 一体何を隠している?
そんな彼女の仕草は怪しい以外の何者でもなく、更に疑念を深めた死灰栖はとうとう力づくで氷依の瞼へと手を伸ばした。
見せたくないと言うのなら、無理やり開いて見るまでだ──。
茶髪の青年のその言葉を聞いた瞬間、死灰栖はプツッ──と、頭の中で何かの線が切れる音が聞こえたような気がした。
刹那、青年に対する怒りで頭の中が埋め尽くされ、目の前が真っ赤に染まる。
「貴様……貴様ぁっ! たかが人間如きの分際で、魔性たる我を愚弄するかっ!」
叫び、死灰栖は全身から力を放った。
容赦など一切ない、全力での攻撃だ。
扉や窓は吹き飛び、室内にあった物は全て破壊しつくされ、壁すらもなくなる。まるで、大きな竜巻に巻き込まれたかのような──それよりも酷いかもしれない──大惨事に、突如王宮中に響いた轟音に驚き、駆けつけてきた者達は息を呑む。
そこには──長い灰色の髪を風に靡かせる長身の男が一人、肩で息をしながら佇んでいて。
「我を……愚弄するからこんなことになるのだ……」
そんなことを呟いた後、今度は楽し気に全身を揺らした。
「あ、あの者は誰だ?」
「ルーチェ様は……?」
冷静さを取り戻した者から順番に、次から次へと浮かぶ疑問。しかしそれに答えられる者は、この場に於いて一人も──死灰栖以外は──いない。
故に駆けつけた全員がルーチェの死を覚悟した時──彼等の絶対的君主である者の美しい声が、その考えを否定した。
「君達、有難いことだが心配には及ばないよ。僕ならこうして……ここで無事に生きているからね」
大きな歓声をあげる者達の眼前へと、ルーチェは微笑みながら姿を現す。
「貴様……何故……」
それを見た死灰栖は悔し気に唇を噛んだが、ルーチェは敢えてその態度には気づかない振りをし、何事もなかったかのように壁のなくなった室内へと降り立った。
今回は本気で危なかったな……。
という気持ちは、おくびにも出さずに。
実際のところ、人間である彼等が死なずに済んだのは──氷依のおかげに他ならない。
死灰栖の魔力を叩きつけられた衝撃で意識を取り戻した氷依は、間一髪のところでルーチェとミルドを自分の結界内へと引き入れ、二人が地上に落下するのを防いだのだ。
もしあのタイミングで氷依が目覚めなかったら、然しものルーチェとて危なかったかもしれない。いや、氷依が目覚めなければミルドは確実に命を落としていただろう。
やっぱり、彼女を生かしておいて良かった……。
そう安心したルーチェだったが、彼等を殺すつもりで力を放った死灰栖にしてみれば、氷依のした行為は当然不愉快極まりないものであり。彼は一瞬で氷依のすぐ前に移動すると、彼女の胸ぐらを掴み、その顔を射殺さんばかりに睨みつけた。
「貴様に魔性としての誇りはないのか⁉︎ 人間なんぞに手を貸すばかりか、同族である我の攻撃から守るなど……頭でもおかしくなったか? それとも貴様は、魔性として大切なものを溝に捨てたとでも言うつもりなのか⁉︎」
「は、離してください。わたくしは……ルーチェ様に仕える身。もはや魔性であることは捨てたのです……」
未だ衰弱した状態から回復しきってはいないのだろう。弱々しいながらもハッキリと否定する氷依に、死灰栖はギリギリと歯を鳴らし、更に噛みつく。
「ならば理由を教えろ! 我が満足するに足る、しっかりとした──」
その時ふと、氷依の瞳の奥底に彼女の瞳の色とは違う色が見えたような気がして、死灰栖は思わず口を噤んだ。
今の光の色は……なんだ?
よく見ようと彼女の顔を覗き込もうとするも、そうされるのを避けるかのように氷依は目を伏せ、首を振る。
なんだ? 一体何を隠している?
そんな彼女の仕草は怪しい以外の何者でもなく、更に疑念を深めた死灰栖はとうとう力づくで氷依の瞼へと手を伸ばした。
見せたくないと言うのなら、無理やり開いて見るまでだ──。
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