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第九章 魔力を吸う札
暴言
「何の用……ねぇ」
問われた言葉に、死灰栖はなんと言って答えようかと暫し悩んだ。
自分がここへ来た理由は二つ。
一つは自らが手に入れるはずだった魔力を横から奪い取っていった紙切れについて聞き出すこと。そしてもう一つは、今なお感じている倦怠感から解放される方法だ。
どちらも謎の紙切れが絡んでいるに違いないから、一つ目の目的が果たされた時点で二つ目の目的も自ずと果たされるはずだが、真正直に紙切れのことを聞いたとて、目の前にいる人間の男が素直に口を割るとは思えない。
ならば、どう聞くのが正解なのか。
人間如きの嘘を見抜けぬ自分ではないが、人間の中にはごく稀に嘘を吐くことにかけて神がかり的な才能を持つ者もいると聞く。故に万が一にもそんな者に惑わされることにならないよう、ここは確実に正しい答えを引き出さねばならない。
果たしてこの場合、どうしたらそれを成し得ることができるのか──。
考える際、死灰栖は知らず左手に力を入れてしまったらしい。女魔性の苦し気に呻く声が聞こえ、しまったとばかりに、反射的に彼女から手を離した。
「う、うう……っ」
「氷依!」
死灰栖から解放されたことで床に頽れた女魔性の元へ、人間どもが群がってくる。
ミルドとかいう人間と、その主人らしき薄茶色の髪の青年の様子を見るに、どうやら奴等にとって、この女魔性は随分と大切な存在であるらしい。本来であれば魔性と人間なぞ決して相容れぬ存在同士であるというのに、どうしてこんなことになっているのか。
奴等がこの女魔性を大切に思っているのであれば、こいつを使って口を割らせることができるかもしれない。否、割らせてみせる。
力は多少弱ってはいるが、それほど支障はない自分と、衰弱した女魔性を庇う人間達。どちらが有利であるかなど考えるまでもないことだ。やはり最初に女魔性を痛めつけておいたのは正解であった。
この城に来てから自分のとった行動について自画自賛し、死灰栖は上機嫌でもってルーチェへと質問を投げかける。
「その女魔性を殺されたくなくば、我の魔力を横取りした、あの紙切れについて詳しく話せ」
と──。
しかし、ことは彼の思い通りには運ばなかった。
何故なら目の前にいる薄茶色の髪の青年は、人間を下に見ていた死灰栖の予想を大いに裏切り、魔性である彼に対して謙ることもなく、こう言い返してきたのだから。
「どうして僕がそんな命令口調の言葉に従わなくてはならないんだい? 聞きたいことがあるのなら、そっちが下手に出るのが当たり前だろう?」
などと。
──信じられなかった。
否、そんな風に言い返してくる人間がいるなど、思いもしていなかった。
何の力も持たないちっぽけな人間如きが、崇高な存在たる魔性に対してそのような暴言を吐くなど──。
「あり得ない……。貴様、それは我を魔性と認識しての言葉なのであろうな?」
言いようのない怒りに全身を震わせながら、それでも死灰栖は相手が無知たる場合を考えて問う。
もしかしたら、こいつは我を魔性だと認識していないのかもしれない。魔性に出逢ったことのない人間には、ままあることだ。
認識ない者の態度に腹を立て害すなど、下級魔性のやることであり、上級魔性たる自分がやることではない。
だからこそ、懸命に自分を律して平静を装っていたのだが──。
次に青年の口から放たれた言葉によって、そんな死灰栖の堪忍袋の緒は、いとも簡単に焼き切れた──。
問われた言葉に、死灰栖はなんと言って答えようかと暫し悩んだ。
自分がここへ来た理由は二つ。
一つは自らが手に入れるはずだった魔力を横から奪い取っていった紙切れについて聞き出すこと。そしてもう一つは、今なお感じている倦怠感から解放される方法だ。
どちらも謎の紙切れが絡んでいるに違いないから、一つ目の目的が果たされた時点で二つ目の目的も自ずと果たされるはずだが、真正直に紙切れのことを聞いたとて、目の前にいる人間の男が素直に口を割るとは思えない。
ならば、どう聞くのが正解なのか。
人間如きの嘘を見抜けぬ自分ではないが、人間の中にはごく稀に嘘を吐くことにかけて神がかり的な才能を持つ者もいると聞く。故に万が一にもそんな者に惑わされることにならないよう、ここは確実に正しい答えを引き出さねばならない。
果たしてこの場合、どうしたらそれを成し得ることができるのか──。
考える際、死灰栖は知らず左手に力を入れてしまったらしい。女魔性の苦し気に呻く声が聞こえ、しまったとばかりに、反射的に彼女から手を離した。
「う、うう……っ」
「氷依!」
死灰栖から解放されたことで床に頽れた女魔性の元へ、人間どもが群がってくる。
ミルドとかいう人間と、その主人らしき薄茶色の髪の青年の様子を見るに、どうやら奴等にとって、この女魔性は随分と大切な存在であるらしい。本来であれば魔性と人間なぞ決して相容れぬ存在同士であるというのに、どうしてこんなことになっているのか。
奴等がこの女魔性を大切に思っているのであれば、こいつを使って口を割らせることができるかもしれない。否、割らせてみせる。
力は多少弱ってはいるが、それほど支障はない自分と、衰弱した女魔性を庇う人間達。どちらが有利であるかなど考えるまでもないことだ。やはり最初に女魔性を痛めつけておいたのは正解であった。
この城に来てから自分のとった行動について自画自賛し、死灰栖は上機嫌でもってルーチェへと質問を投げかける。
「その女魔性を殺されたくなくば、我の魔力を横取りした、あの紙切れについて詳しく話せ」
と──。
しかし、ことは彼の思い通りには運ばなかった。
何故なら目の前にいる薄茶色の髪の青年は、人間を下に見ていた死灰栖の予想を大いに裏切り、魔性である彼に対して謙ることもなく、こう言い返してきたのだから。
「どうして僕がそんな命令口調の言葉に従わなくてはならないんだい? 聞きたいことがあるのなら、そっちが下手に出るのが当たり前だろう?」
などと。
──信じられなかった。
否、そんな風に言い返してくる人間がいるなど、思いもしていなかった。
何の力も持たないちっぽけな人間如きが、崇高な存在たる魔性に対してそのような暴言を吐くなど──。
「あり得ない……。貴様、それは我を魔性と認識しての言葉なのであろうな?」
言いようのない怒りに全身を震わせながら、それでも死灰栖は相手が無知たる場合を考えて問う。
もしかしたら、こいつは我を魔性だと認識していないのかもしれない。魔性に出逢ったことのない人間には、ままあることだ。
認識ない者の態度に腹を立て害すなど、下級魔性のやることであり、上級魔性たる自分がやることではない。
だからこそ、懸命に自分を律して平静を装っていたのだが──。
次に青年の口から放たれた言葉によって、そんな死灰栖の堪忍袋の緒は、いとも簡単に焼き切れた──。
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