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第九章 魔力を吸う札
英雄と呼ばれる魔神
やはり何かがおかしい……。
深淵なる海の底にある城の中で、その主たる青年──透耶──は一人、頭を悩ませていた。
先程から目まぐるしく様々な気配を感じては、すぐにそれらを感じなくなるという不可思議な現象が起きている。
このようにおかしなことは、過去何百年と生きてきた中で、一度もなかったような気がするが。
「世界に何かおかしなことでも起きているのか……?」
天使が治めていたこの島を奪い取ってから、すでに百年と少し経つ。
これまでは特に何もなく、平穏無事なつまらない毎日ばかりが繰り返されていた。
しかし、漸くそれが壊される日が来るというのか。
最近になって起きている様々なことは、その前兆なのかもしれない。
「だとしたら……少しばかり楽しみではあるな……」
呟き、透耶は少しだけ口角を上げた。
魔性という生き物は、元来争いごとの好きな種族である。
その理由は相手を傷つけるのが好きだからというものではなく、本来持っている自分の能力を他者に知らしめ、誇示したいという欲求が強いからだ。そうして多くの者を自らの配下とし、従わせて侍らせることに至上の喜びを感じる。そういった生き物だ。
加えて強大な力を持つ者はその見た目も優れていることから、自分を含めた者の美醜に異様なほどの執着を見せる。
如何に強大な力を持っていようとも、外見が美しくなければ上級とは認められない。その逆も然りだ。
故に闇のように然ほど強い力を持っていなくとも見た目が極めて美しい魔性は、自らの配下とするだけで周囲から羨望の目で見られるとして、最上級魔性の間でも奪い合いになるほど配下としての競争率が高い。
かくいう透耶も、幾度となく闇に自分の配下となるよう打診するも、これまで一度として首を縦に振られたことはなかった。
──にも関わらず、彼はどこの誰とも知らぬ魔性の配下になったと、暫く前に風の噂で聞いた。
それは一体どこの誰だと、一時期魔性界は騒然となったが──肝心の本人が表舞台に全く姿を現さなくなったことで、噂は自然と消えていった。否、どこぞで彼を見かけた魔性が『最初は橙だった雷の纏う色彩が、いつの間にか赤に変化していた』と言ったことで、恐怖から彼のことを口にできなくなったのだ。
絶世の美貌を持つ橙色の青年魔性──雷は、ある日突然全身に纏う色を赤に変え、名前も闇へと改名した。その二つが合わさり示される答えは、考えずとも一つしかない故に。
天使と魔性の永遠とも思える戦いに終止符を打った、およそ魔性には似つかわしくない『英雄』という名で呼ばれる男。
その戦い以後完全に姿を消し、一切他者の前に姿を現さないため、今では生死不明とさえも言われている男。
「その男の配下に……アイツが?」
嘘だ──と思う。同時に、信じたくない──とも。
戦争終結後、透耶とて件の魔神の姿を懸命に探したのだ。それこそ数多いる自分の配下を総動員してまでも、念入りに、隈なく島中を。そこまでしても見つけられなかった存在が、自分の知らぬ間に闇へと接触し、見事彼の主の座を勝ち取った──。
これまで透耶がいくら頼んでも、魔神としてのプライドを引き換えに懇願するような真似をしても、決して配下になることを受け入れなかった男が、赤闇の魔神の要望は容易く受け入れ、配下となるなど──。
その行為は誇り高き透耶のプライドを傷付け、引き裂くのに十分なものであり、また、赤闇の魔神に対して激しい憎悪を抱くきっかけともなった。
「敢えて姿を隠しているのなら、永遠に隠れて居ればいいものを……」
今の雷を表す赤い色彩と闇という名前からして、魔性であれば誰しも『赤闇の魔神』を連想する。
そのせいで、一時は収まっていた赤闇の魔神に対する魔性達の熱量が、最近になってまた急激に高まりつつあるのだ。
「永遠に隠れているならそれで良かった……。だが、私の治世を乱すなら容赦はしない」
組んでいた長い足を解き、澄み切った青空のような美しい色の髪を無造作に払い除け、透耶は再び側近の名を口にした。
「青麻! 青麻はいるか⁉︎」
しかし、その時もまた、彼の側近は姿を見せなかったのだ──。
深淵なる海の底にある城の中で、その主たる青年──透耶──は一人、頭を悩ませていた。
先程から目まぐるしく様々な気配を感じては、すぐにそれらを感じなくなるという不可思議な現象が起きている。
このようにおかしなことは、過去何百年と生きてきた中で、一度もなかったような気がするが。
「世界に何かおかしなことでも起きているのか……?」
天使が治めていたこの島を奪い取ってから、すでに百年と少し経つ。
これまでは特に何もなく、平穏無事なつまらない毎日ばかりが繰り返されていた。
しかし、漸くそれが壊される日が来るというのか。
最近になって起きている様々なことは、その前兆なのかもしれない。
「だとしたら……少しばかり楽しみではあるな……」
呟き、透耶は少しだけ口角を上げた。
魔性という生き物は、元来争いごとの好きな種族である。
その理由は相手を傷つけるのが好きだからというものではなく、本来持っている自分の能力を他者に知らしめ、誇示したいという欲求が強いからだ。そうして多くの者を自らの配下とし、従わせて侍らせることに至上の喜びを感じる。そういった生き物だ。
加えて強大な力を持つ者はその見た目も優れていることから、自分を含めた者の美醜に異様なほどの執着を見せる。
如何に強大な力を持っていようとも、外見が美しくなければ上級とは認められない。その逆も然りだ。
故に闇のように然ほど強い力を持っていなくとも見た目が極めて美しい魔性は、自らの配下とするだけで周囲から羨望の目で見られるとして、最上級魔性の間でも奪い合いになるほど配下としての競争率が高い。
かくいう透耶も、幾度となく闇に自分の配下となるよう打診するも、これまで一度として首を縦に振られたことはなかった。
──にも関わらず、彼はどこの誰とも知らぬ魔性の配下になったと、暫く前に風の噂で聞いた。
それは一体どこの誰だと、一時期魔性界は騒然となったが──肝心の本人が表舞台に全く姿を現さなくなったことで、噂は自然と消えていった。否、どこぞで彼を見かけた魔性が『最初は橙だった雷の纏う色彩が、いつの間にか赤に変化していた』と言ったことで、恐怖から彼のことを口にできなくなったのだ。
絶世の美貌を持つ橙色の青年魔性──雷は、ある日突然全身に纏う色を赤に変え、名前も闇へと改名した。その二つが合わさり示される答えは、考えずとも一つしかない故に。
天使と魔性の永遠とも思える戦いに終止符を打った、およそ魔性には似つかわしくない『英雄』という名で呼ばれる男。
その戦い以後完全に姿を消し、一切他者の前に姿を現さないため、今では生死不明とさえも言われている男。
「その男の配下に……アイツが?」
嘘だ──と思う。同時に、信じたくない──とも。
戦争終結後、透耶とて件の魔神の姿を懸命に探したのだ。それこそ数多いる自分の配下を総動員してまでも、念入りに、隈なく島中を。そこまでしても見つけられなかった存在が、自分の知らぬ間に闇へと接触し、見事彼の主の座を勝ち取った──。
これまで透耶がいくら頼んでも、魔神としてのプライドを引き換えに懇願するような真似をしても、決して配下になることを受け入れなかった男が、赤闇の魔神の要望は容易く受け入れ、配下となるなど──。
その行為は誇り高き透耶のプライドを傷付け、引き裂くのに十分なものであり、また、赤闇の魔神に対して激しい憎悪を抱くきっかけともなった。
「敢えて姿を隠しているのなら、永遠に隠れて居ればいいものを……」
今の雷を表す赤い色彩と闇という名前からして、魔性であれば誰しも『赤闇の魔神』を連想する。
そのせいで、一時は収まっていた赤闇の魔神に対する魔性達の熱量が、最近になってまた急激に高まりつつあるのだ。
「永遠に隠れているならそれで良かった……。だが、私の治世を乱すなら容赦はしない」
組んでいた長い足を解き、澄み切った青空のような美しい色の髪を無造作に払い除け、透耶は再び側近の名を口にした。
「青麻! 青麻はいるか⁉︎」
しかし、その時もまた、彼の側近は姿を見せなかったのだ──。
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