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第十章 目覚めた能力
人たらし
「今はとにかく、先に札を剥がしませんか?」
唐突にそう言ったのは、闇だった。
なんだかんだと頭を悩ませ始めたラズリと奏に、このままでは最悪の事態もあり得ると考えた闇は、仕方なく口を出す。
本当は、黙って二人を見守るつもりだった。怪しい札に触れることで例えばラズリに何かあったとしても、間違いなく奏が助けるだろうし、それで足りなければ自分は補助にまわろうと。
しかし肝心の札が妙な動きをしたことでラズリが怖じ気付き、そこで行動が止まってしまった。こうして話をしている間にも、刻一刻と女魔性の存在は薄く不確かなものへと変わっていっているというのに。
「その札に触ることができるのは、我々三人の中ではラズリ殿しかいません。未知なる物に恐怖する気持ちは理解できますが、そこの女魔性から有益な情報を引き出すためにも、どうかご協力いただけませんか? お願い致します」
真摯に頭を下げ、ついでに奏へも『貴方からも何か言ってください』という思いを込めて視線を送る。
すると奏はわざとらしく音を立てて両手を合わせ、拝むようにラズリへと頭を下げた。
「ラズリ、悪いが俺からも頼む! こんなもんが出回ってたら、さすがの俺も安心して好き勝手できなくなっちまう。だから、早いとここいつの仕組みを解明して安心したい。何があってもお前は俺が守ると誓うから、どうか頼む!」
「奏……」
告げた内容的に、闇としては「ん?」と眉間に皺を寄せるようなものであったが、どうやらラズリはそれに心を動かされたらしい。
「守ってくれるのは嬉しいけど、私だって奏が危ない目に遭うのは嫌だよ……」
とかなんとか言っている。
闇からしてみれば、あんな札があったところで奏は何ら気にせず好き勝手に振る舞うに違いないと分かりすぎるほどに分かっているが、彼女は恐らくそれを知らない。
しかも、自分にのみ優しく、超絶美形な男が「お前は俺が守ると誓う」などと言えば、元から男性に免疫のなさそうな少女などひとたまりもないだろう。
こういうことを無自覚に言ったりやったりしてしまうところが、奏は天然の人たらしなのだ。
思えば自分もそれに引っ掛かったくちだったなと、闇は小さくため息を吐いた。
奏と出会うまで、どんな魔性に声をかけられても頑なに配下となることを拒んできた自分が、絶体絶命のまさにその時、彼に助けられて救いを得た。
あの時彼は、自分になんと言ったのだったか──。
記憶力には自信があるはずなのに、何故かそれだけが思い出せない。気付けば自分の身に纏う色と名前が違うものへと変化していて、同時に煩わしかった様々なものから解放されていた。
新しく自分に与えられたその色と名前から、奏こそが赤闇の魔神だと思ったものだが──。
彼に問えば、違うと言われた。
自分は魔神ではなく魔人であるし、赤闇の魔神なんて知らないと。
ただ闇を助け、安全だと思われる場所に自分は放置しておいただけで、それ以外のことは何もしていないと。
ならば貴方の色は、奏の纏う色の理由はなんだと問えば、「突然変異だ」と返された。
そんな答えでは当然納得できず、闇はそれからずっと付き纏うようにして奏の側についている。とはいっても、彼はやたらめったら問題を起こし、方々から恨みをかうため、専ら尻拭いばかりをさせられているが。
それでも、側にいることを許されているだけで満足している自分がいる。
たった一人で不特定多数に狙われ続けていた日々よりも、奏と出会ってからの日々の方が、確実に満たされていると感じるから。
今の幸せを壊さないようにするために、ほんの僅かな不安要素でさえ、潰しておく必要があった。
唐突にそう言ったのは、闇だった。
なんだかんだと頭を悩ませ始めたラズリと奏に、このままでは最悪の事態もあり得ると考えた闇は、仕方なく口を出す。
本当は、黙って二人を見守るつもりだった。怪しい札に触れることで例えばラズリに何かあったとしても、間違いなく奏が助けるだろうし、それで足りなければ自分は補助にまわろうと。
しかし肝心の札が妙な動きをしたことでラズリが怖じ気付き、そこで行動が止まってしまった。こうして話をしている間にも、刻一刻と女魔性の存在は薄く不確かなものへと変わっていっているというのに。
「その札に触ることができるのは、我々三人の中ではラズリ殿しかいません。未知なる物に恐怖する気持ちは理解できますが、そこの女魔性から有益な情報を引き出すためにも、どうかご協力いただけませんか? お願い致します」
真摯に頭を下げ、ついでに奏へも『貴方からも何か言ってください』という思いを込めて視線を送る。
すると奏はわざとらしく音を立てて両手を合わせ、拝むようにラズリへと頭を下げた。
「ラズリ、悪いが俺からも頼む! こんなもんが出回ってたら、さすがの俺も安心して好き勝手できなくなっちまう。だから、早いとここいつの仕組みを解明して安心したい。何があってもお前は俺が守ると誓うから、どうか頼む!」
「奏……」
告げた内容的に、闇としては「ん?」と眉間に皺を寄せるようなものであったが、どうやらラズリはそれに心を動かされたらしい。
「守ってくれるのは嬉しいけど、私だって奏が危ない目に遭うのは嫌だよ……」
とかなんとか言っている。
闇からしてみれば、あんな札があったところで奏は何ら気にせず好き勝手に振る舞うに違いないと分かりすぎるほどに分かっているが、彼女は恐らくそれを知らない。
しかも、自分にのみ優しく、超絶美形な男が「お前は俺が守ると誓う」などと言えば、元から男性に免疫のなさそうな少女などひとたまりもないだろう。
こういうことを無自覚に言ったりやったりしてしまうところが、奏は天然の人たらしなのだ。
思えば自分もそれに引っ掛かったくちだったなと、闇は小さくため息を吐いた。
奏と出会うまで、どんな魔性に声をかけられても頑なに配下となることを拒んできた自分が、絶体絶命のまさにその時、彼に助けられて救いを得た。
あの時彼は、自分になんと言ったのだったか──。
記憶力には自信があるはずなのに、何故かそれだけが思い出せない。気付けば自分の身に纏う色と名前が違うものへと変化していて、同時に煩わしかった様々なものから解放されていた。
新しく自分に与えられたその色と名前から、奏こそが赤闇の魔神だと思ったものだが──。
彼に問えば、違うと言われた。
自分は魔神ではなく魔人であるし、赤闇の魔神なんて知らないと。
ただ闇を助け、安全だと思われる場所に自分は放置しておいただけで、それ以外のことは何もしていないと。
ならば貴方の色は、奏の纏う色の理由はなんだと問えば、「突然変異だ」と返された。
そんな答えでは当然納得できず、闇はそれからずっと付き纏うようにして奏の側についている。とはいっても、彼はやたらめったら問題を起こし、方々から恨みをかうため、専ら尻拭いばかりをさせられているが。
それでも、側にいることを許されているだけで満足している自分がいる。
たった一人で不特定多数に狙われ続けていた日々よりも、奏と出会ってからの日々の方が、確実に満たされていると感じるから。
今の幸せを壊さないようにするために、ほんの僅かな不安要素でさえ、潰しておく必要があった。
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