129 / 205
第十一章 動き出した魔神
届かなかった声
宿屋の床にポツンと残された札を見つめ、奏と闇は顔を見合わせていた。
札というのはもちろん、つい先ほどまで氷依に貼り付けられていたもののことだ。
安全かどうかの確証がないため、それがはっきりするまでは近づくな、とラズリを離れた場所へ追いやり、二人だけで言葉を交わしている。
「あの札に触れるのは私だけなのに、どうして私だけ仲間はずれにされなきゃいけないの?」
とラズリは不満げであったが、「お前に何かあったら俺は生きていられないんだ。だから頼む」と奏が真剣な表情で告げれば、頬を染めながら頷いてくれた。
それに対し(扱いやすい……)と闇だけでなく奏までもが思ったことは、ラズリ本人には絶対に内緒だ。
かくして、ラズリを安全圏まで避難させた上で、二人は札から離れすぎず、かつ近すぎない程度の距離で、今後の問題について話し合っているというわけだった。
「取り敢えずこれ……どうする?」
「どうしましょうかね? できれば詳しく調べたいところではありますが、私達の魔力まで吸収されてしまっては元も子もありませんし、そういった危険性を考えると、調べるのは断念するしかないと思いますが」
「やっぱ、そうなるか……」
闇の言うことは正しい。至極もっともだ。
それは分かっているのだが、奏はどうしても『それでは面白くない』と思ってしまう。
せっかく珍しいものが手に入った──というか目の前に落ちている──というのに、危険を顧みて何もせずに放置するなんて勿体無い。この札の仕組みを解明できれば、もし今後自分達が女魔性と同じ目に遭ったとしても、対処することができるかもしれないのに。
「だけどなあ……今後もこれが使われないって保証はないわけだろ? だったらある程度知っておいた方が身のためって言うかさあ……」
「でしたら貴方の魔力を試しに吸わせてみますか?」
ぼやいたところを間髪容れず言い返され、奏はびくりと肩を揺らした。
やべぇ……こいつ、本気だ。
奏自身の知的好奇心を満たすためには仕方ないと割り切ったのか、はたまた「そんなに調べたいなら勝手にすればいい」と見限ったのか、どちらにせよ、今の闇の一言が本気であることだけは伝わってくる。
俺だって自分の魔力を吸わせたいわけじゃないが……これを使ったのが王宮の関係者ってんなら、今後絶対ラズリに関わってくるわけだしな……。
そうしていざ彼らと相対した時に札を使われ、自分が無力化させられたことによってラズリを守れなかった──などという情けない事態だけは絶対に避けたい。ならばどうしたって札の仕組みを理解する必要がある。
「なぁ、闇……」
その時のためにも、なんとかして闇を説得しようと奏が口を開いた時、不意に闇が「あれを使ったらどうでしょうか?」と言葉を紡いだ。
「あれ?」
あれってなんだ? と思いつつ、闇の視線の向いた方向へと視線を向けた奏は──。
「いやいやいや! あれは駄目だろ! あれは絶対駄目だって!」
と大声で言って、激しく両手を横に振った。
だってあれは──闇の言いたいことは分かるし、言われてみれば確かにあれが一番かもしれないが、それにしたって……。
「とにかくあれは駄目だ! 無理!」
絶対に受け入れるわけにはいかないと、首と両手を振りながら否定し続ける奏だったが──。なんとそこへ、運悪く? ラズリが不思議そうに首を傾げながら近付いてきてしまった。
「奏、一体なにをそんなに騒いでるの?」
ヤバい!
「あ~……ラズリ、お前には別に関係な──」
咄嗟にラズリを遠ざけようとした奏の動きは、しかし気配を消して二人の間に移動してきた闇によって完全に妨げられた。
「ラズリ殿、ちょうど良かった。実は貴女にお願いしたいことがございまして……」
「ん? なに?」
「駄目だ聞くなラズリ‼︎」
奏の絶叫とも言える叫び声は、闇によってラズリの耳に届く前に霧散させられたのだった──。
札というのはもちろん、つい先ほどまで氷依に貼り付けられていたもののことだ。
安全かどうかの確証がないため、それがはっきりするまでは近づくな、とラズリを離れた場所へ追いやり、二人だけで言葉を交わしている。
「あの札に触れるのは私だけなのに、どうして私だけ仲間はずれにされなきゃいけないの?」
とラズリは不満げであったが、「お前に何かあったら俺は生きていられないんだ。だから頼む」と奏が真剣な表情で告げれば、頬を染めながら頷いてくれた。
それに対し(扱いやすい……)と闇だけでなく奏までもが思ったことは、ラズリ本人には絶対に内緒だ。
かくして、ラズリを安全圏まで避難させた上で、二人は札から離れすぎず、かつ近すぎない程度の距離で、今後の問題について話し合っているというわけだった。
「取り敢えずこれ……どうする?」
「どうしましょうかね? できれば詳しく調べたいところではありますが、私達の魔力まで吸収されてしまっては元も子もありませんし、そういった危険性を考えると、調べるのは断念するしかないと思いますが」
「やっぱ、そうなるか……」
闇の言うことは正しい。至極もっともだ。
それは分かっているのだが、奏はどうしても『それでは面白くない』と思ってしまう。
せっかく珍しいものが手に入った──というか目の前に落ちている──というのに、危険を顧みて何もせずに放置するなんて勿体無い。この札の仕組みを解明できれば、もし今後自分達が女魔性と同じ目に遭ったとしても、対処することができるかもしれないのに。
「だけどなあ……今後もこれが使われないって保証はないわけだろ? だったらある程度知っておいた方が身のためって言うかさあ……」
「でしたら貴方の魔力を試しに吸わせてみますか?」
ぼやいたところを間髪容れず言い返され、奏はびくりと肩を揺らした。
やべぇ……こいつ、本気だ。
奏自身の知的好奇心を満たすためには仕方ないと割り切ったのか、はたまた「そんなに調べたいなら勝手にすればいい」と見限ったのか、どちらにせよ、今の闇の一言が本気であることだけは伝わってくる。
俺だって自分の魔力を吸わせたいわけじゃないが……これを使ったのが王宮の関係者ってんなら、今後絶対ラズリに関わってくるわけだしな……。
そうしていざ彼らと相対した時に札を使われ、自分が無力化させられたことによってラズリを守れなかった──などという情けない事態だけは絶対に避けたい。ならばどうしたって札の仕組みを理解する必要がある。
「なぁ、闇……」
その時のためにも、なんとかして闇を説得しようと奏が口を開いた時、不意に闇が「あれを使ったらどうでしょうか?」と言葉を紡いだ。
「あれ?」
あれってなんだ? と思いつつ、闇の視線の向いた方向へと視線を向けた奏は──。
「いやいやいや! あれは駄目だろ! あれは絶対駄目だって!」
と大声で言って、激しく両手を横に振った。
だってあれは──闇の言いたいことは分かるし、言われてみれば確かにあれが一番かもしれないが、それにしたって……。
「とにかくあれは駄目だ! 無理!」
絶対に受け入れるわけにはいかないと、首と両手を振りながら否定し続ける奏だったが──。なんとそこへ、運悪く? ラズリが不思議そうに首を傾げながら近付いてきてしまった。
「奏、一体なにをそんなに騒いでるの?」
ヤバい!
「あ~……ラズリ、お前には別に関係な──」
咄嗟にラズリを遠ざけようとした奏の動きは、しかし気配を消して二人の間に移動してきた闇によって完全に妨げられた。
「ラズリ殿、ちょうど良かった。実は貴女にお願いしたいことがございまして……」
「ん? なに?」
「駄目だ聞くなラズリ‼︎」
奏の絶叫とも言える叫び声は、闇によってラズリの耳に届く前に霧散させられたのだった──。
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
せっかく傾国級の美人に生まれたのですから、ホントにやらなきゃ損ですよ?
志波 連
恋愛
病弱な父親とまだ学生の弟を抱えた没落寸前のオースティン伯爵家令嬢であるルシアに縁談が来た。相手は学生時代、一方的に憧れていた上級生であるエルランド伯爵家の嫡男ルイス。
父の看病と伯爵家業務で忙しく、結婚は諦めていたルシアだったが、結婚すれば多額の資金援助を受けられるという条件に、嫁ぐ決意を固める。
多忙を理由に顔合わせにも婚約式にも出てこないルイス。不信感を抱くが、弟のためには絶対に援助が必要だと考えるルシアは、黙って全てを受け入れた。
オースティン伯爵の健康状態を考慮して半年後に結婚式をあげることになり、ルイスが住んでいるエルランド伯爵家のタウンハウスに同居するためにやってきたルシア。
それでも帰ってこない夫に泣くことも怒ることも縋ることもせず、非道な夫を庇い続けるルシアの姿に深く同情した使用人たちは遂に立ち上がる。
この作品は小説家になろう及びpixivでも掲載しています
ホットランキング1位!ありがとうございます!皆様のおかげです!感謝します!
【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…
公爵家の秘密の愛娘
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝🌹グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。
過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。
そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。
「パパ……私はあなたの娘です」
そう名乗り出るアンジェラ。
◇
アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。
この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。
初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。
母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞
✴️設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞
✴️稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇♀️