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第十一章 動き出した魔神
迷惑行為
氷依──それは、魔性であるにも拘わらず人間の味方をし、最後には不可抗力によって命を失った女魔性の名前だった。
「氷依? 何故そなたが氷依の名を知っている?」
驚いた顔をする青氷の魔神に、闇も同じような表情を返す。
その様子からして、青氷の魔神の言葉は闇にとって予想外であったのだろう。自分から質問しておきながら、相手が知らないだろうと最初から決めつけていたなんて、闇にしては少々珍しいことだ。加えて、彼が驚いたような表情を見せたことも──なにしろ、彼は滅多なことでは表情を変えず、そのせいで普段は何を考えているのか分かりかねることが多かったから──驚きだった。
そして、青氷の魔神の言葉に驚いたのは奏も同じだったらしい。
彼は「へぇ……」と小さな声を発した後、拗ねた気持ちはどこへやら──気付けば興味深げな光を瞳に宿し、ワクワクした表情で二人のことを見つめていた。
「あまりにも好き勝手させているので、もしかしたら彼女の存在を把握していないのかと思っていましたが、どうやらそういうわけではなかったようですね」
魔神からの問い掛けはサラリと無視して、闇が次の言葉を紡ぐ。既に先ほど見せた表情は消え失せ、いつも通りの無表情だ。
しかし相手はそれを何ら気にする様子もなく、腕を組んで余裕の表情を浮かべていた。まるで、闇のこういった態度には慣れているとでも言うかのように。
「無論だ。余はどんなに配下の数が増えようとも、その全てを把握し、名前などもきちんと覚えているからな」
え……凄い記憶力。
とラズリは思ったが、当然それを口に出すことはしない。
そもそも彼の配下の数など知るわけがないし、もしその人数が少なかったとしたら、全員の名前を覚えていることなど当たり前だろうと思ったからだ。
けれど闇はそう思わなかったらしく、ふと何かを考えるかのように顎に指を当てた後、少しだけ首を傾げて言葉を継いだ。
「ですが把握しているのは名前だけで、行動までは把握しきれていませんよね?」
「ぐっ……! そ、それは……」
どうやら痛いところを突かれたようで、青氷の魔神はそこで言葉に詰まる。
それでも何事かを言い返そうとしているのか、忙しなく視線を彷徨わせるが、残念なことに言葉は何もでてこない。
図星を指されると、魔神でさえもこんな風に狼狽えるのかと、ラズリは新たな発見をした気分だ。
そんな彼を闇は呆れたように見つめると、ポツリと一言、こう言った。
「迷惑ですね」
「は……はあああああ⁉」
それには流石に青氷の魔神も声を荒らげる。
「闇っ……そなた、今、余に迷惑だと言ったのか? 世界にたった三人しかいないと言われる魔神である余に向かって、迷惑だと?」
「ち、ちょっと奏……」
怖い顔をする魔神を見て、ラズリは思わず奏の腕を掴む。が、彼は「闇なら大丈夫だって」と言うだけで、まともに取り合ってはくれない。
「で、でも、相手は魔神なんでしょ? いくらなんでも……」
とラズリがハラハラしていると、なんと闇は、さらなる爆弾を投下した。
「迷惑な人物に対して迷惑と告げることに、位は関係ありますか? そんなことを言っているから、ご自分の迷惑行為に気付くこともできないのですよ」
「くっ……この……っ」
心底悔し気な顔をした青氷の魔神は、しかし何故か言った当人の闇には怒りをぶつけず、次の瞬間、傍観者となっていたラズリ達二人──正しくは奏のみ──に、険しい顔を向けたのだった。
「氷依? 何故そなたが氷依の名を知っている?」
驚いた顔をする青氷の魔神に、闇も同じような表情を返す。
その様子からして、青氷の魔神の言葉は闇にとって予想外であったのだろう。自分から質問しておきながら、相手が知らないだろうと最初から決めつけていたなんて、闇にしては少々珍しいことだ。加えて、彼が驚いたような表情を見せたことも──なにしろ、彼は滅多なことでは表情を変えず、そのせいで普段は何を考えているのか分かりかねることが多かったから──驚きだった。
そして、青氷の魔神の言葉に驚いたのは奏も同じだったらしい。
彼は「へぇ……」と小さな声を発した後、拗ねた気持ちはどこへやら──気付けば興味深げな光を瞳に宿し、ワクワクした表情で二人のことを見つめていた。
「あまりにも好き勝手させているので、もしかしたら彼女の存在を把握していないのかと思っていましたが、どうやらそういうわけではなかったようですね」
魔神からの問い掛けはサラリと無視して、闇が次の言葉を紡ぐ。既に先ほど見せた表情は消え失せ、いつも通りの無表情だ。
しかし相手はそれを何ら気にする様子もなく、腕を組んで余裕の表情を浮かべていた。まるで、闇のこういった態度には慣れているとでも言うかのように。
「無論だ。余はどんなに配下の数が増えようとも、その全てを把握し、名前などもきちんと覚えているからな」
え……凄い記憶力。
とラズリは思ったが、当然それを口に出すことはしない。
そもそも彼の配下の数など知るわけがないし、もしその人数が少なかったとしたら、全員の名前を覚えていることなど当たり前だろうと思ったからだ。
けれど闇はそう思わなかったらしく、ふと何かを考えるかのように顎に指を当てた後、少しだけ首を傾げて言葉を継いだ。
「ですが把握しているのは名前だけで、行動までは把握しきれていませんよね?」
「ぐっ……! そ、それは……」
どうやら痛いところを突かれたようで、青氷の魔神はそこで言葉に詰まる。
それでも何事かを言い返そうとしているのか、忙しなく視線を彷徨わせるが、残念なことに言葉は何もでてこない。
図星を指されると、魔神でさえもこんな風に狼狽えるのかと、ラズリは新たな発見をした気分だ。
そんな彼を闇は呆れたように見つめると、ポツリと一言、こう言った。
「迷惑ですね」
「は……はあああああ⁉」
それには流石に青氷の魔神も声を荒らげる。
「闇っ……そなた、今、余に迷惑だと言ったのか? 世界にたった三人しかいないと言われる魔神である余に向かって、迷惑だと?」
「ち、ちょっと奏……」
怖い顔をする魔神を見て、ラズリは思わず奏の腕を掴む。が、彼は「闇なら大丈夫だって」と言うだけで、まともに取り合ってはくれない。
「で、でも、相手は魔神なんでしょ? いくらなんでも……」
とラズリがハラハラしていると、なんと闇は、さらなる爆弾を投下した。
「迷惑な人物に対して迷惑と告げることに、位は関係ありますか? そんなことを言っているから、ご自分の迷惑行為に気付くこともできないのですよ」
「くっ……この……っ」
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