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第十一章 動き出した魔神
高熱
「本当に貴方という人は、何度言えば私の言いたいことを理解してくださるのですか? そもそも貴方は……」
唐突に始まった青氷の魔神に対する闇の説教は、それを横で聞いているラズリが思わず口をぽかんと開けてしまうほど、長々と続けられていた。
魔神とはその名の通り、魔性の中では神に位置する存在であるはずだ。そのはずなのに、どう見ても立場が逆転しているとしか思えない今の状況は、一体どういうことなのだろうか。
それを聞きたくとも、さっきまで隣にいた奏は不意に「ちょっと行ってくる」と言って姿を消したきり、未だ戻ってきてはいない。
「ちょっと」と言った以上、そんなに時間をかけずに戻って来るつもりはあるのだろうが、どこへ何をしに行ったのかまるで分からないため、大体の時間を予想することさえもできない。とはいえ、全く姿を現してくれなかった前回とは違い、今回は闇が自分と同じ空間にいる分、安心ではあるのだけれど。
ただ、いくら安心であるとはいえ、まったく不安がないかと問われれば、そうではない。
なにしろ、目の前で魔神が魔人に説教されているなどという、おかしな場面を目の当たりにしているのだ。正直気まずいなんてものではないし、今のところ自分に被害が何もないにしても、不機嫌になった魔神がいつ暴れ出して大変なことになるかも分からない。そうなった場合、自分も含め宿屋にまで被害を及ぼす可能性が非常に高く、だからこそ奏がいないことにラズリは一抹の不安を覚えずにはいられなかった。
奏、早く戻ってきて……。
祈るように手を組み合わせ、心の中で、そう願う。
奏にばかり頼らないように……なんて、所詮口だけだった。顔を合わせれば、どうしたって自分はこうして、すぐに奏を頼ってしまう。
彼の何がそう思わせるのかは分からない。
けれど気付けばラズリは絶大な信頼を奏に寄せるようになっていて、そのことを自覚すると同時に、自嘲の笑みが口元に浮かんだ。
ほんと、駄目だな私……。
そんな風に思った刹那──ラズリの背後でいきなり何かがドサッと落ちてきたような音がするのと同時に、その衝撃でベッドが大きく軋むのを感じた。
「わっ、な、なに⁉︎」
それに驚いてラズリが振り返るのと、闇達がそちらへ目を向けたのは殆ど同時で──。
「え……誰?」
と、ベッドの上に突如現れた人物を見て目を丸くするラズリと、別の意味で目を大きく見開いた二人の魔性。
彼らは、驚きのあまり数瞬間動きを止めた後、ベッドからラズリを押し退ける勢いで、その青年のもとへ駆け寄った。
「青麻‼︎」
「青麻殿⁉︎」
二人が先を争うようにして突如現れた青年に近付くさまを見て、ラズリは慌ててベッドから降り、少し離れた場所から青年を見つめる。
ラズリから見てもその青年は明らかに様子がおかしく、それを見て闇達が慌てる気持ちが手に取るように分かった。
どうしてあの人は、あんな状態になっているんだろう……?
人間と違い、魔性は食事も睡眠も必要ないのに、風邪だけは同じようにひくということなのだろうか?
まるで高熱に浮かされたような状態の青年を見て、ラズリはそんな風に思う。
けれど、やはりそんなことはなかったらしい。闇が次に発した言葉を聞いて、ラズリは全身に寒気を感じた。
「これは……異常だ。魔性がこのような状態になるなど……」
つまりそれは、闇にとっても初めて見る症状だということ。
魔性にとってはありえない、異常が発生しているということに他ならない。
もしこれが魔性のかかる病で、奏にも伝染ってしまったら──。
ラズリはつい奏を優先して考えてしまったが、青氷の魔神はそれよりも切羽詰まっていた。
「闇! そなたの知識でどうにかできないか? 青麻は大事な余の側近だ。いなくなられては困る!」
悲痛な声で、彼は闇にそう言った。
唐突に始まった青氷の魔神に対する闇の説教は、それを横で聞いているラズリが思わず口をぽかんと開けてしまうほど、長々と続けられていた。
魔神とはその名の通り、魔性の中では神に位置する存在であるはずだ。そのはずなのに、どう見ても立場が逆転しているとしか思えない今の状況は、一体どういうことなのだろうか。
それを聞きたくとも、さっきまで隣にいた奏は不意に「ちょっと行ってくる」と言って姿を消したきり、未だ戻ってきてはいない。
「ちょっと」と言った以上、そんなに時間をかけずに戻って来るつもりはあるのだろうが、どこへ何をしに行ったのかまるで分からないため、大体の時間を予想することさえもできない。とはいえ、全く姿を現してくれなかった前回とは違い、今回は闇が自分と同じ空間にいる分、安心ではあるのだけれど。
ただ、いくら安心であるとはいえ、まったく不安がないかと問われれば、そうではない。
なにしろ、目の前で魔神が魔人に説教されているなどという、おかしな場面を目の当たりにしているのだ。正直気まずいなんてものではないし、今のところ自分に被害が何もないにしても、不機嫌になった魔神がいつ暴れ出して大変なことになるかも分からない。そうなった場合、自分も含め宿屋にまで被害を及ぼす可能性が非常に高く、だからこそ奏がいないことにラズリは一抹の不安を覚えずにはいられなかった。
奏、早く戻ってきて……。
祈るように手を組み合わせ、心の中で、そう願う。
奏にばかり頼らないように……なんて、所詮口だけだった。顔を合わせれば、どうしたって自分はこうして、すぐに奏を頼ってしまう。
彼の何がそう思わせるのかは分からない。
けれど気付けばラズリは絶大な信頼を奏に寄せるようになっていて、そのことを自覚すると同時に、自嘲の笑みが口元に浮かんだ。
ほんと、駄目だな私……。
そんな風に思った刹那──ラズリの背後でいきなり何かがドサッと落ちてきたような音がするのと同時に、その衝撃でベッドが大きく軋むのを感じた。
「わっ、な、なに⁉︎」
それに驚いてラズリが振り返るのと、闇達がそちらへ目を向けたのは殆ど同時で──。
「え……誰?」
と、ベッドの上に突如現れた人物を見て目を丸くするラズリと、別の意味で目を大きく見開いた二人の魔性。
彼らは、驚きのあまり数瞬間動きを止めた後、ベッドからラズリを押し退ける勢いで、その青年のもとへ駆け寄った。
「青麻‼︎」
「青麻殿⁉︎」
二人が先を争うようにして突如現れた青年に近付くさまを見て、ラズリは慌ててベッドから降り、少し離れた場所から青年を見つめる。
ラズリから見てもその青年は明らかに様子がおかしく、それを見て闇達が慌てる気持ちが手に取るように分かった。
どうしてあの人は、あんな状態になっているんだろう……?
人間と違い、魔性は食事も睡眠も必要ないのに、風邪だけは同じようにひくということなのだろうか?
まるで高熱に浮かされたような状態の青年を見て、ラズリはそんな風に思う。
けれど、やはりそんなことはなかったらしい。闇が次に発した言葉を聞いて、ラズリは全身に寒気を感じた。
「これは……異常だ。魔性がこのような状態になるなど……」
つまりそれは、闇にとっても初めて見る症状だということ。
魔性にとってはありえない、異常が発生しているということに他ならない。
もしこれが魔性のかかる病で、奏にも伝染ってしまったら──。
ラズリはつい奏を優先して考えてしまったが、青氷の魔神はそれよりも切羽詰まっていた。
「闇! そなたの知識でどうにかできないか? 青麻は大事な余の側近だ。いなくなられては困る!」
悲痛な声で、彼は闇にそう言った。
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