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第十二章 譲れないもの
力の抽出
漆黒に染め上げられた札の中、まるで生き物のように闇が蠢いている。
出たい、苦しい、狭い。
まるで、そんな言葉が聞こえてくるような気がして、知らずルーチェの唇は笑みを形どる。
「ふふ……そこから出たいかい? 出たいだろうね。その中はとても狭い空間だからね」
話しかけたところで聞こえるのか、聞こえないのかは分からないし、どうでもいい。彼はただ札の中に閉じ込めた魔性の力を取り出したいだけで、話しかけたのは単なる気まぐれだ。
魔性自体が魔力の塊でできているというのなら、札に閉じ込めた魔力は当然、魔性の欠片となるはず──。
そんな仮説を立て、ミルドが任務から戻った際に持ち帰った黒い札から、魔力を取り出そうと思い至ったのが、つい先ほど。
恐らくこの札に宿る魔力は、氷依を攫った魔性のものだろう。今も札から感じられる魔力が、ルーチェにそのことを明確に伝えてきている。
「あの魔性自身を操ることができたら、それに勝るものはないんだけど……」
目の前に現れた時の、圧倒的な存在感と威圧感。あれは残念ながら、氷依からは一度として感じられたことのないものだった。あれこそ魔性としての能力を存分に有している証なのだろう。
それを目の当たりにしてしまった後では、氷依や魔性に変化した後のミルドなんて、取るに足らない存在としか思えない。
あの存在感、あの強さ、あの絶対的な自信こそが真に力を持つ魔性なのだと、ルーチェは彼を見て脳裏に刻み込まれたような気がした。
「そうなると……あっちは不要かな」
作業の片手間に視線を向けたのは、ミルドによって氷漬けにされた一枚の札。
氷を溶かせば使えないこともないかもしれないが、たった一枚の札を貼り付けられただけで死にそうに苦しむようなミルドの力を札から抜き取ったところで、大して役には立たないだろう。
「じゃあこれは、もういいや」
凍りついた札を勢いよく踏みつけ、粉々にする。途端に青い靄のようなものが発生し、どこかへと流れていったが、ルーチェは特に気に留めなかった。
「……さて、本腰を入れて魔力の抽出を始めようかな」
一度大きく深呼吸をし、眼前にかざした札の中、ルーチェは蠢く闇に優しい口調で語りかけた。
「おいで……出ておいで……。そこから君を出してあげる……。だから僕に力を貸して……おいで……ねえ、おいでよ……」
※※※※
同じ頃、死灰栖はどこからともなく聞こえてきた幻聴に、頭を抱えていた。
『おいで、おいで……』
「……っ、なんだこれは⁉︎ 我に一体なにが起こっている?」
いつものように身体を横たえた状態で、なにもせず、無為に時を過ごしていた時、それは突然聞こえてきた。
否、聞こえてきたというより、頭の中に直接響いてきたと言った方が正しいだろう。とにかくその声は、死灰栖の許可なく勝手に頭の中へと入り込んできたのだ。
「やめろ……やめろ。貴様はなぜ我を呼ぶ? 我になんの用があると言うのだ?」
頭の中に響く声の主が誰なのかは分かっている。人間のくせに青の女魔性を従えていた、魔性なみに美しすぎる男だ。
今更になって自分を呼ぶ意味は何なのか。どうやって呼んでいるのか。
興味はあるが、それを知るためには彼のもとへ行かなかければならない。だが、自主的に行くのならばともかく、誇り高き魔性である自分が人間に呼ばれて行くなど権威に関わる。
故に、どうしても行きたくなくて。
だというのに、頭の中では絶えず青年の声が響いているのだ。
行きたくない──だが、気になる。行くのは嫌だ──。
そんな気持ちがせめぎ合い……死灰栖は気が狂いそうだった。
出たい、苦しい、狭い。
まるで、そんな言葉が聞こえてくるような気がして、知らずルーチェの唇は笑みを形どる。
「ふふ……そこから出たいかい? 出たいだろうね。その中はとても狭い空間だからね」
話しかけたところで聞こえるのか、聞こえないのかは分からないし、どうでもいい。彼はただ札の中に閉じ込めた魔性の力を取り出したいだけで、話しかけたのは単なる気まぐれだ。
魔性自体が魔力の塊でできているというのなら、札に閉じ込めた魔力は当然、魔性の欠片となるはず──。
そんな仮説を立て、ミルドが任務から戻った際に持ち帰った黒い札から、魔力を取り出そうと思い至ったのが、つい先ほど。
恐らくこの札に宿る魔力は、氷依を攫った魔性のものだろう。今も札から感じられる魔力が、ルーチェにそのことを明確に伝えてきている。
「あの魔性自身を操ることができたら、それに勝るものはないんだけど……」
目の前に現れた時の、圧倒的な存在感と威圧感。あれは残念ながら、氷依からは一度として感じられたことのないものだった。あれこそ魔性としての能力を存分に有している証なのだろう。
それを目の当たりにしてしまった後では、氷依や魔性に変化した後のミルドなんて、取るに足らない存在としか思えない。
あの存在感、あの強さ、あの絶対的な自信こそが真に力を持つ魔性なのだと、ルーチェは彼を見て脳裏に刻み込まれたような気がした。
「そうなると……あっちは不要かな」
作業の片手間に視線を向けたのは、ミルドによって氷漬けにされた一枚の札。
氷を溶かせば使えないこともないかもしれないが、たった一枚の札を貼り付けられただけで死にそうに苦しむようなミルドの力を札から抜き取ったところで、大して役には立たないだろう。
「じゃあこれは、もういいや」
凍りついた札を勢いよく踏みつけ、粉々にする。途端に青い靄のようなものが発生し、どこかへと流れていったが、ルーチェは特に気に留めなかった。
「……さて、本腰を入れて魔力の抽出を始めようかな」
一度大きく深呼吸をし、眼前にかざした札の中、ルーチェは蠢く闇に優しい口調で語りかけた。
「おいで……出ておいで……。そこから君を出してあげる……。だから僕に力を貸して……おいで……ねえ、おいでよ……」
※※※※
同じ頃、死灰栖はどこからともなく聞こえてきた幻聴に、頭を抱えていた。
『おいで、おいで……』
「……っ、なんだこれは⁉︎ 我に一体なにが起こっている?」
いつものように身体を横たえた状態で、なにもせず、無為に時を過ごしていた時、それは突然聞こえてきた。
否、聞こえてきたというより、頭の中に直接響いてきたと言った方が正しいだろう。とにかくその声は、死灰栖の許可なく勝手に頭の中へと入り込んできたのだ。
「やめろ……やめろ。貴様はなぜ我を呼ぶ? 我になんの用があると言うのだ?」
頭の中に響く声の主が誰なのかは分かっている。人間のくせに青の女魔性を従えていた、魔性なみに美しすぎる男だ。
今更になって自分を呼ぶ意味は何なのか。どうやって呼んでいるのか。
興味はあるが、それを知るためには彼のもとへ行かなかければならない。だが、自主的に行くのならばともかく、誇り高き魔性である自分が人間に呼ばれて行くなど権威に関わる。
故に、どうしても行きたくなくて。
だというのに、頭の中では絶えず青年の声が響いているのだ。
行きたくない──だが、気になる。行くのは嫌だ──。
そんな気持ちがせめぎ合い……死灰栖は気が狂いそうだった。
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